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黒き獅子は天使に愛を乞う  作者: 一ノ瀬葵
本編

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第27話 追憶② ー果実水ー

文章内に残酷な描写がありますので苦手な方はお気をつけください。

 ある午後の穏やかな日…


 離宮の一室には甘い焼き菓子の匂いが漂っていた。

 アリアの住む離宮の応接室に用意されたお茶菓子や果実水。

 今日は先日まで風邪をひいて離宮に来られなかったジークフリードが体調も戻り久しぶりに離宮へ訪れる事が出来るようになり、ジークフリードと一緒にアリアがお茶の時間を楽しもうと用意させたのだ。


「ジーク。貴方の好きなお菓子を沢山用意したわ。ゆっくりお話しましょうね。もう、体調は良いの?」


「うん!もう元気だよ。風邪っていっても少し熱が出ただけで、すぐ治ったんだよ。」


「良くなったのなら安心したわ。ジークが王妃様とのお茶会の時に美味しいと言っていた果実水も用意したけれど、紅茶もあるしどれを飲みたいかしら?」


「じゃあ、果実水がいいな!とっても美味しかったんだよ。母上も飲んでみたらきっと気に入るよ!」


「それじゃあ、母上もジークと同じ果実水を飲もうかしら」


 メイドが果実水を二人のグラスに注ぎ二人の前に置いた。

 ジークフリードはニコニコしながらアリアが果実水を飲むのを見ながら自分もグラスを握る。

 アリアが一口果実水を飲んでジークフリードへ笑みを浮かべた。


「本当に、美味し……っ…」


 その時、アリアの表情が苦痛に変わり口許を手で押さえた。アリアの口許に添えられた指の間から赤黒いものが滴った時、アリアがグラスを口にしようとしていたジークフリードの手を叩きグラスを払い落とす。


 ガシャンッ──…


 グラスが床に落ち割れた。


「ゲホッ………ジー…クッ…だ…めっ……」


 そのアリアの声と同時にアリアの身体は倒れテーブルに置かれた食器類が滑り落ち割れる音が部屋の中で響き渡った。


「は…は…うえ…?」


「きゃぁぁぁぁぁ!!」


 吐血しながらアリアはジークフリードへ目を向けると最後の力を振り絞るように言葉を発した。


「ジー…ク…宿命(さだめ)に…捕ら…われな…い…で……しあ…わせ…に……な……て…」


 アリアは声が掠れながらもジークフリードへ言葉を紡ぎ、そして言い終わると同時にアリアの身体が激しく痙攣していった。アリアの優しい綺麗な声ではないような唸るような声が部屋に響き渡る。

 侍女や女官の叫び声に部屋の外で待機していた近衛騎士達も部屋へ入ってきた。


 そんな光景をジークフリードはぼんやりと椅子に座りながら見ていた。





 ◇*◇*◇*◇*◇


「黒幕は誰だぁっ!!」


 離宮には叫び声が響き渡った。

 アリアが倒れた一報を聞いた国王のウォルターが訪れ怒りを露にしていた。

 ウォルターと共に離宮へ来た宰相のジョゼフと、王弟であるヴィクターはウォルターを必死に宥めようとしていた。


 アリアが飲んだ果実水に毒が混入されており侍医の処置も虚しくアリアは既に息絶えていたのだ。

 悲鳴を聞いてすぐ入室した近衛騎士によって、給仕していたメイドは捕らえられたが隠し持っていた毒物で自害してしまった状態であった。


「陛下落ち着いてください。臣下の者達が戸惑っております。」


「ジョゼフこれが落ち着いていられるような状況か!?

 アリアが…どうして…アリア…何故…こんな事に…」


「兄上のお気持ちは痛い程わかります。ですが兄上…、兄上と同じように悲しみの淵におり、貴方が寄り添わなければいけない人間がもう一人居るのをお忘れですか?」


 ウォルターは、ヴィクターの言葉に部屋の隅で立ち竦んでいる小さな人影が目に入った。


「ジーク…」


 ジークフリードは涙を溢す事も出来ずそこにぼんやりと立っていた。


「兄上。ジークはアリア様が血を吐きお倒れになり毒に侵させていく様をこの幼さで全て近くで見ていたとの事です。その心の傷を癒せるのは他でもないたった一人の父親である兄上貴方だと思います。

 兄上の怒りも憤りさも悔しさや悲しさもわかります。ですが…」


 ウォルターは唇を噛み顔を歪めた。

 そして、ジークフリードの傍へ行くとその小さい身体を抱き締める。


「ジーク…そなたが一番の悲しみを受けたというのに…すまぬ…」



 国王命令でアリアを毒殺した黒幕を探すもすでに実行犯だと思われるメイドは自害しており、そのメイドの出自からも黒幕へ繋がる怪しい者はわからなかった。

 国王の側妃が毒殺されたという話を公にする事も出来ず知るものには箝口令をひき、アリアは離宮へ入ってから殆んど表舞台へ出ていなかったこともあり、表向きは産後の肥立ちが悪く身体を壊し床に伏せる事も多く今回その事が要因で身罷ったという形をとることとなった。


 アリアが亡くなりジークフリードは部屋に籠る事が多くなった。今まであんなに生き生きと行っていた勉強や始めたばかりの武術の鍛錬も体調が優れないと講師が訪れても部屋から出て来なくなった。ジークフリード付きの護衛として生まれた時から側にいるジェスト・クロウドにはジークフリードは心を許しているのかぽつりぽつりと話すことがあった。


「ねぇ…ジェスト…どうして神様は僕でなくて母上を連れて行ってしまったのだろう…あの時、僕が果実水を飲みたいなんて…母上も一緒に飲もうなんて言わなければ母上はあんなに苦しみながら死なずにすんだんだ…」


「殿下のせいではございません。」


「母上じゃなくて僕だったら良かったのに…

 そうしたら、父上だってあんなに悲しまずともすんだんだ…」


「万が一殿下が同じ状況に陥ってしまわれても陛下はお嘆きになられます。」


「……母上はこんな僕の母上で幸せだったのかな…あの離宮に一人で居てそして、あんな死に方をしてどんな気持ちだったんだろう…

 僕が…居なくなれば良かったんだ…」


 ジークフリードは自分がとても薄情で最低な人間だと思っていた。

 あんなに大好きで、そして自分を優しく慈しんでくれた母親のあんな悲惨な死に方を目の前で見て、そして最愛の母親が命まで落としたのに未だに涙一つ溢す事すらできなかったからだ。



 部屋に閉じ籠っている間にジークフリードは五歳の誕生日も訪れたがジークフリードの殻に閉じ籠るような様子は良くなる事はなかった。

 父親である国王のウォルターやジークフリードの叔父であり王弟のヴィクターは都合をつけ何度も部屋に閉じ籠っているジークフリードの様子を見に部屋を訪れていた。

 そして、今日もジークフリードの部屋をヴィクターが訪れた。


「ジーク、加減はどうだ?」


「……叔父上………」


「ジーク。今日はお前に客を連れてきたんだ」


「客…?」


「ああ。入ってきなさい。」


 扉から姿を現したのはレオンであった。


「ジーク、久しぶり。やっと会えた。

 ジークに伝えたい事があるんだ。」


「レオン…伝えたい事…?」


「あのね、僕の妹が生まれたんだ。ジークにも会って貰いたくて、今日は誘いに来たんだよ。」


「妹……でも…僕は…」


「ジーク。会いに行っておいで。これは、陛下や宰相のお考えでもあるんだ。」


「叔父上…?」


「ジークにはまだ伝えていなかったが、俺はもう少ししたら臣下へ降下し、王族でなくなるんだよ。兄上が国王へ即位され周囲も落ち着いてきた。そして兄上には立派な王子が二人もいる。だから、俺は臣下としてこれからは兄上である陛下を支えようと決意したんだ。」


「え…叔父上まで僕の傍から居なくなってしまうの…?」


「王族ではなくなるが、お前の叔父である事は変わりない。

 住む場所が王宮ではなくなるが、王宮へ出仕したら会うことも出来る。俺はお前の事を一人にはしない。それは、お前の父親である陛下もそうであるし、兄のクリストファーもいる。そして、お前の友人のレオンだってお前の側にいるんだよ。それに、もう一人お前の側に居てくれる存在が誕生したんだ。ウェストン家の姫に会っておいで。赤ん坊と触れ合える機会など滅多にない。今のお前にはとても貴重な体験になると思う。」


 ジークフリードは、自分にとって赤ん坊と触れ合う事がどんな役に立つのかわからなかった。

 しかし、父親である国王の考えならば無下に嫌がる事も出来ない。気乗りはしなかったが、しぶしぶジークフリードは頷いた。





ここまで読んで頂きありがとうございます。

ブックマークもありがとうございます!


毒に対しての知識が殆んどないので調べてはいますが表現に違和感がありましたら申し訳ありません。

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