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アリスとテレスの珍道中〜骨から始まる復讐譚〜  作者: 桜華
第一章 ジャパーネ皇国の冒険者
13/16

アリス、産まれたての子鹿並

前話のあらすじ:


テレス「アリス様! アリス様!? …………返事がありません。ただの屍の様ですな」


アリス「ちょっと待てい! わし、前回は出とらんぞ!?」

 

 あれ?

 わし、どうしたんじゃろうか。

 うむ、目を開けば見知らぬ天井が見えおる。


 天井はともあれ、この状況になっておる経緯をしばし考えてみるとするのじゃ。


 …………。


 うむ、分からんわい!


 わしは確か…………そうじゃ、〈魔神化〉を試したんじゃったか、わしは。


 しかしアレはヤバかったのじゃ。

 いくらわしが神経を抉る激痛に慣れているとは言え、アレは反則じゃろう!

 神経を抉る激痛に加えて、全身の肉という肉を千切れそうな程に(つね)られた痛みじゃぞ!?

 わしみたいな()()()女の子には耐えられる訳なかろう!


 …………。


 ま、まぁそれはさておき、いったいここはどこじゃ?

 わしがおったのは【奈落】ダンジョンの最奥にあるケイオスの間じゃったはず。

 いくらわしが魔神化したとは言え、あの広大な広さを誇る【奈落】ダンジョンが壊れるなんて事はないはずじゃ。

 じゃからこそ、わしはあのケイオスの間で目覚めたと思うたのじゃ。

 それなのに何故かベッドの上でわしは横になっておる。


 ふむ、所でベッドとは何ぞや?


 おお、そうじゃった!

 今わしが横になっとるふかふかの寝床の事じゃな!


 しかし、なんでわしはベッドとか言う寝床で横になっておるのじゃ?

 まったく訳が分からんわい。


 …………。


 まさか、わし……また何年も眠ってたのじゃろうか?


 じゃとしたら、わしはなんという事をしでかしてしまったのじゃ!

 何年も眠ってたっちゅう事はつまり、テレスめをわしはあの神殿に閉じ込めっぱなしっちゅう事じゃ。



「神殿に閉じ込めてスマン、テレスや! …………。……うむ、取り乱したわい。ここで謝っても伝わるはずもないのじゃし、まずは本当に何年も寝てたかを調べるのが先じゃな。どれ──」



 わしはステイタスを脳内に浮かべてみる。


 ♦♦♦♦♦


 名前:アリス

 性別:女

 年齢:262歳←new

 種族:魔神皇

 状態:祝福(神)

 魔神気:喰らえば喰らうだけ無限に増える

 魔神気量:0DP←new

 魔力:魔神気からの変換

 マナ:ゴブリンメイジと同等←new

 強度:産まれたての子鹿並←new


 権能:【冥獄】【天照(封)】【兇嵐(封)】【月輪(封)】【劫焰(封)】【大地(封)】【武神(封)】【神喰】【混沌】


 魔法:冥焉魔法 生命魔法 黒魔法 付与魔法 聖魔法 錬金魔法 輝煌魔法(封) 颶風魔法(封) 皇水魔法(封) 闇月魔法(封) 赫焰魔法(封) 崩土魔法(封) 時空魔法


 技能:真贋一刀流剣術 アドレア式戦闘術 雷華流水拳 盾無双 鍵開け 罠技術 隠形術 暗殺術 仙流槍術 杖術 棒術 短剣術 身体強化 武神技(封) 悪食 食奪 食強化


 異能:魔神眼 三種の魔神器 魔神化 眷属作成(1/9)


 ♦♦♦♦♦


 ……やはり、か。

 うむ、何となくそうじゃなかろうかとは思うとった。



「──何でじゃあ!? 何年も眠っとったのは分かる! 分かるのじゃが、何故に魔神気量がゼロなのじゃ!?」



 しかも、マナは『ゴブリンメイジと同等』となっておるし、強度も『産まれたての子鹿並』ときておる。



「262歳っちゅう事は、わしは10年間寝ておった訳か……! ならば、軒並み弱体化しとるのはそのせいじゃとでも言うのか!? それはあんまりじゃあ〜ッ!!」



 つまり、骨ばかりを喰らったあの時間は無駄じゃったという事か……!


 その事に気付き、ベッドの上で落ち込むわし。

 わざわざ両手両膝を寝床に着き、頭はガックリと力なく項垂れる姿勢をとる。

 強度が産まれたての子鹿並となった事が影響しておるのか、その姿勢でさえ手足がプルプルと震えておった。


 ……どうしてこうなったのじゃ?



「うむ、過ぎた事をいつまでも悔やんでても仕方あるまい! それに、じゃ。喰えばまた増えるのじゃから、まずは喰らう相手を探すべきじゃな」



 しばらくその体勢で落ち込んでおったが、そこはわしじゃ。実にあっさりと気持ちを切り替える事に成功したわい。



 ──コンコン



 するとその時、わしがおる部屋の扉をノックする音が聞こえたのじゃ。



 ──ガチャ



「入りますよ、アリス様。────ッ!! アリス様! 遂にお目覚めになられたのですな!」



 わしが返事をする前に扉は開き、そしてその開いた扉からテレスが入って来おった。

 扉を閉めずに足早でわしへと近付くテレス。

 動く乾燥ミイラ……じゃなく、リッチじゃった頃とは違い、わしの眷属として魔神となったテレスは人間時代の姿を取り戻し、その肌つやの良い表情は喜びが見え隠れしておった。

 うむ、灰色のカイゼル髭が心做しかピンとしておるのも気のせいではあるまい。 



「10年間も眠っとってスマンかったのぅ、テレスや!」


「いえいえ、お気になさらずに」



 10年間も眠りっぱなしじゃった事をわしは謝罪し、テレスは落ち着きを取り戻して微笑みおる。

 うむ、テレスはやはり落ち着いておった方が似合うのじゃ。

 時には喜ぶ姿も良いとは思うが、老紳士な雰囲気漂う今のテレスにはいつも落ち着いていて欲しいものじゃな。



「して、テレスや。どうしてわしはベッドの上で眠っとったのじゃ? それに、ここはどこじゃ? そもそも、テレスは何故この世界におるのじゃ?」



 ともあれ、わしは目覚めてからの疑問をさっそくとばかりにテレスに尋ねたのじゃ。

 わしがおるのは恐らくどこかの家じゃろう。

 それは分かるのじゃが、わしは【奈落】の最奥にて魔神化したのに、それがいったいどうしてこの様な場所で寝とったのかが分からん。


 それに、じゃ。わしの神殿は言わば別次元に存在する空間内にあるのじゃ。

 その神殿におったはずのテレスがどうやってこの世界に戻って来おったのかも謎じゃ。



「アリス様、その話は後ほど。今はアリス様の()()()()がお見舞いに来られております。どうか面会の許可を」



 そう言うて、左目をパチリと一度だけ瞬きするテレス。

 うむ、ウィンクじゃな。

 右目に片眼鏡(モノクル)をかけとるとは、やるのぅテレスや。似合っておるぞ?


 …………。


 分かっとるわい!

 話を合わせいっちゅう事じゃろ?

 それくらい、わしにだって分かるのじゃ!



「うむ、許可するのじゃ。して、わしの友達とやらはどこにおるのじゃ?」


「アリスちゃん! 大丈夫? でも、良かったぁ〜、目が覚めて。あたし、すっごく心配してたんだよ?」


「俺もだぜ、アリス! でもよぉ、これでやっとみんなで勇者ごっこが出来るな!」


「……綺麗だ……♡ ……じゃなかった。確か……あ、そうだった。アリスちゃんの髪の色は綺麗な黒色だったよ。……あ、じゃなくて……目が覚めたんだね、アリスちゃん! 僕の事は覚えてる? いつも勇者役をやってたリドルだよ!」



 友達がどこにおるのかテレスに尋ねた所、次々と扉から入って来てわしに声を掛けてくる三人の子供たち。

 最初が桃色髪を肩口で切り揃えた女の子で、二人目が明るい茶髪を丸刈りにしておるじゃがいも顔の体のデカい男の子じゃ。

 三人目は……?

 三人目は…………女の子、なのかのぅ?

 いや、それにしては自らを僕と言うとるし、赤髪も短く狩っておるから男の子じゃろう……きっと。



「ベシャル様、バドライ様、リドル様。アリス様はまだお目覚めになったばかりのご様子。なので、今日の所は軽めの挨拶に留めていただけると幸いでございます」



 子供たちの名前を強調しながら見舞いの終わりをテレスは告げる。

 うむ、さすがはテレスよ。

 わしが子供たちと話を合わせきれん事を熟知しておるわい。



「そ、そうよね! うん、まだアリスちゃんは本調子じゃないんだし、今日の所は帰るね」


「そっか、そうだよな! んじゃアリス、またな〜ッ!」


「ぼ、僕が勇者になったら、絶対にアリスちゃんを守ってみせるからね! 絶対だからね!」



 テレスに促され、三人の子供たちはそれぞれの言葉で別れを告げて帰っていきおった。

 しかし、三人目のリドルとか言う男の子は何を言うとったんじゃ?

 絶対に別れの挨拶じゃないじゃろ、あれ。


 ま、ええわい。



「して、何がどうしてこうなったのじゃ?」



 リドル達を見送りに行っておったテレスが戻って来るなり、わしは改めてテレスに尋ねたのじゃ。

 眠っとったわしとは違い、テレスは恐らく色々とやってくれとったはずじゃし、【奈落】がどうなったのかも知っておるじゃろう。



「どこから話せば良いものか……。ふむ、そうですな。まずは私の事から話させていただきましょうか。アリス様の〈転移門(ゲート)〉の魔法にてアリス様の神殿に送られた私は、アリス様の帰りをずっと待っていました。しかし、いつまで経ってもアリス様は戻らず、それならばと探しに行こうとしましたが、私にはアリス様の神殿から出る術もありません。そこで、私はアリス様の眷属となった自分を調べる事から始めました。リッチから魔神となったのならば、その能力を活かしてアリス様の神殿から出られるのではないかと思ったのです。それから一週間後、私はある決断をしました。それは──」



 うむ、やはりテレスの話は長いのぅ。

 ここからは要点を掻い摘んでわしが説明するのじゃ。


 わしの神殿にて帰りを待つテレスじゃったが、わしが一向に返ってこない事に焦燥し、それならばと、魔神となった自分の能力を調べたそうじゃ。

 しかし、いくらリッチから魔神に進化したとは言え、そう簡単に便利な魔法を覚えておるはずもなく、テレスは途方に暮れたのじゃと。

 わしの使う〈転移門〉を模倣しようにも、次元の壁を超えるわしの〈転移門〉は言わば神の御業じゃ。魔神となったテレスと言えども使う事は(あた)わぬじゃろうしの。


 ならば、テレスはどうしたかと言うとじゃ、テレスは何と、別次元に存在するわしの神殿から直接外に出たらしいのじや。

 わしの神殿の外は完全なる異空間じゃ。神殿より一歩でも踏み出そうものなら、どこに飛ばされるかまったく分からん。

 飛ばされた先が深海の底ならばまだマシじゃ。魔神となったテレスの能力ならば簡単に地上に戻って来れよう。

 しかし、万が一飛ばされた先が火山の火口の中じゃったならば。それが万が一別次元の世界じゃったら。

 いくら魔神となったテレスとは言え、無事であるとは断言出来んのじゃ。


 しかしテレスめはその博打に勝ちおった。


 わしの神殿より外に踏み出したテレスは【フラタリア王国】とか言う国にある山の中にて気が付いたそうじゃ。

 気が付いたっちゅう事は、どうやらテレスは飛ばされた拍子に気絶しとったみたいじゃな。

 さもありなん。別次元からこのアースに言わば生身で渡ったのじゃ、テレスは。

 気絶だけで済んだのじゃから、博打に勝ちおったと言ったわしの言葉も理解出来るじゃろう。


 それで、じゃ。

 フラタリア王国はどうやらアースにおけるテレスの故郷らしく、自分が飛ばされた場所がその故郷であるとすぐに分かったそうじゃ。

 じゃが、そこからが大変じゃったらしいわい。


 フラタリア王国は、わしらがおった【奈落】ダンジョンを有する国であるジャパーネ皇国とは真反対、つまり、アースの裏側に当たる場所に存在する国なのじゃ。

 地球で言うならば、日本に対してのブラジルの様な関係じゃな。


 ……日本?

 ブラジル? それに地球、じゃと?


 おぉ、そうじゃな。きっと、〈阿迦奢勾玉(アカシャノマガタマ)〉からの知識じゃな、これらは。

 うむ、ジャパーネ皇国という名の国を知っとったのもそのおかげの様じゃ。

 素晴らしきは、三種の魔神器っちゅう事じゃな。


 話が逸れたわい。


 フラタリア王国からジャパーネ皇国まで、馬車や馬などを乗り継いで急いだとしても一年以上はかかる道程じゃ。

 さすがのテレスもこれには参ったらしいわい。


 しかし、そこで魔神となった事が吉と出る。

 リッチから魔神となった事でテレスの身体能力は魔物の持つそれとは天地ほどの差がついたらしく、昼夜を問わず走り続ける事も可能になったのじゃとか。

 しかも、身体強化の技能も使わずに、じゃ。

 ただ走るだけでも半年程で走破出来る所を、テレスほ更に身体強化を使用する事で更にその半分、つまり三ヶ月程でジャパーネ皇国まで辿り着いたそうじゃ。

 とんでもない力になったものじゃな、テレスは。

 今の産まれたての子鹿並の強度しかないわしにもその力を分けて欲しい所じゃわい。



「──という訳でして、ジャパーネ皇国までは三ヶ月程で到着しました。しかし、そこからがまた大変でした。それと言うのも、何と【奈落】は入口のあった不死山ごと跡形もなく消えていたのですから。これでは、アリス様がどこに居るのか全くと言っていい程に分かりませんでした。しかしアリス様ならば【奈落】から必ずや脱出していると思いまして、私は痕跡を探したのです。ですが、手掛かりとなるアリス様の魔神気は感じられませんでした。やはり三ヶ月も経過すれば、さすがのアリス様の魔神気とて霧散していたのでしょうな。ですから私は──」



 うむ、まだ続く様じゃの、テレスの話は。


 ……このまま、丸っと二日間も話し続けるなんて事はないじゃろうのぅ、テレスや?


 まぁええわい。

 再びわしが説明するのじゃ。


 ジャパーネ皇国に辿り着いたテレスはまず初めに【奈落】の入口がある不死山(ふじさん)っちゅう山を目指したそうじゃ。

 そこでテレスは衝撃の事実を知る事になったらしいわい。

 何と、その不死山っちゅう山が謎の爆発によって消滅しておったのじゃからな。

 これではわしの安否は分かるまい。

 焦ったじゃろうな、テレスは。

 うむ、わしならば間違いなく焦っておるし、もしかしたら泣いておるかもしれん。


 ……話を戻すのじゃ。


 ならばテレスめはどうしたのかと言うと、テレスはわしとの繋がりを探ったのだそうじゃ。

 うむ、つまり眷属としての繋がりじゃな。

 わしの骨をその身体で吸収した事でテレスはわしの眷属となったのじゃ。魔神へと進化した事でもそれは理解出来るじゃろう。


 じゃが、眷属としての繋がりを感じられるのは、わしの意識がハッキリとしておる時じゃ。

 それでは普段眠っておる時は感じられないのか、じゃと?

 うむ、そこは安心するとええ。

 普段眠っておる時は半ば起きておるゆえ、わしの意識はハッキリしておるのじゃ。

 しかし今回もそうじゃったが、年単位での眠りを必要とする時は完全に意識を失っておる。

 とは言うても、目覚めが近ければ意識も戻って来るし、夢なども見るのじゃ。

 ともあれ、わしの意識が失われていた為、テレスは眷属としての繋がりを探ろうにも探れなかったらしいわい。


 となれば、じゃ。

 テレスめはどうやってわしを探し当てたかと言うとじゃな、それは……地道な捜索活動にて探り当てたらしいのじゃ。


【奈落】崩壊から10年に渡って、わしは不死山の跡地にて眠っとったらしいのじゃが、わしの身体は小さいゆえに近くに寄らねば見つからぬじゃろう。

 しかも、まさか【奈落】の跡地付近にわしが眠っとるとは夢にも思わなんだテレスめは、ジャパーネ皇国に辿り着いてからは魔神としての正体を隠しながら冒険者として活動し、10年近く探し続けた結果、遂にわしを見つけたとの事じゃった。



「──いや、まさかアリス様が【奈落】跡地にて無防備に眠っておられるとは思いませんでした」


「そうじゃったのか。よもや【奈落】が崩壊しておるとはのぅ……。しかしテレスや、よくもわしのこの小さな体を発見出来たものじゃのぅ。かなり近付かねば分からんかったじゃろ?」


「それはですな……アリス様は魔神気をその小さな体より発しておられます。今はどうやら魔神気が枯渇してるみたいですが、私がアリス様を発見した時はまだ辛うじて発しておられました。それでその魔神気ですが、私を含む死に属する魔物及び植物を除く全ての者にとっては瘴気以上に猛毒なのです。なので、アリス様から半径1km圏内は生き物の気配が無く、そのおかげもあってアリス様の発見に繋がりました」


「何じゃと? わしの魔神気にその様な効果があったとは知らなんだ。……知ろうにも、【奈落】の最奥は骨ばかりじゃったから無理じゃったがな」



 生まれて初めて知る事実に思わず目を見開いたわし。

 となれば、先程の子供たちは幸運じゃったの。

 もしもわしの魔神気が〈魔神化〉を試したあの時と同様に膨大なままじゃったら、わしのおるこの建物から半径1km圏内に住む者は死に絶えておったじゃろう。

 うむ、正に闇の魔神皇たるこのわしに相応しき能力よ。



「ともあれ、じゃ。こうしてわしが目覚めた以上、さっそくこの世界をわしの物とするのじゃ! まずはこの近辺の人間共を喰らい、わしの力を取り戻すとしようぞ!!」



 わしの能力はさておき、【奈落】から地上へと出たのじゃから、世界を征服する為の行動を起こさねばなるまい。

 差し当って、まずはこの建物の近くの人間共を喰らって力を増やした方が良いじゃろう。

 うむ、どれ程の人間がおるかは知らぬが、最低でも100人程を喰らえば魔神気量も1DPまでは回復するじゃろうて。


 よし!

 人間共をさっそく喰らってやるのじゃ!!



「その事ですが、アリス様。人間を喰らうのはおやめになった方がよろしいかと……」



 人間共を喰らってやろうと意気込むわしに、テレスは実に申し訳なさそうに進言しおった。

 怪訝な顔をするわしをよそに、更にテレスは続ける。



「人間には冒険者もおりますれば、国を造り軍を形成してもおります。しかも今のアリス様の力は恐らくゴブリン以下。私がお傍に居れば問題ないでしょうが、もしも私がアリス様のお傍に居なければ────アリス様は人間に討伐されてしまう事でしょう」


「な、何じゃと!? 魔神皇たるこのわしが、人間如きに討伐されるじゃと!?」


「はい。人間にとってアリス様は、魔の神……つまり、最も恐れる存在なのです。その魔神の王たる魔神皇がゴブリン以下の力しか無いと知れたら、アリス様が人間だったとしてもその判断を下すはずです」



 テレスのまさかの忠言に、目を見開き憤るわし。

 産まれたての子鹿並の力ゆえ、怒りに握った拳がプルプルと頼りなく震えおる。

 じゃが、なんという事じゃ……!

 力を取り戻す為に人間共を喰らおうにも、喰らったら最後、わしは人間に討伐されてしまうとは。


 ……じゃったら、テレスがずっとわしの傍におれば良いのではないかのぅ?



「討伐はいささか言い過ぎでしょうが、人間共に捕まってしまったら、間違いなくアリス様は封印されてしまうでしょうな。ならば、私がアリス様に付きっきりでいれば問題ないとお思いでしょうが、私にもやる事がございますので無理です。アリス様の探索を続けたこの10年、私は冒険者として活動してきました。今の私の冒険者としてのランクはSランク……社会的に地位を得ましたし、緊急クエストが発生したおりには強制的に参加する義務があります。なので、アリス様には申し訳ございませんが、まずはアリス様も冒険者として活動して下さい。そして、ゴブリンなどの弱い魔物を喰らい、ゆっくりと時間をかけて力を取り戻すのです! 恐らくその方法がアリス様が世界を支配する為の最善の道のりでしょうな」



 わしの心を読んだとしか思えぬ言葉を吐きおるテレス。

 ぐぬぬ!

 人間の世界であるアースを支配するのに、まさかその人間に紛れて行動せねばならぬとは……!

 いや、その前に、じゃ。

 ……何故にテレスが人間の為に行動するのじゃ?

 もしや、わしよりも人間の方が良いと言うのじゃろうか。


 それとなく聞いてみるのじゃ。



「何故にテレスが人間の為に行動するのじゃ!? わしが支配すべき人間をまるで庇っておる様にみえるぞ、テレスや?」


「私は人間を庇っている訳ではありませんよ、アリス様。むしろ私はアリス様の為を思って言っているのです。────数は暴力です。そして、人間は正にそれを体現した生き物なのです。現に、人間を文字通りに食い物としていた【ヴァンパイア】一族は人間の数の暴力によってその数を激減させております。それに、古来より長い物には巻かれろという言葉もございますし、何よりも支配すべき人間の事を深く理解すれば、アリス様が世界を支配した後の人間の統治もしやすくなるというものです」


「ぐぬぬ……! そ、それならば仕方ないのじゃ! テレスの言う通りにするのじゃ! ────それに……わしはテレスが好きじゃ。テレスがおらんかったら、わしは【奈落】の最奥から出ようとも思わんかった。じゃから、これからも一緒におって欲しいのじゃぁ……」


「ほっほっほ、ありがとうございます、アリス様。ええ、もちろんずっと一緒ですよ? 何せ私は、魔神皇アリス様が眷属にして九頭龍将が筆頭──死を司る魔神テレスなのですから。もしもアリス様が死んだとしても、私はあの世までお供致します」


「わしは死なんのじゃ!」


「ほっほっほ!」



 わしと共に死んでさえみせると言ったテレスに胸が少しばかり切なくなってしもうたが、ともあれわしは人間の中でゆっくりと力を取り戻す事になったのじゃ。


 しかし、わしは人間の中で何をすれば良いのじゃ?

 先程のテレスの言に、『冒険者として活動しつつ、ゴブリンなどの弱い魔物を喰らって力を取り戻す』とあったのじゃが、わしみたいな小さな女の子が冒険者なんぞというものになれるのじゃろうか?


 いや、それよりもまずはわしのおるここがどこなのかを把握せねば始まらんのじゃ。


 わしはおもむろにベッドから降りる。

 うむ、産まれたての子鹿並の強度ゆえ、やはり体に力が入らぬ様じゃ。


 そう言えば……



「所でテレスや、わしが着ておるこの服は何じゃ? 黒地で、白いのがヒラヒラしとる変な服じゃが? しかも、妙にフワリとした下着も履いておる様じゃし……」



 今更ながらに気付いたのじゃが、わしは黒い服を着ておった。

 ベッドを降りたわしは、じっくりと自らの服装の確認をする。

 黒地のワンピースをベースにしておるのじゃが、腰には白い布が巻かれており、その白き布は腰の後ろ部分にてリボン結びにされておる。

 袖はゆったりとした長袖となっており、袖口には花模様の様な透けた白い生地……レースと言ったか。そのレースでフリフリが縫い付けられておる上、やはりフリフリの付いた白いエプロンをしておった。



「はい。それはエプロンドレスという物でして、きっとアリス様にはお似合いだろうと思い、わざわざ人間だった頃の私の祖国であるフラタリア王国から取り寄せたのでございます。もちろん、下着の方もフラタリア王国製のドロワーズですので、黒をベースにしたエプロン部分が白いエプロンドレスにピッタリでございます。あ、ご心配には及びません。替えは何着もありますので、汚れたからと言って洗濯に困る事もありませんので」


「……胸に付ける下着は無いのかの?」


「失礼ながら、アリス様の胸に合う下着が無かったのです。もう少し大きければと悔やまれる所でございますな」


「ぐぬぬ……! そ、その内必ず大きくなるのじゃ、わしの胸は! その時は見ておれ! 大き過ぎてわしの胸に合うのが無いと嘆かしてやるのじゃ!!」



 ぐぬぬ!

 今に見ておれ、テレスめ!


 …………。


 ま、まぁ、何じゃ。

 今後に期待っちゅう事じゃな、うむ。


 さて。



「つまり、ここはジャパーネ皇国という島国の中央付近にあるゲバンっちゅう村なのじゃな?」



 場所を寝室から居間へと移し、テレスが用意してくれおった紅茶に舌鼓を打ちつつわしは確認する。

 うむ、この紅茶という飲み物は香りが良いのぅ。

 それに、甘さが丁度ええわい。


 紅茶の入ったカップをテーブルに置き、代わりに、紅茶と共に用意されておった菓子をわしは口にする。

 うむ!

 これも良いのじゃ!

 ふんわりとした食感に程よい甘さ。上に乗っておる苺を包む白いフワフワなのがまた絶妙な甘さを演出しておる!



「お気に召しましたか? それは私の祖国の伝統の菓子でして、『ケーキ』と呼ばれる物でございます。おもに、王侯貴族に食される高級菓子ですな。今回はアリス様が目覚めましたのでお出ししましたが、次回からはアリス様がお金を稼いでお買い求め下さい」


「………………ケチ」


「これもアリス様の為でございますな。ケーキは甘いので、食べ過ぎれば当然太りやすくなります。それに、アリス様が人間社会を学ぶ為にもお金を稼ぎ、そして稼いだお金でお買い物する事は必要ですので。────と、話が逸れましたな。それで、ですが、アリス様の言う事で間違いございません。そしてこのゲバン村は、かつて【奈落】のあった不死山からほど近い場所にございます。館を出てゲバン村の展望台に登ればそこから一望出来ますので、後ほど確認してみるのもよろしいかと」



 菓子はともかく、わしの確認した通りの場所らしいのぅ。

 ま、テレスから聞いた事をそのまま確認しただけじゃがな。


 ともあれ、わしが頷くのを確認したテレスは続ける。



「このゲバン村の人口は100人程でして、ほとんどの村人が宿や食事処を営んでおります。ですが、武器や防具を扱うお店や鍛冶屋、それに道具屋なども揃っております。これは【奈落】ダンジョンがあった頃の名残りだったのですが、最近では不死山跡地に出来た湖【不死湖(ふじこ)】の(ほとり)……ゲバン村とは湖を挟んで反対方向ですが、不死湖の向こう側の森にて魔物の姿が多数確認された事で冒険者が集まった為、今もなお経営してるとの事です。ちなみに、冒険者ギルドと呼ばれる組合組織もしっかりとありますな。冒険者ギルドとは──」



 また始まったわい、テレスの蘊蓄(うんちく)語りが。

 じゃが、これは大事な事なので、さすがのわしも聞き逃さぬ様にせねばな。



「──世界各国の全ての都市及び街、または村に必ずあり、各地域にて活動する冒険者をサポートする事を目的としています。つまり、依頼の斡旋所ですな。色々な方からの依頼を承り、それをランク付けし、そして実力によってランク分けされた冒険者に仕事を行ってもらう。それは依頼人の家の掃除に始まり、薬草採取やネズミの駆除、ペットの散歩などというものから、商人の護衛や貴族の護衛なども依頼として出されます。それらをこなしてお金を稼ぐ者たちが冒険者なのです。そして冒険者にとって最も稼げるのは魔物の討伐でしょう。討伐依頼の出される魔物は、やはりその強さによってランク付けされます。冒険者は自らの実力に合った魔物を討伐してお金を稼ぐ訳ですが、それでも必ず成功するとは限りません。結果、その代償は命で償う事になりますな。……と、話が逸れましたな。その冒険者ギルドにて、アリス様には冒険者登録をしていただきます」


「うむ、何となくじゃが理解したのじゃ。……しかしテレスや、わしみたいな小さな女の子でも冒険者にはなれるのかのぅ? それと、じゃ────わしの目、大丈夫かの? 魔眼から〈魔神眼〉になったとは言え、白い眼の人間とは違って黒いじゃろ? そこが心配なのじゃが……」



 冒険者の事については理解出来たのじゃが、やはりわしみたいな小さな女の子が冒険者になれるのかが気になるのじゃ。

 それに、わしの言葉にも出て来た様に、わしの目は黒い上に六芒星が浮かぶ銀色の瞳じゃ。人間とは違うじゃろう。



「冒険者に関しては恐らく大丈夫でしょうな。アリス様の実際の年齢は200歳を超えてますし、見た目が幼くても15歳に達している人間も居るので、登録の際の実力テストさえ合格すれば問題ないでしょう。それと、目に関してですが……これはアリス様の魔神気が増えてみないと何とも言えませんな。確かアリス様の魔神眼は異能との事でしたので、異能の発動にさえ気を付ければ大丈夫だとは思いますが……」


「という事は、今のわしの目は普通の人間と変わらぬという事じゃの?」


「はい、その通りです。今のアリス様のお姿は、どこからどう見てもとても美しくも可愛らしい人間の少女ですな」



 わしの確認に納得のいく説明と共に褒め称えるテレス。

 うむ、わしの容姿の美しき事女神の如し、じゃな!


 ともあれ、とりあえずのわしの懸念も晴れた事じゃし、わしの世界を征服して喰らうという野望の為の第一歩を踏み出すとするかの。


 そうとなれば、まずは腹ごしらえじゃ!

 何かしらを喰らって、多少なりとも魔神気を増やさねば冒険者にもなれぬじゃろう。


 何せ、今のわしの強度は産まれたての子鹿並なのじゃからな!

お読み下さりありがとうございます!(´▽`)

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