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小さな勇者リドル

幕間なので短めです(°Д°)クワッ!!


前話のあらすじ:


アリス「魔神化〜〜ゼェ〜〜ット!!」


テレス「…………」


アリス「……せめてツッコンで欲しいのじゃ……」

 

 僕が住むジャパーネ皇国にはかつて、不死山と呼ばれるそれはそれは美しい山があったらしい。

 春には花で溢れ、夏は草木で蒼く染まる。秋にはそれらが真っ赤に紅葉し、冬は真っ白な色に塗り替えられる。

 四季折々の景観が美しい、そんな山だったって母さんからは良く聞くよ。


 そして、その不死山のあった場所を望む小高い丘の上に小さな村がある。


 僕の名前は【リドル】。赤い髪と平凡な顔を持つ、小高い丘の上の村に住む13歳の男だよ。

 男だと言ったのは、まだ声変わりをしてなくて、知らない人には女の子に間違われたりするからだ。

 だけど、きっともうすぐ、もう間もなく声変わりするだろうから、それまでは女の子に間違われても我慢する。

 なんたって、男だからね、僕は。


 そんな僕は今、母さんに頼まれたお使いを終えて家に帰る所だ。

 うん、そんな説明をしてる間に家に着いたよ。



「母さん、頼まれてた買い物して来たよ。ここに置いとくね!」



 家の中に入った僕は、機織(はたお)り機の前で仕事をする母さんを横目に、母さんの傍にある机の上に頼まれて買ってきた糸を置く。

 家の中には母さんが使う機織り機の、シュルル、シュッ、トントンという音が響いていた。



「ありがとう、リドル。また今度頼むから、それまでは好きな事しててもいいわよ」


「うん、それじゃ行ってくるね!」



 お使いを終えた僕は母さんからの許可を得て再び家を出る。

 向かうのは村外れにあるちょっとした広場だ。

 その広場で、僕は今日も友達と待ち合わせをしている。

 もちろん、遊ぶ為の待ち合わせだよ。


 広場に着くまでは少し暇だから、それまで僕の家の事を話すね。


 まず、僕は母さんと二人で暮らしてる。

 父さんは冒険者をしていたらしいんだけど、僕が小さい頃に死んだんだって。

 話でしか聞かないからよく分かんないけど、父さんは冒険者としてかなり強かったみたいだよ?


 父さんの事はそれくらいにして、今度は母さんの話をするね。


 家の扉を開けてすぐ、普段から母さんはそこにあるちょっとした土間で仕事をしている。

 母さんの仕事はジャパーネ皇国に住む人は必ず身に付ける着物の為の織物を織る仕事だ。

 綺麗なんだよ? 母さんが織る織物で作った着物は。

 色んな模様があってさ、花や川、それに自然の風景なんかも織物に表現するんだ。

 凄いよね、母さんって。僕の自慢の母さんだよ。


 ちなみに、僕が母さんに頼まれて買ってきた糸は、虫の繭から取れる細い糸を束ねて(よじ)って造られる高級な糸なんだ。

 ある程度の長さで丸めて糸玉にして売られてるんだけど、この糸はその糸玉一個で何と一万ゼルもするんだ。

 一万ゼルはジャパーネ皇国に住む一般家庭が余裕を持って一ヶ月間生活出来る程の大金だよ。

 そんな高級な糸を使って造る母さんの織物を使用した着物は、ジャパーネ皇国一の着物として有名なんだ。模様も綺麗だしね。


 そんな母さんを親に持つ僕は、自分で言うのもアレだけど、村一番の悪ガキだったりする。

 母さんにお使いを頼まれた時以外は棒切れを振り回し、冒険者の真似をして悪友連中と遊んでいるしね。

 そんな僕の姿から、知らない人には貧しい暮らしをしてると思われがちだけど、村人からはジャパーネ皇国を代表する程の金持ちのボンボン息子として腫れ物を扱う様に敬われていたりする。


 家の事は以上かな。

 ……まだ少し広場まであるから、今度は村の事を説明するよ。


 僕が住むこの村の名前は【ゲバン】と言って、かつての不死山からほど近い場所に造られたわりと新しい村なんだ。

 その不死山なんだけど、僕が2歳か3歳の頃に大爆発を起こして無くなったらしい。

 今では不死山の跡地に大きな湖が出来ていて、その鏡の様な湖面に映る景色が美しいって事で、不死山があった頃よりもゲバン村は観光客で賑わっていたりする。

 何故かと言えば、小高い丘の上に造られたゲバン村からはその景色が一望出来るんだ。

 つまり、今のゲバン村は観光客の為にある村だって言っても過言ではないね。


 ま、ゲバン村が人気なのはそれだけじゃないんだけどね。

 実はこの村、温泉が湧くんだ。

 たぶんだけど、温泉が湧くのは不死山って山があった時の名残りじゃないかな?

 何でもいいけど、温泉が湧くっていうのはお風呂好きな僕にはありがたい話さ。


 あ、ようやく村外れの広場に着いたよ。

 うん、友達はもう来てるみたいだね。

 いつも思うんだけど、僕の家はこの広場とは対角線で反対方向だし、小さな村って言っても結構遠いんだから、広場は村の真ん中辺りに造って欲しかったよ。

 ……まぁ文句を言っても仕方ないけどね。広場はここしか無いんだし。



「ねぇ、リドル。今日はどっちをやるの? 勇者ごっこ? それとも冒険者ごっこ? あたし……勇者ごっこがいい! 勇者ごっこなら、あたしは聖女役ね!」



 村外れの広場に着いた僕にさっそく話し掛けて来たのは、桃色の髪の毛を肩で切り揃えたベシャルっていう女の子だ。

 僕が母さんに頼まれて糸を買いに行く商店の一人娘なんだ。

 ベシャルの特徴だけど、一言で言えばおてんば娘、だね。

 見た目はとっても可愛い女の子なのに、走り回るのが好きって言うんだから、僕がおてんば娘って言うのも理解出来るはず。


 そんなベシャルへと、僕は応える。



「ホント、【ベシャル】は勇者ごっこが好きだよな」


「……いいじゃない、別に。それを言うならリドルだって! 勇者が好き過ぎて、ただの棒切れに『聖剣エクスネイト』って名前付けてるのあたし知ってるのよ?」


「うぐ!? ど、どうしてそれを!?」


「へへーん! 聖女のあたしには勇者リドルの事なんてお見通しなんだから!」


「……分かったよ。今日はベシャルの言う事聞いて勇者ごっこにするよ。それで良いだろ、【バドライ】も」



 結局、勇者ごっこに決まってしまった。

 今日は冒険者の気分だったんだけどね。

 ほら、商店での買い物って、何だか冒険者っぽくない?

 え?

 そんな気がするの僕だけ?

 そ、そうかなぁ。そんなはずないんだけどなぁ。



「俺はどっちでも構わないぜ。どっちをやるにしても俺は戦士だしな」


「だって、バドライって戦士って顔してるじゃない。しかも、あたしみたいな可愛い女の子を無理やり自分のものにしそうな、悪い戦士みたいな顔」


「そうそう! んで、『俺様のものになりやがれ! じゃないと、お前の家族の命はねぇぞ!』なんて言うんだよな! ……って、おい! 俺のイメージ酷くねぇか!?」



 ベシャルのボケにノリツッコミをかましたのは、黄色に近い茶髪を丸刈りにしているバドライだ。

 村にいる子供の中でも一番の体格を誇る奴だね。

 顔はベシャルの言う通りで、ジャガイモ顔とか悪人顔とか言われて良く僕たちにイジられている。

 根は善人で良い奴なんだけどね。……って、ノリツッコミでそれは分かるか。



「それじゃあ、今日は魔王じゃなくて、不死山が爆発した原因をあたし達勇者パーティが調査するって設定にしようよ!」


「俺のイジりは終わりか!? 切なすぎだろ、俺!? ……俺はどんな設定でも戦士だからオッケーだぜ。リドルも、だろ?」


「もちろん、僕は勇者役で決まりだ!」



 ベシャルとバドライに話を振られた僕は、もちろん勇者役で確定だ。

 僕が何故勇者に拘るかと言うと、それは……カッコ良いからだ!

 二千年前に【魔王マモン】を倒したって言う伝説の勇者アドレアだって赤い髪だったって話だしさ、僕も赤い髪なんだから、もしかしたら僕はその勇者アドレアの生まれ変わりかもしれないだろ?

 生まれ変わりはただのこじつけかもしれないけど、とにかく僕は勇者が好きなんだ。



「これはこれは小さな勇者様、初めまして。そちらは小さな聖女様ですな? で、こちらが小さな戦士様。私の名はテレスと申します。この度、このゲバン村に越して来ましたので、お嬢様であるアリス様共々よろしくお願い致します」



 僕たちが勇者ごっこを始めようとした矢先、そんな僕たちに話し掛けてくる老紳士がいた。

 灰色の髪を七三に分けていて、片眼鏡(モノクル)を右目に掛けている。あ、口髭も灰色だった。

 服装は……うん、執事って感じの服を身に纏ってるね。

 そんな老紳士は僕たちが子供って事も気にせずに、目上の者を敬うかの様に挨拶してくれたんだ。



「えっとぉ、テレスさん、でいいのかな? あたしはベシャルっていうのよ、よろしくね。それで、テレスさんはこの村に越して来たって言ったけど、この村で新しい家なんて最近は造ってないよ? それにぃ、この村は観光地として有名だから、そう簡単に住めないはずなんだけど……」


「そうだぜ、おっさん。あ、俺の名はバドライってんだ、よろしくな! で、ベシャルの続きだけどよぉ、どこに引っ越して来たんだよ? 家がねぇんじゃ住むとこねぇぜ?」



 テレスという老紳士にそう話すベシャルとバドライ。

 確かにそうだ。このゲバン村は入村審査が厳しくて、何度も足を運んだ上でたくさんのお金を払った人の内の僅か一握りだけが住む事を許された村なんだ。

 そしてゲバン村は観光地だけに観光客からの見返りが大きい事もあって、ジャパーネ皇国に住む人にとっては何としても住みたい村だとも言えるね。

 現に、バドライの家は小さな民宿を営んでるんだけど、それでもかなりの収入があるらしい。

 この村に住む人にとっては、観光地様々なんだろうね。



「私共の住む場所が無い? ほっほっほ、それは異な事を仰いますな。この度越して来たという事は、既にこの村に住んでいるという事でございます。現に、ほら、あそこをご覧下さい。ありますでしょう? 私とアリス様の住む館が」



 ベシャルとバドライの質問に、広場の隅、ゲバン村を囲う壁際を指差しながら答えるテレスさん。

 テレスさんの指差す先には、木造建築がほとんどのジャパーネ皇国ではとても珍しい煉瓦造りの大きな洋館があった。



「あれ? あんな場所に家なんてあったっけ? リドルは知ってた? ……って聞いてもどうせ反対方向に住んでるから知らないわよね。……バドライは知ってた?」


「失礼な事を言うね、ベシャル。……確かに僕は知らないけどさ」


「だろうな。リドルは知らなくて当然さ。勇者は無理だとしても、これで冒険者を目指してるってんだからすげぇよな。()()()()()()()() なぁ、テレスさん?」



 僕はともかく、ベシャルも知らないって言ってたのに、知ってると答えるバドライ。

 しかも、何やらテレスさんとも親しげに話している。



「…………。そうよ、リドル。確かにあそこには洋館が建ってたわ! ()()()()()()()()



 バドライに続いて、ベシャルもテレスさんに親しげに応える。


 あれ?

 どうしたんだろう、二人とも。

 僕たちはさっき初めてテレスさんと会ったはずなのに、二人はさも知り合いかの様に話してる。

 何かがおかしい気がする。


 テレスさんはベシャルに相づちを打った後、何かが変だと考える僕に向けて口を開く。

 その際、僕とテレスさんの視線が交わった。


 ──え?

 どうして僕はテレスさんと初めて会ったって思ったんだろう?

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()



「ええ、そうですとも、ベシャル様。そちらの小さな勇者様はリドル様と言いましたね。リドル様もご存知だったはずですよ?」


「そうだよね、テレスさん。それで、アリスちゃんの様子はどうなの?」


「ええ、順調ですよ、リドル様。ご心配いただき、ありがとうございます」



 ()()()

 テレスさんとアリスちゃんは()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 でもアリスちゃんは体が弱くて、ずっと洋館の中で寝たきりなんだよな。


 確かアリスちゃんは外国の資産家の一人娘で、両親が魔物に襲われて亡くなり、そのショックで寝たきりになったって聞いた……気がする。

 で、なぜジャパーネ皇国に住居を移したかと言うと、両親の思い出が残る生家だと、アリスちゃんが目覚めたとしても再び寝込んでしまう恐れがあるから、遠い国から遥々海を渡って引っ越して来たのだとか。


 テレスさんは……そうだった、アリスちゃんの両親に仕えていた執事さんだったね。

 執事さんと言えどもお金で雇われていたはずなのに、そのお金を貰っていたアリスちゃんの両親が亡くなった後も娘であるアリスちゃんの面倒を見るとか、テレスさんは正に執事の鑑だよね。



「そうだ! あたし達も暇してたし、これからアリスちゃんのお見舞いに行かない? うん、それがいいわ! そうしましょうよ!」



 テレスさんとアリスちゃんについて考えていた僕は、ベシャルのその言葉で我に返った。

 何やら頭がボーッとするけど、うん、アリスちゃんのお見舞いには賛成だね。



「そうだね、ベシャル。勇者ごっこはいつでも出来るし、アリスちゃんのお見舞いに行こう。僕たちがお見舞いに行けば、もしかしたらアリスちゃんも目を覚ますかもしれないしね。そうしたらアリスちゃんも入れて、みんなで勇者ごっこをやろうよ!」


「俺もお見舞いに賛成〜ッ! ほら、早く行こうぜ!」


「ほっほっほ、ありがとうございます、皆様。アリス様もきっとお喜びですな」



 こうして僕たちは村外れの広場での勇者ごっこをやめ、アリスちゃんとテレスさんが住む洋館へとアリスちゃんのお見舞いに行く事になった。

 早く良くならないかな、アリスちゃん。

 そうしたらアリスちゃんにはどんな役をやってもらおうかな?

 アリスちゃんの髪色は…………?

 あれ?

 アリスちゃんの髪色ってどんなだっけ?


 ま、いっか。

 とにかく、早く良くなってね、アリスちゃん!

お読み下さりありがとうございます!(´▽`)

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