表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
36/46

種明かし、もしくは○○さん大騒動

遅くなりました…m(_ _)m

マジシャンは種明かしをしないと言うが、物語にネタばらしというのはつきものだ。


——さて、話は親たちが来るよりさらに数日前、エミス村へと遡る。







「……俺はおまえの親か何かか?」


これが、エミス村を訪れた俺らを見たラムロの第一声だった。


「は? 一体どうした?」


残念ながら、縦にデカくてゴツいラムロとは違い、実際の親は横にデブくて丸いぞ。

そう言えば、ラムロは頭をガシガシと掻いた。


「まるで紹介でもするのかってばかりに、来るたんびに人を増やして大勢で押し寄せるからだろうが」

「ん、そうか?」


後ろをチラッと見てみる。

俺とユイン、ミゼットにトウガ、クロエ。

加えてシグンとノノの兄妹……ありゃ、確かに増えている。

なんたって留守番のノマール以外、全員が来てるわけだし。

言われてみれば、今回はとうとう馬車が二台必要になってしまったくらいだった。

分け方で少々揉めたのは、ここでは割愛しておくとしよう。


まぁ何にせよ、本物の親の方はトウガのことすら知りもしないがな。


「しかし、親かって言うからには、ラムロって子供いるのか?」

「ああ、いるぞ」

「えっ、本当に!?」


ここで分かった衝撃の事実!

嘘ついてどうするんだ、と言われたが、だって信じ難いのだ。


「男? それとも女?」

「女だ。今年十八になる娘だよ」

「うわー女の子か! しかも結構大人だ」

「お前さんから見れば大抵は大人だろうよ」

「え? ああいや、そういうことじゃないけども。それで、その娘さんは今は?」

「王都に行ってるよ。都に憧れる年頃みたいでな」

「ふぅん」


あれか。東京に出たい! みたいなものか。

年の頃もちょうど高三か大学生くらいだし。


にしても、ラムロが女の子の親とは思わなかった……人って見かけによらない。

と、あまりの俺の驚きぶりが気に障ったのかラムロの眉が寄る。


「そんなに驚くことでもないだろうが」

「いや、驚く事だよ。言うなれば、同窓会で久しぶりにあったら、親友とクラスで一番可愛かった子の結婚報告聞いて、『えっまじで!?』ってなる感じというか」

「……よく分からんがお前の年に見合わない話だってことはわかった。どっから持って来るんだ、そういう例え?」


例えも何も、実体験だ。

思い出してちょっと落ち込みモードに入りそうな思い出ではあるが、とりあえずラムロの機嫌が直ったので結果オーライ、ということにしておこう。うん。


「で? 紹介じゃないなら何だ?」

「ああ、いくつか質問したいこととやってほしいことがあって……どっちから聞きたい?」

「そういうのは面倒だから早く話せ」

「……やれやれ」


俺に対しての対応が乱暴すぎるんじゃなかろうか。いやまぁ、丁寧にして欲しいわけじゃないけどさぁ。


「まず一つ。堆肥はどうだ? 問題ないか?」

「ああ、問題ないどころか、かなりいい感じだぞ」

「そうか」


以前トウガに語った魔法の土——堆肥。

鶏糞の代わりに馬糞を使ったり、米糠はないからコンポスト的なのと混ぜたりと色々したが、上手く行っているなら良かった。


しかし、この質問はあくまで確認にすぎない。大事なのはここからだ。


「じゃあ二つ目だ。あんたみたいな混血——半獣人でも、獣人の血が入っているか否かは分かるか」

「……」


質問の雰囲気が変わったことに気づいたらしい。

ラムロは一瞬黙り込んだが、何故、とは聞いてこなかった。


「出来るな」

「嘘かどうか、も?」

「ああ、まぁそうだな。分かる」

「ふーむ……ってうん? 分かってたなら、最初の交渉の時、俺のこともっと怪しんでるもんじゃないか?」

「……怪しまれたかったのか?」


呆れたような顔で聞かれて、ブンブンと首を横に振る。

そんなまさか。


「ならいいだろうが。それに、お前さんの言葉は正確には嘘じゃなかっただろう」

「あー、確かに……?」

「な?」

「んん。ともかく、嘘は分かるってことで良いんだな?」

「ああ」


それなら三つ目だ、と俺はピシリと指を立てた。


「獣人だけに指示を出せるような方法はあるか?」

「獣人だけに?」

「ああ、いや詳しく言うなら、獣人の血を引くものだけに、だが」

「それは……知らんな」

「くー! そうかー」


ため息をつき空を見上げようとして、途中で視点が止まる。

一緒に来た者たちは思い思いに過ごしているらしく、ミゼットは村の女性たちと世間話の最中だ。

しかし目に留まったのはミゼットじゃなく、その後ろで、話に混じりたいのか何なのか、背伸びしたりして何とか輪の中に入ろうとしているユインの姿だった。


おませさんなお年頃なのか?

単純に何の話なのか聞きたいだけなのか?

それは分からないけれども、ともかく可愛い。可愛すぎる。


「だが……おい、お前さん、その顔はひどいぞ」

「んー?」

「兄でなければ許されないような顔で妹を見よって」

「兄で良かったよなー」


あれ、デジャヴ。

前にも誰かとこんな会話をしたような気がする。

ラムロを窺えば、葉の腐った植物でも見るような、『あ、こりゃどうしようもねぇや』と言わんばかりの顔を俺に向けていた。解せぬ。


「それで、さっき何か言いかけてなかったか?」

「ん? ああ。獣人だけに指示を出せるような方法は知らんが、獣人だけに命令を聞かせない方法なら知っているが、と言おうとして」

「えええ!?」


そんな方法があるのか!? と詰め寄れば、ああ、とラムロは何でもないように頷いた。


「獣人は嘘が分かる。だから、嘘の命令には従わない」

「は? それだけ?」

「ああ。古くは獣人の中の英雄の話と関係があるらしいが、俺はそこまでは知らん。ただ、“偽りに従うべからず”というのは獣人の掟の一つだ。そこらへんが獣人が疎まれやすい理由でもあるが」

「……それは、絶対か?」

「絶対だな。まぁ心配なら『俺の言葉を鵜呑みにするな』だとか『自分の直感に従え』とでも言えば、必ず——獣人達は、お前の命令に背くぞ」


必ず背くというのも変な話だが、と悪戯にラムロが笑う。

なるほど、嘘が見抜ける獣人特有の性ではあるのかもしれない。

シグンに調べてもらった限り、間者たちの中に獣人の血をひくものはただの一人もいないそうだ。ならば。


「……助かったぞ村長。これであちらの方は問題なさそうだ。よし、じゃあ続きの話をしよう」

「お、おう」

「やってほしいこと、ということの一つ目はこれなんだ」


俺は小瓶に詰めたそれらを見せた。


「これは……?」

「味噌と醤油だ。調味料の一種だな」

「これがか?」

「ああ。なんなら味見してみるか?」


ずいっと差し出せば、恐る恐るラムロは味噌を指先ですくい取った。

そしてペロリと舐めて目を見開く。


「おお、美味いな!?」

「だろう? これの原料はあの大豆だ」

「は!? まさか……いや、でも嘘はついていないな……」

「本当だよ。で、それらの製造拠点をこの村に置きたい。いいか?」

「前に話していたこの村の特産品ってやつか……利益は保証されるのだろうな?」

「もちろん」


ならばいい、とラムロが大仰に頷くのに、思わずガッツポーズをした。

どうだ見たことかランカ!

俺だってちゃんと考えてるんだよ!

ともかく、これで味噌と醤油の生産ラインを確保できる。


「それで?」

「ん?」

「さっき一つ目って言ったろう。二つ目は何だ?」

「あー……」


全く、耳敏いな。

もう一つは納得はしてても承諾はしてないから、正直俺から頼むのには抵抗があるんだが……仕方ないか。


「ユインと、あそこの子ども——ノノを暫く預かってくれないか?」

「それは、つまり俺に預けるってこと、だよな?」

「ああ」

「構わないが……いや、お前さんが自分からあの子から離れる選択をするなんて……何かあるのか?」


さっきまで何も聞かなかったくせに、ここで聞いてくるとは。

そこまで俺がユインから離れようとするのがおかしいか? ……うん、おかしいか。


「まぁ俺だって不本意だが、ともかく館にユインたちがいると、危険に晒しかねないんだよ。万一人質にでも取られたら、俺はどうしようもないし」

「人質って、お前さん……」

「その点、この村なら信頼して預けられる。今回はクロエも置いていけないからな。ユインたちを守ってくれないか、ラムロ」


ラムロはいくらか困惑の表情を残しながらも、確かに頷いた。


「ありがとう……まぁ、今日の用事はこれで全てだ。少し後にはなるが、ユインとノノをよろしく頼む。その時に、ノマールに味噌や醤油作りの正確な方法を書いたものを持って来させるつもりだ」

「ああ」

「じゃあ、そうだな、そろそろ俺は帰るとするよ」

「……ひとつ」

「ん?」


何か聞こえた気がして振り返る。

ラムロが、真剣な顔をして俺を見ていた。


「ひとつだけ、聞くぞ。もし答えられないなら、構わない」

「ああ、うん」

「……お前の敵は、誰だ?」


おっと。それを聞いてしまうか。

しかしまぁ、ラムロになら教えてもいいかもしれない。


「————だよ」


俺がそう言えば、ラムロの目が静かに見開かれた。






さぁ、答え合わせのお時間だ。

話は漸く、現在(いま)へと戻る。


呆然とするその男。絶望した表情のミロロ。

その後ろから王都からの使いの人たちが来ているのを見ながら、俺はゆっくりと口を開く。


「さて。貴方がどうしてこのようなことをなさったのか、そして一体どうするつもりなのか……ちょうど王都からのお客さん(・・・・)もいますし、ゆっくりとお話ししませんか?」


俺は、そうしてその名を呼ぶ。


「グロリス・ラウゼルゴッド伯爵、いえ、こう言った方がよろしいでしょうか……隣領の領主様(おとなりさん)?」



ミゼット「なんで今回微妙に語りかける感じなんですか」

エル「いや、ユインが大きくなった時お兄ちゃんの武勇伝として語る用に」

ミゼット「……うわぁ……」



ちなみに○○に入るのはお隣、です。

お隣さん大騒動。


何となく情報だのはあったので、実は「あーやっぱり他領の領主だったか」って思われてる方もいるのではないでしょうか。


次回は色々伏線とか回収できればと思います。できれば。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ