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王子の婚約者の条件:有能(男装)執事を倒すこと  作者: コーヒー牛乳


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2/2

AIがつくった本文

AIに入力したプロンプトもどき:


・女性向けラノベを書いてください。1万字程度の短編でお願いします。

・シンデレラの王子視点

・気だるげな王子。結婚に意欲的ではなかった。

・有能な執事(男装)に惹かれはじめる。

・短編なので、実は女だったと気付かなくていい。


・キャラ

王子:第3ぐらいで立場は弱い

執事:王族の婚外子、スパルタでめちゃ強い、戦争で一人で逃げて、良い感じに男装で執事になる。


・設定

ラブコメ寄り、甘め。

王子殿下の婚約者選びが、なぜか執事によって地獄と化しています


 レオニス・アルヴェインは、結婚というものにまるで興味がなかった。

「さて殿下。今年で二十六になられますね」

「知っている」

「王太子殿下に婚約者がいないのは、外交上たいへんよろしくありません」

「それも知っている」

「では、そろそろ本気でお考えください」

「考えた結果、面倒だという結論に至った」

 執務机に頬杖をついたまま、レオニスは欠伸を噛み殺した。

 窓の外では、王都の尖塔の上を白い鳥が飛んでいる。

 長い銀灰色の髪を無造作に後ろへ流し、王族らしい端正な顔立ちをしているくせに、本人にはそれを有効活用する気がまったくない。

 気だるげ。  皮肉屋。  怠惰に見える。

 それがアルヴェイン王国の王太子レオニスに対する、おおむね正しい評価だった。

 ただし、最後の一つだけは間違っている。

 レオニスは怠惰なのではなく、無駄を嫌っているだけだった。

 国内の政治状況も、隣国との魔鉱石取引も、昨年南部を襲った旱魃への対処も、実のところほとんど彼の手で片づけられている。

 それを知っている宰相だけが、今日も頭痛を堪えるように眉間を押さえた。

「殿下が面倒かどうかではなく、国家の問題なのです」

「では、父上がもう一人子を作ればいい」

「陛下は五十八です」

「まだいけるだろう」

「王妃陛下に同じことを申し上げてみますか?」

「やめておこう。俺はまだ死にたくない」

 そこへ、静かに紅茶が置かれた。

「殿下。茶葉は北部産のものです」

「ああ」

 レオニスが顔を上げる。

 黒髪。  白い肌。  すらりとした長身。

 仕立てのよい黒の執事服を、寸分の隙もなく着こなした青年が立っていた。

 名を、シエルという。

 二年前、王都近郊で雇い入れられた男装の――いや、少なくともレオニスは男だと思っている――執事である。

 年齢は二十歳前後。

 無表情で、寡黙。

 仕事は完璧。

 料理から事務処理、馬の世話、暗号文の解読、毒味、剣術、魔法による結界構築まで何でもこなす。

 少々、いや、かなり物騒なのが玉に瑕だった。

「シエル」

「はい」

「宰相が俺に結婚しろとうるさい」

「ごもっともかと」

「お前までそちら側か」

「殿下が王位を継承なさる以上、婚姻は避けられません」

「避けたいんだが」

「では王位を捨てますか?」

「それはもっと面倒だ」

「でしたら結婚なさるべきです」

 容赦がない。

 レオニスは恨めしげにシエルを見た。

 シエルは無表情だった。

 いつも通りである。

 ――いつも通り。

 なのに。

 なぜだろう。

 最近、この男を見ると落ち着かない。

「……殿下?」

「何でもない」

 シエルが首を傾げた。

 それだけの仕草で、妙に心臓が跳ねる。

 レオニスはすぐ視線を逸らした。

 おかしい。

 どう考えてもおかしい。

 シエルは男だ。

 男のはずだ。

 少なくとも本人がそう名乗っているし、男物の服を着ているし、寝室も男性使用人棟にある。

 何より。

 男にしては妙に細い腰だとか。

 伏せた睫毛が長いだとか。

 喉仏があまり目立たないだとか。

 そういうことに気づいてしまっている自分のほうが、圧倒的におかしい。

「殿下」

「何だ」

「カップを握り潰しそうです」

 見れば、本当に薄手の磁器がみしりと鳴いていた。

 レオニスは無言で力を緩めた。

 宰相が怪訝そうにこちらを見る。

 シエルは平然としていた。

「お疲れでしたら、肩でも揉みましょうか」

「いらん」

「では頭を冷やしますか。氷魔法を」

「物理的に冷やすな」

「では水桶を」

「俺を何だと思っている?」

「王太子殿下です」

「知っている」

 シエルは、本当に何も気づいていない。

 それが腹立たしくもあり、救いでもあった。

 レオニスは深く息を吐いた。

 きっと、一時の気の迷いだ。

 長くそばに置きすぎたせいで、距離感がおかしくなった。

 ならば。

 ――女と結婚すればいい。

 そうすれば、この得体の知れない感情も消える。

 自分は王太子だ。

 いずれ政略結婚をするのだから、むしろちょうどいい。

「……分かった」

 レオニスは言った。

 宰相が目を瞬く。

「何がでしょう」

「婚約者を選ぶ」

「殿下が!?」

「声が大きい」

「し、しかし、あれほど嫌がっておられたのに」

「気が変わった」

 ちらりとシエルを見る。

 シエルは無表情のままだった。

 残念そうでもない。  動揺もしない。  何の感情も見えない。

 胸の奥に、針で刺されたような小さな痛みが走った。

 ――何を期待しているんだ、俺は。

「ただし」

 レオニスは苛立ちを隠すように言う。

「適当に決める気はない。王太子妃になる以上、最低限の能力は見せてもらう」

「承知しました。では茶会や舞踏会を」

「つまらん」

「では」

「試験にする」

 宰相が固まった。

「……試験?」

「ああ。王太子妃選抜試験だ」

 こうして。

 アルヴェイン王国始まって以来となる、王太子妃選抜試験の開催が決定した。

 そしてこの決定が、後に令嬢たちから《春の大惨事》と呼ばれることになるとは。

 このときのレオニスは、まだ知らなかった。

     ◇

「第一試験は、教養と礼儀作法」

 シエルは資料を見ながら告げた。

「第二試験は、領地経営についての筆記」

「ああ」

「第三試験は、魔法適性および危機対応能力」

「ああ」

「第四試験は、殿下との茶会」

「ああ」

「第五試験は、生存訓練」

「待て」

 レオニスが顔を上げた。

 シエルは無表情でこちらを見返す。

「何でしょう」

「最後のものは何だ」

「生存訓練です」

「聞き間違いではなかったか」

「はい」

「なぜ王太子妃選びに生存訓練が必要なんだ」

 シエルは少し考えた。

「王族は狙われます」

「まあな」

「毒殺、暗殺、誘拐、政変、戦争」

「……まあ、あるな」

「最低限、単独で三日間ほど森を生き延びられる能力は必要かと」

「必要ない」

「そうでしょうか」

「そうだ」

「ですが殿下が敵国兵に追われた場合、王太子妃が足手まといになってはいけません」

「俺が守る」

「殿下が負傷している可能性もあります」

「護衛がいる」

「全滅している可能性も」

「そんな状況を前提にするな」

 シエルは沈黙した。

 そして。

「……甘いのでは」

「何がだ」

「殿下は少々、人を信じすぎます」

「お前にだけは言われたくない」

「なぜでしょう」

「いや、いい」

 レオニスは額を押さえた。

 シエルの危機管理能力は、時折おかしい。

 彼には、穏やかな王都で生まれ育った人間にはない緊張感がある。

 扉を開けるとき、必ず一瞬気配を探る。

 初めて口にする料理には、必ず匂いを確認する癖がある。

 眠るときも窓際を避ける。

 大きな音には反応しないくせに、背後から人に近づかれることだけは極端に嫌う。

 何より。

 剣を握った瞬間だけ、人間が変わる。

 以前、王太子暗殺を企てた刺客が寝室へ侵入したことがある。

 三人だった。

 魔法剣士が二人。  暗殺専門の短剣使いが一人。

 レオニスが起きたときには。

 三人とも床に転がっていた。

 シエルは血に濡れた白手袋を外しながら、

『お目覚めですか。まだ夜明け前ですので、お休みください』

 と言った。

 あの光景を思い出すたびに、レオニスは思う。

 ――こいつ、絶対ただの執事じゃない。

 だが、追及はしていない。

 人には過去がある。

 それに。

 何者であろうと、今のシエルは自分を裏切っていない。

「生存訓練は却下」

「承知しました」

「残念そうだな」

「いいえ」

「今、一瞬眉が下がったぞ」

「気のせいです」

 真顔である。

「それより殿下」

「何だ」

「候補者についてですが、身辺調査は私が行っても?」

「好きにしろ」

「ありがとうございます」

 シエルは一礼した。

「殿下のお相手です。慎重に選びます」

 その言葉に。

 レオニスの胸が、また妙に痛んだ。

「……随分、熱心だな」

「当然です」

「そうか」

「はい」

 シエルにとっては、切実だった。

 レオニスが結婚すること自体には異論はない。

 むしろ王太子として当然だと思う。

 だが。

 ――変な女だけは、絶対に駄目だ。

 シエルには事情がある。

 本名を、シエリエラ・フォン・ラシュタードという。

 かつて北方に存在した、小国ラシュタード王国の王女。

 ただし、正式な王女ではない。

 国王と侍女の間に生まれた婚外子であり、王位継承権も持たなかった。

 母は早くに死んだ。

 父王はシエリエラを嫌ってはいなかったが、王女として表に出すこともしなかった。

 その代わり。

『王族の血を引く者は、自分で生き延びられねばならん』

 という、よく分からない信念を持った祖父によって育てられた。

 朝五時、剣術。

 朝食後、魔法。

 昼、政治学。

 午後、軍略。

 夕刻、馬術。

 夜、毒物学。

 週末には雪山に置き去り。

 十二歳で盗賊討伐。

 十四歳で国境警備隊に混ぜられ。

 十五歳で祖父から、

『まあ及第点だ』

 と言われた。

 その祖父が人類の基準から大幅に逸脱していたことを、シエリエラは後に知った。

 そして三年前。

 ラシュタード王国は隣国との戦争に敗れ、滅亡した。

 王族は散り散りになり。

 シエリエラもまた追手から逃れ、名を捨てた。

 現在、旧ラシュタード王族の生き残りには賞金がかけられている。

 だからこそ。

 大国アルヴェインの王太子直属執事という立場は、最高の隠れ蓑だった。

 王宮の中にいる限り、下手な追手は手出しできない。

 さらにレオニスは、他人の過去に興味が薄い。

 理想的な主人である。

 しかし。

 もしレオニスが結婚し。

 その相手が、やたらと勘の鋭い女だったら。

『あの執事、怪しくありません?』

 などと言い出したら。

 非常に困る。

 ゆえに。

 ――殿下のお妃は、私が選ばなければ。

 シエルは静かな使命感に燃えていた。

     ◇

 王太子妃選抜試験。

 第一試験当日。

 王宮には国内外から選りすぐりの令嬢三十二名が集まった。

 公爵令嬢。  侯爵令嬢。  大商会の令嬢。  隣国の王女。

 美貌も家柄も申し分ない者ばかり。

 レオニスは広間の二階席から、気だるげにそれを眺めた。

「帰りたい」

「主催者が帰ってどうするのです」

 背後に立つシエルが言う。

「お前が見ておけ」

「私は王太子ではありません」

「代わってやろうか」

「結構です」

「即答か」

「面倒ですので」

「俺と同じことを言うな」

 そのとき。

 一人の令嬢がこちらへ微笑んだ。

 西部最大の公爵家令嬢、クラリッサ。

 金髪碧眼。  社交界の華と呼ばれる美女だ。

 レオニスは軽く片手を挙げた。

 すると背後から。

「三点」

「……何が」

「今の笑顔です」

「何点満点だ」

「百点です」

「厳しすぎないか?」

「殿下に媚びる際、隣にいる公爵令嬢を肘で押しました」

「見ていたのか」

「はい」

「怖いな、お前」

「次」

 今度は外国の王女が優雅に一礼する。

「八点」

「低い」

「侍女を人前で蹴りました」

「見ていたのか」

「はい」

「怖いな、お前」

「次」

「もうやめないか?」

「まだ三十名います」

「俺の婚約者候補なのに、お前のほうが真剣なのは何なんだ」

 レオニスは半ば呆れながら言った。

 するとシエルは、本当に不思議そうな顔をした。

「殿下の一生に関わりますので」

「……」

「慎重になるのは当然でしょう」

 ずるい。

 そういうところだ。

 無自覚に。

 何でもない顔で。

 妙に胸を掻き乱すことを言う。

 レオニスは視線を逸らした。

「……お前は」

「はい」

「俺が結婚しても、別に構わないんだな」

「もちろんです」

 即答だった。

 胸に刃物が刺さった気がした。

「そうか」

「はい」

「……そうか」

「殿下?」

「何でもない」

 苛立つ。

 自分でも理由が分からないほど苛立つ。

 レオニスは立ち上がった。

「少し外す」

「どちらへ」

「頭を冷やす」

「氷魔法を?」

「いらん」

     ◇

 第二試験。

 領地経営。

 候補者たちは架空の領地資料を渡され、飢饉と財政難をどう立て直すかを論述する。

 本来ならば文官が採点する予定だった。

 だが。

「これは落としましょう」

 シエルが言った。

「なぜ」

「増税を提案しています」

「財政難なら普通だろう」

「三年連続不作の領地で増税すれば反乱が起きます」

「……まあな」

「こちらも駄目です」

「なぜ」

「食糧不足を魔物肉で補うと書いてあります」

「問題あるか?」

「この地方に生息する魔物の七割は毒持ちです」

「よく知ってるな」

「以前食べました」

「なぜ?」

「必要だったので」

「何が?」

 シエルは答えなかった。

「ではこれは?」

 レオニスが答案を示す。

 シエルは読む。

「……合格です」

「お」

「備蓄米を開放し、商人に一時的な通行税減免を行い物流を確保。翌年まで農民の税負担を軽減し、王都へ融資を要請。現実的です」

「誰だ」

「エリナ・ローゼン伯爵令嬢」

「会ってみるか」

「はい」

 シエルは満足げに頷いた。

 その横顔を見ながら。

 レオニスは何とも言えない気分になった。

「……本当に嬉しそうだな」

「良い候補が見つかりましたので」

「お前は俺を売り払う家畜商人か」

「殿下には幸せになっていただきたいです」

「……」

 まただ。

 またその言葉。

 本人には何の他意もない。

 分かっている。

 分かっているから、腹が立つ。

「シエル」

「はい」

「お前、恋人はいないのか」

 沈黙。

 シエルが瞬きをした。

「……なぜ急に」

「興味だ」

「おりません」

 妙に安心した。

「好きな女は?」

「いません」

 さらに安心した。

「結婚願望は」

「ありません」

 完全に安心した。

 そこでレオニスは気づく。

 ――何を喜んでるんだ、俺は。

「殿下?」

「……何でもない」

「顔色が悪いですが」

「お前のせいだ」

「私が何か」

「何もしてないから困ってる」

 シエルは首を傾げた。

 本当に腹立たしい。

     ◇

 第三試験は、魔法と危機対応。

 候補者たちは模擬的な襲撃を受け、いかに身を守るかを試される。

 もちろん安全には十分配慮されている。

 ――はずだった。

「きゃあああああ!」

 悲鳴が響く。

 訓練用魔法人形が、宙を舞った。

 地面に落ちる。

 首が取れた。

「……」

 令嬢たちが青ざめた。

 審査官たちも青ざめた。

 レオニスも黙った。

 訓練場中央。

 シエルが片足を上げた姿勢で止まっている。

「……シエル」

「はい」

「何をした」

「見本を」

「見本?」

「人形に掴まれた場合の対処法です」

 シエルは足を下ろした。

「鳩尾を蹴り、膝を砕き、首を折ります」

「人形の首が飛んだぞ」

「少々力加減を誤りました」

「少々?」

 令嬢たちは震えている。

「皆様もどうぞ」

 シエルが言った。

 誰も動かなかった。

「……難しいでしょうか」

「難しい以前の問題だと思うぞ」

「そうですか」

 シエルは少し残念そうだった。

「では短剣を使いましょう」

「なぜ難易度を上げる」

「簡単です。相手の腕の腱を」

「説明しなくていい」

 レオニスが制止した。

「お前はもう黙って見ていろ」

「承知しました」

 十五分後。

「そこです。目を狙って」

「黙れと言った!」

     ◇

 それでも試験は進み。

 候補者は五人まで絞られた。

 その中には、あのエリナ・ローゼン伯爵令嬢もいる。

 栗色の髪をした、穏やかな少女だった。

 聡明で、控えめ。

 使用人への態度もよい。

 シエル採点では、実に八十九点。

 異例の高得点である。

「殿下」

「何だ」

「エリナ様がよろしいかと」

「嫌だ」

 即答だった。

 シエルが目を瞬く。

「なぜです?」

「気に入らない」

「どこが」

「全部」

「先日、話していて楽しいと」

「言ってない」

「笑っておられました」

「あれは愛想笑いだ」

「殿下が?」

「俺だってする」

「初めて知りました」

 シエルは困ったように眉を寄せる。

「では、どなたがよろしいのでしょう」

「知らん」

「殿下」

「何だ」

「結婚する気がありますか?」

「お前に言われたくない」

「私は王太子ではありません」

「分かってる」

「では真面目にお選びください」

「お前が選べと言ったんだろう」

「私が選ぶならエリナ様です」

「だから嫌だ」

「なぜです」

「お前が選んだから」

 言った瞬間。

 レオニスは自分でも、子供じみていると思った。

 シエルも珍しく固まっている。

「……殿下」

「何だ」

「今日はお疲れなのでは」

「違う」

「少しお休みください」

「そういう目で俺を見るな」

 完全に腫れ物扱いだった。

 レオニスは頭を抱えた。

     ◇

 その夜。

 王太子の私室。

 レオニスは眠れなかった。

 寝台から起き上がり、水を飲む。

 月明かりが床に差している。

 廊下から足音。

「誰だ」

「私です」

 シエルだった。

「どうした」

「巡回です」

「お前は執事だろう。護衛騎士の仕事まで取るな」

「念のためです」

 シエルはいつも通りだった。

 だが。

 レオニスは、ふと気づいた。

「手を出せ」

「はい?」

「右手」

 一瞬。

 シエルの動きが止まる。

「……なぜでしょう」

「いいから」

 手を取る。

 細い。

 思っていた以上に。

 骨格も。

 指も。

 男のものとしては、あまりに華奢だ。

「……」

「殿下?」

 妙な疑念が浮かんだ。

 そういえば。

 シエルの裸を見たことがない。

 使用人同士で風呂に入ることもないという。

 声も低めではあるが、作っていると言われれば。

「シエル」

「はい」

「お前」

 顔を近づける。

 シエルの瞳がわずかに揺れた。

「もしかして――」

 その瞬間。

 窓硝子が割れた。

 黒い影。

 暗殺者。

 レオニスが剣を抜くより早く。

 シエルが動いた。

「殿下、伏せて」

 低い声。

 次の瞬間には、襲撃者の手首が不自然な方向へ曲がっていた。

「ぐっ!」

 短剣が落ちる。

 シエルはそれを拾い。

 迷いなく男の喉元へ突きつけた。

「所属は」

 氷のような声だった。

 答えない。

「そうですか」

 シエルは短剣を逆手に持ち替える。

「では一本ずつ指を」

「待て待て待て」

 レオニスが慌てて止めた。

「生かして尋問する」

「そのために尋問を」

「お前のは尋問じゃなく拷問だ」

「似たようなものです」

「違う」

 騒ぎを聞きつけ、騎士たちが駆け込んでくる。

 暗殺者は連行された。

 部屋に静寂が戻る。

 シエルは服についた血を払いながら振り返る。

「先ほど、何をおっしゃろうと?」

 レオニスは黙った。

 細い?

 華奢?

 女ではないか?

 ――いや。

 今、成人男性を素手で制圧した。

 そのうえ指を一本ずつ折ろうとしていた。

 女なわけがない。

「……何でもない」

「そうですか」

「ああ」

 疑念は消えた。

 完全に。

     ◇

 そして、最終試験。

 王太子との一対一の茶会。

 候補者は五名。

 シエルは控えの間で待機していた。

 一人目。

 十分で終了。

 二人目。

 十五分。

 三人目。

 十二分。

 四人目。

 九分。

 最後。

 エリナ・ローゼン伯爵令嬢。

 三十分経っても出てこない。

 シエルは満足した。

 やはり。

 エリナならば安心だ。

 賢く。

 穏やかで。

 余計な詮索をしない。

 何より、王太子を立てることができる。

 完璧だ。

 ――これで、私はここにいられる。

 そのはずなのに。

 胸が、妙に重かった。

「……?」

 シエルは自分の胸元に手を置く。

 病気だろうか。

 戦場で古傷でも悪化したか。

 だが痛いのは、もっと奥。

 妙な感じだ。

 やがて扉が開いた。

 エリナが出てくる。

 頬が赤い。

「ありがとうございました」

 幸せそうに微笑み、一礼して去っていく。

 シエルはその背を見送った。

 そして。

「……なるほど」

 理解した。

 これが。

 胃痛か。

 きっと王太子の婚姻という一大事に緊張しているのだ。

「シエル」

 中から声がした。

「入れ」

「はい」

 部屋へ入る。

 レオニスは窓辺に立っていた。

「終わりましたか」

「ああ」

「エリナ様はいかがでした?」

「断った」

「……はい?」

「断った」

 シエルは珍しく絶句した。

「なぜです」

「結婚したくないから」

「殿下」

「何だ」

「試験を開催した意味をご存じですか」

「俺が開催したんだぞ」

「ではなぜ」

「気が変わった」

「気分で国家的行事を開かないでください」

「お前、王太子に遠慮がなくなってきたな」

「二年前からです」

「そうだったな」

 レオニスが笑う。

 シエルは納得できなかった。

「エリナ様に問題が?」

「ない」

「では」

「俺に問題がある」

 レオニスはこちらを見た。

 妙に真剣な目だった。

「欲しいものが、別にできた」

「……何をでしょう」

「言えるか」

「なぜ」

「言ったら、たぶんお前は逃げる」

「?」

 本気で分からない顔をしている。

 レオニスは笑うしかなかった。

「シエル」

「はい」

「お前、俺のそばを辞める気はあるか」

 シエルの表情が変わった。

 ほんの少し。

 目を見開く。

「……私を、解雇なさるので?」

「違う。仮定の話だ」

 シエルは数秒黙った。

「ありません」

「本当に?」

「はい」

「結婚しても?」

「もちろんです」

 即答。

 レオニスの胸が温かくなる。

「……そうか」

「殿下には、一つお願いがあります」

「何だ」

「ご結婚後も、私を置いてください」

「……」

 レオニスは完全に黙った。

 シエルは続ける。

「殿下のおそばは、居心地がいいので」

 それは。

 シエルなりの最大級の本音だった。

 戦争に負け。

 国を失い。

 名前を失い。

 家族も。

 身分も。

 何もかも捨てて逃げた。

 そんな自分が。

 初めて安心して眠れた場所。

 それが、レオニスのそばだった。

 けれど。

 その意味を。

 レオニスが正しく受け取れるわけがなかった。

「……お前」

「はい」

「そういうことを平気で言うな」

「何か問題が?」

「ある」

「どのような」

「俺の理性に」

 レオニスが近づく。

 一歩。

 シエルは動かない。

 もう一歩。

 近い。

 顔が。

 吐息が触れそうな距離。

 シエルはようやく、わずかに目を瞬いた。

「殿下?」

「もし」

 レオニスは低く言う。

「俺が結婚しなかったら」

「はい」

「ずっとそばにいるか」

 シエルは即答した。

「お望みでしたら」

 駄目だ。

 これは。

 もう。

 どうしようもない。

 レオニスは目を閉じた。

 それから。

 シエルの額に、自分の額を軽く当てた。

「……殿下?」

「少し黙れ」

「熱がありますか」

「ない」

「では」

「お前のせいで頭がおかしくなりそうなんだ」

「?」

 本気で分かっていない。

 レオニスは深いため息をつく。

 目の前には。

 好きになった男がいる。

 いや。

 男なのか?

 一瞬疑った。

 けれど昨夜、暗殺者の腕を折って指まで折ろうとしていた。

 やはり男だ。

 どう考えても男だ。

 ――別に、もういいか。

 男でも。

 そう思い始めた自分が、一番怖い。

「シエル」

「はい」

「当分、結婚はしない」

「しかし」

「しない」

「陛下と宰相が」

「俺が何とかする」

「ですが」

「その代わり」

 レオニスはシエルの顎を指先で少し持ち上げた。

「お前は、俺のそばにいろ」

 シエルは瞬いた。

 一度。

 二度。

「……それだけでよろしいのですか」

「ああ」

「分かりました」

 あまりにも簡単に了承された。

「命令されなくともおりますが」

「……」

 レオニスは天井を仰いだ。

 本当に。

 この男は。

「殿下?」

「いつか絶対、後悔させる」

「何をでしょう」

「今の発言を」

 シエルは分からないまま首を傾げた。

     ◇

 王太子妃選抜試験は。

 最終的に、該当者なしという結果に終わった。

 王国中が騒然となり。

 国王は頭を抱え。

 宰相は胃薬を増やした。

 一方。

 当の王太子はというと。

「シエル」

「はい」

「今日、城下へ出るぞ」

「視察ですか」

「違う」

「では何を」

「買い物」

「何をお求めに?」

「お前の服」

「ありますが」

「私服が三着しかないだろう」

「十分です」

「十分じゃない」

「では侍従長に」

「俺が選ぶ」

「殿下が?」

「ああ」

「なぜでしょう」

「気分だ」

「またですか」

「うるさい」

 最近。

 王太子は妙に執事を連れ回す。

 食事に誘い。

 馬で遠出し。

 休日まで予定を聞く。

 シエルには、その理由がよく分からない。

 ただ。

 悪い気はしなかった。

「そういえば」

 歩きながら、レオニスが言う。

「来月、仮面舞踏会がある」

「存じています」

「お前も来い」

「使用人として?」

「いや」

「では護衛でしょうか」

「客として」

 シエルが立ち止まる。

「無理です」

「なぜ」

「私は平民です」

「俺の招待客なら入れる」

「ですが」

「命令だ」

 シエルは少し考える。

 仮面舞踏会。

 顔は隠れる。

 ならば。

 かつて使っていた身分が露見する可能性も低い。

「……分かりました」

「よし」

「男装の礼服を用意します」

「……」

 レオニスは黙った。

「殿下?」

「いや」

 一瞬。

 一瞬だけ。

 ドレス姿のシエルを想像してしまった。

 似合う。

 恐ろしいほど。

 細い腰も。

 白い首筋も。

 黒髪も。

「……いやいやいや」

「殿下?」

「何でもない」

 おかしい。

 やはり自分はおかしい。

「疲れておられますか」

「そうかもしれない」

「では氷魔法を」

「だから頭を凍らせようとするな」

「よく冷えます」

「死ぬ」

 シエルは不思議そうにこちらを見る。

 レオニスはため息をついた。

 まだ知らない。

 自分が焦がれている執事が。

 実は女で。

 滅びた国の王族の血を引き。

 そして。

 本人すらまだ気づいていない感情を、自分へ向け始めていることを。

 もっとも。

 それを知るのは。

 もう少し先の話である。

「シエル」

「はい」

「舞踏会、絶対来いよ」

「承知しました」

「逃げるなよ」

「なぜ逃げる必要が?」

「……そういうところだ」

「?」

 そして一か月後。

 王宮の大階段に。

 見覚えのない、息を呑むほど美しい黒髪の令嬢が現れた瞬間。

 王太子レオニスが生まれて初めて。

 手にしていた酒杯を取り落とすことになるのだが。

 それは、また別のお話。


総括:アイディア出しには良い。「ちがう!貸せ、俺がやる!」で脳汁でる。


1次原稿が漫画を文字起こししたような文章だったので、ちがう!と手を入れ何日も時間がかかりました。

書いているうちにプロンプトもどきや、AIに出してもらった設定からどんどん離れていくので、準備してもらった文章が邪魔になったり。

とにかく疲れましたが、楽しかったです。「ちがう!貸せ!」をやっている時の方が頭がウィンウィン動いています。

何が書きたいかわからない時や、案出しの時はいいですね。本文は自分で書いた方が楽しいです。

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