第37話 企み
ジークフリードは冷たい目でフェルナンデスを見下ろす。
扉の近くにはジークフリードと共に来たと思われる、ルークとユーゴが居た。
「ジーク…?」
ジークフリードはフィーリアの声にフィーリアへ視線を向け、フィーリアの顔を見ると眉間に皺を寄せた。そして、それは怒りの形相に見る間に変わる。
「フィー…その頬…殴られたのか?この男に…」
「えっ…あ…これは…」
その瞬間ジークフリードの踵がフェルナンデスのみぞおち辺りに振り落とされた。
フェルナンデスは潰れたカエルのような声を上げる。
そんな声にジークフリードの行動は止まる事もなく。フェルナンデスを蹴り上げ蹴り飛ばす。
「ジッ、ジークッ!」
「副団長っ!!」
そんなジークフリードにフィーリアとユーゴが声を上げた。
「何だ?こんな屑を庇うのか?」
「だって…相手はリントン家の子息なのよ!?」
「そんなもの、どうとでもなる…フィーお前の事を傷付けたらどうなるのか身体で覚えさせた方が良い。」
そんなジークフリードにフェルナンデスは何故この場所に居るのだろうかという表情でジークフリードに蹴られ咳き込みながら睨み返す。
「何故俺がこの部屋がわかり、現れたのかがわからない顔だな。
俺の部下がマクシミラン伯爵の子息と懇意にしていてね。その子息から伯爵に話を通してもらった。
随分と脅しのような言葉を言われてこの部屋を使用する約束を取り付けたようだな。」
ジークフリードの言葉にフェルナンデスは顔を歪め舌打ちする。
「役に立たない奴だ…」
「マクシミラン伯爵へ言い掛かりを付ける気であったら止めておくんだな。伯爵の立場はレイサレル家で保証する事になっている。立場が悪くなるのはお前の方だ。
それで、フィーリアを妹を使ってこの部屋に呼んだ言い訳でも聞かせて貰おうか…」
「貴様…こんな事を私にしてどうなるのかわかっているのか!?」
「どうなるというのだ?この俺を牢獄へでもぶちこむとでも言うのか?公になったら困るのは貴様の方ではないのか?」
「そっ、そんなもの、そこの女が誘ってきたんだ。」
「ほう?この期に及んでその様な事をほざくのか…?
フィーが誘う?それが証明出来るのか?
貴様の妹が俺の名前を出して誘い出し、マクシミラン邸のこの部屋に繋がる廊下を歩いている場面を見ていた者がいても?
それが、嘘だと言うのなら貴様の妹の口を割らせてみせようか?」
「カトレアは、リントン家の令嬢であるぞ!そんな事が許されると思うのか!?
そもそも、カトレアに言い寄ったのは貴様ではないか!」
「俺が言い寄る?あんな女に?ふざけるな…向こうからダンスに誘ってきたから断るのも顔を潰すと思って数回踊っただけだ。
それをいいことに自分達で噂をばら蒔いておきながら…何を言い出すのか…。
こちらが相手にするのも面倒で放っておけば自分達の都合の良い噂を広めてレイサレル家の力も手中におさめるつもりだったのだろう?そして、フィーリアに傷を付けウェストン家の力も手に入れる…姑息な手を使おうとするなんて…」
ジークフリードの言葉にフェルナンデスの言葉はどんどん詰まっていく。
フィーリアはどれだけジークフリードがフェルナンデスの企みについて調べていたのだろうかと思った。
それは、先程フェルナンデスから聞いた事をジークフリードが次々と話し始めからだ。
「今じゃ王妃陛下の生家というだけで成り立っている家であるのだから、力を手に入れたいと考えたのかもしれないがな…
しかし、こんな事までして俺が黙っていると思ったのか?」
「たかが、騎士団のしかも第二師団副団長の分際で何が出来る?」
「そうだな、今の俺の役職は第二師団副団長でしかない。しかし、お前が喉から手が出る程欲しかった力を持っているのを忘れたのか?臣下へ降下したといってもレイサレル公爵家の嫡男で王位継承権も持っている力をだ…」
「っ!!やはり、貴様は謀反を企てるつもりか!?」
「……………それを誰が言った?」
フェルナンデスが言った不敬にもあたる言葉にジークフリードは冷静に返した。
「え……?」
「俺が謀反を企てるなんて馬鹿げた話を誰が言っていたのだと聞いている…口を閉ざすつもりなら無理矢理にでも口を割らせるぞ?」
「……っ!…そんな事……王太子派の人間は全員言っている!」
「そうか…王太子派筆頭の貴様の父親であるリントン公爵も言っているという事だな?」
「だから…なんだと言うのだ!?」
「貴様の様な傀儡と話すつもりはもうない。時間の無駄だ。
今日の事、ただで済まないという事だけは肝に命じておけ。」
「傀儡だと!?」
「傀儡だろう?貴様の父親が息子や娘である貴様達へ命じた事なのだからな?」
「何故…」
「何故だ?そんな事も調べられない人間だとこの俺の事を思っていたのか?」
ジークフリードはフェルナンデスへ向けていた視線をフィーリアに向けるとフィーリアの赤く腫れ上がった頬へ手を添えると口を開いた。
「他に痛む所は?」
「身体は受け身を取ったから何ともないわ。」
「あの男の動きが鈍いようだが、フィーが何かしたのか?」
「傷付けて大事になってしまってもと思って、逃げる為に秘薬を嗅がせたの。身体を痺れさせて動きの自由を一時奪うだけで、薬が抜ければ何の後遺症もないし、薬も身体に残らないものよ。」
「そうか…
今日はもう帰ろう。」
「でも…このままじゃ…」
フィーリアはそう言うとフェルナンデスの様子を気にする。
「レイサレル家に早馬で使いを出して処遇を命じる。
それまでは、マクシミラン伯爵に部屋から出さないよう頼んでおく。レイサレル家が身の安全を保証する代わりだから問題はないだろう。」
「あ、僕もレイサレル家の使者が来るまで見張っていますので心配なさらないでください。」
「ユーゴ悪いが頼んだぞ。」
ユーゴにその場を任せてマクシミラン伯爵へこの件についての話をつけた後ジークフリードはフィーリアを連れてエントランスまで戻る事にした。
エントランスで馬車に乗り込もうとする時、傍に居たルークが濡らしたハンカチーフをフィーリアへ差し出した。
「フィーリアこれで頬を冷やして。
僕が傍に居たのにこんな目に合わせてごめんね。」
「ルークが悪い訳じゃないわ。私がカトレア様の誘いに頷いてしまったから…騒ぎに巻き込んでしまってごめんなさい…」
「巻き込まれたなんて思っていないから気にしないで。
リトラル子爵。さっきマクシミラン邸の使用人に確認したけれど、リントン令嬢はかなり前に帰途についたらしいよ。」
「そうか…わかった。
マーヴェス殿…今日のこの事は…」
「誰にも言うわけがないから心配しないでください。」
「感謝する。」
「ルークありがとう。」
「うん。」
そうして、ルークに見送られながらフィーリアとジークフリードは馬車に乗り込んだ。
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