AIがつくった本文
AIに入力したプロンプトもどき:
・女性向けラノベを書いてください。1万字程度の短編でお願いします。
・シンデレラの王子視点
・気だるげな王子。結婚に意欲的ではなかった。
・有能な執事(男装)に惹かれはじめる。
・短編なので、実は女だったと気付かなくていい。
・キャラ
王子:第3ぐらいで立場は弱い
執事:王族の婚外子、スパルタでめちゃ強い、戦争で一人で逃げて、良い感じに男装で執事になる。
・設定
ラブコメ寄り、甘め。
王子殿下の婚約者選びが、なぜか執事によって地獄と化しています
レオニス・アルヴェインは、結婚というものにまるで興味がなかった。
「さて殿下。今年で二十六になられますね」
「知っている」
「王太子殿下に婚約者がいないのは、外交上たいへんよろしくありません」
「それも知っている」
「では、そろそろ本気でお考えください」
「考えた結果、面倒だという結論に至った」
執務机に頬杖をついたまま、レオニスは欠伸を噛み殺した。
窓の外では、王都の尖塔の上を白い鳥が飛んでいる。
長い銀灰色の髪を無造作に後ろへ流し、王族らしい端正な顔立ちをしているくせに、本人にはそれを有効活用する気がまったくない。
気だるげ。 皮肉屋。 怠惰に見える。
それがアルヴェイン王国の王太子レオニスに対する、おおむね正しい評価だった。
ただし、最後の一つだけは間違っている。
レオニスは怠惰なのではなく、無駄を嫌っているだけだった。
国内の政治状況も、隣国との魔鉱石取引も、昨年南部を襲った旱魃への対処も、実のところほとんど彼の手で片づけられている。
それを知っている宰相だけが、今日も頭痛を堪えるように眉間を押さえた。
「殿下が面倒かどうかではなく、国家の問題なのです」
「では、父上がもう一人子を作ればいい」
「陛下は五十八です」
「まだいけるだろう」
「王妃陛下に同じことを申し上げてみますか?」
「やめておこう。俺はまだ死にたくない」
そこへ、静かに紅茶が置かれた。
「殿下。茶葉は北部産のものです」
「ああ」
レオニスが顔を上げる。
黒髪。 白い肌。 すらりとした長身。
仕立てのよい黒の執事服を、寸分の隙もなく着こなした青年が立っていた。
名を、シエルという。
二年前、王都近郊で雇い入れられた男装の――いや、少なくともレオニスは男だと思っている――執事である。
年齢は二十歳前後。
無表情で、寡黙。
仕事は完璧。
料理から事務処理、馬の世話、暗号文の解読、毒味、剣術、魔法による結界構築まで何でもこなす。
少々、いや、かなり物騒なのが玉に瑕だった。
「シエル」
「はい」
「宰相が俺に結婚しろとうるさい」
「ごもっともかと」
「お前までそちら側か」
「殿下が王位を継承なさる以上、婚姻は避けられません」
「避けたいんだが」
「では王位を捨てますか?」
「それはもっと面倒だ」
「でしたら結婚なさるべきです」
容赦がない。
レオニスは恨めしげにシエルを見た。
シエルは無表情だった。
いつも通りである。
――いつも通り。
なのに。
なぜだろう。
最近、この男を見ると落ち着かない。
「……殿下?」
「何でもない」
シエルが首を傾げた。
それだけの仕草で、妙に心臓が跳ねる。
レオニスはすぐ視線を逸らした。
おかしい。
どう考えてもおかしい。
シエルは男だ。
男のはずだ。
少なくとも本人がそう名乗っているし、男物の服を着ているし、寝室も男性使用人棟にある。
何より。
男にしては妙に細い腰だとか。
伏せた睫毛が長いだとか。
喉仏があまり目立たないだとか。
そういうことに気づいてしまっている自分のほうが、圧倒的におかしい。
「殿下」
「何だ」
「カップを握り潰しそうです」
見れば、本当に薄手の磁器がみしりと鳴いていた。
レオニスは無言で力を緩めた。
宰相が怪訝そうにこちらを見る。
シエルは平然としていた。
「お疲れでしたら、肩でも揉みましょうか」
「いらん」
「では頭を冷やしますか。氷魔法を」
「物理的に冷やすな」
「では水桶を」
「俺を何だと思っている?」
「王太子殿下です」
「知っている」
シエルは、本当に何も気づいていない。
それが腹立たしくもあり、救いでもあった。
レオニスは深く息を吐いた。
きっと、一時の気の迷いだ。
長くそばに置きすぎたせいで、距離感がおかしくなった。
ならば。
――女と結婚すればいい。
そうすれば、この得体の知れない感情も消える。
自分は王太子だ。
いずれ政略結婚をするのだから、むしろちょうどいい。
「……分かった」
レオニスは言った。
宰相が目を瞬く。
「何がでしょう」
「婚約者を選ぶ」
「殿下が!?」
「声が大きい」
「し、しかし、あれほど嫌がっておられたのに」
「気が変わった」
ちらりとシエルを見る。
シエルは無表情のままだった。
残念そうでもない。 動揺もしない。 何の感情も見えない。
胸の奥に、針で刺されたような小さな痛みが走った。
――何を期待しているんだ、俺は。
「ただし」
レオニスは苛立ちを隠すように言う。
「適当に決める気はない。王太子妃になる以上、最低限の能力は見せてもらう」
「承知しました。では茶会や舞踏会を」
「つまらん」
「では」
「試験にする」
宰相が固まった。
「……試験?」
「ああ。王太子妃選抜試験だ」
こうして。
アルヴェイン王国始まって以来となる、王太子妃選抜試験の開催が決定した。
そしてこの決定が、後に令嬢たちから《春の大惨事》と呼ばれることになるとは。
このときのレオニスは、まだ知らなかった。
◇
「第一試験は、教養と礼儀作法」
シエルは資料を見ながら告げた。
「第二試験は、領地経営についての筆記」
「ああ」
「第三試験は、魔法適性および危機対応能力」
「ああ」
「第四試験は、殿下との茶会」
「ああ」
「第五試験は、生存訓練」
「待て」
レオニスが顔を上げた。
シエルは無表情でこちらを見返す。
「何でしょう」
「最後のものは何だ」
「生存訓練です」
「聞き間違いではなかったか」
「はい」
「なぜ王太子妃選びに生存訓練が必要なんだ」
シエルは少し考えた。
「王族は狙われます」
「まあな」
「毒殺、暗殺、誘拐、政変、戦争」
「……まあ、あるな」
「最低限、単独で三日間ほど森を生き延びられる能力は必要かと」
「必要ない」
「そうでしょうか」
「そうだ」
「ですが殿下が敵国兵に追われた場合、王太子妃が足手まといになってはいけません」
「俺が守る」
「殿下が負傷している可能性もあります」
「護衛がいる」
「全滅している可能性も」
「そんな状況を前提にするな」
シエルは沈黙した。
そして。
「……甘いのでは」
「何がだ」
「殿下は少々、人を信じすぎます」
「お前にだけは言われたくない」
「なぜでしょう」
「いや、いい」
レオニスは額を押さえた。
シエルの危機管理能力は、時折おかしい。
彼には、穏やかな王都で生まれ育った人間にはない緊張感がある。
扉を開けるとき、必ず一瞬気配を探る。
初めて口にする料理には、必ず匂いを確認する癖がある。
眠るときも窓際を避ける。
大きな音には反応しないくせに、背後から人に近づかれることだけは極端に嫌う。
何より。
剣を握った瞬間だけ、人間が変わる。
以前、王太子暗殺を企てた刺客が寝室へ侵入したことがある。
三人だった。
魔法剣士が二人。 暗殺専門の短剣使いが一人。
レオニスが起きたときには。
三人とも床に転がっていた。
シエルは血に濡れた白手袋を外しながら、
『お目覚めですか。まだ夜明け前ですので、お休みください』
と言った。
あの光景を思い出すたびに、レオニスは思う。
――こいつ、絶対ただの執事じゃない。
だが、追及はしていない。
人には過去がある。
それに。
何者であろうと、今のシエルは自分を裏切っていない。
「生存訓練は却下」
「承知しました」
「残念そうだな」
「いいえ」
「今、一瞬眉が下がったぞ」
「気のせいです」
真顔である。
「それより殿下」
「何だ」
「候補者についてですが、身辺調査は私が行っても?」
「好きにしろ」
「ありがとうございます」
シエルは一礼した。
「殿下のお相手です。慎重に選びます」
その言葉に。
レオニスの胸が、また妙に痛んだ。
「……随分、熱心だな」
「当然です」
「そうか」
「はい」
シエルにとっては、切実だった。
レオニスが結婚すること自体には異論はない。
むしろ王太子として当然だと思う。
だが。
――変な女だけは、絶対に駄目だ。
シエルには事情がある。
本名を、シエリエラ・フォン・ラシュタードという。
かつて北方に存在した、小国ラシュタード王国の王女。
ただし、正式な王女ではない。
国王と侍女の間に生まれた婚外子であり、王位継承権も持たなかった。
母は早くに死んだ。
父王はシエリエラを嫌ってはいなかったが、王女として表に出すこともしなかった。
その代わり。
『王族の血を引く者は、自分で生き延びられねばならん』
という、よく分からない信念を持った祖父によって育てられた。
朝五時、剣術。
朝食後、魔法。
昼、政治学。
午後、軍略。
夕刻、馬術。
夜、毒物学。
週末には雪山に置き去り。
十二歳で盗賊討伐。
十四歳で国境警備隊に混ぜられ。
十五歳で祖父から、
『まあ及第点だ』
と言われた。
その祖父が人類の基準から大幅に逸脱していたことを、シエリエラは後に知った。
そして三年前。
ラシュタード王国は隣国との戦争に敗れ、滅亡した。
王族は散り散りになり。
シエリエラもまた追手から逃れ、名を捨てた。
現在、旧ラシュタード王族の生き残りには賞金がかけられている。
だからこそ。
大国アルヴェインの王太子直属執事という立場は、最高の隠れ蓑だった。
王宮の中にいる限り、下手な追手は手出しできない。
さらにレオニスは、他人の過去に興味が薄い。
理想的な主人である。
しかし。
もしレオニスが結婚し。
その相手が、やたらと勘の鋭い女だったら。
『あの執事、怪しくありません?』
などと言い出したら。
非常に困る。
ゆえに。
――殿下のお妃は、私が選ばなければ。
シエルは静かな使命感に燃えていた。
◇
王太子妃選抜試験。
第一試験当日。
王宮には国内外から選りすぐりの令嬢三十二名が集まった。
公爵令嬢。 侯爵令嬢。 大商会の令嬢。 隣国の王女。
美貌も家柄も申し分ない者ばかり。
レオニスは広間の二階席から、気だるげにそれを眺めた。
「帰りたい」
「主催者が帰ってどうするのです」
背後に立つシエルが言う。
「お前が見ておけ」
「私は王太子ではありません」
「代わってやろうか」
「結構です」
「即答か」
「面倒ですので」
「俺と同じことを言うな」
そのとき。
一人の令嬢がこちらへ微笑んだ。
西部最大の公爵家令嬢、クラリッサ。
金髪碧眼。 社交界の華と呼ばれる美女だ。
レオニスは軽く片手を挙げた。
すると背後から。
「三点」
「……何が」
「今の笑顔です」
「何点満点だ」
「百点です」
「厳しすぎないか?」
「殿下に媚びる際、隣にいる公爵令嬢を肘で押しました」
「見ていたのか」
「はい」
「怖いな、お前」
「次」
今度は外国の王女が優雅に一礼する。
「八点」
「低い」
「侍女を人前で蹴りました」
「見ていたのか」
「はい」
「怖いな、お前」
「次」
「もうやめないか?」
「まだ三十名います」
「俺の婚約者候補なのに、お前のほうが真剣なのは何なんだ」
レオニスは半ば呆れながら言った。
するとシエルは、本当に不思議そうな顔をした。
「殿下の一生に関わりますので」
「……」
「慎重になるのは当然でしょう」
ずるい。
そういうところだ。
無自覚に。
何でもない顔で。
妙に胸を掻き乱すことを言う。
レオニスは視線を逸らした。
「……お前は」
「はい」
「俺が結婚しても、別に構わないんだな」
「もちろんです」
即答だった。
胸に刃物が刺さった気がした。
「そうか」
「はい」
「……そうか」
「殿下?」
「何でもない」
苛立つ。
自分でも理由が分からないほど苛立つ。
レオニスは立ち上がった。
「少し外す」
「どちらへ」
「頭を冷やす」
「氷魔法を?」
「いらん」
◇
第二試験。
領地経営。
候補者たちは架空の領地資料を渡され、飢饉と財政難をどう立て直すかを論述する。
本来ならば文官が採点する予定だった。
だが。
「これは落としましょう」
シエルが言った。
「なぜ」
「増税を提案しています」
「財政難なら普通だろう」
「三年連続不作の領地で増税すれば反乱が起きます」
「……まあな」
「こちらも駄目です」
「なぜ」
「食糧不足を魔物肉で補うと書いてあります」
「問題あるか?」
「この地方に生息する魔物の七割は毒持ちです」
「よく知ってるな」
「以前食べました」
「なぜ?」
「必要だったので」
「何が?」
シエルは答えなかった。
「ではこれは?」
レオニスが答案を示す。
シエルは読む。
「……合格です」
「お」
「備蓄米を開放し、商人に一時的な通行税減免を行い物流を確保。翌年まで農民の税負担を軽減し、王都へ融資を要請。現実的です」
「誰だ」
「エリナ・ローゼン伯爵令嬢」
「会ってみるか」
「はい」
シエルは満足げに頷いた。
その横顔を見ながら。
レオニスは何とも言えない気分になった。
「……本当に嬉しそうだな」
「良い候補が見つかりましたので」
「お前は俺を売り払う家畜商人か」
「殿下には幸せになっていただきたいです」
「……」
まただ。
またその言葉。
本人には何の他意もない。
分かっている。
分かっているから、腹が立つ。
「シエル」
「はい」
「お前、恋人はいないのか」
沈黙。
シエルが瞬きをした。
「……なぜ急に」
「興味だ」
「おりません」
妙に安心した。
「好きな女は?」
「いません」
さらに安心した。
「結婚願望は」
「ありません」
完全に安心した。
そこでレオニスは気づく。
――何を喜んでるんだ、俺は。
「殿下?」
「……何でもない」
「顔色が悪いですが」
「お前のせいだ」
「私が何か」
「何もしてないから困ってる」
シエルは首を傾げた。
本当に腹立たしい。
◇
第三試験は、魔法と危機対応。
候補者たちは模擬的な襲撃を受け、いかに身を守るかを試される。
もちろん安全には十分配慮されている。
――はずだった。
「きゃあああああ!」
悲鳴が響く。
訓練用魔法人形が、宙を舞った。
地面に落ちる。
首が取れた。
「……」
令嬢たちが青ざめた。
審査官たちも青ざめた。
レオニスも黙った。
訓練場中央。
シエルが片足を上げた姿勢で止まっている。
「……シエル」
「はい」
「何をした」
「見本を」
「見本?」
「人形に掴まれた場合の対処法です」
シエルは足を下ろした。
「鳩尾を蹴り、膝を砕き、首を折ります」
「人形の首が飛んだぞ」
「少々力加減を誤りました」
「少々?」
令嬢たちは震えている。
「皆様もどうぞ」
シエルが言った。
誰も動かなかった。
「……難しいでしょうか」
「難しい以前の問題だと思うぞ」
「そうですか」
シエルは少し残念そうだった。
「では短剣を使いましょう」
「なぜ難易度を上げる」
「簡単です。相手の腕の腱を」
「説明しなくていい」
レオニスが制止した。
「お前はもう黙って見ていろ」
「承知しました」
十五分後。
「そこです。目を狙って」
「黙れと言った!」
◇
それでも試験は進み。
候補者は五人まで絞られた。
その中には、あのエリナ・ローゼン伯爵令嬢もいる。
栗色の髪をした、穏やかな少女だった。
聡明で、控えめ。
使用人への態度もよい。
シエル採点では、実に八十九点。
異例の高得点である。
「殿下」
「何だ」
「エリナ様がよろしいかと」
「嫌だ」
即答だった。
シエルが目を瞬く。
「なぜです?」
「気に入らない」
「どこが」
「全部」
「先日、話していて楽しいと」
「言ってない」
「笑っておられました」
「あれは愛想笑いだ」
「殿下が?」
「俺だってする」
「初めて知りました」
シエルは困ったように眉を寄せる。
「では、どなたがよろしいのでしょう」
「知らん」
「殿下」
「何だ」
「結婚する気がありますか?」
「お前に言われたくない」
「私は王太子ではありません」
「分かってる」
「では真面目にお選びください」
「お前が選べと言ったんだろう」
「私が選ぶならエリナ様です」
「だから嫌だ」
「なぜです」
「お前が選んだから」
言った瞬間。
レオニスは自分でも、子供じみていると思った。
シエルも珍しく固まっている。
「……殿下」
「何だ」
「今日はお疲れなのでは」
「違う」
「少しお休みください」
「そういう目で俺を見るな」
完全に腫れ物扱いだった。
レオニスは頭を抱えた。
◇
その夜。
王太子の私室。
レオニスは眠れなかった。
寝台から起き上がり、水を飲む。
月明かりが床に差している。
廊下から足音。
「誰だ」
「私です」
シエルだった。
「どうした」
「巡回です」
「お前は執事だろう。護衛騎士の仕事まで取るな」
「念のためです」
シエルはいつも通りだった。
だが。
レオニスは、ふと気づいた。
「手を出せ」
「はい?」
「右手」
一瞬。
シエルの動きが止まる。
「……なぜでしょう」
「いいから」
手を取る。
細い。
思っていた以上に。
骨格も。
指も。
男のものとしては、あまりに華奢だ。
「……」
「殿下?」
妙な疑念が浮かんだ。
そういえば。
シエルの裸を見たことがない。
使用人同士で風呂に入ることもないという。
声も低めではあるが、作っていると言われれば。
「シエル」
「はい」
「お前」
顔を近づける。
シエルの瞳がわずかに揺れた。
「もしかして――」
その瞬間。
窓硝子が割れた。
黒い影。
暗殺者。
レオニスが剣を抜くより早く。
シエルが動いた。
「殿下、伏せて」
低い声。
次の瞬間には、襲撃者の手首が不自然な方向へ曲がっていた。
「ぐっ!」
短剣が落ちる。
シエルはそれを拾い。
迷いなく男の喉元へ突きつけた。
「所属は」
氷のような声だった。
答えない。
「そうですか」
シエルは短剣を逆手に持ち替える。
「では一本ずつ指を」
「待て待て待て」
レオニスが慌てて止めた。
「生かして尋問する」
「そのために尋問を」
「お前のは尋問じゃなく拷問だ」
「似たようなものです」
「違う」
騒ぎを聞きつけ、騎士たちが駆け込んでくる。
暗殺者は連行された。
部屋に静寂が戻る。
シエルは服についた血を払いながら振り返る。
「先ほど、何をおっしゃろうと?」
レオニスは黙った。
細い?
華奢?
女ではないか?
――いや。
今、成人男性を素手で制圧した。
そのうえ指を一本ずつ折ろうとしていた。
女なわけがない。
「……何でもない」
「そうですか」
「ああ」
疑念は消えた。
完全に。
◇
そして、最終試験。
王太子との一対一の茶会。
候補者は五名。
シエルは控えの間で待機していた。
一人目。
十分で終了。
二人目。
十五分。
三人目。
十二分。
四人目。
九分。
最後。
エリナ・ローゼン伯爵令嬢。
三十分経っても出てこない。
シエルは満足した。
やはり。
エリナならば安心だ。
賢く。
穏やかで。
余計な詮索をしない。
何より、王太子を立てることができる。
完璧だ。
――これで、私はここにいられる。
そのはずなのに。
胸が、妙に重かった。
「……?」
シエルは自分の胸元に手を置く。
病気だろうか。
戦場で古傷でも悪化したか。
だが痛いのは、もっと奥。
妙な感じだ。
やがて扉が開いた。
エリナが出てくる。
頬が赤い。
「ありがとうございました」
幸せそうに微笑み、一礼して去っていく。
シエルはその背を見送った。
そして。
「……なるほど」
理解した。
これが。
胃痛か。
きっと王太子の婚姻という一大事に緊張しているのだ。
「シエル」
中から声がした。
「入れ」
「はい」
部屋へ入る。
レオニスは窓辺に立っていた。
「終わりましたか」
「ああ」
「エリナ様はいかがでした?」
「断った」
「……はい?」
「断った」
シエルは珍しく絶句した。
「なぜです」
「結婚したくないから」
「殿下」
「何だ」
「試験を開催した意味をご存じですか」
「俺が開催したんだぞ」
「ではなぜ」
「気が変わった」
「気分で国家的行事を開かないでください」
「お前、王太子に遠慮がなくなってきたな」
「二年前からです」
「そうだったな」
レオニスが笑う。
シエルは納得できなかった。
「エリナ様に問題が?」
「ない」
「では」
「俺に問題がある」
レオニスはこちらを見た。
妙に真剣な目だった。
「欲しいものが、別にできた」
「……何をでしょう」
「言えるか」
「なぜ」
「言ったら、たぶんお前は逃げる」
「?」
本気で分からない顔をしている。
レオニスは笑うしかなかった。
「シエル」
「はい」
「お前、俺のそばを辞める気はあるか」
シエルの表情が変わった。
ほんの少し。
目を見開く。
「……私を、解雇なさるので?」
「違う。仮定の話だ」
シエルは数秒黙った。
「ありません」
「本当に?」
「はい」
「結婚しても?」
「もちろんです」
即答。
レオニスの胸が温かくなる。
「……そうか」
「殿下には、一つお願いがあります」
「何だ」
「ご結婚後も、私を置いてください」
「……」
レオニスは完全に黙った。
シエルは続ける。
「殿下のおそばは、居心地がいいので」
それは。
シエルなりの最大級の本音だった。
戦争に負け。
国を失い。
名前を失い。
家族も。
身分も。
何もかも捨てて逃げた。
そんな自分が。
初めて安心して眠れた場所。
それが、レオニスのそばだった。
けれど。
その意味を。
レオニスが正しく受け取れるわけがなかった。
「……お前」
「はい」
「そういうことを平気で言うな」
「何か問題が?」
「ある」
「どのような」
「俺の理性に」
レオニスが近づく。
一歩。
シエルは動かない。
もう一歩。
近い。
顔が。
吐息が触れそうな距離。
シエルはようやく、わずかに目を瞬いた。
「殿下?」
「もし」
レオニスは低く言う。
「俺が結婚しなかったら」
「はい」
「ずっとそばにいるか」
シエルは即答した。
「お望みでしたら」
駄目だ。
これは。
もう。
どうしようもない。
レオニスは目を閉じた。
それから。
シエルの額に、自分の額を軽く当てた。
「……殿下?」
「少し黙れ」
「熱がありますか」
「ない」
「では」
「お前のせいで頭がおかしくなりそうなんだ」
「?」
本気で分かっていない。
レオニスは深いため息をつく。
目の前には。
好きになった男がいる。
いや。
男なのか?
一瞬疑った。
けれど昨夜、暗殺者の腕を折って指まで折ろうとしていた。
やはり男だ。
どう考えても男だ。
――別に、もういいか。
男でも。
そう思い始めた自分が、一番怖い。
「シエル」
「はい」
「当分、結婚はしない」
「しかし」
「しない」
「陛下と宰相が」
「俺が何とかする」
「ですが」
「その代わり」
レオニスはシエルの顎を指先で少し持ち上げた。
「お前は、俺のそばにいろ」
シエルは瞬いた。
一度。
二度。
「……それだけでよろしいのですか」
「ああ」
「分かりました」
あまりにも簡単に了承された。
「命令されなくともおりますが」
「……」
レオニスは天井を仰いだ。
本当に。
この男は。
「殿下?」
「いつか絶対、後悔させる」
「何をでしょう」
「今の発言を」
シエルは分からないまま首を傾げた。
◇
王太子妃選抜試験は。
最終的に、該当者なしという結果に終わった。
王国中が騒然となり。
国王は頭を抱え。
宰相は胃薬を増やした。
一方。
当の王太子はというと。
「シエル」
「はい」
「今日、城下へ出るぞ」
「視察ですか」
「違う」
「では何を」
「買い物」
「何をお求めに?」
「お前の服」
「ありますが」
「私服が三着しかないだろう」
「十分です」
「十分じゃない」
「では侍従長に」
「俺が選ぶ」
「殿下が?」
「ああ」
「なぜでしょう」
「気分だ」
「またですか」
「うるさい」
最近。
王太子は妙に執事を連れ回す。
食事に誘い。
馬で遠出し。
休日まで予定を聞く。
シエルには、その理由がよく分からない。
ただ。
悪い気はしなかった。
「そういえば」
歩きながら、レオニスが言う。
「来月、仮面舞踏会がある」
「存じています」
「お前も来い」
「使用人として?」
「いや」
「では護衛でしょうか」
「客として」
シエルが立ち止まる。
「無理です」
「なぜ」
「私は平民です」
「俺の招待客なら入れる」
「ですが」
「命令だ」
シエルは少し考える。
仮面舞踏会。
顔は隠れる。
ならば。
かつて使っていた身分が露見する可能性も低い。
「……分かりました」
「よし」
「男装の礼服を用意します」
「……」
レオニスは黙った。
「殿下?」
「いや」
一瞬。
一瞬だけ。
ドレス姿のシエルを想像してしまった。
似合う。
恐ろしいほど。
細い腰も。
白い首筋も。
黒髪も。
「……いやいやいや」
「殿下?」
「何でもない」
おかしい。
やはり自分はおかしい。
「疲れておられますか」
「そうかもしれない」
「では氷魔法を」
「だから頭を凍らせようとするな」
「よく冷えます」
「死ぬ」
シエルは不思議そうにこちらを見る。
レオニスはため息をついた。
まだ知らない。
自分が焦がれている執事が。
実は女で。
滅びた国の王族の血を引き。
そして。
本人すらまだ気づいていない感情を、自分へ向け始めていることを。
もっとも。
それを知るのは。
もう少し先の話である。
「シエル」
「はい」
「舞踏会、絶対来いよ」
「承知しました」
「逃げるなよ」
「なぜ逃げる必要が?」
「……そういうところだ」
「?」
そして一か月後。
王宮の大階段に。
見覚えのない、息を呑むほど美しい黒髪の令嬢が現れた瞬間。
王太子レオニスが生まれて初めて。
手にしていた酒杯を取り落とすことになるのだが。
それは、また別のお話。
総括:アイディア出しには良い。「ちがう!貸せ、俺がやる!」で脳汁でる。
1次原稿が漫画を文字起こししたような文章だったので、ちがう!と手を入れ何日も時間がかかりました。
書いているうちにプロンプトもどきや、AIに出してもらった設定からどんどん離れていくので、準備してもらった文章が邪魔になったり。
とにかく疲れましたが、楽しかったです。「ちがう!貸せ!」をやっている時の方が頭がウィンウィン動いています。
何が書きたいかわからない時や、案出しの時はいいですね。本文は自分で書いた方が楽しいです。




