星の降る里/久々野編〜久々野と朝日のJK2人は果たして深夜20kmの山道を登っていけるのか?その先に見える風景は?
夏休み、東京から母の故郷・飛騨の久々野へやってきた女子高生・星夜。
忘れてきた充電器を買うため、一人で高山へ向かう普通列車に乗った彼女は、朝日町に暮らす同い年の少女・朝陽と出会います。
星夜が探しているのは、「南の孤独星」と呼ばれる一等星・フォーマルハウト。
ひとりで輝くその星に、自分自身を重ねていた少女は、飛騨で出会った新しい友達とともに、約19km先の「星空ベンチ」を目指します。
星夜の視点から描く、ひと夏の青春物語・前編です。
【ペルソナ】
・星夜=せいや(16歳/CV:坂田月菜)=東京・広尾のマンションに住むJK。夏休みを利用して母の実家・久々野へ遊びにきた星空・星座オタクの若干厨二病気味「みなみのうお座」が見たい
・朝陽=あさひ(16歳/CV:蓬坂えりか)=朝日村で生まれ育ったJK。夏休みに自分の住む民家から鈴蘭高原の「星のベンチ」までナイトウォークを計画中。「伊吹麝香草」を採りにいきたい
・聖夜のママ=(42歳/CV:山﨑るい)=20歳で久々野を出て東京のヘアデザイナーとして働く
【シーン1/高山線で久々野駅】
▪️SE:高山線普通列車の車内音/シートに腰掛ける2人
「やばっ、充電器忘れたかも』
「なに、聖夜?ま〜た忘れ物?」
「ママ、駅にコンビニあるよね?』
「あるわけないでしょ、久々野駅に」
「ええええええ! 充電マジで終わるんだけどー!」
「行く先々でなんかググってばかりいるからでしょ」
「ググってないし!インスタでディグってるだけだし!」
「一緒じゃん」
「一緒じゃない!」
「とにかく、あんたが使ってるような可愛い充電器は、
高山まで戻んないと売ってないから」
「じゃ、ワンチャン行ってくるわ」
「は?ひとりで?」
「あたり前じゃん、うちのこと、いくつだと思ってんの」
「迷子とかなんないでよ」
「だーかーらー、いくつだと思ってんの?」
「16歳と3か月でしょ」
ママがいじわるそうな顔で笑う。
うちは星夜。
漢字で書くと「星」の「夜」。
渋谷区住みの、マジでイケてる女子高生!
夏休みを利用してママの実家・久々野に帰省してきたんだけど・・・
高山着いてから鈍行への乗り換え時間が、2時間半って・・・
ガチでやばくない?
ってか、うちら異世界転生すんの?
やるじゃん、久々野・・・
「星夜、もう久々野着くわよ。準備しなさい。
あら、反対側のホーム、高山行きがもう停まってるわ。
ちょっと。急がないと・・」
「あーいい。いい。
走るのだるいから次でいいわ」
「なに言ってんの。
山手線じゃないんだからね。
これ逃したら、また1時間以上待たないといけないのよ」
「マジ?」
「マジマジ。
だから、扉が開いたら、ダッシュで下りにかけこんで」
結局、うちらが乗ってきた美濃太田行きが久々野に着いたのは3時13分。
下りの高山行きが発車したのは3時14分だった。
誰がこんな時間割組んだんだよ!
っとにもう〜
▪️SE:全力で走っていく足音
【シーン2/高山本線高山行き普通列車】
▪️SE:ディーゼル列車の車内音
「はぁっはぁっはぁっ・・・」
ひっさしぶりの全力疾走。
しかもスーツケースひいてとか、ありえんし。
疲れたわ〜。
お、席あいてんじゃん。
同い年くらいの女の子の横。
ラッキー、座っちゃおっと。
「あの、ここ、座っても大丈夫ですか?」
「あ、はい。
どうぞ。空いてますから」
「ありがとうございます〜。よっこらしょっと」
「うふふ・・・」
久々野から高山までは、たった20分。
池袋から渋谷くらいじゃん。
なのに、1回乗り遅れたら1時間30分待ちってどういうこと〜。
なんてこと考えながら、ふと隣の席を見ると、
窓際の女子が、なにか本を読んでいる。
え・・・それって・・・
「それ、北天の星?スターアトラス?」
「え?」
あ、やば・・・つい心の声が口から出ちゃった・・・
「この本のこと?」
「あ、うん・・・そうそう。
いや、うちも星座とかガチオタだから」
「すご〜い。
スターアトラスなんて言葉、はじめて聞いた」
「星図のことだよ。ひょっとして星とか好き?」
「星は好き。
今日高山へ行くのも星に関係あるんだ」
「え?なに?なに?」
「あ、そのまえに・・私は朝陽。『朝』の『太陽』って書くの。
16歳、高校生よ。朝陽って呼んでね」
「あ〜ごめんなさい。
うちは、星夜。『星』に『夜』って書くんだ。歳はタメだよ。星夜って呼んで」
「星夜・・・。
かっこいい名前。うらやましいなあ」
「なんで?朝陽の方がいけてるし」
「ありがと」
「で、星に関係することって?」
「うん。『星空ベンチ』」
「”星空ベンチ”!?なにそれ!?」
「去年の11月にできたんだ。
鈴蘭高原ってとこにある、『星を見るためだけのベンチ』」
「え?すごぉい!」
「『バスが停まらない停留所』にあるの」
「やだ、なに?面白〜い!」
「でしょ。
その『星空ベンチ』まで、道の駅から歩いていくことを考えてるの。
ナイトウォーク」
「すごっ。
その道の駅から星空ベンチまではどのくらいあるの?」
「20キロ弱かなあ。
上り坂だから5時間くらいはかかる」
「すごすぎる!
でも・・・めっちゃ興味ある!」
「今高山へ向かってるのは、その準備のため」
「どんな準備?」
「山道、夜道を歩くからね。
まずは野生動物対策のアイテム。
熊避けの鈴と爆竹、熊避けスプレー」
「ああ、確かに」
「遠くまで照らすヘッドランプ」
「ヘッドランプ?」
「そ。懐中電灯だと片手が塞がっちゃうでしょ。
行く先と足元を照らす、超強力なライト。
それをゴムバンドで頭に直接巻きつけるの」
「なるほどねー」
「2本バンドだと私みたいなポニーテールや
星夜みたいなツインテールでも髪型崩れにくいから」
「いいねー」
「あとは、簡易的なシュラフと防寒着かな」
「防寒着?高山こんなに暑いのに」
「なに言ってるの。
鈴蘭高原は標高1300メートルよ。
夜の気温は15度以下になるからね」
「そうなんだ。
でも・・・いいなあ・・・」
「え?」
「ねえ、朝陽・・・・うちも一緒に行っちゃだめ?」
「ええ〜っ?」
「うちも、高山にきたらやりたいことがあって」
「なに?」
「見つけたい星があるの」
「星?」
「うん。
フォーマルハウトっていう星」
「フォーマル・・ハウト?」
「夏の終わりの夜遅くから、南の夜空に輝き始める星」
「へえ〜」
「みなみのうお座の一等星だよ。
みなみのうお座って、フォーマルハウト以外はみんな暗い星ばかりなんだ」
「みなみのうお座?初めてきいた。
でもなんでフォーマルハウトが見たいの?」
「あのね・・・フォーマルハウトの別名は、”南の孤独星”。
ひとりだけで輝いてる星」
「ふうん」
「うちみたい」
「どういうこと?」
「うちこう見えて、東京じゃ友だちとか全然いないんだ」
「そうなの・・・?」
「ねえ、朝陽。お願い。
私も『星空ベンチ』へ連れてって!」
「え〜っ!ホントに大丈夫?
途中、コンビニも自販機もないんだよ」
「ヘーキ」
「う〜ん・・・
楽しいことばっかり言っちゃったけど、けっこう危ないよ。
お母さんとか許してくれる?」
「大丈夫。
うちが頼めば、ママ絶対OKだから」
「そっか・・・それなら・・」
とは言ったけど、ママホントに許してくれるかなあ・・・
そのあと、うちと朝陽は、市街地でしっかり買い物をした。
なんか、渋谷でショッピングするより何倍も楽しい。
帰りの列車に乗ったのは、夜7時近く。
夕陽がもう沈みかけていた。
結局、『星空ベンチ』ナイトウォークの日程は、うちの提案で新月の夜。
星が一番きれいに見えるから。
ママは最初大反対してたけど、おばあちゃんが推してくれて、
条件付きでOKになった。
久々野駅に着くと、西の稜線に宵の明星が輝いていた。
【シーン3/聖夜の母の実家/久々野町大西地区】
▪️SE:ヒグラシの声
「じゃ、行ってきま〜す!」
『星空ベンチ』ナイトウォークの日、
うちは待ち合わせの2時間前、午後3時におばあちゃんちを出た。
おばあちゃんちは、久々野町大西。
待ち合わせの道の駅 ひだ朝日村までは8kmくらいあるんだって。
渋谷から品川くらいか。
まあまああるじゃん。
しかもうちの格好は、ギャル寄りのアウトドア?
トップスは、メンズサイズの白いグラフィックTシャツ。
それを、ミントグリーンのナイロン製ショートパンツにタックイン。
ボトムスには、UVカットと吸汗速乾を兼ね備えた、漆黒のコンプレッションレギンス。
下半身をきゅっと引き締めて見せながら、機能性も抜群なんだ。
足元は、あえてたるませた肉厚の白いスポーツソックス。
今ストリートでも大流行しているサロモンのトレッキングスニーカー。
どう?
このまま、原宿や渋谷のストリートにいても違和感ないんじゃない。
「だけど・・・重い!」
背負ったのは、ラベンダーカラーの25リットルバックパック。
かわちい色なのに、中身はもうパンパン。
だって、中身は・・・
手のひらサイズまで圧縮された、超軽量ダウンシュラフ。
サイドのメッシュポケット には、小さな折りたたみ式のアウトドアチェア。
水分補給はピンクの水筒と、ミネラルウォーターが5本。
おばあちゃんが推してる「飛騨の雫」っていうんだって。
北アルプスの雪解け水などを原水としてるみたい。美味しそう。
おばあちゃんは「5本じゃ足りん!」って言ったけど、
これ以上重くなるのはいやだから、うちが押し切った。
ごめんね、おばあちゃん。
▪️SE:カエルの声
すごいなあ。
おばあちゃんちを出てちょっと歩くとカエルの大合唱。
いい感じのASMR。
田んぼのなかをゆっくりと歩いて国道361号へ。
この道、美女街道って言うんだって。
かわいい名前・・・
こっから朝日町までは一本道。
飛騨川に沿って歩くんだよね。
でも、なんか車多いなあ。
おばあちゃんに言われた通り、
うちはバックパックのサイドポケットから、ヘッドライトを取り出す。
ライトを点灯して右側のすみっこを歩く。
でも、すっごい風圧だあ。
もう〜、前髪終わってるじゃん。
▪️SE:飛騨川の清流の音
道は、下りと平坦を繰り返す。
上りはあんまりないから、まあまあラクかな。
でも、ちょっとふくらはぎが張ってるっぽい。
午後4時半を過ぎると、山に囲まれた谷間は、あっという間に夕暮れになる。
日差しが遮られて、急に涼しくなるのはいいけど、ちょい焦り。
「ヤバい、待ち合わせまであと25分!」
「ちょっと早足で行くか」
待ち合わせ5分前。
防災行政無線から切ない音楽が響き渡る。
なんだっけ、この曲?
え〜っと・・・
そう、『ふるさと』だ。
朝日町甲と書かれた交差点を抜けて、橋を渡ると・・・
おー、『道の駅 ひだ朝日村』の大きな看板。
ギリ間に合ったか・・・よかった!
【シーン4/道の駅 ひだ朝日村/ナイトウォーク】
▪️SE:ヒグラシの声
「星夜〜、こっちこっち」
「朝陽、お待たせ」
「ちゃんとお母さん、許してくれた?」
「うん。
その代わり、スマホのGPS共有させられちゃった。
それに、この前買った充電器だけじゃなくて、
ママのでっかい充電池まで持たされてる。重いのに」
「私もおばあちゃんとGPS共有してきたよ。
位置情報アプリでいつでも居場所を共有してる、ほら」
そう言って、朝陽はスマホの画面を見せた。
ダークモードで画面の明るさは最小。
GPS使うとバッテリーの減りが早いもんね。
さすが、わかってる。
「お水は?何本持ってきた?」
「5本。重い」
「道の駅でよもぎのみたらしだんごか五平餅、食べてからいこうか?」
「わ、やった!食前デザートだね」
「ふふ・・そうね」
出発前、うちらは、ふれあい館の前のベンチでお腹を満たす。
午後5時。
道の駅 ひだ朝日村。
建物も駐車場も夕陽がオレンジ色に染めていく。
「よし、いこ!」
「うん!
あ、待って。出発の記念写真」
「じゃ私のスマホで。
これ、充電の持ち、結構いい方だから」
そう言いながら朝日は自撮り棒で2ショットをパシャ。
▪️SE:シャッター音
あごピースでポーズをとる2人。
夕陽に照らされた山が、まるで絵画のようにキレイだった。
「きれいだね〜」
「めっちゃキレイ。加工いらんやつじゃん」
「ここからしばらくは、民家が続くから大丈夫だよ」
「国道を歩くんだよね」
「そ、秋神ダムまでは361号よ。
車はそこそこ多いから気をつけてね」
うちらは国道を東へ。
民家はすぐになくなり、山沿いの道に入っていく。
「ゆっくり。ゆっくりね」
「うん」
「知ってる?この道。別名『ぶり街道』」
「ブリ?なんで?高山って海ないじゃん」
「江戸時代にー、富山で獲れたブリを塩漬けにして信州、つまり長野まで運んだの」
「すご〜い!
なんか、朝陽って歴史と地理の先生みたい」
「いや、地元のことだから知ってて当然でしょ」
「そっか〜。えらいなあ。
うちは渋谷区のことなんてなんも知らんし」
「もう少し歩くとお地蔵さんが見えてくるよ」
国道は秋神川に沿って続いていく。
気がつけば、あたりはすっかり暗くなっていた。
せせらぎの音だけがだんだん大きくなってくる。
「もう少ししたら、秋神ダム」
「ダムがあるんだ?」
「うん。秋は紅葉がすっごく綺麗なんだ〜」
「見たいし」
「ダムのほとりに、あさひふるさとの森って公園があるから
そこで夕ご飯にしよ」
「やった、お腹ぺっこぺこ」
「だんごも五平餅も、完全に消化されちゃったもんね(笑)」
うちらは、秋神ダムのほとりに置かれたベンチで、お弁当を広げる。
「わあ、美味しそう!鶏ちゃんの唐揚げだね」
「なに?鶏ちゃんって」
「いいからいいから食べてみ」
「うん、いっただきま〜す!(ぱくっ)
うわ、うますぎ!ママ、おばあちゃん、ありがとう!」
「ははは。ここまで来たら、もう半分だから」
「まだ半分〜?」
「ううん、もう半分(笑)」
ぶり街道から青い橋を渡ると、いよいよ本格的な峠道。
覚悟はしてたけど、やっぱ結構きつい。
朝陽は鼻歌を歌っている。
体力もメンタルも強いなー。
しばらくしてからうちらはまた出発した。
それからどのくらい歩いただろう。
朝陽が口を開く。
「ここからは西洞の集落を抜けていくよ」
あたりはもう真っ暗闇。
せせらぎの音に少しだけ安心する。
「この先は車もあんまし通らん旧道やからな。
沢がいくつも分かれとるもんで、迷わんよう離れずについてきてね」
やっぱ朝陽ってすごい。
お姉さんみたいだ。
「鈴だけじゃ心配だから、おっきな音で音楽かけようか」
「うん!ボカロとか聴きたい」
「じゃ、私のプレイリストからでもいい?」
そう言って、かけた曲は、うちも推してるボカロP。
静かな森の中に、アップテンポの音楽が響きわたる。
だけど・・もう・・ちょっと・・体力の限界。
うちは思わず道端に座り込んだ。
「ここはもう鈴蘭高原の麓や」
「もうすぐなの?星空ベンチ」
「ああ、あとちょっとや。ほら」
朝陽がスマホの画面を見せてくれた。
現在地と目的地がほぼくっついてる。
ちゃんと拡大してあるから、ほんとにあと少しだ。
暗闇の森にフクロウが鳴いていた。
【エピローグ/鈴蘭高原展望台「星空ベンチ」】
▪️SE:虫の声
「おつかれさん、がんばったねー!」
「着いたぁ〜!
ってか、なにこれ〜!?
このビジュ、すごすぎる〜!!」
「ホント、この傾斜!疲れがぜんぶふっとぶわ〜!」
「こんな・・・こんな・・・
こんな星空みたことない〜!!」
「星に手が届きそう」
そこはもう、言葉で表現するのが無意味なくらい、満天の星。
うちらの元へ星が降ってきていた。
鈴蘭高原『バスが停まらない停留所』っていうおかしな名前の場所。
天空を向いて設置された木製のベンチ。
「フォーマルハウトってどこ?」
うちは黙って南の空を指差した。
数え切れないほどの光の粒がまたたいている。
ゴールした達成感も、19キロを歩き抜いた足の痛みも、
すべてが静寂の中に溶けていく。
うちの夏休みは、降るような星の海の中で輝き始めた。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
前編「久々野編」では、東京から久々野へ帰省した星夜の視点から、朝陽との出会いと、星空ベンチを目指す長い夜の始まりを描きました。
東京では友達がいなかった星夜にとって、朝陽との出会いは、フォーマルハウトを見つけること以上に大きな出来事だったのかもしれません。
久々野の田園風景、美女街道、飛騨の水や郷土料理など、星夜が初めて触れる飛騨の魅力もあわせてお楽しみいただけましたら幸いです。
物語は、朝陽の視点で描かれる後編「朝日編」へと続きます。
この物語はボイスドラマになっています。『ヒダテン』で検索して公式チャンネルから聴くか、Spotify、apple、amazon、YouTubeなどのPodcastで『ヒダテン』と検索してください。
声優の演技や列車の音、川のせせらぎ、虫の声とともに、星夜たちのナイトウォークをぜひ音声でもお楽しみください。




