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黒き獅子は天使に愛を乞う  作者: 一ノ瀬葵
本編

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第55話 探り合い

『ジェストが欲しい物って何?』


『ジークフリード殿下の安全と平穏な日々でしょうか』


『そういう事じゃなくて!ジェストは護衛の仕事を頑張りすぎだよ…

 ジェストが自分からどうしても欲しいと思う物はないの?』


『…………自分が望むものは絶対に手に入らないものですので…』


『絶対に…?』


『ええ。自分の力では手に入れる事が出来なかったのです。自分には力がない事も思い知らされました。

 ですから…殿下はそれだけのお力も立場もお持ちなのですから、自分から諦めずに手にしたいものを手に入れてください。』


 ─────………


 ジークフリードが思い出していたのは幼い頃にジェストと交わした、たわいのない会話。

 そしてジークフリードは考える。ジェストはその頃からジークフリードへの暗殺に手に染めていたのだろうか?それとも、ジェストをつかって暗殺を企てている違う黒幕がいるのだろうか…と様々な考えが頭の中を占めていく。

 ジークフリードが考えもしなかった人物が自分の暗殺に関わっている事を知り今まで自分が傍にいた人物に対して信頼していた気持ちが全て裏切られたような気持ちになった。


 ジークフリードは王宮の馬車停めで馬車が到着するのを待っていた。

 今日は王妃陛下主催の大掛かりな茶会が開かれ、ある程度の高い身分の貴族達が招かれている。

 茶会には王太子夫妻も参加される予定で、少し前に王宮内の鍛練場でジークフリードへの襲撃があったこともあって、警備には近衛騎士だけでなく第二師団の面々も駆り出され厳重に警備する事となっていた。

 今日はフィーリアの調子も戻ってきた事もあり、フィーリアも茶会へ参加するためジークフリードはフィーリアのエスコートを警備と合わせて茶会に参加しながら行う事となっていた。

 ウェストン家の紋が入った馬車が到着し中からカトリーヌとフィーリアが降りるのをジークフリードが手を差し出し手伝う。


「リトラル子爵様、今日はフィーリアの事を宜しくお願い致します。」


「体調が戻ったばかりですので、あまり無理をさせないようにします。」


「ジーク…今日は警備のお仕事もあったのよね?それなのにごめんなさい…」


「いや…どちらにしても、招待されている団員は茶会へ参加しながらの警備に付く形になっているから何も問題はない。

 それよりも、今日は本当に無理はするなよ。」


「ええ。

 ねぇ…今日、王太子ご夫妻が出席なされるのでしょう?それって…」


「ジェストの事か?恐らく王太子殿下の側で護衛の任に付いているだろうな。だが、さすがにこう他の目が多い中では何もしないと思う。ただ、口にするものは気をつけてくれ、いくら毒の耐性があるといっても何があるのかはわからない。あの花の意味も誰がやったのかも、まだ明らかになっていないからな。」


「わかっているわ。飲む素振りをしながら毒の混入がないか調べる術は身に付いているもの。」


(……私がウェストン家の習わしで毒の耐性を付けていなかったら、あの毒矢が刺さった段階で死に至っていた可能性が高かったとは後で聞いた。自分の毒の耐性とジークの処置の速さでこの程度ですんだのだと…)



 茶会が始まり王妃陛下へジークフリードとフィーリアは挨拶へ向かった。

 二人とも綺麗な最上級の礼をする。


「王妃陛下、今日はお茶会へのご招待ありがとうございました。」


「フィーリア、調子はどうなの?貴方が矢に討たれたと聞いて気が気ではなかったのよ。」


「もう、すっかり良くなりました。気に掛けて頂き感謝致します。」


「それならば、良かったわ。セフィーヌ妃との茶会の後での事だと聞いたから余計に責任を感じてしまってね。クリスが貴女に鍛練場へ行く事を勧めたのでしょう?

 リトラル子爵もお久しぶりね貴方にも怪我がなくて良かったわ。陛下とも安堵していたのよ。」


「恐れ入ります…」


「今日はゆっくりと楽しんでいらっしゃい。」


「ありがとうございます。」


 王妃の側を離れた後、出席している貴族達のざわめきが聞こえる。クリストファーがセフィーヌを連れてフィーリアとジークフリードの元へ歩いてきたからだ。貴族内で様々な噂を囁かれている二人が公の場で話を交わすのではないかと皆、聞き耳をたてている事がフィーリアにも感じ取れた。


「フィーリア身体の調子はどうなんだい?」


「王太子殿下並びに王太子妃殿下におかれましては療養中に沢山のお見舞いを頂き恐縮しております。

 もう、身体はこのようになんともありませんのでお気遣い頂きありがとうございます。」


「そう。それは、良かった。

 ジークも話すのは久しぶりだね。この間は大変だったね。」


「ご無沙汰しております。」


「ジークの活躍は色々と聞こえてきていたよ。国の為にありがとう。」


「勿体無いお言葉であります。」


「そんな、堅苦しくしなくてもいいじゃないか、ジークが臣下に下ったといっても私にとってたった一人の大事な弟なんだから、以前と変わらずに接して欲しいな。」


「それは…立場上けじめがつきませんので…」


「そう…」


 クリストファーは含みのある笑顔をジークフリードへ向けた。

 そして、後ろに控えているジェストはジークフリードと視線を交わすこともなかった。


「それにしても…フィーリアの美しい肌に毒矢が刺さるなんてね…

 勿体無いな…」


「え…」


 フィーリアはクリストファーの突然の言葉に反応が遅れる。

 そして、ジークフリードはその言葉に訝しげな表情を浮かべた。

 その時、クリストファーを呼ぶレオンの声が後ろから聞こえた。


「殿下。あちらで他の者も挨拶の順番をお待ちですので…」


「レオン…まぁいい。また、今度会えるのを楽しみにしているよフィーリア。」


 レオンはジークフリードとフィーリアに目配せをするとクリストファー達を伴って放れていった。


「ジェスト。」


 すれ違いざまにジェストの名をジークフリードは呼んだがジェストはジークフリードの方を見向きもしなかった。

 そんな様子をセフィーヌが表情を変えずにじっと無言でクリストファーの後ろで見ているのをフィーリアは目に止める。


「妃殿下、先日は綺麗なお花をありがとうございました。」


「……気に入ったかしら?」


「……ええ…。あの…どうして妃殿下付きの方でなく、殿下付きの騎士に届ける事をお願いしたのですか?」


「…………………。」


「あの……失礼な言葉を申し訳ありません…」


「……どうしてだと思った?」


「え…?」


 そんな言葉をセフィーヌは残してクリストファーの元へ歩いていってしまった事に、フィーリアはなんともいえない気持ちになった。


「フィー」


「えっ!?」


「ずっと立ちっぱなしも良くない。あちらで少し休もう。」


「え、ええ…」


 ジークフリードに座れる場所へエスコートされている時、フィーリアに聞こえるように貴族達が囁き出す。


「ウェストン嬢のお怪我の事をご存知?」


「毒の矢が刺さったとか…」


「傷物になったご令嬢を元王族で今は公爵家の嫡男でもあるリトラル子爵様がこのまま娶らなくてはいけないなんて嘆かわしい。

 ウェストン家も、自分達から婚約の解消を申し出れば良いものを…」


「リトラル子爵の慈悲に甘えて、図々しいにも程がある。」


「これ以上ない条件の婚姻で、これを失くしてしまえば傷物の令嬢の嫁ぎ先などたかが知れているだろう…今の宰相という地位を確固たるものにする為にも自分から手放せまい。」


 次々と聞こえてくる悪意ある言葉にフィーリアの胸は苦しくなった。

 そんな時、フィーリアの手を力強くジークフリードが握る。


「気にするな。お前は堂々としていたらいい。お前の事を望んでいるのは俺自身なのだからな。」


「ジークは…後悔していない…?」


「お前の事を手放してしまう事の方が後悔で生きる意味すらもなくなってしまう。」


「ジーク…」


「俺の気持ちはどんな事があったとしても揺るぎはしない」


「ありがとう…」


 ジークフリードが足を止める。


「ジーク…?どうしたの?」


 ジークフリードが柔らかい笑みを浮かべフィーリアの方へ顔を近付け耳元へ口を近付ける。


「愛しているよ…」


 ──チュッ……


 そしてフィーリアの頬へ唇を寄せた。


「っ!!?」


 フィーリアは突然のジークフリードの行為に頬へ手を当てたままパクパクと口を開けても言葉が出なかった。


 そんなフィーリアの様子にジークフリードはフッと笑みを浮かべフィーリアの手を引き椅子へフィーリアを座らせ、飲み物を差し出した時、横から声を掛けられる。


「まったく…ジークは実力行使に出るからなぁ…」


「にっ、兄様っ!?」


「……殿下に付いていなくていいのか?」


「少し挨拶も落ち着いてきたから大丈夫。()()()()()も付いているし?ジークは話せた?」


「いや…今考えれば俺が騎士団へ入団してから第一師団と第二師団という別の団という事があったとしても顔を合わせる事が不自然な程なかったからな…その事にもっと前から不自然さを気にするべきだった。」


「なんだか、色々と厄介な事になってきているよね…」


「……ここだと人が多い。これ以上は話さない方がいいだろう。」


「まぁね…

 フィーもごめんね…また、妃殿下のお茶会を止められそうにない…あんな事があって不安しかないと思うけど…」


「ううん。もしかしたら私の方から何かがわかるかもしれないし、そんなにあんな事が何回も起こらないわよ。」


「フィーは強いね。」


「もっと上手く立ち回りたいのに…足を引っ張ってばかりなのが嫌なの…」


 ぐっと手を握りしめるフィーリアの手にジークフリードは自分の手を重ねる。


「十分役にたっているから無理だけはしないでくれ。」


「はい…」


 そんな三人の姿を離れた席からクリストファーは表情を浮かべずに見ていた。



ここまで読んで頂きありがとうございます。

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