私の初陣
内容を第6部より場面を追加したかったために刷新しております。また、それまでの部分につきましても細かな部分を変更しております。(12/3編集)
大変申し訳ございませんが、改めてお読みいただけると幸いです。
(12/4 更新6話目)
※ダイジェスト化はありません。
……そうして突貫でレッスンを受け、なんとか付け焼き刃のマナーを身につけて王都に向かう。
足元は、低い踵の靴。
髪は既に付け毛を付け、珍しくスカートをはいていた。
静かにお茶を飲んで、何か話が振られたり質問されたら答えるだけに留めるという本当にただそこにいるだけになりそうだが、それ以上の訓練……もとい、レッスンは時間的に無理だった。
貴族のマナーは奥が深いんだなあ、とは今更ながらの感想か。
そんなことを考えつつ、馬車に揺られる。
馬車に乗るのは、何年ぶりのことか。
最近じゃあ、うちの敷地内で馬に乗る訓練はしていたけれども。
そうして取り留めのないことを考えていたら、いつの間にかアンダーソン侯爵領を出ていた。
「……のどかな風景ね」
そういえば、最近景色を楽しむことなんてなかったな……と思いつつ、呟く。
四六時中強くなることだけを考えて、実際それ以外目を向けずに暮らす毎日。
まるで憑かれているようだな、と今になって思う。
もしもお母様が生きていらしたら、私は全く別の道を進んでいたのだろうか。
……多分、そうだろう。
きっとお転婆を卒業して、突貫ではなく……本当の貴族の子女として、今頃本格的な訓練を受けていたに違いない。
そんなもしもの世界を想像して、私は笑った。
「……ど、どうしたのでしょうか?」
更にそこから少し行ったところで、突然、馬車のスピードが速まった。
前にいたばあやが、不安げな声でそう問う。
「ばあや、静かに」
護衛の面々の気配が変わったことを感じて、私は咄嗟にばあやの口を噤ませた。
何があったの、と問わなくても理解できる。
護衛隊たちの気配が、ピリピリと殺気立っていたから。
相手が何者かは分からないけれど、今現在私たちに襲いかかってくる者たちがいるのだ。
その証拠に、しばらく外の状況を伺っていると、聞き慣れた剣と剣がぶつかり合う音が遠くから聞こえ始めた。
「……ばあや、落ち着いて」
震える目の前なばあやを、宥める。
……無理もない。
突然何者かに襲われて、恐れない者などいないだろう。
けれども、不思議と私の心は凪いでいた。
むしろ、興奮する自分を宥めるように剣を握りしめる。
気配から察するに、敵の数が多い。
手元にないと不安だと言い張って、こうして近くに置いておいて良かったと心の底から思った。
そっとカーテンを開けて、窓から外を見る。
護衛の面々が敵を相手取っている間に、別の敵勢が一直線にこの馬車に向かって近づいていた。
そして、一人が乱暴に扉を開けた瞬間。
私は反射的に剣を最速で抜き、その勢いのまま男の首を狩り取った。
ぶしゅり、生温かい赤色が噴き出す。
鉄の匂いが、もわり立ち込めた。
本当に、反射的だった。
叩き込まれ、身体に染み付いた動作そのままに、何の躊躇いもなく、私は剣を振るった。
命がかかったこの状況で、躊躇う余裕もなく。
初陣だというのに、本当に至極あっさりと私は相手の命を奪うという行為を取っていた。
一瞬、呆然と首のない男を見る。
我が家の護衛が着ているものとは違う、粗末な身なり。
一応首を検分すれば、見たこともない顔立ちの者だった。
……私が、殺したのか。
そう思うと、胸の奥から吐き気がこみ上げてくる。
けれどもすぐに私は我に返って、今しがた死んだ男の馬に跨った。
「どうした!ガゼル将軍に学んだお前たちならば、数で負けようとも敵を撃破してみせろ」
数に押されている護衛たちに活をいれると、護衛たちは驚いたように私を一瞬見る。
けれどもすぐに真剣な顔立ちになると、自分が剣を交えている相手に集中しだした。
私もまた、付け毛を毟り取って放ると、剣を構える。
スウッと意識が底に沈み、神経が研ぎ澄まされる心地がした。
相手の呼吸を、感じ取れ。
流れを読み、虚を衝け。
そうして死線の先の、生を見出せ……!
意識の奥底にある本能が、私に語りかける。
気持ち良いと感じるほどに、身体がイメージ通りに動いていた。
何千回、何万回と振ってきた剣は、まるで身体の一部のよう。
そしてその軌跡は、いとも簡単に相手の命を刈り取り続けた。




