入学式
「もう朝か……」
朝日に起こされ、まだ重いまぶたを擦ってベッドから出た。今日は養成学校の入学式だ。
リビングに入ると、ソファーからはみ出した白いエプロンと、細い綺麗な脚がチラッと視界に入る。
「ルミネス……寝てるの?」
ソファーで丸くなるルミネスの寝顔を、興味本位で覗き込む。
「むにゃぁ……ドミニクさまぁ、でへへ……ぁぁ」
幸せそうな顔でヨダレを垂らして眠り、イビキのたびに漆黒の猫耳がピクピクと動いている。なんつー顔で寝てるんだ、ていうかどんな夢みてんだ。
眠るルミネスにタオルケットを掛け、はみ出した脚をソファーに戻す。
「よいしょっと!」
「むにゃー……にゃん」
前に約束した通り、学校に行っている間はルミネスは家でお留守番だ。連れて行ったら絶対に問題を起こすし、何よりカレンとケンカされると僕の身がもたない。
適当に残り物のパンを食べ、まだ冷たい床を忍び足で歩いて出て行く。
転移魔法で直接、学校までワープすると目立つので、一旦カレンの家の玄関まで転移し、そこから歩いて通学する事にした。
※
転移の狭間を出てから、デコボコの荒れた裏庭を進み、見慣れた古いアパートの扉を小さく叩く。
「カレンー、起きてるー? 迎えに来たよ」
勢い良く扉が開くなり、制服姿のカレンがふざけて飛び付いて来た。
「おはよー! ドミニク……重い?」
「ぶら下がらないで! 早く支度しないと置いてくよ」
「はーい、冗談だってば」
いつも通りの挨拶を交わし、腕に絡まって来たカレンと養成学校へ向けて歩き出した。
なんだか妙に嬉しそうだけど、他の登校中の生徒の視線が痛い……明日こそは絶対文句を言ってやろう! 明日こそはね……
「カレンも養成学校に通うんだから、僕とばっかり仲良くしてないで友達作りなよ」
「わかってるよー、リーシャはお友達だよ」
本当に解ってるのかな……
養成学校では、Sランク冒険者であるルーシス校長の組んだカリキュラムを元に、訓練用のクエストを受ける事が出来る。授業は午前中のみ、午後からは個人のスキルに合わせた部活動を行う。
僕達の暮らしている街は、火山、雪山、草原の3つの地帯に三角形で囲まれた、エリシアス地帯と呼ばれる田舎の街だ。
1年生が授業で受けるクエストは、このエリシアス地帯にある洞窟や遺跡から、素材や宝を見つけ出す『探索クエスト』と呼ばれる物だ。
とは言っても、エリシアス地帯には不思議な魔獣避けの結界があり、外部の危険な魔獣は近寄る事が出来ない。まだ未熟な1年生にはぴったりの、安全かつ冒険者には欠かせない、基礎を学ぶ事が出来る場所だ。
養成学校は複数あり、入学できるのは14歳から。僕もカレンも両親の仕事の都合で1人暮らし、仕送りでなんとか生活してるけど、学費は両親に全額負担して貰っている。
ふぅ、これから頑張らないとな……入学早々、何かの手違いでSSSランク呼ばわりされてしまったけど。
不貞腐れて足元の石を蹴飛ばすと、もう学校の門が見えて来た。
「僕は校長室に用事があるから、カレンは先に会場に入ってて」
「うん、スピーチの件だよね? 応援してるよー」
門を抜けた先の広場で、他の生徒達に紛れて消える頼りない背中に手を振る。
さて、僕も行くか。早く校長室を探さないと。
人混みの中、更に広場の奥へと進むと、見覚えのある赤い髪の女性教員が、爽やかな声で新入生に挨拶していた。
「みんな声が小さいですよー、おはよう!ってドドドドミニク君!? どうしてここに!?」
「カルナ先生落ち着いて下さい、僕も生徒ですからね! 部外者じゃないですよ」
カルナ先生は意味不明な事を口走り、酷く取り乱している。
興奮草の件で誤解が解けてないみたいだな……今度カルナ先生とはじっくりお話ししないと。
にしても、今日は全校生徒が来てるから凄い人数だ。
校長室を探す為、校舎に囲まれた広場の中央にある案内ボードを、生徒の群に紛れて覗き込む。
えーと、文化祭に、冒険者パーティの募集に、ん? なんだこれ、生徒会?
【生徒会、それは最も優秀である生徒の証です。冒険者ランクBに匹敵すると判断された生徒のみが入る事が許される、謂わば神……民よ祈りましょう。
よって、今年度の生徒会長は私こと、『妖精言語部』部長、ピクシー・ウォーロックが務めます!】
他の生徒達も前のめりになって、生徒会の張り紙に夢中になっている。
「生徒会長だってよ、養成学校の代表に選ばれるくらいだ。未来のSランク冒険者の誕生だな」
「俺も生徒会に入れてもらえねーかな」
「ちょっと待て、このビラ何か怪しいぞ。字も汚いし……神って何だ?」
生徒会なんてあるのか、確かにこの張り紙だけスピリチュアル的な感じがして何か恐いな……
やっとの事、学校の地図を見つけた時。突然、大声をあげながら1人の男子生徒が走って来た。
「おい! 大変だ! 生徒会長と新入生が揉めてるみたいだぞ! 売店の前の広場の方だ!」
なんだ? 登校初日から早速揉め事かな、まさかお坊っちゃま君が暴れてたりしてね……
騒ぎを聞きつけた生徒達が、次々と売店の方へと向かって走って行く。
仕方ない、あまり関わりたく無いけど少しだけ寄り道して行こうかな。生徒会長がどんな人か気になるし。




