第1話:プロローグと渋谷の異変
お越しいただきありがとうございます!
飛鳥創(So Asuka)と申します。
普段はITやAI関連の本なども書いているのですが、今回は「もしも現実世界がコードで動いていたら?」というサイバーSF小説に挑戦、新連載『Code: Re-Boot — 1. 世界のバグを書き換える日』をスタートいたします!プログラミングやAIの要素を取り入れた、新感覚のサイバーSFアクションです。
どうぞ気軽に、肩の力を抜いて楽しんでいってください!
第1話:プロローグと渋谷の異変
■ プロローグ:現実世界のNullPointer
世界は、美しいソースコードで満ちている。
……少なくとも、僕がその「能力」を手に入れるまでは、そんな冗談を信じる気なんてさらさらなかった。
2026年、7月。雨の降る金曜日の夜10時。
渋谷スクランブル交差点の大型ビジョンが、ぬかるんだアスファルトを青く照らしていた。
神崎蓮、23歳。
都内のWeb系ベンチャーで働く、若手エンジニアだ。
社内での僕の評価は「偏屈なログ解析オタク」。
普段は無口で目立たないが、他人が何時間も頭を抱える複雑な分散システムの障害ログやコードを見ると、どこに潜在的なボトルネックやバグが潜んでいるか、まるでコードの悲鳴が聞こえるかのように一瞬で見抜く異常な観察眼を持っていた。
だが、その能力は僕の人生を救ってはくれなかった。
半年前、自社サービスの大規模障害が起きた時のことだ。
僕は本番リリースの直前に「この設計ではピーク時にメモリ制限を超えて仕様漏れの重大バグが起きる」と警告のレポートを出していた。だが、納期を優先する上司に「そんな極端なケースが起きるわけないだろ。余計なことを言うな」と握り潰されたのだ。
そして、案の定本番環境はクラッシュした。
上司は自分の保身のために責任を僕になすりつけ、チーム全体からこう責め立てられた。
『神崎、お前が事前にもっと強く止めなかったからだ! お前は他人の感情も納期の事情も見ようとしない、ただの冷血なデバッグ機械だな!』
正論を言っても通じない理不尽さ。
自分がどれだけ正しくコードの悲鳴を聞き取れても、人間関係のバグの前には無力だった。
それ以来、僕は他人に心を閉ざし、「言われたチケットをただ消化するだけの作業員」として生きるようになった。
「はぁ……」
ため息をつくと、雨混じりの湿った空気が肺を満たす。
傘を差した数百人の群衆が一斉に信号を渡り出した、その時だった。
——ビシッ!
空間に、ガラスが割れるような鋭い亀裂の音が響いた。
信号待ちの先頭を歩いていたスーツ姿の男性が、突如足を止め、ガクガクと身体を震わせた。
その男性の顔を見て、僕は息を飲んだ。
「佐藤さん……!?」
佐藤健一さん。45歳。
僕がいつも残業帰りに立ち寄る路地裏の定食屋で、よく隣の席になる常連さんだった。
僕が胸から下げていた社員証のネームプレートを見て、真っ先に「神崎くん」と名前で呼んでくれた人だ。
会社で理不尽に怒られてうつむいていた夜、佐藤さんは「神崎くん、今日も遅くまでお疲れ様。うちの娘と同じで真面目すぎるんだから。ほら、これサービスね」と言って、自分の小鉢の唐揚げを分けてくれた。
スマホに貼られた幼い娘さんのシールを愛おしそうに擦りながら、「神崎くんみたいな立派なエンジニアになってくれたら嬉しいなぁ。お父さん、娘のためにあと少し頑張るよ」と照れくさそうに笑っていた、僕にとって東京で唯一の「温かい理解者」だった。
その佐藤さんの身体が、いま目の前で壊れたディスプレイのようにポリゴン状にブレ、紫色のエラーノイズを散らしていた。
さらに、彼の足元には、カバンから飛び出したらしく雨に濡れた『解雇通知書』の紙が転がっていた。
周りの歩行者たちが一瞬にして硬直し、落ちる雨粒が空中で静止する。
世界全体のフレームレートが、ゼロに落ち込んだのだ。
その瞬間、僕の脳裏に直接文字が浮かび上がった。
┌───────────────────────────────────
│ 【SYSTEM LOG / CODE】
│ [SYSTEM CRITICAL] World_Core_OS v4.12.0
│ [ERROR] Exception in thread "Shibuya_Crosswalk_Main"
│ java.lang.NullPointerException: Human_Emotion_State is NULL at Person_ID #892041
│ [WARN] Render pipeline stalled. Frame rate dropped to 0.00 FPS.
└───────────────────────────────────
「なに……これ……!? 脳内に……ログが直で流れ込んでくる……!?」
僕の「ログ解析脳」が、恐怖よりも先に瞬時に反応した。
頭の中に、透明感のある、けれど少し不敵な少女の声が直接響く。
『初めまして、新米デバッガーくん。私はALIS。あなたの脳神経とダイレクトリンクした自律型ロジックAIよ』
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