#第40話 最凶ブルート・サジタリウスの脅威
#第40話 「最凶ブルート・サジタリウスの脅威」
―――――萩間が岡本と戦っていたその頃―――――
「・・・遂にお出まし、ですか。」
周囲の景色は一瞬にして火に包まれ、
進行方向の2kmほど先には
1体のモンスターがまっすぐにこちらを見据えているのが
僅かではあるが確認できる。
・・・この私、上戸鎖は
旧福井県のサジタリウス討伐のため、
高速道路を装甲車で飛ばしていた。
東京パーマネント・ガーディアンスが火の海と化した、
その原因であり、間違いなく”最強のブルート”である。
私は東京パーマネント・ガーディアンスから避難する際に
その姿を少しだけ確認しているが、
全身の細胞がヤツを視界に捉える感覚を記憶している如く、
気温と無縁な冷汗がどっぷりと吹き出す。
ブルートまでの距離が1000mを切ったであろう
その瞬間、装甲車のタイヤのうち1つが突然パンクし、
乗り心地が極端に悪くなった。
「想定よりも広範囲の攻撃ですね。
・・・ジェネレイト!」
私の身体は黒い強化皮膚で覆われ、
頭部には前方から後方にかけてV字型の装甲が装着される。
顔面は銀色に発行する目に代わる1本線のパーツのみで、
それ以外は強化皮膚に覆われた。
両肩からは黒いオーブが生え、
DNAの螺旋構造を模した白い模様が左右対称に刻まれる。
時速150km以上で走る装甲車から飛び降り、高速道路脇に着地する。
と、私がつい2秒ほど前に乗り捨てた装甲車は爆発し、
無残にも砕け散った。
「随分とギリギリを強いてくる。」
私はアスファルトを蹴り放ち、
800m程度の距離を高速で詰めていく。
接近する毎に、周囲の環境被害が露になる。
水田は干上がって燃え、
高くそびえていたであろう木々も
既に倒れて激しく炎上している。
そして、ヤツの半径1km以内では
常に自然発火が不規則に起きており、
何もない空間で突然激しく火花が散ったりと、
立派な災害源と化している。
例えるのであれば、
無数に打ち上がる花火の中にでも取り残されたかのような感覚。
・・・敵との距離が残り300mというところで
私は立ち止まった。
ヤツは動きもせず、ただこちらを見据えている。
・・・赤橙色を基調とした怪人。
無数の”銀色の矢”を繋げたマントを
肩から降ろしたかのような装飾、
背には怪人のシルエットを大きく増すかの如く
円型に配置された大量の矢。
顔には鋭く尖った赤い目らしきものが2つ。
頭部はまるで聖火の如く激しく燃え盛っている。
身長は2m程度。
そう、前方に構えるあのモンスターこそが
”アーデント・サジタリウス”である。
「さて、サジタリウスの攻略戦を始めるとしましょうか。」
そう呟いてみたは良いものの、
当初の予定とは大幅に変更する必要があった。
敵を構成する化学的組成すら明らかになれば、
フォーサーの能力的に私は勝てる。
しかし、熱線照射が激しく、これ以上は安全には近付けない。
正確に言うのであれば、
300m以下に距離を縮めるのであれば”時間制限”が課される。
300m以上距離を取ったこの地点でも
既に気温は50度を越えているだろう。
敵との距離を計算し、
安全な位置、攻撃方法を思案している私は、
その瞬間、信じられない光景に遭遇する。
「ワレ ハ・・・サジタリウス・・・ト イウ ノ カ?」
「・・・何?」
300m先のブルートが、信じられないことに日本語を発したのだった。
と、なるとこの状況で考えられる可能性は2つ。
「あなたは、ワイズブルートなのでしょうか?」
ワイズブルートというのは、
”オメラス計画”の協力達によって作られた、
SAS用のアーマーチップを体内に埋め込まれ、
怪人への変身能力を持った人間である。
アーマーチップはブルートのコアから作られるため、
”ブルートの細胞とリンクした人間”、という解釈で良いだろう。
故に、ワイズブルートなら日本語を話すことが可能。
「ワイズブルート・・・?チガウ」
「ほう、では・・・”考えたくなかったもう片方”ですか。」
これまで確認されたブルートは、
全てまともな”思考能力”を持っていなかった。
Sランクといっても、戦闘に特化し過ぎていて、
行動は単純な生物。
だから危険ではあるものの掟を破る者で
対応することは不可能ではなかった。
しかし、このサジタリウスは
思考能力を持ち、人間が話す言語を学習している。
そうなると考えられるのは・・・
”ブルートという生物が進化している”ということだ。
「ワレ ハ・・・我は・・・自身の能力で発火させ、燃え尽きたものから、
その個体の”DNAを吸収”できる。
そして、そのDNAを自分の身体の塩基配列に組み込むことが可能だ。」
・・・サジタリウスの口調は滑らかになった。
この短期間で発音を上達させるとは・・・。
しかし、これでヤツの上達の速度が
学習能力によるものだけではないことが分かった。
臓器移植の施術後、元の臓器所有者から”記憶”や”好み”の一部が
新たな所有者へと受け継がれることがあるのは有名な話だ。
ヤツは外部から採取したDNAを自身の塩基配列に組み込む能力によって、
臓器移植のように、元の所有者から記憶やその他能力を
入手している可能性はある。
そして、発火能力が異常に強力なことも、
そういった進化の過程で能力強化してきたためという推察もできる。
「貴様の名は何というのだ?」
「・・・私は上戸鎖 祐樹と申します。
アーデント・サジタリウスを倒す者です。」
「ほう、我はそのような名前なのか。」
そう言うと、サジタリウスは右手を前に突き出す。
するとヤツの右手は”銀色の弓”のような形状へと変形した。
すかさず左手をそこにかざすと、
ヤツのマントや背中に施された円形の装飾と同サイズの
”銀色の矢”がセットされた。
「我には本来、目的がない。
しかし、脳裏に浮かんでくるのだ。
人類を滅ぼせ、と。
これがバーバレスが開発したという”欲望の電気信号”の影響だろうが。」
「なるほど・・・。
ブルート生成の際にはバーバレスの
”欲望の電気信号”を打ち込むということですか。」
私が以前から気にしていた”1つの謎”が解けた。
なぜブルートは人間に対して攻撃するようにプログラムされているのか。
それは、”欲望の電気信号”を利用した結果だったというのか。
元々、超巨大テロ組織バーバレスに対して、
世界中の企業、団体、個人が秘密裏に資金、技術援助をしていた。
その中にZZZZZ社も存在していた訳だが、
今となっては、テロ組織であったバーバレスの技術と設備が
ZZZZZ社の反乱分子に都合よく使われている、
という構図だ。
しかも、憎きことに、
ZZZZZ社の反乱分子の狙いは”世界の滅亡”。
サジタリウスという凶悪生物を生み出し、
彼らの目的は達成されたも同然、ということか。
「しかし、我は疑問を感じていた。
このサジタリウスの能力を以てすれば、
いずれは人類一掃という目的は達成される。
だが、その後はどうする?
人類を滅ぼした先に、何がある?」
「・・・何が言いたいのですか?」
サジタリウスは矢を構えたまま会話を続ける。
「我は、”終わりのない目的”を持ちたい。
到達できない目標だからこそ、目指す必要性が感じられる。」
・・・とても人工物とは思えないほどの知能だ。
思想まで持ち合わせているとは。
「我の目的は・・・様々なDNAを吸収し”極限まで進化すること”。
ブルートに留まらず、ブルートの進化生物に留まらず、
全てを超越した存在になること。
つまり・・・。」
「人間界で俗にいう”神”になりたい、とでも?」
「その通りだ。」
次の瞬間、サジタリウスから銀色の矢が発射され、
私は紙一重でそれを避ける。
幸い、サジタリウスのメイン武器である弓矢による攻撃には
スピード面では十分対応できる。
それに、サジタリウスの体格、筋肉量などから判断できる
総合的な俊敏性としても、こちらが勝っているようだ。
しかし、私は違和感を感じ、後方を瞬時に確認した。
すると、私の隣を過ぎ去った矢は
次々と周囲の燃える木々を貫きながら、
どこまでも威力が衰えないまま直進し、
やがて見えなくなった。
「我の矢は”アルナスル”という名だ。」
「・・・これまた、強大な破壊力を秘めた武器を使いますね。」
「アルナスルは、一度我が発射すれば、
例え宇宙空間に出ても威力は変わらず、永久に直進を続ける。」
災害を引き起こすことに特化したブルート、というべきだろう。
自然発火能力に加え、永久に直進する矢を備えているとは・・・。
つまり、通常であれば
あの矢を正面から防ぐ手立てはないということだ。
「上戸鎖 祐樹、お前のDNAを貰う。
我の直感が、貴様を強者と認めているようだ。」
「それは、嬉しい限りですが、
聞き入れることはできません。
私はいずれ”全てを支配する”存在です。」
「貴様の目的は我と同じく、”神”になるということか?」
「いえ、それは少し違います。
私は一人の人間として、支配者という名の椅子に座す。」
「進化を拒む、ということか。
貴様とて、フォーサーとして人間を超越しているのではないか?」
・・・私がフォーサーということを、
もしや直感だけで悟ったのか?
「勘違いしないでください。
私にとって自身の強化は”手段”であり、目的ではない。
サジタリウス、あなたとは方向性が違う。」
「ふむ、言葉の意味は理解し、貴様の意図も理解した。
では、互いが互いの標的となっている現状、
争わない理由はない。」
そこまで言うと、サジタリウスはその場から初めて動いた。
こちらに向け、ゆっくりと一歩ずつ接近してくる。
・・・彼が接近すると、こちらも300m以上の距離を保つために
後退する必要がある。
しかし、これが攻撃のチャンスでもある。
私は動きながらでも武器を生成、使用することが可能だ。
「デカンファイナルキャノン、ジェネレイト!」
私の頭上に、漆黒の大型ビームランチャーである
デカンファイナルキャノン20機を同時生成。
1機のフルバーストで並みのフォーサーであれば
跡形もなく消し飛ぶ威力である。
「デカンファイナルキャノン、発射!!」
私は右手を前に突き出し、
トリガーを引くかのように人差し指をクイッと曲げる。
《ケミカル・・・ブレイク・・・アップ!》
宙に浮いている20機のキャノンから、
まるでボイスチェンジで聞き取りにくくしたような
男声の電子ガイダンス音が一斉に鳴り響き、
同時に漆黒の大型銃のボディに黄緑色のラインが点灯し始める。
そして次の瞬間、キャノンの銃口が光り、
瞬時にして周囲は眩い光に包まれた。
周囲のアスファルトが衝撃によって一斉に破壊され、
バランスを崩した高速道路が倒壊する。
私はその破片を次々と跳躍で渡り、
サジタリウスからの距離を取っていく。
私が20機のビームランチャ―をジェネレイトしてから
発射するまでの時間は全て含めてたった2.5秒。
サジタリウスはこの20機分の攻撃を受けるしかない。
「・・・さて。」
私は干上がった水田へと降り立ち、
サジタリウスが接近してきた方向を確認する。
高速道路の倒壊により土煙が舞い、
視界が悪い。
・・・その次の瞬間だった。
私は不意に左の二の腕に痛みを覚えた。
「ぐあっっっ!!」
思わず、その場に膝立ちの姿勢になる。
背後を見ると、
先ほどサジタリウスが発射していた銀色の矢、
”アルナスル”が通過していくのを確認できた。
「・・・まさか、不意打ちを食らうとは・・・。」
土煙が晴れ、視界の先に移るモンスターの姿を、
私はもう見たくなかった。
「我がその程度でダメージを負うとでも?」
サジタリウスは先ほどと全くといって良いほど
変わらない様子でこちらに迫ってくる。
銀色の矢、”アルナスル”の脅威は、
その永久に直進するという性質だけではなかった。
”一瞬でも触れたものの細胞を破壊するまでの温度”。
そのせいで、私の左腕が機能しなくなったほどだ。
そして、デカンファイナルキャノンは、
おそらく彼に命中するタイミングで放熱によって
相殺されてしまったと予想できる。
「くっ・・・この私が・・・」
脚はまだ動くため、ここから逃亡することは可能だ。
しかし、私はいずれ”全てを支配する”存在。
あのサジタリウスとて、例外ではない。
となると、いずれ彼とは決着を付けなければならない運命にある。
そして、この場を逃すと、
彼によって全国で天変地異クラスの災害が引き起こされるばかりではなく、
他生物のDNAを吸収し、更なる厄介な特性を持ち合わせてくる可能性が高い。
・・・倒すなら今日、このタイミングが最後のチャンスであろう。
しかし、どうする?
私の最高威力を誇る攻撃は無効。
クレイジー・ケミカルバイオレンスという絶対の切札はあるが、
無論、あの熱放射空間の中、
接近してサジタリウスの化学的組成を把握することも不可能。
・・・既に、詰んでいるというのか?
「私は・・・私は・・・負けるのか・・・?」
この感覚は過去にも二度あった。
その度に、私は・・・逃げた。
しかし、逃げたその先に、
私は”逃げなくても良いほどの力”を手に入れた。
それがこのフォーサーゼイアー態、
トランセンデンタル・オーガナイザーの力だ。
だが・・・それすらも通用しないというのか?
サジタリウスに支配されている感覚。
私にとっては、死よりも恐ろしい感覚。
「上戸鎖、我にDNAとして吸収されれば、
貴様は我の一部として、その支配欲を満たすことができる。
我が果てるまで、”永久なる進化”を求める旅路を歩まぬか?」
既にサジタリウスは300mほど先まで迫っている。
早く、逃げなくてはいけない。
だが、逃げてどうする?
私はサジタリウスを倒せるのか?
「私は・・・」
動かなくなった左腕の痛みも相当なものだが、
既に意識が飛ぶ直前まで、私は精神に異常を来たしていた。
”過去のトラウマ”というものだろう。
「私は・・・」
意識が朦朧とする中、
脳裏に刻まれた過去の記憶が蘇る。
・・・無限再生するカエル。
・・・ビルすら破壊するほどの圧倒的腕力を持つ海獣。
ヤツらは超えたはずだ。
私は過去のトラウマを超えたはずだ。
支配される恐怖は、私にとって死をも超える苦痛。
あってはならない・・・。
私が支配されることなど、あってはならない!!!
「私は・・・支配する側の人間だああああああああああ!!!」
私は本能的にそう叫び、立ち上がった。
#第40話 「最凶ブルート・サジタリウスの脅威」
お読みいただきありがとうございました。
今回は【上戸鎖 VS サジタリウス】
ということで、作中でも最強クラスの両者による対決でした。
サジタリウスについてはこれまで詳細が不明でしたが、
なんと”自身が燃やした物体のDNAを自身の塩基配列に組み込む”ことが可能
(生存本能が自分に有益だと判断したDNAのみを吸収する)
という、とんでもない能力を所持していたことが発覚。
これにより、各地で燃やした人間のDNAを吸収した結果、
人間の言葉を自由自在に話していました。
そして、この能力は単純な身体能力強化にも繋がります。
また、
・熱線放射により半径300m以内に留まると死の危険あり
・1km以内ではいつ自然発火による爆発が起こるか分からない
・物理攻撃は身体に到達する前に全て熱分解される
・永久に直進する矢を所持するため、遠距離戦を展開するにしても
サジタリウスの動きを観測できないと、遠距離から一撃で殺される可能性アリ
と戦闘能力的に見てもシリーズ3作中で
【最上位クラス】といっても過言ではないキャラクターであり、
”どこまでも強くなる”という目的も踏まえると、
前作に登場した”超巨大テロ組織バーバレス”を遥かに越える脅威です。
対する上戸鎖も、
対象物の化学的組成を把握しさえすれば、
問答無用に敵を分子レベルまで分解するチート技の持ち主です。
しかし、そもそもサジタリウスの身体には
”触れられない”ため、違う方法で倒すしかありません。
そして、既に左腕は機能不全に。
上戸鎖はサジタリウスを倒して、
彼の”支配”から逃れることができるのか??
クライマックスまであと4話です!




