表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【書籍化】追放された公爵令嬢ですが、天気予報スキルのおかげでイケメンに拾われました  作者: 青空あかな


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

20/84

第20話:鷹狩り(Side:プライド③)

「アローガ嬢のおっしゃる通り、見事に晴れてきましたな。誠に素晴らしいスキルだ」


 翌日は朝から雨だったが、午後になると太陽が顔を出した。

 風も止んで過ごしやすい天気だ。

 ここまではアローガの予報通りだった。


「え、ええ。ほんとにアローガはすごくて」

「お、恐れ入りますわ」


 俺たちは丘に向かって歩いている。

 スタミーニの護衛は勢ぞろいしているが、こっちのお供は一人しかいない。


「しかし、間が悪かったですな。使用人たちがこぞって体調を崩すとは。プライド殿下とアローガ嬢も寂しいでしょう。なに、ご安心ください。私の護衛がしっかりと守りますから」

「ありがとうございます……」

「ほんとに間が悪いことで、オホホ……」


 使用人や護衛は鷹狩りの話を聞いたとたん、いっせいに具合が悪いと言い出した。

 俺は逃げ遅れたヤツを無理矢理連れてきている。

 この使用人も見るからに元気そうだった。

 こいつはさっきからずっと帰りたそうにしている。


(俺だって早く城に戻りたいんだよ!)


「私のファルコは最高の鷹なのです。特にこの羽が……」

「本当に素敵な鷹でございますね」

「私もうっとりしてしまいますわ」


 スタミーニはしきりに鷹の自慢をしてくる。

 羽がどうとか爪の形が良いとか、飛ぶ力強さが素晴らしいとか喋りっぱなしだ。

 だが、俺たちは天気が気になってそれどころじゃなかった。

 いつ雨雲が出てくるか不安でしょうがない。


「それにしてもいい天気ですね。鷹狩りに持ってこいだ。これほどの鷹狩り日和はそうそうないでしょう。ご覧ください、ファルコもすぐに飛びたがっています」


 スタミーニの言うように小さな雲すらない晴天だ。

 雨が降り出す予感さえしなかった。


(なんだ、余計な心配だったかな)


「これならずっと晴れそうだぞ、アローガ」

「ですから、そう予報しましたのに」


 安心させてやろうとしたが、アローガにプンスカ怒られてしまった。


「おっ、プライド殿下。狩場に着きましたよ。いやぁ、素晴らしい」


 やがて、小高い丘の上に着いた。

 近くには森があり小動物がたくさんいる場所だ。

 確かに、鷹狩りには最適だろう。

 アローガと小声で相談する。


「とにかく、早く終わらせるんだ」

「わかってますわ、プライド様」


 こそこそ話していたら、スタミーニに見つかった。


「どうかされましたかな?」

「「いえ、何も!」」

「よし、ファルコ! 大きな獲物を取ってこい!」


 スタミーニが合図を出すと鷹が勢いよく飛び去った。

 鷹狩りをしない俺が見ても感心するほどの雄大な飛び方だ。

 なるほど、自慢したくなる気持ちもわかる。


「見てると僕たちまで強くなったような気になりますね」

「なんて素晴らしいのでしょう」

「そうでしょう、そうでしょう!」


 スタミーニはご機嫌だ。

 この辺りは建物や小屋も何もないので、鷹が飛んでいく様子がよく見える。

 青空と相まってなかなかに美しい光景だった。


(まぁ、この天気なら大丈夫か)


 相変わらず、空は晴れ渡っている。

 アローガと静かにホッとした。

 そのうち、鷹が獲物を捕らえこちらに飛んできた。


「スタミーニ殿、戻ってきましたよ」

「足に動物を捕まえてますわね」

「よくやったぞ、ファルコ! プライド殿下にも獲物を見せて差し上げろ!」


(よし、もう満足だろう。これで引き上げてもらうとするか)


 ――ポツリ。


 突然、俺の頭に何か当たった。

 そう、まるで水滴のような……。

 思わず一瞬ヒヤリとした。


(さすがに雨じゃねえよな。ハハハ、あり得ないだろ。そもそも雲がないんだから)


 余裕で空を見上げる。


(は?)


 いつの間にか、空はぶ厚い雨雲に覆われていた。


(なんで曇ってんだよ!)


 と、思ったらその直後、とてつもない大雨が降ってきた。

 雨だけじゃない、風だってめちゃくちゃに吹き荒れている。


「うわあ、なんだ! 今日は晴れるんじゃないのか!? プライド殿下、アローガ嬢! これはいったいどういうことですか!?」


 いきなりの大雨と強風に、スタミーニも護衛も右往左往していた。


「わ、わかりません! 僕にも何がどうなっているのか……!」

「と、とにかく、どこか屋根のあるところへ行きましょう! プライド様、ご案内してくださいませ!」


 今すぐ雨宿りしなければ大変だ。

 急いで辺りを見回すが、雨を防げそうな場所はどこにもなかった。

 森だって結構遠くにある。


「あっ、ファルコ!」


 突如、スタミーニが叫んだ。

 ご自慢の鷹はびしょ濡れになっている。

 それどころか、強い雨風でバランスを崩し墜落してしまった。


「ファルコー!!」


 スタミーニは猛スピードで鷹のもとへ駆け出す。

 俺たちも大慌てで後を追った。

 どうやら、鷹は翼が折れてしまったようだ。

 ぐったりして力強さなど消え失せていた。


「ファルコ……」


 スタミーニは鷹を抱えながら、プルプルと肩を震わせている。

 どういう心境か聞かなくてもわかった。


「ス、スタミーニ殿……これには訳が……」

「私もまさか、こんな急に天気が変わるとは思わず……」


 俺たちは必死に言い訳したがまったく効果がない。


「あなた方はウソをついていたということですね! 貴国との関係を見直さねばなりませんな!」


 スタミーニはものすごく怒っていた。



「それでは、私どもはこれにて失礼いたします。ファルコの治療がありますので」


 その後、大急ぎで城へ戻ると、風呂や温かい食事などで精一杯もてなした。

 だが、どんなに丁重に接待したところで、スタミーニの機嫌は直らなかった。

 挙句の果てには、護衛と一緒にもう帰ると言い出した。


「お、お待ちください、スタミーニ殿! すぐに優秀な医術師を呼びますから! どうか、まだお帰りにならないでください!」

「そうでございますわ! この国にはたくさんの医術師がいますの! きっと、素晴らしい医術師が見つかりますわ!」


 さっさと城の出口に向かうスタミーニを必死に追いかける。

 スタミーニどころか護衛までウンザリした顔を向けてきた。


「いえ、それには及びませぬ。治せると言われてケガが悪化したら大変でございますからな」


 俺たちはすっかりスタミーニの信用を失ってしまったようだ。


「スタミーニ殿! 今一度チャンスを! 鷹のケガを治させてください!」

「どうか、お待ちになってくださいませ! 私もあの鷹が飛ぶ姿をもう一度見たいのです!」


 懸命に訴えていると、スタミーニはピタリと立ち止まった。


(よ、良かった。考え直してくれたんだ)


 ほっとしたのも束の間、スタミーニはもはや呆れた顔で話し出した。


「……結局、あなた方はファルコの名前さえ覚えてくださらなかったですな。私のことなどどうでもいいのでしょう。さようなら、プライド殿下、アローガ嬢。お父上とお母上にどうぞよろしくお伝えください」


 吐き捨てるように言うと、あっという間に城から出て行ってしまった。

 俺たちは呆然と立ち尽くす。

 大事な友好国からの評判が落ちてしまった。

 これはさすがにまずい。


「どうしよう、アローガ……」

「ずいぶんとお怒りの様子でしたね……」


 トボトボと部屋に戻る。

 なんだか、アローガが悪い気がしてきた。


「もとはと言えば、君が予報を外すからこんなことになったんだろ! どうしてくれるんだ!」

「なんですか、その言い方は! プライド様こそ、ちゃんとお断りしていれば鷹狩りに行くことなどなかったのでは!?」


 部屋に入ったとたん、俺たちはぎゃあぎゃあ喧嘩を始めた。

 アローガが憎たらしくてしょうがなかった。


「プライド様!」


 喧嘩をしていると使用人が慌てて入ってきた。

 もしかして、と俺たちは期待に胸が膨らむ。


「どうした!? そうか、スタミーニ殿が戻ってきたのか!? 急いで支度をしろ!」

「今すぐ最高の着替えを用意して差し上げて! あと優秀な医術師を呼ぶの! 鳥専門のね!」


 これが最後のチャンスだ。

 絶対に失敗はできない。


「いいえ、違うんです!」


 使用人は不気味なほど青ざめた顔をしている。

 あまりにも緊張した様子なので、こちらまで心臓がドキドキしてきた。


「な、なんだ?」

「ど、どうしたの?」


 使用人はゴクッと唾を飲む。


「王様と王妃様、そしてディセント様がお帰りになりました!」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Mノベルスf様より、第1巻2022年11月10日発売します。どうぞよろしくお願いいたします。画像をクリックすると書籍紹介ページに移動いたします。 i000000 i000000 i000000
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ