第62話 傷つけられた秘めたる想い
この回は少し短めになっています。
王宮の端にある古びた塔の横の石造りの建物の中には乱れた装いを直すセフィーヌがいた。
その顔色は悪く手首には掴まれた痕がうっすらと付いていた。
「………………。」
セフィーヌの瞳から涙が一粒零れ落ちていく。
(……どうして…私は………)
………─────
今から数時間前…
セフィーヌはクリストファーの隠れ家である石造りの建物に護衛を伴わずにいた。こっそりと私室を抜け出しここまで来たのだ。
以前にも目にしたこの異様な部屋の中の様子に手が震える。
そして、あるものを見つけてしまったのだ。
飾られているものとは、明らかに違い特別なもののように飾り箱の中に敷いてあるクッションの上に乗っている一つの包み。その周りには髪紐や枯れた花、幼児向けの絵本などがどれもまた大事そうに飾ってあった。そして…その近くに飾られている絵姿の少女はセフィーヌの知っている令嬢に面影がよく似ていた。
『フィーリア嬢…?
それじゃあ…この包みは…何?』
セフィーヌはそっと包みに手を伸ばす。
包みを手に取り、くるんである布を開いた時後ろから声を掛けられた。
『そこで何をしている?』
──ビクッ!
突然の声に驚き手に持っていた包みを落としてしまった。
『あっ…!』
拾おうと屈んだセフィーヌの頭上に影ができ見上げるとそこに居たのはクリストファーであった。
床に落ちている布を見てクリストファーはセフィーヌの手首を掴み無理矢理立ち上がらせる。
『ここで何をしようとした?そなたが落としたものが何であるのか知っていてやったのか?』
『中に何が入っているなど、知りませんでした。
落としてしまい申し訳ありません…何が…入っていたのでしょうか…?布以外何も…』
『……落とした事で…もう見つけ出すのは難しいだろう…
そなたは…ここの存在を知っていたのだな…
ここへ来てどうしようとしていたのだ?私の大切なものをこのように失くすつもりで来たのか?』
『そんなつもりは……
ここを知ったのも偶然で…』
クリストファーの今まで見たことのないような怒りの表情にセフィーヌの心臓はドクドクと大きな音をたてる。
手首を掴んでいる力がだんだんと強くなっていく事に痛みをセフィーヌは感じ、顔を歪める。
『……痛っ………』
『…………………。』
クリストファーはそんなセフィーヌを引っ張り部屋の角に置いてある長椅子へ投げるように乱暴に座らせた。
『………何故…以前、そなたがフィーリアへ贈った花にそなたは毒を塗ったのだ?』
『それは…』
『私が気が付かないとでも?そなたが届けるように頼んだメイドは私がそなたの動きを見張るために用意した者だ。そして、そのメイドは花を届けてはいない。いや、届けられなかったという方がよいのか…花に素手で触れてしまったようで触れた手は使えぬようになった。死に至るような毒の量でもないし触れるだけでは体内へ取り込む事も難しい事はそなたもわかっているであろう?せいぜいメイドのように皮膚が爛れ使い物にならなくなったり、醜い痕が残るぐらいだ。
何故そんなものをフィーリアへ贈ろうとした?』
『…………………。』
『フィーリアが側妃に迎えられるかもしれない可能性を摘むためか?
ドレスなどで隠せない部位に醜い傷痕を作り側妃には相応しくない姿にする為か?』
『……………………。』
クリストファーはずっと口を閉ざしているセフィーヌへ屈み顔を近づける。
『私がフィーリアを好んでいる事にそなたは気が付いていたのであろう?
そなたは…私に好意を抱いているそうだな?』
『……っ!?』
『多少、調べさせてもらった…
そなたが嫁ぐ前に私宛にしたためていた文を私に渡さぬまま自分で持っていたものも読ませてもらった。
そなたにとってこの婚姻は望まないものではなかったのだな?
ならば、あの閨事も苦痛なものではなかったのであろう…
だがな…私は苦痛でしかなかった。
私が妃に望んでいた相手はそなたではなかったからな。』
クリストファーの言葉にセフィーヌはドレスを握りしめる。自分の秘めていた想いすらも目の前の本人へ筒抜けになっている状態に悲しみと悔しさと怒りが沸き起こる。
『……子が出来たそうだな…』
『…っ!?』
突然のクリストファーの言葉にセフィーヌは勢いよく顔を上げる。
『何故、私が知っているのだという表情だな。
先程も言ったようにそなたの世話をしている者達は私が用意した者だ。その者からそなたの身体の変化を聞いている。まだ、侍医へは見せていないようだが、月のものが暫く来ていないと…それに、吐き気のような症状もあるのだとも聞いた。
世継ぎの為の行為であったから問題はない。産んで構わぬ。しかし、そなたの腹の子が次代の王になれるかはわからぬがな…』
そうクリストファーはセフィーヌへ話すと踵を返し部屋を出ていった。そんなクリストファーの後ろ姿を見ていたセフィーヌはまだ膨らみもない自分の腹部に手をあてる。
望まれて生まれてくる事の出来ない自分の子が不憫でならなかった。クリストファーの目には自分の事など何一つ写していない事が今日はっきりとわかってしまった。
『ごめんなさい…』
そして…頬に涙が零れ落ちていった。
ここまで読んで頂きありがとうございます。
クリストファーがどんどん酷い人間になっていきます…




