第32話 追憶⑦ ー襲撃ー
本文の内容に残酷な描写がありますのでお気をつけください。
早朝ジークフリードの私室ではジークフリードの起床に合わせ侍従達の動きが始まる頃、違和感にジークフリードは瞳を開けた。
目の前には自分に股がり短剣をこちらに向けるメイドがおり、咄嗟に枕元に隠していた自分の短剣でメイドの短剣を払い落とす。そのままメイドの手首を後ろ手に掴み動きを封じた。
「誰の命令だ?」
「………ッ!誰でも…ありません…」
「お前単独の考えで事を起こしたと言うのか?」
「…………………。」
そんな部屋の異変に護衛のジェストが部屋の中へ入ってくる。
「殿下何が……何事ですっ!?」
「俺を狙ってきた。」
メイドをジェストに渡し、他の護衛を呼ぼうとした時にメイドの呻くような声がした。
「どうした?」
「申し訳ありません…隠し持っていた剣で喉元を自分で刺したようです。」
「…………また、自害したのか…」
侍従や他の護衛達が後始末をしているのをジッと見詰めていたジークフリードにジェストは声を掛ける。
「いくら紹介され王宮入りしているとはいえ、出自が貴族でない平民出のメイドを今の殿下の私室に入れるのはやはり良くありません。」
「貴族出の侍女や女官に暖炉の炭掻きや部屋の掃除をしろと?いくら王族とはいえその者達の親兄弟が黙ってはいないだろう。」
「しかし…寝込みを襲われたのはこれで何度目になるか…」
「俺自身へ向ける殺気ならば、薬で眠らされていなければ何とかなる。そんな事よりもこんな暗殺を実行する人間が王族の居住区に入れる事自体が脅威だ。この居住区には父上や王妃様に兄上も過ごされているんだ。改めて警備の再確認が必要であるし、王族の私室に入室する際のチェックも再検討が必要だ。この件俺からは父上と宰相に伝えるし、ジェストからは近衛騎士団長へ伝えておけ。」
「はい…わかりました……自分が殿下の私室に向かう前に易々と入室させてしまい申し訳ありませんでした。殿下付きの近衛騎士にはより厳しく伝えておきます。」
ジークフリードは、十歳になってから毒で狙われるよりも私室に暗殺者が入り込んで狙われたり、王宮の外に出ている際に襲われる事が増えていた。それでも実行犯が自害をしてしまい、黒幕に辿り着く事がなかなか出来ずにいた。
この日、早朝の襲われた件を国王と宰相に伝え終わり回廊を歩いているとジークフリードを呼ぶ声が聞こえてきた。
「ジーク!」
庭園からフィーリアとレオンが手を振りながらこちらへ向かってきていた。
「レオンにフィー。久しぶりだな。」
「やっと、ジークに会えた。元気だった?」
「ジーク、今回の視察はどうだった?」
ジークフリードは、十歳になってから公務という形で視察へ行くようになった。レトリアル王国では王族は十歳から公務に少しずつ慣れていくために視察に出て報告書を国王へ提出し、現在公務を行う為の力がどの程度あるのか判断する習わしであった。
「王宮内ではわからない市井の事が視察ではよくわかるよ。
レオンも、ウェストン家の様々な学びが本格的に始まったのだろう?体調は大丈夫なのか?」
「僕は、ジークの時程あんなに詰め込んで行ってないからね、耐性を付けるのも少しずつだし問題ないよ。その合間に他の学ぶ事もあって、余計な事に時間を費やさなくて有難いくらいかな。」
「余計な事?」
「親の生き写しのような賢い子ども達との交流とかね?父上が寄宿学院に入ってから自分で交流したい相手を選べって言ってくれてね、そこに時間を費やさなくて良くなったんだよ。」
「お前にはその方がいいだろうな。宰相的にはその交流で人間の見定め方を学ばさせていたのだろうけど。」
「そんなの、一度で十分わかるって!」
「ジークも、兄様も私のわからない話をしないでよ!」
そんな楽しそうなジークフリードとレオンの会話にフィーリアは不満げな顔をして割って入る。
「ああ、フィーごめん。フィーはまた背が伸びたか?」
「ええ。今は馬術の練習を始めたのよ。とっても楽しいの!」
「そうか。じゃあ、今度一緒に遠乗りへ行こうか?俺の馬にもフィーの事を紹介したいしな。」
「ジークのお馬さん?」
「ああ、テッドと言うんだよ。まだ子馬なんだが俺が世話をしている。」
「会いたい!約束よ?絶対にね」
「ああ、約束だ。」
ジークフリードは柔らかな笑みを浮かべてフィーリアの頭を撫でた。
その時、三人の後ろから声を掛けられた。
「おや?久しぶりだね。」
そこに居たのはクリストファーであった。
「兄上。」
「クリス様お久しぶりでございます。」
「クリス兄様お久しぶりです!」
「フィーリアは見ないうちにとても大きくなったね」
「兄上、視察の帰りですか?」
「ああ。先程戻ったんだ。
ジークは先日の視察はどうだった?とても報告書が分かりやすいと父上が褒めていたよ。」
「いえ…兄上にはまだまだ敵いませんから。視察は新しい発見がありとても貴重な時間だと感じています。」
「ジークは、本当に色々な事に優秀だよね。十歳に思えないよ。」
「それは、兄上の事ではないですか。俺は…早く父上や兄上のお役にたてる大人になりたいと思っていますので…」
「暗殺者に狙われるくらい異質で優秀な存在だから…ジークは…」
「え…?」
「先程、父上から少し聞いたよ。また私室へ暗殺者が入り込んだんだって?怪我はなかった?警備態勢が見直されるみたいだね。その案もジークが提案したんだって?本当にジークは頭の回転も早い。ジークと共に国を良くしていける未来を楽しみにしているよ。
これから、報告書を纏めなければいけないから失礼するね。レオン、フィーリアゆっくりしていって。じゃあ…」
その場を去るクリストファーの事を複雑な表情でジークフリードは見詰めた。
「…………………。」
「また、暗殺者が入り込んだのか?」
「今朝な…」
「ジーク…もう少し僕がウェストン家の力を付けたら一緒に黒幕を探るから、絶対に無理はするなよ。」
「………レオンの力は俺でなく兄上に使う力だ。だけど、その気持ちは嬉しいし、ありがたいよ。」
「兄様がクリス兄様の力になるなら、私がジークの力になるわ!」
「フィー。そうか、それは凄い力強いなありがとう。」
「ジーク…僕は…」
「レオン。誰が聞いているかわからない。だけど、俺の立場は周囲が考えているような立場になることはないと思っている。あくまでも俺は第二王子であるんだ。」
貴族の間では以前にも増して誰を立太子するのかという思惑の噂が多くなっていた。
国王の決断に従うという姿勢を崩さない宰相の考えに今レオンが言おうとしている言葉は水をさすとジークフリードは思ったのだ。
それから、一週間後ジークフリードは馬車に揺られていた。視察の地へ向かう為で、王家の紋の入った馬車の周りを護衛の騎士達が騎乗し囲みながらの道のりであった。
その時、馬の嘶きと人間の叫び声がし馬車が激しく揺れ、止まった。
「殿下、賊にございます!お出にはなりませっ……」
不自然に途切れる護衛の声。馬車の外で何が起こっているのかジークフリードはすぐわかった。
本当に賊なのであろうか…?また、自分を狙った暗殺では…?とも思い、傍に置いていた剣を握る手に力を込める。
武術の鍛錬の時に何度もロッソに言われた事がある。
『実戦では隙を見せたら一気に悪い方向へ傾く。温情など考えずに相手の武器を払えなかったら急所を狙え』と…
だからこそ、ジークフリードは毎回暗殺者の武器を払っていた。
しかし、払えなかったら?……そう、ジークフリードは色々な考えが思い浮かんだ。
その時、馬車に近付く足音に気が付く。
(迷うな…決意したんだろ?力を付け黒幕を捕らえると……)
相手に馬車の扉を開けられる前にジークフリードは扉を蹴破る。
そこには護衛してくれた騎士達が血塗れで横たわっていた。そして、目に入ったのは一人の男。明らかにただの賊ではないと思った。
「何者だ?」
「ジークフリード第二王子であるな…?貴殿にはここで命を落としてもらおう」
男は言葉を言い終わると同時に斬りかかってきた。
体格の違いに打ち合った剣からの振動で手がビリビリと痺れ剣を落としそうになる。
気を抜けば殺られる…ジークフリードはそう感じた。
(迷うな…相手はロッソほどの手練れではない…)
───ザシュッッ……
強く踏み込みスピードで間合いに入ったジークフリードが剣で男を斬り裂いた。
肉と骨に当たる感触が手にしっかりと感じた。
耳にも人間を斬り裂く音が聴こえた。
男の呻き声が聞こえた時、鮮血が飛ぶのがしっかりと自分の目に映った。
ジークフリードは自分のドクドクという大きな心臓の音と、激しい呼吸がやけに大きく耳に響いていくように感じていた。
倒れていた騎士の一人が呻き声を上げる。その事に思考が戻り、そちらへ目を向ける。怪我を負ったジェストが上げた声であった。
「ジェスト無事か!?」
「で…殿下…お怪我は……申し訳…ありません…」
「そんな事いいんだ…」
ジークフリードは自分を狙った暗殺者が騎士達へ多大な被害を与えた事に様々な思いが沸き上がった。
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