あさひの風〜現地イベントにやってきた移住反対の妻が見たものは?
「移住なんて、絶対反対!」
名古屋で夫と3歳の娘と暮らす、27歳のつむぎ。
夫・海斗から持ちかけられたのは、
飛騨・朝日町への移住でした。
仕事はどうする?
子育ては?
買い物は?
冬は?
そもそも、どうしてわざわざ便利な名古屋を離れなきゃいけないの?
だったら一度、
自分の目で確かめてみよう。
そうしてひとりで訪れた朝日町では、
「あさひたかねわくわくフェスタ」が開催されていました。
美味しいもの。
美しい自然。
そこに暮らす人々。
そして、朝日の薬草文化。
「移住先の下見」だったはずの一日。
けれど気がつけば、つむぎはこの町に、
まだ見たことのない家族3人の未来を重ね始めていました。
ヒダテン!ボイスドラマ
『あさひの風』
これは、ひとりの女性が「暮らす場所」と「家族の幸せ」を見つめ直す、小さな一日の物語です。
【ペルソナ】
・つむぎ=(27歳/CV:蓬坂えりか)※名古屋から子育てのために移住先を検討中の主婦
・よもぎ=30歳/つむぎの夫
・なずな=3歳/つむぎの娘(保育園入園前)
・かえで=54歳/つむぎの母(名古屋在住)
【シーン1/道の駅ひだ朝日村/到着】
▪️SE/スマホの着信音
「もしもし、あ、カイト?
・・うん、今着いたところ。『道の駅ひだ朝日村』。
って駐車場入れないじゃん。
なんか、イベントやってて・・
あさひたかねわくわくフェスタ・・っての。
周辺のイベント用駐車場に入れって。
ま、いっか。
ん?
うん、名古屋出たのは朝8時よ。
カイトが仕事に出かけたあと。掃除してから出たの。
ダンナさまを見送ってから家事こなして、って主婦の鏡でしょ。
え?ナズナ?
もちろん、おかあさんに預けてきたわ。
まだ3歳なのよ。
長距離ドライブなんてかわいそうでしょ。
アタシもアナタの車って、あんまり運転慣れてないし。
ま、いいんじゃない。
おかあさん、すごく喜んでたわ。
でも、言われたし。
たまには顔見せてちょうだい、って。
ちゃんと伝えたからね、いい?
それより、今日の仕事、時間かかるの?
お昼前までくらい?
え〜、昨日はすぐに終わるって言ってたじゃない。
施主さんが遅れてる?
あ〜あ、大変ね。建築デザイナーって。
てかさ、そんな状態で本気で移住するつもりなの?
ここ、朝日町へ。
収入とか大丈夫?
え?なになに?
木工デザイナー?クラフトマン?
ふうん。いいけど。
現実と理想がちゃんと一致するといいわね。
ん?
そうよ、もちろん変わってないわ。
アタシの考えは。
どこにしろ移住なんて、ハ・ン・タ・イだから。
子供のことも考えてよ。
来年から保育園なのよ。
ちょうどいい?
はぁ〜。
オトコの考え方ね、ったく。
まあでも、本気で考えるなら
アタシもいまの仕事考えないとか。
なに?まだ覚えられないの?
アーユルヴェーダよ、アーユルヴェーダ。
インドの伝統医学。
ウチは完全紹介制の高級スパサロンなんだから。
アタシはチーフセラピスト。
結婚してもう4年なのよ。いい加減覚えなさい。
でも、どうするかなあ〜。
朝日町でなにができるんだろ。
って、あたりまえじゃない。
不安しかないわよ。
ま、それも踏まえて、今日はじっくり見ておくわ、朝日町を。
あ、っとゴメン。
もう駐車場着いたから。
切るよ。
あんまり遅くならないでね。
じゃ」
▪️SE/スマホを切る音「ピ!」
イベント用の駐車場は、朝日小学校か・・・
へえ〜、木造で、いい感じ。
まあ、子供を通わせるなら、こういう小学校がいいわねえ。
さてと。
元気にしてるかな。ナズナ。
おかあさん、遊んでくれてるよね。
▪️SE/スマホをかける音「プルルル」
「あ、もしもし。おかあさん?
つむぎです(※名前はタテる)
今日は朝からすみません。
ええ、カイトは仕事です。
終わってからソッコーで朝日に向かうって言ってたけど。
あ、はい。夕方にはこっちを出ます。
夜遅くならないようにしますから。
え?
はあ・・
明日はカイト、代休で仕事休みですけど・・・
泊まり?
そんな・・・大丈夫です。帰ります。
申し訳ないですし・・
え?
そうですか・・・
わかりました。
カイトの来る時間が遅くなるようなら考えます。
はい。ありがとうございます。
いま?
駐車場から歩いてるとこです。
道の駅まで。
なんか、今日、イベントやってるみたいなんで。道の駅で。
あー、見えてきた、見えてきた。
賑やかそうだなあ。
楽しそう。
あさひたかね わくわくフェスタか・・
さっきも言ったけど・・・
え?
いえ、なんでもありません。
え?わ!
ちょっとすごいスケールおっきいかも。
グルメにマルシェに・・・
キッチンカーの数とか、ハンパないですー。
あー、ナズナも連れてきてあげればよかったなあ。
元気にしてますか?ナズナ?
ちゃんとお昼寝しました?
ああ、よかった。
え?
あ、はい。ありがとうございます。
代わってください。
(※しばらく間を開ける)
もしもし。ナズナ?
ママ。
お利口にしてる?
おばあちゃんの言うこと、ようくきくのよ。
ママ?
いまねえ、朝日町、ってとこに来てるの?
あ・さ・ひ・ちょ・う。
うん。名古屋からはずうーっと遠くだよ。
おひるね1回して、おっきするくらい。
今度、パパと一緒に、3人でこようね。
いいとこだよ。
涼しいし。
そうだ。
ナズナ、なにかほしいものある?
お土産買ってくから。
え?
そうねえ・・・ちょっと待って・・・キッチンカーで食べれそうなのは・・・
美女餅入りたこ焼き・・・たこ焼きだ!
あ、でも持って帰るのはムズイかな。
飛騨桃のヨーグルトスムージー・・・聞いたことあるわ。
ヒダモモって、すっごく甘いんだって。
あ、ごめん。これもいま食べるやつ。
あとは・・・
まんま美女餅!たしか、トッポギみたいなお餅か。
でた!タカネコーン入りたこ焼き!
てか、タカネコーン使ったグルメがいっぱいだわ。
タカネコーン。
これはママも聞いたことある。
メロンより甘いトウモロコシ!
ナズナ、トウモロコシ大好きでしょ?
あ、でもいかん。
タカネコーン食べちゃったら、
きっともうフツーのコーンは食べれなくなるし・・・
ん?
っとごめんねー。
持って帰れないものばっかり言って。
大丈夫。ナズナが大好きなもの、ママが見つけてくるから。
お土産楽しみに待っててね。
じゃ、もっかいおばあちゃんに代わって。
あ、もしもし。すみません。
おかあさん、なにか食べたいものとかありますか?
道の駅でお土産で持って帰れそうなもの探してきますから。
え?よもぎだんご。
リョーカイです。
探してみます。
ほかにも?
え?『すな』?
なんですか、それ?
漬物?
へえ〜。わかりました。
ええ。すみません。
カイトから連絡あったら、そっちへかけさせますね。
じゃ、このあともナズナのこと、よろしくお願いします・・」
▪️SE/スマホを切る音「ピ!」
さてと。
グルメコーナーはさくっと見たし、
本体の道の駅へ。
道の駅ひだ朝日村・・・
『朝日村』って、以前は大野郡朝日村だったのね。
アタシ、結構この『村』っていう呼び方、好きなんだなあ。
空気がきれいで自然がいっぱいで、山や川があって子供が遊んでて・・って。
里山とかは、アタシの原風景。
今は、名古屋のど真ん中、スパサロンで働いてるけど。
ホントはこっちの方が自分に合ってる・・・
あれ?
さっきまでアタシ、移住反対って言ったんだよなー。
ま、いいや。
とにかくまずは、道の駅っと。
おお。
元祖飛騨よもぎうどん、よもぎ大福、よもぎ豆腐、よもぎこんにゃく、
よもぎカレー、よもぎ焼酎、よもぎアイス・・・
ってよもぎづくしじゃん。
確かよもぎって、体にめっちゃいいんだよねー。
婦人病とかにも・・
女性の味方、って薬草でしょ。
アタシの友達が薬膳カフェ、やってるから教えてもらったんだ。
よもぎ、って子。
そっかぁ。
朝日って薬草の聖地なのね。
アタシ、高級スパで健康ファーストなことやってるから、惹かれるわー。
でも、もし、ここへ引っ越したら、アタシなにするの?
う〜ん。
薬草を使った『和のアーユルヴェーダ』とか?
って、サロンは?
あ、古民家とか・・・
あるよね、きっと。
リフォームはカイトの専売特許だし。
うわ、なんか想像できちゃうじゃん。
いやいや。待て待て待て。
もうちょっと、ちゃあんとチェックしないと。
道の駅だから、情報あるでしょ、きっと。
ほら。観光のガイドブック、あるじゃん。
(※朝日町の観光ガイドブックを手にとる)
え〜っと、なになに?
飛騨あさひ『枝垂れ桜の里』?
なにそれ?
お、写真がある・・・・・
こ、これは・・・水鏡?
神社の枝垂れ桜が、ライトアップされて水面に映り込んでる。
すごっ。
レベチな美しさ。
青屋神明神社・・・
来年の春か・・そりゃそうだよね。
夏とか秋はどうなの?
夏はキャンプ・川遊び・渓流釣り?
カイトぜーんぶ好きじゃん。
アタシは・・・ゴルフかな。
湿度が低くて過ごしやすい、ってこれ優勝じゃん。
秋は?
きのこ狩り・紅葉狩り。おー。
で、冬は氷点下の森・・や雪!
あ、でも豪雪地帯じゃないから心配ないんだ?
ふうん。
あとは・・・
(※高根町の観光ガイドブックを手にとる)
お隣の高根町?
そうそう。知ってる。
『あゝ野麦峠』でしょ、記録文学の。
読んだわ〜。
すごく刺さった。一気に読んじゃったもん。
いつかカイトに運転させて道の駅 飛騨たかね工房ヘ行ってみようっと。
だけどもう、タカネコーンはないよね?
おかあさんの言ってた健康食品のスナ。気になる〜。
おー、高根って標高1,000mなんだ?
真夏でも25度?
そそられるわぁ。
あ、ちょっと待って。
なにこれ?
飛騨高山蒸溜所?
飛騨初のウィスキー造りか・・・
アタシ、普段は日本酒党だけど、
美味しいウィスキーにも目がないんだよねー。
旧高根小学校?
廃校となった小学校が蒸留所になったんだ・・・
ロマンだなあ。
え?黒板に?
『小学校最後の日』に子どもたちが書いたメッセージが?
ずっと残ってる?
いかん。
こんなん見たらアタシ正気がじゃいられない。
絶対泣くわー。
高根と朝日。朝日と高根。
カイトとアタシにとっては最高のステージかも・・・
▪️SE/スマホの着信音
「もしもし、あ、カイト?
もう向かってる?
え?いま仕事終わったの〜?
ちょっと待ってよ。
じゃあ何時に高山へ着くの?
名古屋発12時48分の特急ひだ?
それで?
高山に15時12分〜?
いいけど、高山からは自力で朝日まで来てね。
だ〜いじょうぶよ。
調べたら高山濃飛バスセンターから、17時10分の朝日線があるから。
待ち時間?
そうねえ。2時間弱あるよね〜。
そしたら高山の市街地でちょ〜っとお買い物してきてもらおうかしら。
ん?
え〜っとねえ。待って。
メモれる?
ってか、通話録音しといて。
まずはー、スキンケア。
オーガニックか敏感肌用の、質のいいトライアルセットを買ってきて。
多分あると思うわ。
高山着いたら駅近のセレクトショップか大きめの薬局で探してみて。
え?
なんでスキンケアかって?
お泊まりセットだから。
そう。泊まり。今日はアタシたち、泊まるの。
おかあさんがゆっくりしてきなさいって。
ナズナ?
さっき電話したとき、横で”おばあちゃんと一緒に寝たい〜”とか言ってたし。
悪いとは思うけどよろしくね〜、って感じ。
アタシはこれから抽選券をゲットしてこなくっちゃ。大抽選会の。
グルメ、マルシェ、ステージの3つのコーナー回ってゲットするんだって。
あ〜、楽しみ〜。
あなたも特急ひだの旅、楽しんでね〜。
▪️SE/電話を切る音
【シーン2/道の駅ひだ朝日村/花火大会】
▪️SE/花火の音(音楽花火)
「たまや〜
って、それはないか。昭和か(笑)
でも花火ホントにきれい。
見てよ、子供たちの顔。
みんな目がキラキラしてる。
あゝナズナにも見せてやりたいなー。
ふう〜。
ねえ、海斗。おつかれ。
今日は無理させてごめんね・・・
って、どの口が言うか、だよねー。
それと、お買い物ありがとう。
よく見つけられたわね。
『MiMC』のコスメなんて。
え?
いつもアタシが使ってるから?
やだ。
ちゃんと見てたんだ。
アタシも買っておいたよ。道の駅ひだ朝日村で。
ほら。
『幻の日本酒・氷中貯蔵 熊の涙 火入れ』。
すごいでしょ。
どんだけすごいかは、あとでゆっくり味わって確認しましょ。
おつまみは、美女餅と季節限定『よもぎ豆腐』。
あっさり美味しい美女餅に、
天然のよもぎがたっぷり入った『よもぎ豆腐』。
早く食べたいでしょ。
お楽しみに・・
泊まるとこ?
とれたわよ〜、この朝日町で。
すっごいオシャなペンション、空いてたの。
花火見終わったらいきましょ。
あ、それから、明日は高根に行きたいな。
行ってみたいとこいっぱいあるんだ。
ん?
移住の話?
そうねえ・・・
正直言って、朝日町って、バスの本数も少ないし、
コンビニもないし、
冬はすっごく寒いらしいし、
オーガニックコスメも高山までいかないとないし・・・」
「まあ、でも・・・
空気とか子供の健康にはめっちゃ良さそうだし、
カイトと一緒に過ごす時間は増えそうだし、
美味しいお酒はあるし・・・」
「ん?結局・・・?」
「オーケーよ」
「ちょっとカイト、カイト。
そんな感動しないでよ。
こんなことでウルウルしないで。
ちょっと・・・
苦しいじゃない・・・
そんなに強く抱きしめたら」
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
『あさひの風』は、
「地方って素晴らしい」
「田舎暮らしって素敵」
と、それだけを描いた物語ではありません。
つむぎは最後まで、朝日町の不便なところもしっかり見ています。
バスの本数が少ない。
コンビニもない。
冬は寒い。
欲しいものがすぐ手に入るとは限らない。
それでも——。
きれいな空気の中で娘を育てること。
夫婦で一緒に過ごす時間が増えること。
自分の仕事と、この土地に根付く薬草を組み合わせられるかもしれないこと。
夫にも、新しい仕事の可能性があること。
「ここに何がないか」だけではなく、
「ここだから何ができるのか」。
そんなふうに考え始めたとき、
つむぎにとって朝日町は「移住候補地」ではなく、
家族3人の未来を想像できる場所へ変わっていったのだと思います。
そして最後の、
「オーケーよ」
たった一言。
移住するか、しないか。
それ以上に、
海斗が思い描いていた未来を、
つむぎも一緒に見てみようと思ったこと。
その小さな心の変化こそが、
『あさひの風』という物語なのかもしれません。
この物語はボイスドラマになっています。
「ヒダテン」で検索して公式チャンネルから聴くほか、Spotify、Apple Podcasts、Amazon Musicなどでもお楽しみいただけます。
文字で読む『あさひの風』と、
声・音・音楽で楽しむ『あさひの風』。
ぜひ両方で、朝日町を吹き抜ける風を感じていただけましたら幸いです。




