第52話 尋問
この回のお話は残酷な表現がありますので苦手な方はお気をつけください。
尋問室で水責めにされても口を割らない男をジークフリードはじっと見据えた。
「貴様を暗殺者に仕込んだ人間の目は確かだな…そうか…
貴様に対しての苦しみは意味が無いと言う事だな…
ユーゴ、レオンを呼んで来い。」
「ウェストン様をですか?」
「ああ。俺が最終手段を使うと言えばわかる。」
「はい。急いで呼んできます。」
男が訝しげな眼差しでジークフリードを見てきたのに対して、ジークフリードは口の端だけを上げ、男を見下ろした。
「貴様が口を割りたくなるような話をしてやろう。」
ユーゴに連れられたレオンが尋問室へ入ってきた姿を見たジークフリードは口をひらく。
「様子は?」
「悪化はしていないが、何も状態は変わっていない。
今は母上が付いていてくれているよ。」
「そうか…」
レオンは数枚の書類をジークフリードに渡した。
書類を受け取ったジークフリードは男をまた見据える。
「……イルガ村のローラと言ったら意味がわかるだろう?」
ジークフリードのその言葉に男の表情がみるまに変わっていった。
「お前が妹のように可愛がっている幼馴染みだそうだな。
生まれつき身体が弱く。母一人子一人の裕福ではない平民の家の娘であるのにもかかわらず、王都にいる貴族でも裕福な貴族しか診ないと有名な医師から診察をこの一か月受けている。
何故、そのような事が出来る?」
「……っ…………」
「そうか…これでも話す気にならないのか…
ユーゴ。ハーバー医師を訪ねてローラという娘をここへ連れてこい。」
「ローラは関係ないだろうっ!?」
ジークフリードの言葉にずっと黙っていた男が叫んだ。
「……………そうだな…関係はない。
だがな、お前が暗殺に手を染めた事で本来なら受けられない医療を今受けているという事はこの娘も当事者だ。お前が口を割らないという事はそういう事に繋がるんだ。
お前の前でこの娘をどうしたら話す気になる?指を一本ずつ切り落として見せようか?」
「この悪魔っ!!やはりあの方が仰有っていた言葉は本当だった…
悪魔のような元第二王子が謀反を企てていると…」
男の言葉にジークフリードは男の髪の毛を握り自分へと顔を向けさせた。
「あのお方とは誰だ?
選べ…ここでその者の名前や特徴を言う事と、お前の大切にしている者を巻き込む事を……」
「……………っ………。」
◇*◇*◇*◇*◇
次の日………
王太子執務室でクリストファーは書類を持ってきていたレオンに話し掛ける。
「それで?フィーリアの容態はどうなのだ?レオンも今日は休んでも構わなかったのだよ。」
「まだ、目は覚めておりませんが少しずつ状態は落ち着いてきています。今は母上が付いておりますので…
陛下や殿下には特別に王宮に部屋を用意して頂いただけでなく、侍医の治療まで受けさせて頂きありがとうございます。」
「王宮で起きた事であるし、その被害者はフィーリアだからね。当然の事だよ。
それにしても、今回ばかりはジークも気を落とすかと思っていたが、犯人を自ら尋問しているのだって?なんというか…愛する者が死の淵を彷徨っているというのに慈悲の無い人間だ…」
「…………………。」
「レオンはジークの尋問のやり方を見たのかい?
あいつは怖いだろ?そういう時は容赦ないからね…
レオンはさ……ジークの存在に苛立ちを感じた事はない?」
「え…?どういう事ですか?」
「君達二人が仲が良い事は知っているよ。
だけどさ、ジークは人間として規格外な存在じゃないか。普通の人間は自分の力を五割程度しか出せない。力を出すために頑張ったとしてもせいぜい七割か八割程度だ。全ての力を出し切るなんて事は到底無理な話なんだ。しかし、ジークは頑張らなくと七割八割の力なんて簡単に出せる。あいつが本気になれば十割どころか、それすらも越えた力を出すし、そもそもあいつの力自体が普通の人間と掛け離れているんだ。
レオンも他に類をみない実力を持っている事は有名だけどさ、そんなレオンを軽々とジークは追い抜いていく。
あいつが寄宿学院に居なければ首席の座を得ていたのは確実にレオンだったのに、レオンはそんなジークの事を疎ましく感じた事は一度もない?」
「…………殿下は、僕にどんな答えを望んでいるのですか?」
「いや?別にどんな答えも望んではいないよ?
ああ…私達よりも、もっとジークを知っている者がいたよね…
ジェストはジークが生まれた時から護衛としてずっと側で付いていただろう?ジェストはジークの事をどう思って護衛していたんだい?護衛途中で左目失明なんていう大怪我を負ったのにも関わらず、あいつはお前を捨てて一人で臣下へ降下したのだよね?そんなお前を私が側付きにしたんだ。」
クリストファーの後ろで控えていた人物は幼いジークフリードの護衛騎士としていつも傍に仕えていたジェスト・クロウドであった。
ジェストはジークフリードの護衛中ジークフリードを狙ってきた暗殺者の襲撃の時の怪我で左目を失っていた。ジークフリードが臣下へ降下した後、クリストファーから望まれ護衛騎士の一人として傍に仕えていた。
「今は自分の主は殿下ですので…昔の事は思い出そうとも思いません。」
そんなジェストの言葉を表情を変えずにレオンは聞いていた。
「ジェストらしいね。
ねぇ、レオン。ジークは捕らえた男の口を割らせる事が出来たのかな?自分の暗殺者の黒幕を明らかに出来たと思う?」
「僕の所までまだ報告が来ていないのでわかりません…」
「そうか…ようやく黒幕に辿り着くのか私も気になっていたのだけれどね。」
「殿下…それでは僕は殿下のサイン入りの書類をお預かりしますので…失礼致します。」
レオンはクリストファーの執務室を後にし扉を閉めた時、一度扉を見据えた。
王宮内にフィーリアの為に用意された部屋にはジークフリードがフィーリアが横になっている寝台の横で座りながらフィーリアの髪の毛を指先で梳いていた。
握り締めたフィーリアの手を自分の額へあてフィーリアの名前を呟く。
「フィー……」
熱に魘されながらフィーリアがうわ言を口にする。
「ジ……ク…」
「……っ…フィーっ!俺ならここにいるっ!フィー!」
そのまま、またフィーリアは眠りにつく。
ジークフリードは尋問室を出た後はフィーリアの傍にずっとついていた。フィーリアは毒による熱に魘されるというような状態が続いていた。
それでも、最悪の事態は避けられたようで、それから数時間後フィーリアは目を覚ました。
「ジーク…」
「まだ熱も高いんだ無理に話したり動いたりしないでくれ。」
「うん…だけど…一つだけ…あの者は…捕らえられた?」
ジークフリードは眉根を寄せたが一度瞳を閉じてからフィーリアへ目を向けた。
「ああ。捕らえたし口も割らせた。」
「じゃあ…」
「それは…まだ、確実な証拠ではなかった。ただ、少し前進はしたのかもしれない…」
「ジーク…?」
ジークフリードは表情を浮かべず言葉を発するとフィーリアへ笑みを浮かべる。
「詳しくはフィーの身体の調子が戻ってから話すよ。だから、先ずは自分の身体を治す事を一番に考えてくれ。」
「うん…」
ジークフリードの表情にフィーリアはなんとも言えない気持ちになったが、まだ熱も高く傷口の痛みもありそれ以上問い詰める事を諦め先ずは傷を治そうと思った時にフィーリアは胸の中に一つの不安を覚えた。
フィーリアが目を覚ました事で部屋に駆けつけたジョゼフやレオンも今のフィーリアの様子に安心すると自分の職務へ戻り、ジークフリードも残務があるから少し部屋を離れると言い部屋を後にした。
寝台に身体を預けぼんやりと天井をフィーリアは見詰める。
そしてフィーリアの瞳から涙が一粒流れ落ちていった。
「ジーク……」
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