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『サクリファイス・チェンジ』
スキル付与の際、オルンディーヌはそう言っていた。そして、滅多に現れないスキルだとも。俺が急に変な場所に移動してしまったのは、十中八九そのスキルのせいだと思われる。が、詳細を聞く前にこんな状況になってしまったので、確かめる術は何も無かった。
「俺……は、今日、イルミナイツ学園に入学して、そこで、スキル付与があって……儀式が終わった瞬間、ここに」
「ふむ……スキルは、なんだったのですか?」
「オルンディーヌ校長が『サクリファイス・チェンジ』って。ただ、詳細を聞く前に、ここに来ちまったから詳しくは……」
「なるほど……随分と厄介なスキルを付与されたようですね」
「は!?」
この男は、『サクリファイス・チェンジ』を知っている……!?
思わず立ち上がった俺は、胸ぐらを掴む勢いで美丈夫に詰め寄る。だがその勢いに負けることなく、男はふわりと立ち、俺からひとつ、距離を取った。
「えぇ、まぁ……『サクリファイス・チェンジ』とは、とある条件下で強制的に位置が変わってしまうというスキル……言葉を選ばずに言うのならば、生贄、といったところでしょうか」
「……生贄」
「条件については、オルンディーヌ氏に聞いてみなければ分かりませんが……少なくとも、私たちのパーティーにいる、ディアと入れ替わったのは確かでしょう」
とある条件下で、強制的に位置が入れ替わる……それが、『サクリファイス・チェンジ』。冗談みたいなスキルだが、目の前の男が嘘をついているようには見えないし、実際に俺はまったく知らない場所にいる。そして、ディアというやつと、入れ替わってしまった。
突拍子もない話に、ため息を落とす。なんだか頭がぐちゃぐちゃだ、ありえなさ過ぎる。
「……とりあえず、ここはダンジョンなんだよな……一旦学園に戻らないと」
「そうですね。私達もディアを迎えに行かなければなりませんから、お供しましょう。あなた、名前は?」
「リードル。……いや別に、それは申し訳ないし、ひとりで……」
「入学したてと言うことは、まだEランク冒険者なのでは?ここはダンジョンの57階層……少なくとも、Cランク以上でなければ出ることも一苦労ですよ」
「……すんません、よろしくお願いします」
「えぇ、もちろん。私のことはナタとお呼びください」
ナタと名乗った男……そして先程の少女2人は、少なくともCランク以上の冒険者ってことか。冒険者は能力値によってランクが変わるのだが、3人……いや、4人でダンジョンに入るパーティーは少ない。まだ他にも仲間がいるのか、それとも相当な実力者なのか。
何しろ、まだEランクになりたての俺とは別格である。ここは大人しく仲間に入れてもらうほかないようだ。
「ルルカ、カラメル、そろそろ行きましょうか」
「……」
「うぃーっす!しっかし、ディアのやつどこ行ったんだろうなー?」
「あぁ、そのことですが、おそらくイルミナイツ学園にいるかと」
多少身綺麗になった2人と合流したナタが、経緯を簡単に説明する。俺のスキルについては若干の戸惑いを見せたものの、そういうスキルもあるか、と割とすぐ受け入れていた。
「じゃあ、ちょっとの間だけどよろしくな!えーっと……」
「リードル」
「よろしくなリードル!あたしはルルカ!このパーティーで戦士やってんだ」
「よろしく、ルルカ。……それで、あんたは……」
「……」
ルルカの、気持ちがいいほどあっけからんとした性格は、きっとこのパーティーですごく重要な役割を担っているのだろう。ただでさえじめじめとしたダンジョン攻略は、どれだけ仲のいいパーティーでもギスギスしやすいと聞く。そういう時に、底抜けに明るい奴がいてくれると助かるのだと、かつての知り合いはそう言っていた。
「……カラメル」
もう1人の少女は、かなり無口なようだ。出会って少ししか経っていないものの、初めて声を聞いた。しかしこれが彼女の通常運転なようで、ナタやルルカに気にしたそぶりはない。
「よろしく、カラメル」
俺の言葉にこくりと頷いた彼女は、ふらふらと歩き出したかと思えば、近くに落ちていた枝でがりがりと地面に何かを描き出した。初めて見るが、あれは……『魔法陣』。
「……できた」
「ありがとうございます、カラメル。それでは行きましょうか」
「は、行くって、どこに?」
「ダンジョンの外ですよ」
「うぇー、転移魔法苦手なんだよなー」
ナタとルルカは慣れたように魔法陣の中へ足を踏み入れ、そして次はお前だと言うように俺を見る。魔法陣についてはよく知らないが、転移魔法だなんて便利な物があるのか。
「さすがにここから戻るのは、いくら私たちでも骨が折れますから、転移魔法で一気に外まで戻るのです。カラメルは天才的な魔術師ですからね、体がバラけることもないので安心してください」
「早く来いよ、リードル!」
「あ、あぁ……」
確かに俺1人だったら、ダンジョンから出るまでにどれだけ時間がかかるだろう。ここでナタたちに出会えたのは、不幸中の幸いだったのかもしれない。ただ、なんだか不穏な言葉が聞こえたような気がしないではないが
深呼吸を1つ、そして魔法陣に足を踏み入れ――
「何してんだよリードル!早く行こう!」
「うわっ、ちょ、引っ張――」
ぶつんっ。
気づいた時には、俺は雲ひとつない青空の下に転がっていたのだった。




