プロローグ 島への誘い
今回この作品を書くに至った経緯について。
私はSummer Pocketsという、Visual artsのKeyというブランドが発売した忘れられない夏を描いた物語に強い感銘を受けてこの作品を書くに至りました。
かなり似ている設定やもはやそのまま持ってきたのではないかという設定まで混じっていますが、私はそれを隠すことはしません。むしろ見せた上で、どのようにそれをオリジナルに昇華していくかだと思っています。
各ルートを、ぜひこれからお楽しみくださいませ。
[この島にはある伝説がある。
この世界には万象を司る神がいた。炎を燃やし、水を降らせ、木々を殖やし、大地を動かす、偉大なる神様がいた。そしてその神はある、光る鳥を世界に生み出した。
またその神は、因果と光、時間を司り、それぞれにこの世界を楽しんでいくのに十分な力と、感情と、時間を与えた。
その神は「ライティア」と呼ばれ、人々の記憶に残り、代々その島に祀られていた。
ライティアはかつて七海島に上陸して、その時存在した混沌に満ちた世界において、島の少女達の願いを受け取り、その世界を再構築した。いつしかそれは英雄と呼ばれ、さらに時間が経過するにつれて神格化されていったのであった。]
「っと…..とりあえず神話をベースに粗筋を書いてみたけど….イマイチだな。」
彼は羽依佐類。文芸部に所属しながら、ことあるごとにポエムを詠んでくる、いわゆる変人の類の人間である。
彼は今、重大な局面に直面していた。そう、なかなかインスピレーションが湧かず、文芸部での成果が伸び悩んでいるのである。これをなんと呼ぶか、世間一般的にそれは「スランプ」と言うのであろう。
解決するには何か刺激が必要だが、それを得る機会を求めてもやってこないのが現代社会の宿命でもある。
類はその先のエピソードを作ろうとするが、なかなかセリフが思い浮かばない。
「…..あー…これも違う…なんかこう…セリフに質量がない」
もう一回消して、また作り直す。格闘すること数十分。いまだにこれだと思うものが出てこず、デスクトップに浮かぶ空白を眺めていた類は、ついに諦めて現実逃避をし始めた。情けない男である。
「あー!もう書けん….」
類は、その小説制作のウインドウを閉じて、少し動画を見てから、ふと思い出したようにゲーム画面を開いた。
ホーム画面には、そよ風のふく草原に佇む8人のヒロイン達….そして、その画面の上部にはタイトルが記載されている。「Summer Pockets Reflection Blue」実は彼はちょうど、そのゲームの久島鴎という、常にキャリーバッグを引きずっている黒髪の少女のルートをクリアしたところだったのだ。
「やっぱこの作品はすごいわ….俺もこんなものが描けたらなぁ….」
類はサマポケだけではなく、あらゆる鍵の作品を買い漁っては、全パターンを試すほどのオタクでもあった。
そして、今度は空門蒼のルートを始めていこうと思っていたら、スマホからLINEでメッセージが送られてきた。
凪沙からだ。
『類!執筆順調?….まーたサマポケに逃げ込んでるんでしょ。そりゃ神作だけどさぁ…』
今まさに類がしていることを正確に言い当てた。この女、恐るべし。類は彼女に見透かされているような感じがして、少し戦慄し、冷や汗をかいた。固まっていると、もう一つ、今度は少しだけ長めのメッセージが飛んできた。
『じゃなくて、そんなことより、美樹さん知ってるよね?私の叔母の。』
類は少し記憶を探り、そう言えばそんな人いたかなという程度に覚えがあった。しかし、なぜ急に従叔母の話しが出てきたのか見当もつかなかった。
『知ってるよ。でも、なんで急に?』
類はメッセージを送り、しばらくゲームをしながら待とうかなと思っていたら、すぐに既読がつき、数十秒後またメッセージが送られてきた。
『でね、その美樹さんが、蔵に収蔵された曾祖父ちゃんの遺産が多すぎて手に負えないから、手伝ってって言ってきたんだよね。だからおいでよ。もしかしたら可愛い女の子に出会えちゃうかもよっ?そしたらインスピレーションぐらい湧くでしょ。』
類はそれを読み進めていく。彼の曾祖父は、文学作品を朝から晩まで読んで、なんなら若い頃はよく新しいテーマを見つけては、長編小説を紙に記していたらしい。古文書すら、曾祖父にとっては創作の材料でしかなかった….いや、「でしかなかった」のではなく、「ですらあった」が正しいだろう。
類はしばらく考えた。曾祖父の作品を読んでみれば、何か新しい作品のテーマが思い浮かぶかもしれない。そうでなくても、このままここで過ごすよりは、少しは有意義な時間が過ごせるかもしれない。
そう思った類は、行くという方向で返事をした。そして、それから彼は準備をして…
「…..着替えだろ?….まあ日用品は全部入れておいて….あとは….そうだな….PCとカメラは持っていくか。」
類はカメラとPCを持っていくことにした。人口数百人だか数十人だかわからない島にわざわざPCを持っていってもWi-Fiが繋がるかどうかもわからないが、スマホよりはまだずっといろんなことができるし、何より印象に残ったものをあとでメモにしてまとめておくのはPCの方がずっと都合が良い。
カメラの方は、夏の思い出の記録のためである。やはり、忘れられない日常というのは往々にして忘れるか、思い出すうちに変わっていくものであるから。
そう思いながら、荷物を整理していき、2日後、出発の準備が整った。類は朝早くに港に行き、七海島行きのフェリーを待つ。どうやら、凪沙は1日前に島の方に移動しているようで、昨日類がメッセージを送っても届かなかった。スマホに関しては電波が届かないか悪いようであった。
それから、待つこと数十分。フェリーが近づいてくる音がする。港に入港し、人が数人ばかし降りてきた。
「….…俺は選ばれし渡りの人ということか。」
そう言って、キャリーバッグを引きながら、ボストンバッグを担いで、船に乗り込んだ。美しい景色、あるいはそれ以上のものが待っているのかもしれない。類はそう期待を胸に、七海島へと出発するのであった。




