第7話 むかしむかし
━━━━━━むかしむかし━━━━━━━
タコマリウス王国を含む異世界リアース。
一つの大陸と広大な海によって成り立っていたその大陸には、多くの人種が争いもなく平和に暮らしておりました。
そんな平和な世界にある時、異界の門が開きました。
異界の門から現れたのは魔族と呼ばれる異形の者達と沢山の恐ろしいモンスター。
平和だったリアースは、たちまち阿鼻叫喚の坩堝と化し、戦う力を持たぬ人々は逃げ惑うしかありません。
こうして始まった魔族による進攻は全ての国家、全ての人種に及び、人々は魔族とモンスターの脅威に恐怖しました。
そしてそれを統率するのは魔王と呼ばれる魔族達の王。
魔王は大陸中を蹂躙し、降伏した人々に一つの提案をしました。
それは《名を明かす事》。
そう、魔王は人々の名を求めたのです。
『名を明かせば生きる事を許す。我が奴隷となり生きるがいい』
すでに追い詰められた人々は魔王の甘寧に直ぐに応じてしまいました。
他に選択肢が無かったのかも知れません。
だがそれは狡猾な魔王の嘘だったのです。
魔王の前で人々が名前を明かすと、明かした人々がバタバタと倒れていきました。
倒れた人々は皆絶命していたのです。
《魔王は魂を喰らう化け物》
名を明かすと魔王に魂を取られてしまうのでした。
どちらにせよ魔王は人々を生かすつもりはなかったのです。
これを知った生き残りの人々は逃げるしかありません。
逃げて逃げて逃げて。
何処までも何処までも逃げるしかなかったのです。
この進攻により大陸の半数の人々は永遠に失われ、残った人々も死は免れないと思われました。
『私は神が使わした勇者である。悪辣な魔王よ。今こそ悪しき命に終止符を!』
全ての人々がその命を諦めた時、魔王の前に立ちはだかった者がおりました。
黄金の光に包まれた戦士。
彼は自身を勇者と名乗り、一人魔王の軍勢に挑みかかったのです。
それは神憑り的な戦いでした。
彼は、数万の魔王の軍勢をものともせず、魔王めがけ真っ直ぐに斬り込んでいきました。
そこから始まった魔族と勇者の戦いは苛烈を極め閃光と衝撃が辺りを包み込みました。
「無駄だ勇者。お前の剣は我に届かぬ」
しかしながら多勢に無勢。
いかに強き勇者であっても、魔王を守る軍勢を突破するのは容易ではありませんでした。
やがて輝きの消えた勇者はその足を止めてしまいました。
遂に力尽きたのです。
最早、勇者と人々の運命は風前の灯でした。
人々は祈りました。
神に勇者の勝利を祈りました。
全ての生き残りの人々が一斉に祈りを上げた時、その祈りに応えるが如く天より一人の巫女が舞い降りました。
そして勇者に勝利の接吻をしたのです。
するとどうでしょう。
勇者は再び輝きを取り戻したではありませんか。その接吻は勇者に神の力を与えるものだったのです。
力を取り戻した勇者の攻撃は凄まじく、数万もいた魔王の軍勢はあっという間に壊滅しました。
しかし魔王はギリギリで逃げ出し、異界の門に隠れてしまいました。
巫女は神の力を使い、その門を魔王ごと封印しました。
こうして世界に平和が戻りました。
人々は歓喜し勇者と巫女を称えました。
しかしまだ世界にはモンスターがおり、魔王軍の残党も残っています。
そうした憂いが残る中、勇者は次のような言葉を残したとされています。
『我が力は神の力。そして、それをもたらしたのは我が最愛の巫女である。私と巫女、二人の愛が強ければ強いほどより強い力を産む。私はここに宣言する。私は最愛の巫女と結婚し、より強き契りを結び世界の憂いを取り除くと!』
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◆それから時が過ぎ500年後の現在。
タコマリウス王国
謁見の間
ケイ(敬)視点
「そして当時の勇者と巫女が建国した国がこの《勇者国》タコマリウス王国なのです」
流暢に唄うように語るクラーケン宰相。
因みにクラーケンは名前ではなく、家紋なんだそうだ。貴族は家の名を名乗り王家は国家名を名乗る。
やはり名前では無かったらしい。
それで、いわゆる《建国神話》を聞かされてるまっ最中のオレ、です。
なんだよ?
王子や着ぐるみメイドが勿体振るから、どんな秘密があるのかって心配してたら、宰相が全部語ってくれちゃったじゃん。
着ぐるみメイドと話していたら宰相から呼び出しがあり、朝飯後に謁見の間で面談という運びになった。
謁見の間にはクラーケン宰相とヒゲ長王様が座して待っていて何故か王子が居なかった。
それで、王子は?って聞いたら『やはり片時も離れたくはないですか。巫女さまは少し王子にタンパクかと思い心配していましたが存外杞憂だったようです』などと言われ、大きな勘違いだと反論したかったが、逃げ出せなくなるよりはとスマイルでごまかした。
現在ココ。
「なので名前を教えるのは家族か、親しい間柄の者以外、伝えてならぬという伝承があるのです。これは我が国も含めこの大陸共通の禁忌。目上の者であれ身分上位の者が強制的に名を明かす事を求めた場合は禁忌を犯す犯罪者となり魔族と見なされます。貴女には早くに伝えておかねばならないと思い、この場を設けた次第です」
なんだって?
おい、ヤバいんじゃないか?
だってオレ、王子が教えて欲しいって言われてもう伝えてるじゃん???
目上の人だったじゃん?!
身分上位の王子じゃん!
あ、親しい間柄ならいいのか。
まだ王子とは昨日召喚された時に会って、強制結婚と一晩共に寝て朝には居なかった人。
たいして喋っていないし、時間にして24時間会ったかどうかの相手。
あれ?
これって親しいって事でいいの???
「巫女どの、聞いておりますかな?」
「ひゃい?!」
ビックリしたあ。
宰相がいつの間にか、背後に回って耳元で囁くように声かけんだもん。
肩跳ねちゃったじゃんか?!
只でさえ青白い不健康そうなドラキュラ顔なんだから背後からの声掛けはヤメレ!!
それより今、瞬間移動しただろ?
したよな?!
音しなかったぞ!
人間じゃないだろ、お前!
怖いんだけど?!
「ふっ」
すーっ
ふって、鼻で笑って王様の右隣に戻った?!
いや宰相、何がしたいん??!
足音しないんかい!
「巫女どの。宰相は心配性でのぅ。貴女が王子を本当に愛するか心配しとるんだよ。勿論、わしも心配なんじゃぞい」
王様、長いヒゲを大事そうに撫で撫でしてオレに話し掛けてきた。
王様、以外にチビですね?
今のオレとドングリですよ。
随分大事なおヒゲですね?
床まで伸びて手入れはさぞ大変でしょう。
オレの髪の毛も近いものがあります。
二人揃ってバッサリと切っちゃいますかね?
お互いにその方が
「巫女どの」
「ひゃひゃい!?」
また宰相が背後から耳元に息をかけて話してきたぁ!???
間違いなく瞬間移動したよな!?
今消えるの見てたぞ!
お化けなんだけど!
怖すぎなんだけど!
「ちゃんと王子と心通わせて下さい。それが王子が真の勇者に近づく早道なのです。その為の結婚式ですからね」
「ひゃひゃい!」
顔近いって!?
ドラキュラ顔なんだって!




