生徒会長
「あっちだ! ピクシー会長と新入生が揉めてるみたいだ」
生徒達に紛れて後をついて行く。売店前には何かを取り囲む様に人集りが出来ていた。
人混みの隙間から縫うように侵入し、何とか中に顔を出した。騒ぎの中心に居るのは、背の高い美人の上級生と肥満体の新入生だ。
あの人が生徒会長かな? ピンク色のサッと垂れたツインテール、高貴な眼をしたお嬢様っぽい人だ。やっぱり相手はギーシュと取り巻き2人だ! 懲りないなー。
いつもの調子でギーシュのパパ自慢が始まり、取り巻き達もそれに続いて声を荒げている。
「僕のパパを知っているか? プラネックス家……と言えば解るよなぁ、もう後悔しても遅いぞ」
「ギーシュさん、会長の奴、完全にビビってますよ!」
「何か言ってみろよ会長!」
やっぱりあの人がピクシー会長か、ギーシュの挑発にも全く動じていない。
「確かにプラネックス家の名は聞いた事があるわ。でも言わせて貰うわね。それは貴方のパパが偉いのであって、別に貴方が偉いわけでは無いわ」
「な! 何だとぉ! このぁっ…くそぉ……」
ド正論を言われて、ギーシュの足がグラついている……どんだけ口弱いんだあいつ。
会長は無表情のまま、すでにグロッキー状態のギーシュに向けて魔法陣を描き始めた。
「元気な新入生達ね、3人相手なら手加減しないわ!」
会長は指先に灯した青い光で、宙に魔法陣を描いていく。
パッと見た感じ、会長が描いているのは風の特性を持った現代魔法だな。
現代魔法とは古代魔法を劣化させ、簡易化させた低規模の魔法の事を言う。通常はあの様に青色の魔法陣で描かれる。
魔法陣の色は、魔力の洗練度合いによって変わる。研ぎ澄まされた魔力程、濃い青色になり、逆に雑な魔力程、薄い白に近付いて行く。
大規模の魔法や、古代魔法に必要なレベルまで魔力を研ぎ澄ますと、青色から更に神秘的な黄色の魔力へと変色する。
「吹き飛びなさい!
現代魔法・『ショックウェーブ』」
呪文を唱えた会長に遅れを取らず、待ち構えていたギーシュ達も同時に魔法陣を展開した。
「お前らやるぞ! 現代魔法・『ファイアボール』」
「はい! ギーシュさん! 現代魔法・『ショック』」
「ヒャッハー! 現代魔法・『ショック』」
遂に決闘が始まった。危険な空気を感じ取った生徒達が警告の声を鳴らし、逃げる様に散らばって行く。
3対1か……相手はお坊っちゃま君だし、会長の手助けをしても良いよね。
「ヤバイぞ! 早く先生達を呼んで来い! Bランク同士の魔法がぶつかるぞ」
「みんな離れて! 防御魔法を!」
さてと、僕も動くか! 片手でパパッと魔法陣を描く。
「初級魔法・『解析』」
決闘中の4人が展開した魔法陣に向けて、解析の光を飛ばすと、魔力情報が一瞬にして頭に流れ込んでくる。
会長とギーシュの魔法の規模は同じくらいか……ここでぶつかると少し危険かな。残りの2人の魔法は防ぐ必要すらない、かなり低規模の魔法だ。
0.1秒で、更にもう1つ魔法陣を描く。
決闘中の4人の頭上に、大きな天空魔法陣が現れた。
天空魔法陣は古代魔法の一種だ。手元に描いた魔法陣を上空に投影する事で、魔法の効果の範囲を広げる事が出来る。
「魔法陣が乱れてる……この異様な魔力は何なの?」
「バ、バカな……天空魔法陣だと!? ドミニク! てめーの仕業か!」
「ギーシュさん! またあいつです!」
僕に向けて抗議の声を漏らしてるけど、聞く耳は持たないよ。
「お坊っちゃま君、新入生らしく少し落ち着こうね。
初級魔法・『解除』」
一気に魔力を送ると、天空魔法陣から解除の光が降り注ぎ、パリーン!と爽快に4つの魔法陣が弾け飛んだ。
解除完了! あとは会長に任せて退散するか。
「じゃあね、ギーシュ。会長にちゃんと謝るんだぞー」
「なんだとぉ! 覚えてろよドミニク!」
不意打ちで放たれた解除の魔法に驚き、喧嘩の事を口にする生徒はもういなかった。
「すげえ! 見たか今の? 4つも同時に解除したぞ」
「4つ同時なんてあり得ないだろ? 多分会長も解除の魔法を使ってたんだ」
揉め事は落ち着いたみたいだな、生徒達の隙間から逃げる様にその場を離れた。
※
突然として放たれた複数の同時解除の魔法に、ピクシーは困惑していた。
「賢者クラスの魔法師であっても、4つ同時に解除なんて出来る訳がないわ……それに加えて、天空魔法陣まで……」
騒ぎを聞きつけた生徒会役員の2年生、ジェイコブが、ピクシー会長の元へとやって来た。
「ピクシー会長! 揉めていた様ですが、大丈夫でしたか?」
「問題無いわ。ところでジェイ君……魔法の解除って幾つまで同時に行えるかしら?」
「解除ですか? 賢者クラスであれば、2つ同時に出来ると聞いた事がありますね」
「そうよね、やっぱり解除特化の特殊スキルか……面白くなってきたわ。あの1年生を育てれば、生徒会のメンバーとして使えるレベルにまで育つかも知れないわ」




