第27話
◆北世界神教会併設王立孤児院の裏庭
ケイ(敬)視点
不思議筋肉の話しに一瞬フリーズしたオレ。
そこで我に返り、彼女の《称号剥奪》の話しに注目する。
称号剥奪って、キンニクメリー称号の事だよな?
「称号の剥奪ってどうして?」
「気になるのはソコ?あのね、この国は《勇者基準》というものがあって、その基準がほとんど《筋肉》の外観に集中しているの。つまり筋肉が消失した私は勇者候補から外れた。同時にキンニクメリー称号も剥奪という訳」
「ああ、そういう……」
何なんだよ、その勇者基準って!?
見かけの筋肉が勇者の基準って、ほとんどボディービル基準の間違いじゃないか?
「それで養成所を追い出された私は、孤児院に戻る事が出来た。国から支給される勇者手当や将来の勇者年金は失ったけどね。それでも今は勇者候補から外れた事に感謝してる。だって傭兵をする事なく大好きな子供達と共に暮らせるんだからね」
「ラーラさん………」
そう語るラーラさんは迷いも無い顔でオレを見る。
これは本心なんだろう。
例え勇者手当が出ず、将来の勇者年金を失ってもって!?
手当に年金だ?
随分と現実的なんだな、勇者って!
なるほど。
意外とあの王様考えてるんだな?
それとも先代王からか。
勇者手当に勇者年金って幾らぐらい貰えるか知らんが、命掛けて傭兵業するんだ。
一般の職業より遥かに高額なサラリーなんだろう。
そうして国として勇者候補が集まるよう、勇者候補が離れぬよう、様々に苦心しているのかも知れない。
つまり傭兵業はタコマリウス王国の基幹産業となっているというわけだ。
まあ冒険者って職業よりはずっといい。
何しろラノベの冒険者は日雇い業にすぎないからな。
雇用保険も年金もない、正にその日暮らし。
手当があって年金があるなら勇者傭兵は職業軍人みたいなもんだ。
「そして力は変わらない。筋肉の見た目が無くとも私の力は勇者候補の時のままなのよ」
うーん、すでに筋肉摩訶不思議だな。
つまり見た目と違い、ラーラさんには筋肉力がそのままあるって事なんだろか。
とりあえず納得しておこう。
これ以上は頭が痛くなる。
はて?
なにやら重要な事に引っ掛かりを覚えるんだが??
ま、いいか。
シーンッ
「………急に静かだわ」
「終わった、のか?」
「「「「「「「「…………」」」」」」」」
揺れが止んだ。
でも日が落ちて辺りは真っ暗。
街灯も家の明かりも見えず、人々の声も聞こえなくなっていた。
恐らく皆、息を呑んで様子を伺っているのだろう。
━━━━━━地震災害の可能性━━━━━━
本来は自然現象。
だけど過去に一度も起きてない王国での地震は地球の常識を覆すものだ。
プレートテクトニクスなど、科学的裏付けが取れれば仕方ないで済む話しだが、どうにもキナ臭い。
揺れがかなりの間、断続的に続いたのも解せない。
だから色々と疑いたくなるのも事実。
そしてココは魔法が存在する世界。
それを根拠に魔族的な災害を疑いたくなる。
「地面が揺れるなんて恐ろしい。私も子供達も生まれて初めての体験だわ。いえ、今この王都にいる全ての民も初めてだったはずよ」
「オレのいた所ではよく起きていたんだ。当たり前ではあったけど、時より起きた大きな地震は多くの人命を奪っていった」
「やはり恐ろしいものなのね。だけどミコ。アナタ、この国の人間じゃなかったわね。それどころか、この大陸の人間じゃない」
「………………」
「私の知る限り、この大陸で大地が揺れたなんて話、これ迄聞いた事がないわ」
「………………」
ラーラさんの話しに、集まってる子供達がオレを一斉に見る。
この世界は月が三つもあり明るい夜空を作り出す。
だから子供達の不安な顔もハッキリ見えて、未だ怯えている事がよく分かる。
中世的文明レベルで家庭の明かりはランプが主体。
それがポツリポツリと下町に灯っていく。
災害級の地震?が起きても人々が営みを止める事は出来ない。
明日になれば街の惨状がハッキリしてくるのだろう。
「ラーラさん」
「ふ、まあいいわ。人には事情というものがあるもの。ミコが話したくない内は、聞かないわよ」
「……………」
別に話せない事ではないと思う。
バレても城に戻されるだけだしな。
ただもう少し、皆とはこのままの関係でいたい、って思ったんだ。
クイッ
ミーナちゃんが足元にきて、オレのワンピースの裾をひっばり心配そうに見上げている。
オレは彼女を抱き上げ、揺れ動く下町のランプの明かりを二人で見つめた。
緩やかな風が吹き夜風がやや肌寒い。
それでも気になる寒さでなく、朝まで皆で固まっていれば野宿も何とかなるだろう。
明日は壊れた孤児院の再建を城に頼みに向かおう。
城に戻るのは嫌だけど、オレに出来るのはそれくらいだ。




