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黒き獅子は天使に愛を乞う  作者: 一ノ瀬葵
本編

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第63話 真相

 フィーリアがクリストファーに連れられて向かったのは人気のない王宮の端にある古びた塔の前であった。


「殿下…ここに妃殿下がいらっしゃるのですか?」


「ここでフィーリアに会う前に話をしていたからね…」


 クリストファーは隣にある石造りの建物へ歩いて行き、フィーリアも後ろをついていく。

 扉を開けた部屋の中の異様な様子にフィーリアは言葉が出てこなかった。


「残念ながら、セフィーヌは自分の私室へ戻ってしまったようだ。中には居ない。

 そうだ…フィーリアはこれを覚えているかい?」


 クリストファーは髪紐をフィーリアへ見せる。


「あの……」


「懐かしいね…」


「え…?」


「ここへ来るために通った道で幼いフィーリアの髪をこの髪紐で結んだ事があったね…

 あの時は、ジークが途中で間に入ってきてしまったからフィーリアの初めてを貰う事は出来なくて残念であった。」


「……………。

 殿下…以前私へ向けて飛ばした白梟の文に書いてあった『ジークの事』とは何なのでしょうか?」


「………フィーリアはジークが幼い頃から暗殺者に狙われていた事は知っているだろう?ジークと共にいる時に襲われた事が何度もあるのだしね。

 その黒幕がここにいるジェストである事も知っているのだろう?」


「………それは…」


「私も知っていたのだよ…それこそ、ジェストの手の者がアリア様を亡き者にした時から。」


「え…」


 クリストファーの衝撃的な言葉にフィーリアは言葉を失う。


「それに、ジェストを裏で操っているのが母上であるという事もね。」


「………っ!?」


「ジェストと母上は私とフィーリアのような幼馴染みなのだよ。

 だが、母上は幼い頃に父上の妃候補として婚約者に決まっていた。ジェストは公爵家の三男で将来的にクロウド公爵家が所有している伯爵位を継げるのかどうかという身分であったから二人は想いを遂げる事は出来なかった。

 それで、ジェストは母上の騎士となることを決めて永遠の忠誠を誓ったのだよね?ジェスト…?」


 クリストファーの言葉に部屋の端で控えていたジェストの表情がピクリと揺れた。


「ジェストも…私が何も知らないとでも思っていたのかい?

 私はお前と母上が他の者に見られないように密会している様子も見ているし、二人の関係はずっと以前から知っていたのだよ。

 母上は表面上は穏やかにアリア様やジークへ接していたが、二人への憎しみをずっと抱えていた。それを表に出さなかったのは母上の矜持なのであろうね。

 母上の立場であったならば、自分が婚姻を結ぶ間際に自分の婚約者が自分へ向ける情とは違い本物の愛情を別の人間に向け、それだけでなくその者を側妃へ迎え寵愛するなど…まともな精神でいられる訳がない。

 母上が少しずつ病んでいくのをジェスト、お前が側で支えていたのであろう?

 そして、母上の憂いを消す事を実行した。アリア様が初めに亡き者になったのは偶然であったのか必然であったのかはわからないが…

 ジェスト…私の言っている言葉は真実であろう?

 お前がジークの護衛に任命されたのもたまたまではない。母上の推薦があったからであるのだしな?」


 ジェストはクリストファーの言葉に何も答えなかった。


「…………………。」


「フィーリア。

 だから私はずっとジークが暗殺者の黒幕に辿り着けず悩み臣下へ降下する事となったこの事を初めから知っていたのだよ。」


「どうして…」


「どうしてジェストや母上を止めなかった?それともどうしてジークや父上へ教えなかったかい?

 それは、私にとってもジークが疎ましかったからだよ。

 何もかも自分の手中におさめる欠点のない実の弟には憎悪しかなかった。

 恵まれた生まれ持った才能、偉大なる祖先の生まれ変わりとも言われるような同じ色の瞳、どんな窮地でも切り抜ける運。全てが疎ましかった。

 ジークがジェストに亡き者にされる事は、私にとって願ってもない事であったからだよ。

 私も()()()に敵わない第一王子という呪縛から解き放たれたかった。あいつが居なければ私も母上も平穏な日々を過ごす事が出来たのだ。

 そして、フィーリア…そなたを私の妃へ迎える事もこんなに遅くなってしまう事はなかったのだ。」


 クリストファーはフィーリアへ綺麗な笑みを浮かべた。

 その表情にフィーリアはぞくりと悪寒が走る。

 フィーリアの中にここに居ては駄目だという警鐘が鳴った。


(出口へ…)


 フィーリアが出口へ足を向けようとした時にクリストファーに手首を掴まれそのまま長椅子へ押し倒された。


「殿下っ!」


「あいつは、私のフィーリアを自分の所有物のように幼い頃から独占してフィーリアの感情をも自分へ向けるように洗脳していったんだ。可哀想に…感情までも()()()に操られてしまってあいつと婚約まで交わすなど…」


「やめて…くださいっ!」


「あいつにどこまで触れられた?まだ、さすがに純潔までは奪われてはいないだろう?」


「やめて…」


「あいつを庇ったせいでフィーリアの綺麗な身体に傷が付いてしまった事は残念でならないが、そなた自身が手に入るのならそこは目を瞑ろう。何も怖い事などない。全て私に委ねればいいのだからな…

 そして私の子を成し、その私とフィーリアの血を分けた子が世継ぎとなるのだ。けして世継ぎはあの女の、子などではない。」


 そうしてクリストファーの顔が近付き両手を掴まれているフィーリアにはどうする事も出来なくクリストファーの唇がフィーリアの唇に重なった。


(嫌っ!!)


 ──ガリッ……


 次にフィーリアが感じたのは血の味であった。

 目の前のクリストファーの唇から血が出ている事に自分が抵抗するのにクリストファーの唇を噛んだのだとわかった。


「…………………。」


「で、殿下…申し訳ありません…でも…私は…」


「家と家族がどうなってでも私を拒むと言うのか?」


「え…」


 クリストファーが作り物のような笑みをフィーリアへ向けた。


「私の力でそなたの父も兄も失脚させ処刑し、家を取り潰そうか?」


 フィーリアは、クリストファーの言葉に掴まれている腕を捻りクリストファーの手から抜け出すと髪にさしていた隠し剣を引き抜き自分の首にあてた。


「それならば、私は自分の死を選びます。」


「自分で何を言っているのかわかっているのか?」


「わかっています。殿下と私の事に家族や領地の民を巻き込む訳にはいきません。

 ですが、殿下に私を捧げるつもりもありませんし、捧げたくはありません!私は…ジークでなければ絶対に嫌です。不敬な行動や言葉に気分を害されたのなら私の命を殿下に捧げます。死を選んだとしても身体は捧げるつもりはありません!」


「どこまで、あいつに洗脳されているのだ…

 そんな事が許されると思っているのか!?」


「許されないのは兄上、貴方だ…」


 その言葉と同時にクリストファーの首に剣先が突き付けられた。




ここまで読んで頂きありがとうございます。

ブックマークもありがとうございます!



漸くジークフリードの再登場です!

不在が長かった…

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