私の苦手なもの 弐
内容を第6部より場面を追加したかったために刷新しております。また、これまでの部分についても細かいところを変えています。大変申し訳ございませんが、改めてお読みいただけると幸いです。(12/4更新5話目)
※ダイジェスト化は、ありません。
「本日はお招きいただきまして、誠にありがとうごさまいます」
そう言って、一礼。
「礼の角度が違いますよ。それから、もっと優雅に動きましょう」
私のその動きに、マナーの講師が指摘をする。
我が家もマナー講師を雇っていたんだ……という驚きは、今更か。
けれども、そう思うのは無理ないと思う。
お兄様はともかく、お父様はそういったものに見向きもしないでしょうし、私だって初めてレッスンを受けるぐらいなのだから。
いやはやそう考えると、本当に自分は侯爵家の令嬢らしくない。
というよりも、我が家が侯爵家らしくない……のか。
「笑顔が硬いですよ。もう一度」
指摘をする度に、先生は自身の手をパンと叩く。
なんだか手を叩く音がトラウマになりそうだな……と内心溜息を吐いた。
訓練よりも動く量は少ないというのに、少し休憩に入っただけで、ドッと疲れが襲ってくる。
それだけ、慣れないこの動作に精神的な疲労を感じてしまうというわけだ。
何度も何度も最初の挨拶を練習して、結局その日はそれだけで終わった。
そしてその次の日は、お茶のいただき方の講習だ。
……そもそも、お茶なんて普段飲まない。
いかんせん日中は訓練漬けで、優雅にお茶をしている時間なんてないのだから。
思わず、溜息を吐く。
果たして、何度目だろうか。
いい加減、訓練がしたい。
いかんせん、昨日は全く訓練ができなかったし、恐らくそれは今日もだろう。
苦手なものをすると時間が過ぎるのが遅いと聞いたことがあったけれども、本当にその通りだ。
訓練をしていると一日一日過ぎるのがあっという間だというのに、昨日は時間が過ぎるのが随分と長く感じた。
「……ダメです。そんな切り方ではパンが崩れてしまうではないですか」
パンと手を叩いて、注意が飛ぶ。
「もっと一口を小さくしてください。それでは、浅ましく見えてしまいますよ」
パンっ!
「スコーンを、そんなに小さく切らないで下さい。せっかくの食感が台無しです」
パンっ!
「だからといって、そんな一口を大きくしない!」
パンっ!
……最早何かをする度に、止められる。
教師が自らの手を叩くようにして音を出し、その音に反応して私の身体が止まったのは一体これで何回目か……数えることすら億劫だ。
たかが、お茶会。されど、お茶会。
……私は、無事何事もなく女王様のお茶会を乗り切ることはできるのだろうか。
……無理な気がする。
「お嬢様。余計なことなど考えずに、レッスンに集中してください」
「はあい……」
鋭い視線に一つ溜息を吐くと、レッスンに集中した。




