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武家の嗜み  作者: 澪亜
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お父様とお母様の馴れ初め

本日更新3話目

それから、数日後。

久しぶりにお父様に会うべく、私はお父様の執務室に向かっていた。


お父様が最近お忙しくしていらっしゃる上、私も毎日のようにアルメリア公爵家を訪れているため中々お会いする機会がなかった。

今日も私はオーレリア様のレッスンがあったのだが、お父様が珍しくお休みだったのだ。


「……お父様。今、よろしいですか?」


部屋をノックしてから扉を開け、顔を出しつつ問いかける。

本来であれば家族といえど先触れを出して……というのがマナーながら、我が家はいつもこんな感じだ。


軍にいる時間が長いお父様にとって、先触れは時間を無駄に浪費することなのだとか。

確かに刻一刻と戦況が変化する中で、一々先触れを出して待っていたら情報が届くのが遅くなるだろう。

すっかりそれに慣れて、家でもいつの間にか先触れを失くしてしまったのだとか。


今までこれで慣れていたので、オーレリア様よりマナーのレッスンを受けてから知った事実だ。

ちなみに、アルメリア公爵家内でも先触れはないらしい。

それは、執務に追われていた先々代の当主が時間を有効活用するべくそうしたのだとか。


「……入れ」


「失礼致します」


部屋に入ると、珍しく書類に囲まれたお父様がいらっしゃった。

いつも机にあるとしたら、領からの報告や軍内の資料ぐらいだったというのに。


「どうした? メリー」


「質問がございまして」


そう言うと、お父様は席を立って私の前の席に移動する。


「何故……お父様はアルメリア公爵家との婚約を、あんなにも強固に進めたのですか?」


「何だ、藪から棒に」


「ずっと、気になっていたのです。お父様が、あのように強引に事を進めた訳を。お父様は、家の為というのを気にされないでしょうから」


「何故、そう言い切れる? 儂だとて貴族の一員だぞ」


「……そうは言っても、お父様。やはり、私が知るお父様とそれは結びつかないのです。きっと、何か理由があるのではないかと」


「別にこれといった理由はないさ。ただ、ロメルの息子ならお前を任せることができる。……そう思ったまで」


「……本当に?」


「くどい。それとも、ルイ殿との婚約は不満か?」


「まさか! 彼との結婚が、今から待ち遠しいですわ」


私の言葉に、お父様は安堵したように息を吐きつつ口を開く。


「なら、良いだろう? ……キッカケが何であれ、お前にそのような顔をさせるような男が伴侶となるのだから」


そのような顔って、どのような顔かしら?

そう、疑問に思いつつペタペタ顔を触る。

けれども顔を触っただけでは……やはり鏡を見てみないと、自分がどんな表情を浮かべているのかは分からなかった。


「そういえば、お父様。私、また訓練に顔を出しますわ」


「何を言っているんだ? そんなの……」


「ルイは、認めてくださいました。私らしくあればそれで良い……と。なので久方ぶりにメルとして訓練に出させていただきます」


「敵わねえな、ルイ殿には。そんなん認めるのは、ルイ殿ぐらいだぞ?」


「そうでしょうね……」


高位の貴族の子女が剣を振るうなんて、私の他には聞いたことがない。

武を尊ぶアンダーソン侯爵家ならともかく、アルメリア公爵家でそれが許されるだなんて思いもしなかった。


「……まさか、それを見越してルイとの縁談を勧めたのですか?」


「まーだそれ拘っているのか。答えは否だよ。そもそも儂はルイ殿を知らなかったんだから。そういや、メリーはルイ殿を知っていたようだが、いつ知り合ったんだ?」


「あれはちょうど、王都に来た頃のことです。ほら、あの頃……私スランプだったでしょう? 模擬試合では負け続けて、訓練の成果もイマイチ。そんな鬱屈としていた時期に、ドナルティに負けたことで爆発してしまって……私、家を飛び出して街に出たんです。その時に、彼とは出会ったんです」


「ほう、それで『メル』としてのメリーを知っていたということか?」


「ええ、まあ」


「なるほど、な。……きっとロメルはそのことに気づいておったんだろうなぁ。あの性悪め」


悪態をつきつつ、けれどもお父様は楽しそうに笑っていらっしゃった。


「訓練のことは、ルイ殿が許しておるなら別に良い。だが、オーレリア殿にせっかく学ばせて貰っているんだ。決して、疎かにするなよ」


「それは分かっております」


「……まあ、お主なら大丈夫だろう。何せ、メリルダの血を半分受け継いでいるのだから」


どこかお父様は、寂しそうな瞳をされていらっしゃった。

「……お父様はお母様とはどのように出会われたんですか?」


「一体、今日のお主はどうしたんだ? そのような栓無き質問ばかり……」


「良いではないですか。自身が婚約を決め、今まで聞いたことのない両親のそこに至るまでの道のりが気になったのですわ」


「……そうさなぁ。メリルダとの出会いは、戦場の跡地だった。儂は戦後の後処理をしていて、その地で怪我人の救護にあたっていたのがメリルダだったんだ」


「……男爵令嬢が、怪我人の救護を?」


「ああ……医療の勉強はしたことがなかったそうだがな。それでも包帯の替えや、食事の配膳等々やることはたくさんある。それを、彼女は現場に赴いて率先してやっていたんだ。化粧っ気もなく懸命に看護をし、夜は誰に言われるでもなく魘される者たちの側についていたメリルダを、気がついたら儂は目で追うようになっていた。当時、儂は将軍なんという大層な肩書きを持たず、一隊長としてよく隊員たちの見舞いに来ておったからなあ。色々話すようになったんだ。儂の隊員たちも、随分メリルダに熱を上げている奴がおったよ」


「それで、お母様に告白を?」


「いや、告白ではなくプロポーズだったな」


「まあ、積極的ですわね……!」


「儂にはメリルダしか考えられなかったからなあ。メリルダも了承してくれて、無事婚約。……だがその後、帰ってきたら将軍を拝命するわアンダーソン侯爵家を継げという話になるわで、メリルダとの結婚を邪魔する輩が現れて大変だったけどな。特に、この家の反対は凄まじいもんだった。ま、当時はアンダーソン侯爵家内も中々殺伐としてたからな」


あえてお父様は軽い口調で話していらっしゃったけれども、中々その内容は重い。


「……あいつにとって、アンダーソンの家名は重いだけの枷であり、侯爵家は窮屈な牢獄のようなものであったろう。それまで自由にのびのびと過ごしていたあやつを、儂はそんな世界に引き摺り込んでしまったんだ。……けれども、それでもあやつは儂と共に歩む道を選んでくれた。そしてそいつらを黙らせるために、侯爵夫人として恥ずかしくないようにと頑張ってくれたんだ」


お父様は、そっと私の頭を撫でる。

その手つきは優しく、その笑みは哀しげだった。


「お主は、そんなメリルダの血を半分継いでいる。儂が惚れ込んだ理不尽に負けない強い精神を持った、あの優しく美しい女性の血を半分も……な。だから、大丈夫だ。これから先、どんな辛いことが起ころうとも、お主ならそれを越えていける。儂は、そう確信しておる」


「ありがとうございます、お父様」


……結局本当に聞きたいことは聞けなかったけれども、それでも私は私の知らないお母様のお話が聞けたことに少なからず満足した。


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