7:侵略の始まり
「なるほどねぇ。炎の魔術師ベルトは死亡し、アナタ以外のギルドメンバーは全滅したと。……はぁ、希少な人材を失ったわ……」
豪奢な館の応接室にて、女領主アイリス・ニダヴェリールは唸っていた。
純白の髪を掻き上げながら、正面に座った『黒髪』の人間・エレンの報告を吟味する。
「それで、亡きベルトの遺志を継いで新たにギルドマスターになったと? アナタのようなゴミが?」
「はっ、その通りでございます……! なにぶん火急の状況でしたので、父も他に選択肢がなかったのでしょう。このたびは自分のような者が領主様のご視界に入ることを、どうかご容赦くださいませ……」
そう言って深々と頭を下げるエレン。ゴミと呼ばれてもまったく怒った様子はなく、弱々しく震えるばかりだ。
その様子に領主アイリスは気をよくした。「なるほど、躾は出来ているようねぇ」と小さく呟く。
「ゴミはゴミでも、従順なゴミのようで何よりだわ。ベルトも少しは大人しかったら、領主としてやりやすかったんだけどねぇ……」
――この世界において、領主の仕事は二つある。
まず一つ目は民衆から税金を集め、それを使って治水工事や公共物の修繕を行い、民の生活をより良くすることだ。
そして二つ目は、領内における『テイマーギルド』の監督である。
「魔物を操り、様々な業務を請け負うテイマーギルド。この地にも十人から百人規模のギルドがいくつも存在しているわ。
しかしどれだけ大きなところでも、テイマーは領主に忠実でなければならない。なぜだかわかる?」
「はっ。凶悪な魔物どもの保有を許されているのですから、それも当然でしょう」
「正解よ、人並みの知能はあるようねぇ」
小馬鹿にしつつも彼女は静かに頷いた。
――領主に対して絶対忠実。それがテイマーギルドの不文律である。
力を持つということはそれだけ大きな責任が伴う。
一度でも領主に反抗的な態度を取ってしまえば、そのギルドの者たちはたちまち国から『危険分子』として扱われ、地を這いまわることになるだろう。
「ベルトはまぁ、国でも希少な魔術師だったからね。ある程度のワガママは許してあげたわ。
だけどゴミ……アナタは違う。黒髪の者なんて、即刻ギルドマスターの座を取り上げてもいいような存在よ。見ているだけでも不快になるわぁ」
嘲りの笑みを浮かべるアイリス。
もしも目の前の男が少しでも反抗的だったり、あるいは馬鹿にされても毅然としているようなら、本当に彼女はギルドマスターを辞めさせていただろう。
黒髪のゴミにそんな態度は求めていないのだ。
ゴミはゴミらしく打ちひしがれて、こちらの嗜虐心を満たすのが仕事なのだから……!
そんな歪んだ欲求を抱いているアイリスに対し、エレンという男は――、
「はっ、生まれてきて申し訳ありませんでした……ッ! 偉大なアナタ様に比べ、自分は矮小なゴミであります……! こんなゴミでもよろしければ、どうかアナタ様のために尽くさせてくださいッ!」
そう叫びながら、彼は涙を流して頭を下げてきたのだ――!
「んンっっっ!」
ゾクゾクとした感覚が背筋に走る……!
若い男の『理想通り』の対応に、妙齢の女領主は頬が自然と緩むのを感じた。
「ふっ、ふふふふふ……! いいわねぇアナタ、自分の立場がよくわかっているじゃないッ! 特別に私の名前を呼ぶことを許すわ。さぁ、『アイリス様に忠誠を誓います』と叫びなさいっ!」
「ははぁッ! 自分エレン・ペルセフォネは、美しきアイリス様に忠誠を誓いますッ!」
「っっっ!」
命令せずとも『美しき』を枕言葉に添えるとは、本当によくできたゴミだ……!
よく躾けられた犬を前に、アイリスは満足げに微笑むのだった。
「……ハッ」
――その男の口元が、嘲笑に歪んでいるとも知らずに……!
※新ジャンル【ホストにハマって都合よく操られる系ヒロイン】のアイリスさん(29歳)です。
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