第19話:みんなで
「ネイルスちゃん、今日の天気はどうかな? 私は雨だと思うけど」
「う~ん……曇り! たぶん、雨は降ってないよ」
今日も私はラフさんの部屋にいる。
あれから毎日、ネイルスちゃんと天気当てゲームをしていた。
「じゃあ、窓を開けてみるからね」
外を見ると雨が降っている。
予報通りの天気だった。
今日は一日、朝から雨模様だ。
「わぁ、また当たった。ウェーザお姉ちゃんは本当に天気がわかる人なんだね」
「これもスキルのおかげなんだよ」
ネイルスちゃんと出会ってからも、天気予報は一度も外さなかった。
朝は雨でも午後からは晴れてきたりだとか、かなり細かいところまで予報している。
その甲斐あってか、ネイルスちゃんも私のスキルを少しずつ信頼してきてるようだ。
「私にも天気がわかるようになるといいな。そうすれば、いつ晴れるかわかるんだもん」
最初は、ネイルスちゃんも窓の隙間からチラッと外を見るだけだった。
天気当てゲームのおかげで、今はだいぶ窓の近くまで来られる。
だんだんと、外への恐怖も和らいできたらしい。
「ネイルスちゃん、農場を見てごらん。バーシルさんがいるよ」
すでに、雨や曇りの日は窓を開けられるようになっていた。
日差しが強くなるときは窓を閉めているので"破蕾病"が悪化することもない。
『おーい! ネイルスー! 元気かー!』
バーシルさんはしっぽをフリフリしている。
みんな、ネイルスちゃんが大好きだった。
「かわいい! バーシルちゃ~ん!」
ネイルスちゃんも嬉しそうに手を振っている。
『こら! かわいいなんて言うんじゃない! 俺様は誇り高きシルバー……』
バーシルさんは相変わらずだ。
話が長くなる前に、フレッシュさんに連れて行かれた。
「アグリカルさんたちが<サファイアスイカ>を収穫してるわ。ネイルスちゃんも見てみたら? 今日はずっと夜まで厚い雲に覆われてるから、もう日差しは出てこないよ」
「見せて見せて!」
ネイルスちゃんは窓のそばに寄ってくる。
まだ外には出られないけど、顔を出すくらいならできるようになった。
「フレッシュー! アグリカルー!」
「「ネイルスー!」」
二人は作業しながら元気よく手を振り返してくれた。
バーシルさんは背中に作物を乗せ、誇らしげな顔で運んでいる。
「あはは、楽しそう。私もいつか畑で遊んでみたいな」
「外に出られるようになったらみんなで遊ぼうね。そういえば、ネイルスちゃんは虹を見たことがある?」
「病気になる前に一回だけ見たことあるよ。とってもキレイだった」
ネイルスちゃんは両手を祈るように組んでうっとりしていた。
きっと、数少なくも楽しい外の思い出なんだろう。
「虹はお月様の光で出ることもあるのよ。ムーンボウって言うんだけど」
「え!? 夜にも虹が見えるの!?」
目をまんまるにして驚いている。
「満月の日に小雨だったり、霧が出ていると見えることがあるわ。七色じゃなくて白い虹なのよ」
「白い虹!? 私も見たい!」
ムーンボウに興味を持ってくれるか不安だったけど安心した。
「ねえ、今度の満月の日、みんなでムーンボウを見に行ってみない? その日は小雨が降るから、運が良かったら虹が出ると思うわ」
「うん、夜なら大丈夫かな」
二人で話しているとドアがコンコンと叩かれた。
返事を待たずにガチャッと誰かが入ってくる。
見なくてもなんとなく雰囲気でわかった。
「入るぞぉ」
思った通りラフさんだった。
手には大きなスイカを持っている。
「お兄ちゃん、おかえり」
「ラフさん、それは何ですか?」
かなり重そうなのに、片手で軽々と抱えていた。
「<サファイアスイカ>だ。フレッシュからの差し入れだってよ」
「やったぁ! 私これ大好きなの!」
ネイルスちゃんはバンザイして喜んでいる。
ラフさんがサクリサクリと切り分けてくれた。
切るたびに青い果汁がにじみ出る。
フレッシュさんが言っていたように中身は青色だった。
「ほんとに青いんですね。ビックリしました」
「種は硬いからな。気をつけて食べろよ。さて、俺も食うか」
さっそく、慎重に一口食べてみた。
ネイルスちゃんは食べ慣れているのか、シャクシャクと勢いよく食べている。
(お、おいしい……)
普通のスイカよりずっと甘かった。
それでいて、爽やかな果汁が体中に染み渡るみたいだ。
おまけに、身体まで軽くなった感じがする。
(あれ? なんだか、身体が……?)
気がついたら、ふんわりと宙に浮かんでしまった。
「きゃあっ! なんですか、これ!」
「すまんすまん、説明し忘れた。<サファイアスイカ>を食べると身体が浮かぶんだ」
驚いている私をよそに、ラフさんはハハハと笑っている。
「それを先に言ってくださいよ!」
空中に浮かぶなんて生まれて初めてだ。
身体がコントロールできなくて、くるくる回ってしまう。
「あはは、楽しい!」
ネイルスちゃんは慣れているらしく、この状況を楽しんでいた。
「うわっ!」
「ウェーザ!」
身体が言うことを聞かず壁にぶつかりそうになった。
そのとき、ラフさんにガシッと掴まれ引き寄せられる。
「ラ、ラフさん……ありがとうございます」
「ケガはないか、ウェーザ!? すまない、危なかったな!」
有無を言わさぬ勢いで私のことを心配してくれた。
「はい、大丈夫なんですが……」
「なんだ、どうした!?」
いつもと違って、なぜかラフさんは慌てている。
「い、痛いです……」
ラフさんにギューッと肩を掴まれているので、ちょっと痛かった。
(そんなに力を入れなくても平気なのに)
「あ、ああ、すまなかったな……」
「私の方こそ、大騒ぎしてすみません……」
ラフさんは急いで離してくれた。
空中に浮かんだまま、私たちは見つめ合う。
初めて感じるような心地良い感じがする。
そして、どうしたわけか心臓がドキドキしてきた。
(な、なんだか胸が……)
「キャハハハ! 鳥になったみたい!」
ネイルスちゃんの大きな笑い声に、ハッとする。
「いや、なんだ。その、まぁ、アレだな」
「え、ええ、アレですね」
急に恥ずかしくなってきた。
アレが何かよくわからないが、二人してしばらくアレアレ言っていた。
ひとしきり食べ終わったところで空中浮遊も終わった。
「ふわぁぁ。遊んでたら眠くなっちゃった。お昼寝しようかな」
ネイルスちゃんは目をこすっている。とても眠そうだ。
「そうだな、ちょっと寝とけ。今ベッドを用意するから」
「おやすみなさい、ネイルスちゃん」
ベッドに運ぶとネイルスちゃんはすやすやと眠り始めた。
こうしてみると、ただの健康そうな女の子だ。
「じゃあ、俺はそろそろ畑に戻るとするか。あいつらを待たせてるからな」
「あっ、私もバーシルさんのお散歩に行かないと」
こっそり外を見ると、バーシルさんがウロウロしていた。
なんとなく不機嫌そうな感じがする。
「まったく、あいつはわがままなんだから」
「きっと、すごく楽しみなんですよ」
二人で部屋から出て農場に行くと、バーシルさんが猛ダッシュで走ってきた。
『おい! 待ちくたびれたぞ!』
「すみません、バーシルさん。ラフさん、先に行ってますね」
急いでお散歩に向かおうとしたときだった。
「ウェーザ、ありがとな……」
「え?」
ラフさんにボソッと言われた。
「ネイルスも少しずつ元気を取り戻してきた。お前のおかげだよ」
改めてのお礼だった。
「いいえ、私は自分にできることをやっているだけですから……」
「そうか」
いつものように素っ気なく言うと、ラフさんは奥の畑に向かって歩き出した。
『おーい! 何してんだー? 置いていくぞー!』
遠くからバーシルさんの呼ぶ声が聞こえる。
「はい、今行きますよ!」
嬉しい気持ちを抑えつつ、バーシルさんの後を追いかけた。




