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最強の蒼水龍(※ただし見た目はショタ)な僕が、不敬で無礼な勇者の相棒になったワケ 〜全部この男が不条理なせいです〜  作者: 瑛斗流


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ダダ漏れ魔力は犬の餌!? 屈辱と猛ダッシュの山下り(挿絵あり)

聖域を抜けてから、どれほどの時間が経っただろうか。


 一歩、足を踏み出すごとに、僕の五感は未体験の暴力的な刺激に悲鳴を上げていた。


 まず、鼻を突くのは、枯れ葉が腐ったような湿った土の匂いや、名前も知らない野花が放つむせ返るような濃厚な香り。


極寒にして、塵一つ、虫一匹存在しない、聖域の清浄な空気しか知らなかった僕にとって、外の世界の空気はあまりに「不純物」が多すぎる。


「……っ、また変な虫が僕の髪に! ええい、離れろ下等生物!」


「おいおい、ただのテントウムシだろ。そんな顔真っ赤にして手払うなよ、ツノにぶつかってるぞ」


挿絵(By みてみん)


「うるさい! 僕の高貴な体にこのような得体の知れない生物が触れるなど万死に値する!」


 それに、耳の奥に絶え間なく突き刺さる羽虫の羽音。風が木々を揺らすざわめき。


 ひどくうるさい。

世界というのは、これほどまでに騒がしく、雑多なものだったのか。


***


「……はぁ、はぁ……。ちょ、ちょっと待て。一旦セーブ、じゃなくて休憩だ……。マジで足、もげる……」


 しばらく山を下りた後、背後でカイトが今にも土に還りそうな顔をして、自身の身の丈ほどもある大剣を杖代わりにうなだれていた。


 聖域の結界を、ルール無視の不条理で力ずくで引き裂いた代償だろう。


彼の内側にある魔力(カイトの言葉を借りるならMPというらしい)は、底の見えた水たまりのように完全に枯渇しかけている。


「情けないね。さっきの威勢はどうしたんだ。僕を連れ出すと豪語しておきながら、たかだか山を下る程度で消えてしまいそうな顔をして」


挿絵(By みてみん)


 僕は立ち止まり、冷ややかに彼を見下ろした。

 僕の肉体は、体内に凝縮された圧倒的な魔力によって常に強化されている。


疲労? 筋肉痛? そんな下等な概念、僕の辞書には存在しない。


「お前なぁ……。こっちはMPゼロの満身創痍なんだよ。……でも、まぁ助かったぜ。こんな魔物の巣窟みたいな魔境の山を、ノーエンカウント……一度も敵に襲われずに降りてこられたのは、お前のおかげか、それともただ運が良かったのか……」


 カイトは道端の苔むした岩にドスンと腰を下ろし、額の汗を乱暴に拭った。


 運が良い? ふん、不愉快だね。


「運が良いのではないよ、無礼者。当たり前だろう? 僕がこうして歩いているんだ。そこらの下等種(モンスター)どもが、僕の気配を感じて逃げ出さないはずがない」


「……あ? 気配?」


「僕の魔力だよ。龍族の、それも『水龍脈の守護者』たる僕が放つ威圧に、野蛮な獣たちが耐えられるわけがないだろう。さっきから茂みの奥で、幾つもの視線が震えながら遠ざかっていくのを感じている。君の命が繋がっているのは、僕という『王』が隣にいるからだということを忘れないでもらいたいね」


 僕が胸を張って言い終えるのと同時だった。


 ガサリ、と近くの茂みが大きく揺れ、この山の生態系の頂点にいるであろう、三つの目を持った巨大な狼が牙を剥いて飛び出してきた。


「ほら、出た!」


 カイトが悲鳴のような声を上げるが、僕は全く動じない。


 巨大狼は僕に向かって飛びかかろうとした空中で、僕から放たれる絶対的な魔力の圧に気づいたのだろう。空中で「キャンッ!?」という情けない悲鳴を上げ、着地するなり尻尾を股の間に巻き込み、一目散に山を駆け上がって逃げ去っていった。 


挿絵(By みてみん)


「ほらね。僕がここにいるだけで、この道は王のパレードに変わるんだよ」


 僕は満足げに鼻を鳴らした。


 守護者としての力。これこそが僕の価値であり、存在意義。


 ひれ伏して感謝の言葉の一つでも述べるがいいさ、不敬な勇者よ。


そう思って振り返ったのだが――カイトは感心するどころか、僕の後方の山道を凝視したまま、さっきよりもさらに青ざめた顔でカタカタと震えていた。


「……おい、リル」


「なんだい。畏怖のあまり言葉を失ったのか?」


「違う。お前……自分の後ろ、見てみろよ」


「後ろ?」


 言われるままに振り返った僕は、思わず息を呑んだ。


 僕たちが歩いてきた山道の軌跡に沿って、高密度な魔力が漏れ出した残滓が、淡い水色の光の粒子となってポロポロと落ちている。それはまるで、夜道に光る宝石のように幻想的な道標を作っていた。


 だが、問題はそこではない。


 その光る軌跡の道を、何百、いや何千という魔物たちが、目を血走らせ、涎を滝のように流しながら「舐めとって」いたのだ。


 スライム、ゴブリン、巨大なオーク、さっき逃げたはずの三つ目狼の群れ、さらには見たこともない奇怪な蟲どもまでが、互いに争うこともなく、ただひたすらに地面に残った僕の魔力の残滓をちゅうちゅう、ペロペロと貪っている。


「な、な、なんだあれは!?」


「お前の魔力だよ! お前の体から出た直後の魔力は圧が強すぎてビビって近づけねぇみたいだけど、地面に落ちて主の意志から切り離された『残りカス』は、あいつらにとっちゃ最高級の栄養満点エナジードリンクなんだよ!!」


「なっ……! ぼ、僕の神聖なる魔力を、犬の餌のように……!?」


 僕の誇りはズタズタだった。畏れ敬って道を空けていたのではなく、単に「熱すぎる極上のスープ」が少し冷めるのを、よだれを垂らしながらお行儀よく後ろで待っていただけだったのだ。


「うわあああ! よく見ろ、先頭のスライムが光り出したぞ! お前の魔力食って進化しようとしてる!」


「ふ、不敬な! 許さん、塵にしてくれる!」


「バカやめろ! お前がここで特大魔法なんか撃ったら、その特大の魔力残滓を求めて今度は山中の魔物、いや大陸中の魔物が集まってくるぞ! 大体俺が巻き込まれて死ぬ!!」


 カイトの叫びに、僕は振り上げた手をピタリと止めた。


「じゃ、じゃあどうしろと言うんだ!」


「走れ!! あと、そのだだ漏れの魔力をどうにかしろ!!」


 カイトは枯渇したはずの体力をどこからか捻り出し、僕の手を引いて斜面を猛ダッシュで駆け下り始めた。


「待て! 手を引くな、僕は自分の足で走れる!」


 背後からは「もっとくれぇええ!」と言わんばかりの、地響きのような魔物たちの歓声(?)が迫ってくる。


振り返れば、巨大な土煙と共に、おびただしい数の異形の群れが僕の足跡を追って大移動を始めていた。


「お前さ、その溢れ出る魔力どうにかなんねーのか!? 蛇口を閉めるみたいに、もっとこう、キュッと自分の中に閉じ込めろよ!」


「蛇口? よくわからない言葉を使うな! 僕は生まれてからずっと、魔力を抑える必要なんてなかったんだ。聖域では僕こそが法であり、隠れる必要もなかった!」


「今は聖域じゃねーんだよ! お前は歩くチュールなんだよ! 猫まっしぐらならぬ魔物まっしぐらだ!」


「ちゅーる!? また意味不明な言葉を……! だが、不本意ながら君の言い分にも一理ある。努力はしてみるよ!」


 僕は走りながら、体外に漏れ出す魔力を内側へ押し込めるよう意識を集中させた。


 ふん、無礼な男だ。龍族の誇り高きオーラを蛇口だのちゅーるだのと卑俗なものに例えるなんて。


 しかし、これが思いのほか難しい。呼吸をするように自然と垂れ流していたものを、無理やり息を止めるように内側に留める感覚。ほんの少しでも気を抜けば、膨大な魔力が全身の鱗という鱗の隙間から吹き出そうとする――。


(……いや、待てよ)

 走りながら、僕はハッと気づいた。

 鱗? どこにあるんだ、そんなもの。僕の体には誇り高き龍の鱗なんて一枚たりとも生えていないではないか!


 何百年修行しても龍化の兆しすらなく、同族から『なり損ない』と蔑まれた僕の肌は、忌々しいほどにツルツルの、人間の子供と変わらない、陶磁器のような質感だ。


 じゃあ、この抑えきれない魔力は僕の体のどこから漏れ出しているというのか。


 ……毛穴か?

 誇り高き蒼水龍の魔力が、人間の汗みたいに毛穴からプシューッと!?


「ええい! ますます不愉快だ! なんで僕には鱗が一枚もないんだ!!」


挿絵(By みてみん)


「はあ!? いきなり何ギレてんだよ!? 鱗の話なんか今どうでもいいだろ、早くそれ《魔力》の蛇口閉めろ!」


 カイトの言う通りだ。今は己の身体的欠(コンプレックス)を嘆いている場合ではない。


まずは背後から迫る、下等生物どもの「おこぼれをねだる浅ましい大合唱」を黙らせるのが先決だ。


 僕は羞恥と怒りをバネにして、体外へ吹き出そうとする魔力を、毛穴……いや、せめて気分だけでも『見えない鱗』の隙間をギュッと閉じるようなイメージで、無理やり内側に押し込めた。


「ぐぬぬ……! こうか!?」


「おお! 足元のキラキラが減ってきた! いいぞリル、その調子だ! ほら、後ろの連中、餌がなくなって戸惑って足止めてる!」


 カイトの言う通り、僕が魔力の漏洩を抑え込むと、背後の大パレードは「あれ? おかわりは?」とでも言いたげにキョロキョロと辺りを見回し、やがて諦めたようにチリヂリに山の中へと帰っていった。


「見たかカイト。僕にかかれば、己の力など完璧に制御できるんだ」


 僕は居住まいを正した。

 こんな不格好な逃走劇、僕の歴史の汚点だ。今度こそこの不敬な男に、僕の真の恐ろしさと威厳ある名前を刻みつけてやろう。


 僕は大きく息を吸い込んだ。


「いいか、よく聞け。僕の真の名は、蒼水龍リル・アクエ――」


「お、街が見えてきた!」


「…………ッ!!」


 カイトは僕の言葉をまたしても遮り、目を輝かせて斜面の先を指差した。


 森が途切れたその向こう、夕陽に赤く照らされた石造りの街並みと、それを取り囲む防壁が広がっている。


挿絵(By みてみん)


初めて見る人間の営み、その巨大な建造物の集まりに、僕は一瞬言葉を失った。


「行こうぜリル! 宿屋でふかふかのベッドが待ってるぞ! あと美味い飯もな! さすがにスライムに追われるのはもうごめんだ!」


「最後まで言わせろ無礼者! というか、待て! 僕を置いていくな!」


 先を急ぐカイトの背中を、僕は地団駄を踏みながら追いかける。


 最悪な気分だ。

 最強の龍族。気高き守護者。


 それなのに、今の僕は「置いていかれると心細い」という、名付けようのない情けない感情に支配されている。


彼が小走りで先に行ってしまうだけで、胸の奥がキュッと締め付けられるような気がするのだ。


「……勘違いするなよ。君が倒れたら僕が困るから、ついて行ってやってるだけだ!」


 誰に言い訳するでもなく虚空に向かって叫びながら、僕は走る足を速めた。


 僕から溢れる青い光の粒子は、先ほどよりも輝きを小さく、密やかにしていた。それはまるで、新しい世界で生きていくための、僕のほんの小さな第一歩のように思えた。


そういえば最近ちゅーるの宣伝見ませんね。

と、言うのはどうでも良くて、ブクマ、評価を頂けると大変喜びます!

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