第14話 夜会
カラカラと馬車内には車輪の音が響いていた。
フィーリアはそっと首元に輝いているそれに指先で触れる。
数日前に、ジークフリードからフィーリアの元へ届いたものが今、触れている物だった。
金の台座にルビーをあしらった首飾り。
よく男性から大切な女性への贈り物で自分の色の入った物を気持ちの大きさや自分の大切な女性である事を周囲に知らせるという意味合いで贈られるという事は母やジェシカ、侍女達から聞いてフィーリアも知っていた。
だからこそ、この贈り物が届いた時戸惑ってしまった。
フィーリア付きの侍女達は色めきだっていた。
台座の色も中央の主張している石や回りに散らされている石もジークフリードの瞳の色と同じであり、この首飾りと一緒に添えられていたメッセージカードには夜会で付けて欲しいと記されていたのだ。
しかし、ジークフリードが今日ウェストン家へ迎えに来てくれた時はこのネックレスを付けている事に特に何もふれてはこなかった。
(……似合っていなかったのかな…?
それにしても…こんな首飾りを付けて夜会へ行って大丈夫なのかしら?もし、カトレア様に会ったら…勘違いされてしまうのでは…)
フィーリアが小さく溜め息を吐いた時、ジークフリードが口を開いた。
「……似合っている…」
「え…」
「それ。付けてくれてありがとう。」
「あ…こちらこそ…こんな綺麗な首飾りを贈ってくれてありがとう。」
「いや…婚約してからまだ何も贈っていなかったからな。
本来ならデビューの時に贈るべきだったのだろうが…遅くなって悪かった。」
「デビューの時も貰ったわよ?綺麗な髪飾りを…」
ジークフリードは表情を緩めるとフィーリアの髪へ手を伸ばした。
「これも今日も付けてくれているのだな。
デビュタントの時は用意をする時間がなかったから、一から作る事が出来なく間に合わせの既製品になってしまったんだ。」
「間に合わせだなんて…私のお気に入りよ?それに…とても…嬉しかったの…」
そんな自分の言葉が恥ずかしくてフィーリアは俯きかげんになり最後の言葉はとても小さな声になってしまった。
そんなフィーリアにジークフリードは柔らかい笑みを浮かべた。
上目遣いでそっとジークフリードへ目を向けるとジークフリードのその表情を見たフィーリアはさらにジークフリードの方を向けなくなってしまった。
(どうして、そんなに優しい表情をするの?勘違いしてしまうから…お願いだからそんなに優しくしないで…)
モルティオ公爵家に到着し、ジークフリードのエスコートで館の中へ入る。
今夜の主催者で伯父伯母でもある公爵夫妻へ二人で挨拶を交わした。
公爵夫妻にはすでに母から話が通してあるようであった。
今夜の夜会にはフィーリアの父母やレオンとジェシカ、そしてジークフリードの義父母であるレイサレル公爵夫妻も参加していた。
レイサレル公爵夫妻には既にデビュー前にフィーリアの父母と一緒に挨拶をレイサレル家で交わしていた。
珍しく夜会へ出席しているジークフリードとフィーリアには他の貴族達からは注目の的で何人もの人達が挨拶を交わしに来た。
フィーリアの伯父の館での夜会という事もあってか、好意的な人達ばかりで、フィーリアの緊張も少しずつ解れてくる。
そんな時、ジークフリードを呼ぶ声がした。
「おい、ジークフリード」
「団長。団長もこちらの夜会へ出席されていたんですか?」
「ああ、一応これでも貴族の端くれだからな。
それで?俺にはお前の婚約者を紹介してくれないのか?」
ジークフリードはフィーリアの背中に手を添えた。
「フィー、こちらは俺が所属している騎士団の第二師団団長のロッソ・グレゴール侯爵だ。
団長。自分の婚約者でウェストン侯爵令嬢のフィーリア・ウェストン嬢です。」
ロッソはジークフリードと同じ位の背丈であるが、ジークフリードよりも身体の厚みがあり短く刈り上げた茶色の髪に顔には幾つもの傷があり鋭い目付きをしているため一見すると近寄りがたく怖い印象を受けるが、裏がない笑顔をフィーリアに向けてくれた。
「レディ・ウェストン。フィーリア嬢とお呼びしても構わないだろうか?
ジークフリードの一応上役でもあるロッソ・グレゴールだ。宜しく。
レディ・ウェストンのお父上である宰相殿にはよく世話になっているんだ。」
そういうと、ロッソはフィーリアの手を取り指先に挨拶のキスを落とす。
「はじめまして。フィーリア・ウェストンです。名前でお呼びくださいグレゴール侯爵様」
ロッソに手を取られたままであったので片方の手でドレスを摘まみ淑女の礼をとる。
「フィーリア嬢、自分の事もロッソと呼んでくれ。
ジークフリード…お前には勿体ねぇなぁ…これだけの美貌でさらに剣の腕もなかなかなのではないのか?」
フィーリアは気まずい気持ちになった。あまり武術を嗜む事はこの国の淑女では、はしたないとされているからだ。
そんな中、ジークフリードの上役にもあたるロッソからその事を指摘されて、ジークフリードが恥をかいてしまったらと思ったのだ。
「あの…」
「あぁ、女性に失礼であったら申し訳ない。なんせ、思った事が口から先に出るから妻にもよく注意されるんだよ。」
そう言うと、ロッソは手に取っていたフィーリア手を裏返し手の平を向けた。
「この剣ダコはお遊び程度で出来るものではない事がわかる。真剣に長い期間剣と向き合ったものだ。ウェストン家の事情は少しばかり知っているし、そんな事を知らなくともこんな真剣に取り組んできている事に嘲笑なんて向ける訳がない。少なくとも俺は絶対に蔑むなんてできないな。だから、信用してくれるとありがたい。」
「それは…」
「フィー、団長は信用出来る人物だから大丈夫だ。
後、武術の事になると周りが見えなくなるんだ。」
「おい、人の事を武術馬鹿のような言い方はよせよ。
まぁ、あながち間違ってはいないがな…と、いうかフィーリア嬢の実力を実際見たいが、そんな事を言ったら宰相殿にキレられそうだな…しかし、騎士団にスカウトしたいくらいだよ」
「宰相にそんな話聞かれたら本当に冗談ではすまなくなりますし、婚約者の俺もそんな事は許しませんよ。」
「まったく、珍しいものが見られたな。こんなお前の表情を見たら第二師団の奴等が度肝を抜かれるぞ。
おっと…あんまりフラフラしていると奥方に怒られるから俺はもう行くな。また、明日。
ではフィーリア嬢、これからもこいつの事を宜しくな。」
「はい…こちらこそ。」
ロッソが二人の元から立ち去ると、ジークフリードは口を開く。
「フィー?怖かったか?」
「え?いえ…なんだか…見た目と中身の違う方だなと思って…
怖そうな方かと思ったけど、とっても優しい方ね…」
「まぁ、実際見た目も怖いが中身も怒らせると容赦はないぐらい怖い人だけれど、人の事を身分や権力、財力で見ずに人物そのものを見て判断してくれる貴族で役職のついている人の中では珍しい人間だな。第二師団はそういう団長が率いているから騎士団の中で他の師団に比べると団員は平民が多いんだ。人柄と実力勝負のような選考の仕方だからな。だからこそ、信用出来る人だと、俺は感じている。少し俺に対して変に構ってくる事はなんとも言えないが…」
フィーリアはだからあんな砕けた様子でジークフリードに関わっていたのかと感じた。
「ジークが尊敬している方なのね?そんな方から認められて副団長を任されているなんて誇らしいわね。」
「ああ、そうだな。」
ジークフリードの嬉しそうな表情にフィーリアも嬉しく感じた。
フィーリアに対しても真摯な態度で接してくれたロッソに嫌な感じは一つもなかったのだ。
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