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黒き獅子は天使に愛を乞う  作者: 一ノ瀬葵
本編

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第22話 恋敵

 音楽に合わせてステップを踏んでいく。

 目の前にいるルークのダンスの腕前はかなりのもので、フィーリアにとってもとても踊りやすかった。

 フィーリアはフェルナンデスと踊った時はとても不快に感じたのにルークが触れてダンスを踊っても不快とは感じなかった。

 それは、信頼しているジェシカの弟だからなのかと、ぼんやり考えていた。


 踊りながらルークが話し始める。


「ダンス、上手だね。」


「ありがとうございます。ルーク様もとてもお上手ですね。」


「ダンスは得意な方だからね。後、姉上に何度も練習に付き合わされたっていうのもあるからかな?

 レオンが上手で負けたくないんだってさ。」


「ふふ。ジェシカらしい。」


「やっと本当に笑ったね。ずっと、表面上の笑みのようだったから本当の笑顔が見たいなって思っていたんだ。」


「そんな事どうして…?」


「それは…僕と同じ様な表情だなって思ったから。

 僕もこんなでも、他の貴族の方達の前ではきちんとした微笑みで対応しているんだよ。そうでないと、要らない敵を作ってしまうからね。君の表情からそんな同じ様なにおいを感じてね。

 でも、姉上からの話だとそんな性格でないと思っていたんだ。

 良かった本当の笑顔が見られて。」


 そんなルークの返しにフィーリアは自分が無理をしていた事が見透かされていたような気持ちになった。それと同時にジェシカが自分の事を色々とルークに伝えている事に恥ずかしいような気持ちにもなった。


「ジェシカはルーク様に私の事を色々話しているのね。」


「まぁね…だけど、う~ん……姉上だけ狡いなぁ…」


「狡い?」


「僕の事も呼び捨てでいいよ。様はいらない。」


「で、でも…」


「もう少ししてレオンと姉上が結婚したら親戚にもなるしね。

 そもそも、僕がレオンって君の兄上の事を呼び捨てにしているのにその妹の君から様付けっていうのも気が退けるからさ?」


 そんな風に言われてみるとそれもそうかとフィーリアは思う。


「それじゃあ、私の事もフィーリアと呼んで?私もルークのお姉様をジェシカと呼び捨てで呼んでるものね。」


 フィーリアはルークの表情が少し緩んだような気がした。


「そういえば、フィーリアはリトラル子爵と婚約しているのだったよね?」


「え?ええ…」


「よく、あの面倒そうな方と婚約したよね。

 あ、悪い意味ではないんだよ。あの方は僕達のような普通の貴族とは違うでしょう?その方と結婚するという事は君もその面倒事を一緒に背負わなければいけないって事だからと思って。」


「面倒事を背負う…?あまり…深くは考えていなかったけれど…ジークは幼馴染だったし…」


「僕の精神力では、あの方が抱えている事には押し潰されているかもしれないなと思うよ。」


「ジークは…とても強い人だから…」


「あの方はね?フィーリア、君は同じように強いの?」


「え?」


「あの方を支えていけるだけ強い?

 姉上からフィーリアの事を色々聞いていてね、とても活発で元気のいいそれでいて優しいご令嬢だって聞いていた。

 君とは今日初めて会ったばかりだけれど、無理して頑張り過ぎているんじゃないのかな?って君を見ていて思ったんだ。」


 いつの間にかダンスは終わっていて、ルークにエスコートされながらまた壁際の椅子の所まで連れてこられ座るよう進められた。


「あの方の話を今していても表情が固いけど、君はあの方と婚約を結んで幸せ?」


「どうして…そんな事を聞くの?」


「それは、僕が君に興味を持ったからかな?」


「え…」


 自分をジッと見詰めるルークの言葉にフィーリアはどう反応して良いのかわからなかった。


「何を…そんな冗談を言わないで?」


「冗談じゃないと言ったら?」


「だって、私は婚約者がいるのよ?」


「うん。知っているよ。そして、今は色々あってすれ違っているともね?

 それに、まだ婚約でしょう?婚姻を結んでいる訳ではないんだから不利ではあるけれど、絶対に無理ではないと思う…」


「何が…?」


「何か…言ってもいいの?」


 やはり感情の読みずらいルークに見詰められてフィーリアは言葉に詰まってしまった。

 その時、横から自分の名前を呼ばれた。


「フィー」


「ジーク…?」


 そこに居たのはジークフリードであった。

 このドレスを贈ってくれたのはジークフリードではとフィーリアは勘づいていた。だから、もしかしたらこの夜会へジークフリードが出席して会えるかもしれないと思っていた。

 まだ、会いたくないような、でも、会えなかった数日間モヤモヤとしていた気持ちもあり、嬉しいような戸惑うような複雑な心境であった。


 ジークフリードはフィーリアの横にいたルークへ目を向けると挨拶を交わす。


「ジークフリード・レイサレルです。貴殿には、王宮で何度かお会いしたかと…先程、貴殿のお父上のマーヴェス侯爵閣下にも挨拶をさせて頂きましたが、本日はこちらの夜会へ招待頂きありがとうございます。」


「マーヴェス侯爵家嫡男のルーク・マーヴェスです。この度は我が家の夜会へ出席してくださりありがとうございます。

 直接お話させて頂いた事はありませんが、王宮で何度かお会いしたことは僕も覚えております。王宮への出仕はまだ数える程ですので…正式に寄宿学院(パブリックスクール)を卒業した後にはどちらかでお世話になるかと思いますのでその時は宜しくお願い致します。」


「ええ、こちらこそ。

 それで、フィーリアと話されているところ申し訳ありませんが、彼女と話したい事がありますので失礼させて頂きたい。」


 そうジークフリードは言いフィーリアの方へ足を進めると、ルークはジークフリードとフィーリアの間に入りフィーリアを隠すかのようにフィーリアの前へ立った。

 そんなルークの行動にジークフリードは顔をしかめる。


「何か…?」


 ルークはジークフリードへ作り物の笑みを向けた。


「姉上から、フィーリアに近付く者がいないように傍にいるよう申し使っておりますので。」


「……自分は彼女の婚約者でありますが…?」


「ええ、知っていますよ?

 でも、まだ婚約者なだけですよね?」


「…………。」


 ルークの言葉にジークフリードは訝しげな表情を浮かべる。

 そんな時、こちらに声をかける人物がいた。


「ジーク!ルーク!」


 それは、レオンでジェシカを伴い三人のもとへやってきた。


「レオン、姉上。ダンスはもういいのですか?」


「え、ええ…ルーク…貴方…」


「………………。」


 ジークフリードが、レオンを無言で見据える。そんな、ジークフリードにレオンは苦笑いを浮かべた。


「あ~…想定外の事が起きてね?」


 そんなレオンの言葉に反応したルークは微笑みを浮かべながら話し始めた。


「嫌だな…想定外だなんて。

 僕、知っていたよ?レオンと姉上がこそこそと相談しているのも、この夜会でリトラル子爵殿と何か計画しているのもね?」


「いや…別にこそこそとはしていたつもりはないけど…

 ルーク……。君はフィーの事…」


「ぷっ…、嫌だな…皆そんな顔をしてさ、婚約者のいるレディにこの僕が横恋慕なんてする訳がないでしょう?

 フィーリアとは良い友人になったんだよ。

 リトラル子爵、先程は申し訳ありません。姉上からのお許しも出そうなので、フィーリアとゆっくり夜会を過ごしてください。」


「………………。」


 ルークはそう笑みを浮かべながらジークフリードに言葉をかける。そんなルークの事をジークフリードは表情を変えずに見据えた。


「フィーリア、今日は一緒に過ごせてとても楽しかったよ。

 また、機会があったら一緒にダンスを踊ろうね。」


「ええ…こちらこそ、今日はありがとう。」


 ルークはフィーリアに言葉をかけながら手を取り甲へキスを落とすと手を振りながらその場を離れていった。

 しかし、この場に残された者達になんとも言えない空気が漂っていた。





ここまで読んで頂きありがとうございます!

ブックマークもありがとうございます!



追加登場人物


ジェシカ・マーヴェス侯爵令嬢(レオンの婚約者)


ルーク・マーヴェス侯爵嫡男(ジェシカの弟)

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