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武家の嗜み  作者: 澪亜
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私と側仕えの出会い

本日2話目の更新です

アルメリア公爵家でのレッスンが終わり、馬車に乗り込む。

見慣れた景色を眺めつつ、家に到着するのを待っていた。


アンダーソン侯爵家とアルメリア公爵家は、近い。

尤も王都での貴族の屋敷は王宮近くに集中しているので、それも当然のことではあるが。


あっという間の旅路を終えて屋敷に到着したところで、ふと屋敷前の騒ぎが気になった。


「……馬車を止めさせて」


窓を開けて御者に指示を出すと、大した揺れもなく即馬車が止まる。

騒ぎのもと……私より年上らしき女性二人と門番は、自分たちの側で停まった馬車に驚いたように見上げていた。


「お疲れ様」


窓から門番に声をかければ、門番は慌てて姿勢を正す。


「メルリスお嬢様……っ! お帰りなさいませ!」


「ええ、ただいま。……随分と騒がしかったけれども、一体何があったのかしら?」


門番に向けて声をかければ、彼は困ったように言葉を一瞬詰まらせる。


「それが、あの……」


「……貴女様は、アンダーソン侯爵家のご令嬢ですか!?」


門番の声を遮り、片割れの少女が声をあげた。

よくよく見れば、彼女たち二人は全く同じ身長と顔の造りだ。


私がそのことに驚いて気を取られているうちに、門番は女性の行動に慌てて口を押さえようとしていた。

……普通だったら、貴族に対する彼女の行動は咎められるものだからだろう。


「ええ、そうですけど……一体どうされましたか?」


けれども無礼ということは気にしない質なので、そのまま話を進める。


「ガゼル将軍に会わせてください!」


「……お父様に、ですか?」


どんなことを願われるやら……と思えば、まさかお父様に会うことを望むとは。


とは言え、お父様は英雄という名とその功績故に民からの信任も厚いと聞いている。

中には熱狂的なファンもいる……とはクロイツさんから聞いた言葉だ。


けれどもよくよく様子を伺ってみると、それだけとは思えぬほど彼女たちの気迫は鬼気迫っていた。


「それは、一体何故でしょうか?」


「私たちは、ガゼル将軍に憧れて国軍第一師団への入隊を志していました。ですが、国軍には女性が入らないと聞きまして……。どうにか、どうにか私たちを国軍に入隊させていただきたく、それでこうして伺わせていただきました」


彼女たちの願うその姿に、私は過去の自分を重ねて見てしまった。

かつての私もそれを願っていたのだから、それもそうだろう。


暫し目を瞑って逡巡する。

そして下した決に、我ながらなんて甘いのだろうか……と溜息を吐きつつ、馬車の扉を開けさせる。


「……お入りください。本日お父様がお帰りになられるか、私には与り知らぬことでございますが……その願い、お父様に直接お伝えなさって」


「「あ、ありがとうございます……!」」


二人は私の言葉に、ガバリと勢いよく頭を下げる。

そのままいつまでも動かない二人を促し馬車に乗せると、再び馬車が動き始めた。


屋敷に戻ると私は使用人に二人を案内することと護衛隊に監視を命じて、自分は私室に戻る。

そのタイミングで、ばあやが私の部屋に入って来た。


「お嬢様、聞きましたよ。何でも、不審者を屋敷の中にお招きになられたとか」


「あら、屋敷の者たちに害がないように護衛隊二人に監視を任せているわ。いざとなったら彼らだけで制圧できるでしょう。……杞憂に終わると思いますが」


嘘にしては、彼女たちの言動は気迫に満ちたそれだった。

だからこそ、私は彼女の願いは本物だと判断し屋敷に招いたのだ。


「そう言う事をお聞きしているのではありません。何故、お嬢様はそのようなことを……」


「……あら、私が断れると思って? かつて同じく国軍への入隊を志したこの私が」


私が小さく笑いつつばあやを見れば、彼女は呆れたような笑みを浮かべる。


「ええ、ええ。存じておりますよ。お嬢様が一度言い出したことは、ちょっとやそっとのことで曲げられないということを」


「ふふふ、流石ばあやね。それで、お父様は本日屋敷にお帰りになるのかしら?」


「……彼女たちは運が良いですよ。先ほど、そろそろご主人様がお帰りになられるという報せが参りました」


「あら、本当に運が良いのね。では、ばあや。お父様と彼女たちの対面に立ち会いたいので、着替えの手伝いをして貰えないかしら?」


「承知致しました。それでは、失礼致します」


そうしてばあやに手伝って貰って服を着替えると、私は応接室に向かった。


「あら、お父様……」


途中、運良くお父様に鉢合わせする。


「『あら、お父様』じゃないだろう? 全く、勝手なことをして……」


「ええ、そうですわね。ですからこうして、共に話を聞こうと参りました」


「そういうことではなかろう! お主は、これから先儂に直談判してくる輩を一人一人取り継ぐつもりか?」


「いえ、そんなつもりはありません」


「ならば、何故そやつらのみ……」


「勘、です」


きっぱり言い放った言葉に、お父様は一瞬固まる。


「か、か、勘……」


「ええ、そうです。実際お会いいただければ分かることですが、何やら凄まじい気迫でしたので。それに、ここまで直談判しに来た者がかつていましたでしょうか?」


「それは……。だが、女性だろう? 儂のところに来ても、国軍の入隊が叶わぬことは知っているだろうに」


お父様のそれは、私には『他ならぬお主ならば知っているだろうに』という風に聞こえた。……その通りだ。


そして、だからこそ私は彼女たちを招いたのだ。

そうと分かりながら、願い続ける理由を。そこに至るまでの道のりを。


「ええ。とりあえず、彼女たちの願いをその目で見てその耳で聞いてみて下さい」


「……五分、だぞ」


「話を聞くのに、それで充分だと思いますよ」


そうして私たちは、彼女たちの待つ応接室に入る。

私たちが部屋に入ると、椅子に座った二人はハッと俯いた顔を上げてこちらに視線を向けた。


「……お主らが、儂を訪ねに来た二人か」


お父様と私は二人の前の席に座る。

逆にお父様のお声に、片方の女性がハッとなって立ち上がった。

それにつられるようにして、もう片方も立ち上がる。


「この度は、突然お伺いしたご無礼をお許しください!」


「お許しください」


「……良いから、座って話を進めてくれ」


二人はお父様のお許しに、再び席に座る。


「私の名前は、アンナと申します。こちらが双子の妹の……」


「エナリーヌです」


「私たちは、フェロッタ村からこちらに参りました」


聞き覚えのない村に、私は首を傾げつつお父様の様子を伺うように視線を横に向ける。

横にいたお父様は、一瞬面白いほど動揺を表に出していた。

勿論、初対面の彼女たちが気づかないほどの僅かな間ではあったが。


「ご存知の通り、私たちの村はトワイル戦役で戦場となった場所の一つです。父と母は、戦争で亡くなりました」


「それは、残念だったな。……その復讐のために、軍に入隊したいと?」


「いえ、そういう訳ではありません。勿論、父と母を失ったことに対する恨みや悲しみがなくなったとは言いませんが……。それ以上に私たちはガゼル将軍に、感謝をしているのです。何故なら私たちは、あの時死ぬ筈だったからです。ガゼル将軍、貴方様が村にいらっしゃらなければ」


「……そうか。あの村にいたということは……」


「はい。ご存知の通り、当時トワイル軍は侵略した村から物資を強奪していました」


「逆らう住人は、皆殺し。その時生き残った住人たちも、全ての物資を奪われてどうして生きていけるのでしょうか。その上、トワイル国軍が村を拠点とするために占領し続けていて……」


一瞬、アンナは言葉を詰まらせる。

宥めるように、エナリーヌがアンナの背を撫でていた。


無言になったそのタイミングで、私はタスメリア国の地図を頭の中に思い浮かべる。

お父様が赴いた場所ということは、恐らくフェロッタ村は旧セズン領もしくはモンロー伯爵領。

いずれにせよ、辺境の地に行けば行くほど一つの村と村が離れていることが多い。


それ故に軍に取り囲まれてしまえば、応援を自力で呼びに行けることなど、できなかっただろう。

そして、敵軍もそれを許さなかった筈だ。

何故なら住人を逃すということは、自らの位置を敵に教えるということと同じだからだ。


「当時幼かった私たちは、両親が殺され泣き叫んでいたのですが……その泣き声が癇に障ったのかトワイル兵に殺されそうになり……その時、ガゼル将軍に助けていただいたのです」


「ガゼル将軍の強さは、圧倒的でした。あの閉塞した絶望的な状況を打ち砕く強さに、私たちは驚嘆し、魅せられました。そして、私たちの命を助けてくださったガゼル将軍に敬意の念を抱きました」


「あの時から私たちは、ガゼル将軍のお役に立ちたい……と。ガゼル将軍の下で、ガゼル将軍のように誰かを助け守りたい。そう、願い続けてきました。ですから、どうかお願いします!私たちを、ガゼル将軍の隊に入隊させてください!」


……ああ、これか。

そう、私は心の中で呟く。

かつて、お父様が仰っていた言葉。


『いつしか、儂の後ろには道ができておった。その道に、ポツリポツリと後から続く者が出てきおった。他ならぬ、民から』


お父様が助けた命が、お父様の後を続く。

そうして、その輪は広がっていくのだと……そう、実感したのだ。


「お主らの志はよく分かった。……だが、お主らも知っての通り国軍の入隊は男性のみ。それは儂の独断で曲げることはできん。残念だが……」


「何故、女だとダメなのですか! 私たちはそこらの男には負けません! それに……女であることでダメだと言うのであれば、私たちは女を捨てます!」


「実力でという理由であれば、諦めもつきます。ですが性別など……実力以前の生まれで認められないなど、諦められません」


二人はお父様の言葉に、必死に喰ってかかる。

その必死さは、かつての私を見ているようだった。


「……貴女たちは、そのために鍛錬を積んできたのかしら?」


お、おい……とお父様が止めるのも構わず、私は続ける。


「誰かを守りたい、その志はとても立派なことです。ですが、そのための鍛錬を積まなければ、それは単なる夢物語ですから」


その言葉に、双子の女性は鋭い視線を私に向けた。


「勿論、私たちは鍛錬を積んできました。全て自己流ですが……欠かさずに」


「……そう。では貴女たち、ひとまずこの屋敷で働くのはいかが?」


「「え?」」


「ああ、それは良い。ちょうど、メリーの側仕えを探していたところだ。それに、ここに勤めるのであれば護衛隊の訓練に参加することも可能だ。……国軍の入隊も、それを認めさせるのには時間がかかることだろう。ならば、ここで鍛錬を積んで時を待てば良い。ただし鍛錬で弛んだ様子を見せたら、即刻放り出す。それで良いな、メリー?」


「ええ、お父様。私は異論ございません」


「それで、どうだ? 二人とも」


「私たちは……っ!」


尚も引き下がらそうなアンナを制するように、彼女の前にエナリーヌが手を出した。


「……受けよう、アンナ」


「でも、エナリーヌ!」


「……ここで鍛錬を積んだ方が、夢が叶う可能性が高まる。ガゼル将軍の鍛錬は中々国軍でも受けることができないと聞いた。それならば、ここに残って鍛錬を積みつつ国に嘆願を続けるべき」


「……っ。分かりました。是非、よろしくお願い致します」


そして二人は、護衛隊に連れられて部屋を出て行った。


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