第13話 すれ違う想い
カトレア主催のお茶会でフェルナンデスと話した後、フィーリアはどんな事を他の人達と会話をしていたのかあまり覚えていなかった。
フェルナンデスの態度と言葉に他の事を考えられなかったのだ。
また、会話の中でフェルナンデスは言葉には出さなかったが、ジークフリードの愛する者はフィーリアではないと、フィーリアに伝えたかったのだと思った。
そんな事を自宅へ帰る馬車の中で考えていると同じ馬車に乗っているミアが口を開いた。
「フィーリア様…何もお役にたてず申し訳ありません…」
「え?別にお茶会で何かがあった訳ではないもの、役にたつも何もないわよ。そんな事を気にしないで。
そもそも、お茶会へ護衛を伴うだなんてジークも兄様も大袈裟なのよ。これで本当に従僕の護衛なんて連れていっていたら良い笑い者だったわ。」
「いえ…そんな事はありませんでした。直接的な危害を加えられる事はありませんでしたが、精神的に追い詰めるような悪意には満ちておりました。」
「それは、私が対応しなければいけない事でしょう?これからの社交の事を考えたら今日のお茶会での事なんてきっと序の口なのでしょうね。今から気が重たいわ。」
「私が意見しては身分的にも立場的にも良くない事はわかっておりますが…フィーリア様はリトラル子爵様の正式な婚約者ですのにあのような言われ方には憤りしか感じませんでした。」
「正式な婚約者ではあるけれど、政略的なものなのは確かよ。
それに、ジークに私でない想う方がいる事も確かで、名前すら公にはなってはいないけれど…きっと、今日その本人の前にのこのこと私は現れたのだと実感したわ。きっと私の想像は当たっていると思う…」
「そんな事…リトラル子爵様はフィーリア様の事をお大切になさっておりますわ。」
「ええ。それは私もわかっている。
だけど、それは父様の手前や親友の妹という立場、幼馴染の情のようなジークの優しさでよ。ジークの恋路の邪魔者なのにね私は…」
「フィーリア様…」
フィーリアは、悲しみを隠した笑みをミアに向けた。
ウェストン邸へフィーリアが戻り着替え終った頃侍女から声をかけられる。
「フィーリア様、只今レオン様がお戻りになられましてフィーリア様とお話をなさりたいとの事で、応接室へお越し頂けますか?」
「え?兄様が?わかったわ。すぐ向かうと伝えてくれる?」
フィーリアが身だしなみを整えた後応接室へ入るとそこには兄のレオンの他にジークフリードも待っていた。
「ジークまで…どうしたの?」
「僕がさ、帰ろうとしていたら我が家の馬車の前でジークが待ち構えていてね?それで、一緒に我が家へ帰ってきたんだよ。フィーの事が気になって仕方がなかったんだろうね。」
「今日の茶会は…何もなかったか?」
「……………。
ジークも兄様も心配性すぎるのよ。特に何もなかったわよ?だから護衛なんて大袈裟だって言ったのよ。」
「…………それでも何かあっただろう?いつもと表情が違う。」
フィーリアはどうしてそんな事がジークはわかるのだろうかと思った。
「社交界の洗礼は少しあったけれど…許容範囲よ?今回は粗相もしていない筈だわ。それに、カトレア様が色々とご令嬢方に口添えくださったから…本当にお優しい方なのね?」
「カトレア嬢が優しい…ねぇ?カトレア嬢からジークの事とか聞かれなかったの?」
「ジークが王宮で過ごしていた頃からの知り合いなのかとは聞かれたわ。カトレア様は王妃様の姪にあたるしよく王宮へ行かれていたのね、その頃からジークもカトレア様と交流があったなんて知らなかったわ。教えてくれたら良かったのに…」
「彼女が王宮で交流していたのは、王妃陛下と王太子殿下が主だ。俺は挨拶は交わした事は一度か二度ぐらいはある程度で殆ど話した事もない。俺が関わっていたのはお前達兄妹だけだ。」
フィーリアはジークフリードの言葉にまた違和感を感じた。カトレアは幼い頃からのジークの事をとても知っているかのような口調だったからだ。それなのに、ジークフリードは幼い頃は殆ど話した事がないと言う。二人の話がつながらないと思った。
その時、フィーリアの頬へジークフリードの指先が触れトクンと胸が高鳴った。
「他に何もなかったか?」
(どうして…そんなに心配するの?それともカトレア様に私が何かを言ったのか気になるの?)
「他になんて…
あ…そういえばカトレア様のお兄様のフェルナンデス様にもお会いしたわ。ジークも兄様もフェルナンデス様と交流があるのね。フェルナンデス様がそんな風に仰有っていたから…」
そう言うとジークの眉間に皺が寄った。
それからレオンへフィーリアが顔を向けるとレオンもあからさまに嫌な顔をしていた。
「フェルナンデス…?ああ…あいつね…っていうか、フィーはどうして、あいつをファーストネームで呼んでいる訳?」
「ファーストネームで呼んでほしいと言われて…兄様、あまり仲が良くないの?」
「ああいう部類の人間はね…人好きするような表情で話してくるけど騙されちゃ駄目だよフィー。嫌だな…あいつの目にフィーが晒されたなんて、なるべくフィーの話はあいつの前ではしなかったんだけどな。あいつにはフィーの事を近付けたくなかったのに…」
なんとなくフェルナンデスに感じた不安感はレオンが言っているような部分を自分が直感的に感じていたのかと思った。
そして、ジークも表情からレオンと同じような事をフェルナンデスに対して感じているのかとも思った。
「ジークもフェルナンデス様とはあまり仲が良くないの?」
するとまたジークフリードの眉間に皺が寄る。
そんなに嫌な表情をするぐらい嫌いなのだろうかとフィーリアは思う。カトレアの兄であるのにとも…
ジークフリードは溜め息を一つ落とすと触れていた頬の指先を滑らせフィーリアの下ろしていた髪の毛を一束手に取る。
「…………レオンも言っているが…お前とはあまり親しくはしてほしくはない。」
そう言うと手に取っていたフィーリアの髪の毛に唇を寄せた。
──トクンッ……
髪の毛に感覚なんてないはずなのに心臓が脈打つ。ジークフリードはあまり意識した行為ではないのだろうが、フィーリアにとってはそんなジークフリードの自分に触れる行動の度どうしていいのかわからなくなった。
そんな気持ちをジークフリードに悟られないように動揺を隠し話しを続ける。
「き、聞きたい事はそれだけ?今日、兄様と一緒に帰ってきたのは今日の事を聞くだけだったの?」
「いや…今日は今度出席する夜会についての話もしたかったからだ。」
「夜会?」
「お前宛にも届いていると思うが、近々モルティオ公爵家で行われる夜会へ出席しようかと宰相やレオンとも話していたんだ。」
「モルティオ公爵家は母上の実家で伯父上が当主であるから、初めての貴族の館で行われる夜会への参加でも気心の知れている場所であればフィーも安心だと思ったんだよ。」
「先日の王宮での舞踏会とはまた違うが、だが本格的な夜会だ。俺の婚約者として一緒に夜会へ出席してほしい。」
そう言うと、ジークフリードはフィーリアの手を取り指先に唇を寄せた。
先程のお茶会でフェルナンデスに同じ事をされた時、フィーリアは正直に言ってあまりこの行為を好きになれないと感じた。
しかし、ジークフリードにされた同じこの行為は胸が高鳴って嬉しくて、そして切なく感じる行為に感じた。
フィーリアは、自分の事を沢山考えて社交に不安がないよう気にかけてくれるジークフリードやレオンの優しさに対して自分の不甲斐なさに苦しくもなった。
(こんな重荷にしかならなくて邪魔者の婚約者な私はジークにとってなんの得があるのだろう…)
「フィー?不安か?」
(どうして…こんな私にこんなに優しくしてくれるの?婚約者だから?)
「ううん…大丈夫よ。婚約者として…頑張るわ。」
(そうじゃないの…ジークが傍に居てくれるから不安もなくなるのよ…ありがとうって、本当は言いたいし言わなければいけない事はわかっているの。意地をはってごめんなさい。)
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