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品が悪いわけ、もしくは生活習慣病

○あらすじ

隣領の領主にまつわる諸々の騒動が片付き、そしてユインの言葉の真意も分かったと思えば、なんと王都からの召喚命令!?

ほぼフルメンバーで馬車に揺られて、ようやく王都にたどり着いたエル達だったが……。

「うわ……」


着いた時ちょうど親たちが出かけていたものだから、探索してみていたのだが――中も中で、同様に悪趣味だった。

なんだろう。一つ一つの品が悪いというわけじゃあないんだが、集まると……何と言うか、ひどい。


聞くところによれば、こっちの館は今の領主、つまり俺の親が建てたもので家具や調度品も奴の手配らしいというから、まぁ納得といえば納得の品の悪さなんだが……。


「ミゼット、何でこんなにダメなのか分かるか?」

「さぁ?」

「なんだ、ミゼットでも分からないの……」

「配置の仕方が明らかに見せびらかす為のそれであって品の価値をまるで把握していないのが一目で見て取れますし、なおかつ品々の一貫性の無さから、買った理由が“高いから”という成金思考でしかないと感じられるから、でしょうね」

「……か。うん、そっか」


俺の言葉がどうにもミゼットの気に障ったらしい。

怒涛の勢いで俺をにらみつつ説明された。

というか、分かるなら最初から教えてくれればいいのにさ。

変にプライド高いところあるよなー。


「それで、王宮に出向くのは何時になりそうだ?」

「やはり、今日の午後かと」

「ふぅん……」


休む暇もない、とはまさにこのことだな。

一晩かけてここまで来たが、馬車の中の眠りは安息とは言い難かった。

……まぁ俺の場合は眠りというより気絶だったからってのもあるかもしれないが。


「ん? あれ、やはりっていうのは?」

「ああいえ……単に私が最初聞いた情報がそうであったというだけですよ」

「そうか」


と答えて、一瞬何か違和感を覚えた。

何だ?

振り返るより早く、ミゼットが口を開く。


「もう準備はお済みなのですか?」

「え? ああ。ほぼ完了している。とはいえやったのは俺じゃないがな」

「まぁいつものことですよね。なんだかんだ人任せ」

「悪いかよ。それだけ優秀な部下たちが揃ってくれてんだ、むしろありがたいだろ」


言いはしないが、ミゼット(おまえ)も含めてな。


「はいはいそうですか……。ところで、エル様昼食はどうされます?」

「いきなりだな。うーん、ランカのが食べたいけど、ランカはまだ一仕事してもらわなきゃならんからなぁ。ここにも料理人はいるんだろう?」

「それはもちろん」

「じゃあ、その人たちにお願いしようかな。両親はどうやらどこか外で食べてくるようだし」

「では、そのように伝えますね」

「ああ頼む。ユインたちは?」

「エル様の言う“たち”がどこまでを指すのかは分かりませんけれど、ユイン様とノノならば寝ていますよ」

「ふうん」

「ついでに言うとクロエも」

「あいつもかよ!」







……ちなみにこの後出てきた料理については、「普段と同じでいい」と言った俺にも非があるから料理人の名誉のため黙秘しておくが、まぁ、一言だけ言わせてもらうと……。


あの親たちがあれ程までに太ってる理由が理解できた。どんな健康な人だろうとあの料理を食べてたら、二週間で生活習慣病になること間違いなしだ。











そして、午後。


「……」

「……」


俺と両親たちを乗せた馬車は沈黙の中にあった。

いや、話すことがないんだから仕方がないけどさ。


ちなみに俺たちが乗っているのは8人乗りの大きな馬車だ。

片側に親二人と執事らしき男が座っているのだが、男は今にも圧死せんばかりで、勘違いでなく馬車がそっち側に傾いていた。


と、父親の方が唐突に口を開いた。


「お前……」

「はい?」

「そ奴らは何だ?」

「あー……」


何と説明するべきか思いあぐねる。

そ奴ら、と指さされたのは、俺の側に座ったミゼットとランカ、そしてシグンだった。

城に“武力”を持ち込むわけにいかないから、護衛のクロエはダメだし、キヤンも行きたがっていたが断った。

本当はシグンも置いてくるつもりだったのだが……何故か断固としてついてきたのだ。時々、やはりシグンは謎である。


「えっとですね、この二人はの世話係です。あの、王宮の方が心細いだろうから人を連れてきても良いとおっしゃってたので……」

「ほぅ。それで、そのガキは?」


ガキ、と呼ばれたシグンが一瞬で怒気を放つのを、こらえろーと念波を送る。

苛立つ気持ちはものすごく分かるけど。


「ええと、彼は今回の件について僕より詳しいので。それで連れてきたのですよ」

「ふん。そうか」


背中に冷や汗を伝せながら、興味のなさそうな返事にホッと息をつく。

……というか、そもそも興味がないなら聞くなよな。ヒヤヒヤしたぜ。


「エル様」

「うん?」

「着きますよ」


ミゼットがコソリと俺に囁く、それとほぼ同時に馬車が止まった。

扉が開く。

明るさに目を眇め、そして開けば……そこには、テレビでしか見たことがなかったような、いかにも王宮、王城というのに相応しい城があった。


「……でか」


正直今の俺の背丈じゃあ、近くからだということもあって到底上まで見れないほどだ。

いやー、現代の技術なしにこれ作るって、この世界の人間すごいなぁ。

って、それは元の世界の人だって一緒か。


「おい、何をぐずぐずしている」

「あ、すみません」


怒られた、と足を早めれば、あっさり父親たちは追い抜けた。遅っ!

子供の歩幅に負けるって……おいおい。


「陛下は三階の部屋でお待ち、なのですが……」


と、案内の人が言いながら振り返って黙る。

多分、考えたことは一緒だろう。


……三階まで、登れるんだろうか、こいつら。








それでも何とか登りきれたが、その頃には、到着からすでに一時間近く経過していた。


めっちゃゼェゼェ言ってるし。

やっぱり食事と運動習慣って大事なんだな……。

俺も気をつけよう。


「ああ、そういえば」

「ん?どうしたミゼット」

「いえ。城から戻ったら、少し嬉しい方とお会いできますよ、と言うのを忘れておりまして」

「嬉しい方だ? ユインか」

「エル様の頭の中にはその選択肢しかないんですか」

「え、だって……」


ユインより会えて嬉しい人なんて、俺にはいないし。

そう言えば、これだからエル様はと呆れた声。


「そうではなくて、昔エル様の――」

「ヴァイセン領主、およびそのご子息、ご入室ください」


ミゼットがなにか言おうとしたのを遮って、王様から入室させるよう言付かったらしい男が声高だかに言う。


「……行くか」

「はい」


ミゼットの表情は硬い。ランカやシグンは逆に、状況を理解しているのかと不思議に思うくらい通常運転だが。


俺はここぞとばかりに大きな父親の体の陰に隠れながら、部屋に入り、そして様子を窺った。

なんせ、王族なんてものに会うのは生まれてどころか生まれる前から初めてだ。さすがに緊張する。


だが、どんな堅っ苦しいお爺様が出てくるかと身構えた俺の耳に聞こえたのは、


「はっはっは、そう固くなることはない。階段で疲れたと聞いた。ほれ、そこの椅子に座って休まれよ」


なんて朗らかな笑い。

思わず顔を出して奥の方を見れば――そこにいたのは優しそうな壮年の男性と、俺より幾つかばかり上だろう金髪の子供だった。



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