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第9話 筋肉主義はナンセンス?

(ケイ)が謁見の間で、王と宰相に会っている同時刻。

タコマリウス王国

国境の町アルトリンゼン




ゴオオ━━━━━━━━━━━━ッ


「うわあああ!」

「サラマンダーだぁ、逃げろぉ!!」

「お母さーん、うわあぁん!」

「早く、早く逃げて!」



ドスンッドスンッドスンッ


『グルグルルルルッ』

『グオオーッ!』



燃え盛る炎。

逃げ惑う人々。

崩れ落ちる家屋。

辺境の町はさながら地獄であった。



「何て事だ!」

「あり得ない。こんな事は初めてだぞ!」

「おい、援軍はまだか?このままでは全滅だぞ!」



高台の見張り台、数人の男達が詰めている。

彼らは町の警備隊員で本来は町の危険を早期に発見し、逐一を警備隊本体に伝える業務を行っていたはずである。

今回も町に迫る一頭のサラマンダーを早期発見し、町に伝達して見張りとしての責務を果たしたハズであった。


サラマンダーは火竜下位、数十メートルの大型トカゲに類する姿。

勇者でない一般兵士でも数人がかりなら狩れるモンスターである。


ただ、火を吐くモンスターの為、町に近づく前の対処が重要で数キロメートル先の個体を発見した彼ら見張り台部隊としては、十分に役割を果たしたといえよう。


見張り台からの報告を受けた町の警備部隊は直ちに討伐隊を編成。

総勢30名の部隊で町から数百メートル地点に防衛拠点を設置。

サラマンダーの接近に備えた。

また念のため、王都に援軍の要請をしていたのである。


だが現状、町は火災の最中にあり、人々は無秩序に逃げ惑うばかり。

もはや町は崩壊寸前、壊滅一歩手前の状況に陥っていた。

何故にこのような事態になっているのか。


理由はサラマンダーの数であった。


これ迄のサラマンダー出没件数は極めて稀で、その地域に一頭か二頭が現れるくらいだ。

見張り台部隊は一頭しか発見していないし、討伐作戦に警備隊が他個体を想定する事は無かったのである。


だが実際は違っていた。


見張り台が発見した最初の個体から30分後、タイムラグをおいて新たな土煙が上がっていた。

見張り台からはまだ遠く、彼らが異変に気づいたのは警備隊が最初の個体に対処する防衛拠点の設置を完了した頃。

そして土煙が弱まり事態の確認が出来た時、見張り台部隊は息を飲むしかなかった。


何故なら土煙の正体はサラマンダーの群れだったからである。

その総数10頭以上。


稀にしか現れないサラマンダーの個体。

通常現れても一頭か二頭。

その既成概念が彼らの初動を遅らせた。

最初から《群れる事がある》と分かっていれば、土煙の段階で町に注意喚起していた事だろう。


だが全ては後手に回った。

住民への避難勧告も、避難誘導も今からでは間に合わない。


結局一頭にしか対処出来ない警備隊防衛拠点は難なく突破され、逃げ遅れた住民達が逃げ惑うという事態。

町に突入したサラマンダーの群れは、火炎を撒き散らしながら町を焼き尽くす。

町は直ぐに地獄と化した。

民衆は統制もとれず、避難誘導もままならない。

最早彼らは見ているしかなかった。





ザシュッ

『ギエエーッ!?』


その時である。

一体のサラマンダーが悲鳴をあげて倒れこんだ。

淡い金色の光を纏いし一人の戦士が、そのサラマンダーに止めを刺したのだ。

光の戦士は直ぐ様、次のサラマンダーに臆する事なく斬り込むと、吐き出す炎もものともせず、そのまま二体目の喉に突き立てた。


『グギャギャギャ!!』


一撃だった。

たった一撃で町の警備隊が総出で戦って勝てなかったサラマンダーを、光の戦士は難なく倒して見せたのだ。

まさに英雄的活躍だろう。


その光景を見た他のサラマンダー達。

勝てぬと見て180度反転すると、慌てて町の外に逃げて行く。

それはまるで天敵に遭遇した小動物のよう。

完全にサラマンダー達は敗走状態となった。



「「おおお━っサラマンダーが退いていくぞ!助かったんだぁ?!」」

「「「「「「勇者様、万歳!!」」」」」」



それを見ていた民衆達は一斉に歓喜した。

そして光の戦士を勇者と称えたのだ。

彼こそ、王命を受けて救援にきた正真正銘の勇者。

タコマリウス第一王子その人である。



「皆の者、モンスターの危険は去った。今後も何かあれば、私が真っ先に駆けつけ皆を守ると誓おう。どうか安心して欲しい」


「「「「「第一王子様、万歳」」」」」

「「「「「勇者様に栄光あれ」」」」」





こうして辺境の町アルトリンゼンは王子の英雄的活躍で救われたのであった。



▩▩▩▩▩▩▩▩▩▩▩▩▩▩▩▩▩▩▩▩



◆同日同時刻

タコマリウス王城

謁見の間

ケイ(敬)視点



「は?称号???」

「左様です。キンニクメリーは姫の称号になります」


何ソレ?

一体何の称号なの?


「ふむ。巫女どのは姫の称号に興味があるのかぞい?」

「ほう。今世の巫女は面白いですな」



いやいや興味があるのは称号の内容だから。

称号そのものに興味ないから。



「何?称号の意味が知りたい?宰相、説明してやれだぞい」

「称号キンニクメリー。女性で最優秀な筋肉所持者を称えるもので、タコマリウスで最も筋肉が美しい女性に与えられる名誉称号になります。我が国は勇者国でありますので、より美しい筋肉を持つ事が最良とされておりますから、国の象徴たる王子や姫が最高称号を持つ事は当然と云えるでしょう」



はあ?

キンニクメリーの称号ってそんな事なの?!

だから姫があんな筋肉マッチョの無骨な姿だったのか?

何なんだよ、勇者国って!

女に筋肉なんか求めんなよ!



「因みに男性の称号はキンニクタロウ」

「いや、云わんでいい。聞いてないし」

フッ「いやいやココからが重要です。是非とも聞いて頂きたい。巫女どの」

「ぎゃ!?また瞬間移動した?また後ろから息ふっかけられたぁ!!」



セクハラ?!

宰相が瞬間移動でセクハラしてくるぅ!

何て厄介なセクハラなんだ!!



「聞きます、聞きますから息吹き掛けヤメレ!」

「ああ、これは残念」



こらぁ宰相!

何が残念なんだ!!

ふざけてんのか、セクハラ宰相!



「ふーっ!ふーっ!ふーっ!」

「宰相、巫女どのとのスキンシップを取るのはその辺にしとくだぞい。巫女どの、耳を押さえたまま猫みたいに警戒しとる。あまり警戒されると懐柔が難しくなるぞい」

「ははっ、少々過ぎましたかな」

「少々どころじゃにゃいやい!」

「ははは。では真面目な話しに移りましょうか」

「今までが真面目じゃないって暴露したぁ?!」



何なんだよ、この人達。

本当に一国の王様と宰相なの?



ギョロッ

「では、真面目な話しです。巫女との、第二王子とも結婚して下さい」

「は?」



急に宰相がドラキュラ顔で凄んできたと思ったら、第二王子と結婚しろ?

何なんだよ、この国の結婚観は!

だいたい第二王子いたんだ?

見たこともないぞ。



「出来れば第一王子とは離婚して頂きたいところですが結婚して直ぐに離婚は何かと体裁が悪い。半年程度の時間は必要でしょう。勿論、巫女どのが逆ハーレムをお望みなら後宮に何人でも」

「そんな訳あるかーい?!」



マジ何なんだよ、話しが見えねーっ!?

確かに王子を選んだのはオレだけども、結婚させたのはアンタらじゃないか!

そもそも勝手にくっつけた相手を離婚させるって、オレや王子の気持ちは考慮無しかよ?

この人達、もう嫌ーっ!



「第二王子はキンニクタロウの称号を持つ

次期王配候補です。第二王子と結ばれれば将来を約束されたも同義ですぞ」

「そうじゃそうじゃ。あの不出来な第一王子よりずっと優良物件じゃぞい。絶対に損はせんぞい」



いやいや損得勘定で結婚って、まあそんな人もいるだろうけど、オレは断じて違うからな?

基本、男は《お断り》だからな!

おまけにキンニクタロウの称号持ちって事は筋肉マッチョって事なんだろ?

悪いけどオレ、男も女も筋肉マッチョは願い下げだからな!

朝ごはん、プロテインは嫌だからな!



「それより第一王子が不出来って、まさか」

「その通りです。我が国は勇者国。王は優秀な筋肉を持っていなければなりません」

「その通りじゃぞい。あやつは失敗作じゃ。齢20になるのに未だに筋肉が付かん。筋肉無き者は勇者として認めんのじゃぞい」



はあああ!?

何、その筋肉至上主義!

あまりにナンセンスな話しなんだけど?!


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