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番外編2 トリックオアトリート

 今日はハロウィンだ。そう、若者が渋谷を仮装して闊歩し、酒を飲んで暴れる――ハロウィンなのだ。偏見が混じっているのは、俺の家が少し物騒だったこともあり、その様なイベントに興じたことが――――あったな。いや、うん、あった。幼馴染であり、今や単なる幼馴染の枠を超え、彼女の恋人と上り詰めた俺の愛しの六花と、過ごしたことがあった。



 そうそう、確かあれは俺と六花がまだ、出会った年――小学校一年生だった頃の話だ。



*


*


*



「とりっく、おあ、とりーと!」



 でりゃー、とよく分からない擬音を声に出しながら、幼馴染の六花がカボチャ? らしき被り物をして威嚇するように両手を上げて迫る。近い、かなり近い。被り物で前が見えていないのか、わざとか、六花はいつもに増して俺のそばにいる。ふわり、漂ってくる甘いお菓子の匂いに、思わず鼻をひくつかせる。それに気付いたのか、六花は被り物を取ってイタズラが成功したみたいに笑う。



 腕に下げていたスーパーの袋をガサガサ音を立てながら漁り、中からお菓子を取り出す。魔法のように次々と出てくるお菓子に、ぱちぱちと瞬きを繰り返す。お菓子はラムネにマシュマロ、飴にチョコレート、色々。ふふん、と自慢げに胸を張りながら六花は俺の手のひらに乗せたお菓子を見る。返して欲しいのかと思い、手のひらいっぱいに乗ったお菓子を差し出すと、ふるふると首を横に振られる。



「そのお菓子ねぇ、商店街の人たちから貰ったの! この六花さまのかそーにかかれば、ちょちょいのちょいよ! そーちゃんに、あげる! 今日はハロウィンだからね」

「……はろうぃん? かそー、って、何」



 首を傾げる俺に、ニコニコ笑っていた六花が、ビックリしたみたいに目を丸くする。それから、俺と同じようにコテンと首を傾げる。不思議な顔で、ずいっと顔を近づけると、俺の顔をまじまじと見つめる。被り物をしていた時もそうだけど、今日はやけに距離が近い。



 ドキドキしている俺をよそに、うーんとうなりながら六花は考え事をする。頭をぐりぐりしたり、顎に手を当ててみたりするけど、やがて考えるのを諦めたのかいつもみたいにニコニコ笑う。さっきお菓子を出した時に見せた、自慢げな笑顔で。



「ふっふっふっ、特別にそーちゃんに教えてしんぜよう! 今日、十月三十一日はね、ハロウィンっていう、お祭り? みたいなイベントなんだよ! わたしみたいにかそーして、とりっくおあとりーとって言うと、皆がお菓子をくれるの。意味はええと……何だったかな? 忘れたけど、とにかくお菓子がタダで貰える日なんだよ!」



 嬉しそうに語る六花は、勉強が出来る俺の事を普段から「そーちゃんは頭がいい」、「そーちゃんだけズルい!」などと言っていたので、俺が知らないことを自分が知っていることが、嬉しくてたまらないみたいだ。自慢げに語る六花を見ながら、そう言えば確かに、商店街を見ると魔女のように黒色の帽子を被ったり、猫耳の形をしたカチューシャを付けた同年代達が、六花と同じようにお菓子をねだっている姿があった。



 ……知らなかった。こんなイベントがあるなんて。そして、周りの女子達を見て思った。何で六花は可愛らしい魔女の帽子や、猫耳のカチューシャじゃなくてカボチャの被り物なんだろう、と。六花が魔女の帽子を被ったり、猫耳のカチューシャを付けたら物凄く可愛いのに。何で、よりによって訳の分からないカボチャの被り物……!



 悔しさを滲ませている俺を見て、六花が何を思ったのか突然カボチャの被り物を俺に被せてくる。いきなり目の前が暗くなって、ビックリして手のひらに乗ったお菓子を落としそうになる。慌てて体制を立て直す俺を見て、けらけらと楽しそうに笑う六花の声が聞こえた。カボチャの被り物の目の位置から、楽しそうに笑う六花の顔が見えて、じわじわ顔に熱が集まるのを感じた。



「そーちゃん可愛い~!」

「…………」

「あれ、怒った? ごめんごめん! もうふざけない――」

「取るな」

「へ?」

「俺、暫くこのままでいい」



 今、被り物を取られたら、この真っ赤に染まっているだろう顔を見られてしまう。それは恥ずかしい。訳の分からないカボチャの被り物を被っていたほうが、まだマシだと思った。六花には、カッコイイ姿を見てほしい。



*



*



*



 思い出に耽っていると、ちょっとした悪戯を思いつく。六花が来るまで、まだ時間はあるだろう。俺は六花に、近くの百均に行くから、少し待っていて。とメッセージを送って、返信が来たのを確認してから車を走らせた。百均について、魔女の帽子や猫耳のカチューシャなどといった、定番の物からお化けの被り物やリアルなゾンビの被り物まで、バリエーションに富んでいた。その中から、ひとつの被り物を手に取って、レジへ向かう。



 車を開けた六花は、固まった。それから――何かを思い出したように、破顔する。くすくす笑いながら、車の助手席に乗り込んで扉を閉める。目を細めて、懐かしむように言葉をもらす。



「小学生の頃だっけ? ふふ、懐かしいね」

「トリックオアトリート! ――お菓子をくれないと、イタズラするぞ。意味、思い出したか?」



 小さく笑ってから、六花は拗ねるように膨れる。



「そりゃあ、今ならわかるよ」

「じゃあ、お菓子」



 はい、と手を出すと、キョトンと固まる六花の姿に、被り物の下でニヤリと笑う。それから、大慌てで鞄を探り出す六花の手を掴み、片手でカボチャの被り物を取りーー耳元で囁く。



「お菓子がないなら、悪戯する」

「ちょ、まっ、待って! 今探して――」

「無理。待てない」



 薄暗い車内でも分かるぐらい、六花は真っ赤になってあたふたしている。その姿が、可愛くてたまらない。本当なら、六花の方から仮装して俺に仕掛けるつもりだったのだろう。鞄から覗く血のりや傷メイクキット、と書かれた物たちがそれを語っている。くすくす笑いながら、首筋に小さく口付けを落とす。ピクリと跳ねる小さな体を抱えるように、シートと一緒に押し倒す。



「そー、ちゃ……」

「六花、可愛い」



 六花のことだ、リアルなメイクを施し、盛大に驚かせるつもりだったんだろうなぁと考えるのも、また可愛いと思う。上気した頬に口付けを落としながら、くすりと笑う。愛おしい、好きだ、愛してる。ドロドロに甘やかして、俺がいないと生きられない体にしたい。手足の自由を奪い、閉じ込め、誰の目にも触れさせず俺だけのものにしたい。俺だけを見てほしい。俺だけの六花がいい――――だけど。



「六花、愛してる」

「そーちゃ、ん。わ、わたし、も……愛してる」



 そう耳元で息を吹きかけるように囁く。ぼんやりと熱にうかされたような顔で、六花も言葉を返してくれる。俺だけの六花、愛してる、愛してる、おかしくなるほどの愛を注いであげる。だけど――――壊れないで。俺だけの六花。太陽ようなその笑顔を、俺は二度と失いたくないから。

せっかくのハロウィンので、短いですが彼わたの久しぶりの番外編投稿です。

二人のイチャつきっぷりと爽弥のヤンデレ具合をお楽しみください。

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