#第38話 5年前の決戦の地へ
#第38話 「5年前の決戦の地へ」
―――――萩間が東北のラボから脱走し、30分ほどが経過した頃―――――
「・・・懐かしいな。もうあれから5年か。」
この俺、中仙道 武雅は
旧長野県にあるバーバレス日本支部の跡地へと到着していた。
装甲車両から降り、周囲を見渡す。
・・・5年前のオペレーション”ブレイキング・ローズ”。
俺たちの介入により、この地でバーバレス日本支部は滅びた。
しかし、俺の前に広がっている光景は
5年前とは全く異なるものだ。
・・・かつて戦闘用大型機が出現した半径500mほどの”大穴”から溢れ出す
無限と思しき凄まじい数のブルート。
無秩序も甚だしい。
「・・・とっとと、おっ始めるか。」
俺は試験管を取り出し、
その中で揺れている紫色の液体”アトラクト”を一気に飲み干す。
すると、私の各細胞が活性化し始め、
一瞬で全身が硬質皮膚に覆われる。
青系の混合色がグチャグチャに混ざり合ったような体色。
身長は2.5mほどまで伸び、
横幅もそれに合わせて膨張する。
両腕、両脚は元の俺の身体からは考えられないほど太く、
強大な筋肉が構築されている。
そして頭部には1mを越えるまっすぐな白い角。
世刑海獣ディザイヤー・リヴァイアサンの降臨だ。
・・・この旧バーバレス日本支部に
ブルートの製造機構があるとのことだが、
形状もシステムも一切が不明だ。
そのせいで、どう破壊すれば良いかもまだ検討が付いていない。
とりあえず、周囲をリヴァイアサンの能力で振動させ、
ブルートがどのような反応を見せるか観察してやるとしよう。
「食らえええええええ!!!」
極太の両腕で地面を強打する。
と、同時に、周囲には地響きが起こり、
周囲をうろついていたブルート達が一斉に鳴き声を上げ始める。
「手加減はいらない。徹底的にやるまでだ!!」
俺は試験管に入った金色の液体”アバリシャス”を取り出し、
そのまま自分の口へと流し込む。
リヴァイアサンの身体が発光し、
青系の色がごちゃ混ぜになっている体色に”金色”が混ざった。
両手の拳から上腕にかけてはダークブルーの分厚い硬質皮膚が、
ナックルの要領で生成される。
そして頭部に構える白い角は金色に変色し、こちらも輝きを放つ。
「臨世刑海獣エネルゲイヤ・リヴァイアサンの降臨だ!!」
俺は先ほどのように両腕を思いきり振りかざした直後、地面に叩き付け、
凄まじい振動で地面を揺らす。
・・・前形態と比べ、
振動の”方向”と”範囲”と”強さ”をある程度コントロールできるのが
このエネルゲイヤ・リヴァイアサン特有の能力である。
「消えろ!!ブルートどもおおお!!」
振動を伝えた方向に地面が見る見るうちに割れ、
その裂け目は旧バーバレス日本支部の”大穴”に続いていく。
次の瞬間、周囲に地震が起き、
自らの足場すらも傾き始める。
地下に建設されていた旧バーバレス基地が、
俺の引き起こした強力な振動で崩壊したのだった。
周囲の大量の雑魚ブルートも足場が傾いた方向に滑り落ち、
混乱している。
「死ね雑魚!!」
俺は近くにいたケルベロスへと走り寄り、
その背後から全力の拳を叩き付けた。
と、同時にケルベロスは衝撃で破裂し、
内臓類が一式はじけ飛んだ。
「楽しいなぁ・・・この感覚!!」
・・・まるで、ゲームでオーバーパワーなキャラクターを使い、
雑魚を蹴散らしている気分。
ただただ楽しい。
「オラ!!」
俺は再度、両腕を勢いよく地面に叩き付け、
振動を利用して数匹のブルートを自身の目の前に集める。
ブルート達が一種の生命である事は承知の上だが、
俺の目には”もぐら叩きゲーム”のもぐら達が一斉に顔を出した、
くらいの感覚で映っている。
「砕け散れえええ!!」
右腕に力を込め、目の前のブルートに渾身の力をぶつける。
すると、ブルートが6匹まとめて容易く破裂した。
鮮血が弾け飛び、臓器のような生々しいパーツが散乱する。
「もっとだ!!もっと遊ぼうじゃないか!!」
・・・幾度となく地面を揺るがし、動きが鈍ったブルートを強襲。
・・・何度繰り返しても飽きがこない。
悪いヤツは他者の”遊び”に使われても文句は言えない。
もちろん、悪いヤツの定義に客観性はないが、
そんなことは関係がない。
人間は誰しも自分が【正義の味方】だ。
正義の味方達を統制するためには、
人間をルールに閉じ込めて、管理する必要がある。
人を人たらしめるシステム・・・それこそが”法”だ。
今から5年前、”ローズ・ブレイカー”こと、”掟を破る者”が多数発生した。
俺もその中の一人だった。
俺は当時、過去に家族を殺した”とある男”に復讐をするために、
同志を募り、ブラックマイスターという組織を構成した。
組織の長期的な目的は、『日本の法制度の改正』だった。
・・・しかし、俺は自分でも、
”家族を殺した男に復讐すること”そのものが
自身の最終目標になっていることに気付かなかった。
その結果、その男は、俺の知らぬ間に殺された挙げ句、
仲間に裏切られ、俺が立ち上げた組織は崩壊した。
この俺は、組織の長となる器ではなかった。
・・・その後、今から辿ると約1年半前、
世界各地に蔓延るバーバレスの支部を根絶やしにした際、
彼らの誇る様々な技術力が社会へと露呈した。
元々、バーバレスは自分らでも研究を進めてはいたようだが、
世界各国からの資金や、技術提供によって
より強大なテロ組織として君臨していた。
よって、社会に露呈した彼らの技術については、
巨大テロ組織だからこそ実現できた、という捉え方ではなく、
『世界各国で既にそういった極めて危険な技術が存在している』
という解釈で広まっていった。
その後、世界では国際連合安全保障理事会にて
テロ対策を強化する決議が発表された。
・・・だが、その矢先にブルートによる襲撃が起きた。
そのせいでテロ対策どころの話ではなくなり、
今に至る。
俺はこのブルートとの戦いを終わらせて、
次の時代に進む必要があるという訳だ。
そこに・・・俺がかつて望んだ世界が待っているかもしれない。
「これほど叩いたというのに、まだ全然数が減らないな。」
俺は先ほどからブルート達を数匹ずつ殺害しているが、
未だに果ては見えない。
旧バーバレス基地が崩壊したからといって、
ブルートの製造機構が壊れていない可能性はあるが、
おそらくそれだろう。
「しゃあねぇ、中に侵入してやる。」
俺の前方400mほどに広がる大穴から旧バーバレス基地に侵入し、
直接、製造機構を破壊する。
それが手っ取り早い。
一歩踏み出した、その時だった。
背後に人の気配を感じ、振り返った。
「・・・荒々しいわね、さすがに。」
「誰だ?」
そこには、20代前半であろう女性が立っていた。
身長はおそらく150cm後半くらいの、
体型は標準よりもやや痩せ型だろう。
顔は、パチっとした大きな目が特徴。
髪は後ろに束ねてスッキリとさせている。
上はカジュアルなベージュのストライプシャツに茶色のニットベスト、
下はオフホワイトのワイドパンツという格好だ。
正直なところ、容姿だけに留まらず、
服のセンスも容姿と絶妙にマッチしており、
男受けはかなり良さげな印象を受ける。
彼女は腰にはSASドライバーを巻いており、
俺の邪魔をしに来た”敵”であると瞬時に察した。
「私は・・・児玉 妃花。」
「ブルートの製造機構を破壊されては困るということか?」
「・・・話が早いわね。
岡本 龍星さんの邪魔はさせない。」
「貴様ほどの優れた容姿を持っているにも関わらず、
あの男に手を貸す理由が気になるが?
女は見た目が良ければ生きていけるだろう?」
「・・・見た目についてはよく褒められるんだよね。
でも、そんなにこの世は甘くない。
偏見だけで語らないでほしいな。」
女性は目を少しだけ細くしてこちらを睨みつける。
ただ、元々目が大きいせいか、あまり気迫を感じられない。
・・・まぁ、この女は
かつて何かしら闇を抱えるエピソードがあったのだろう。
ここでそれを聞くつもりはない。
俺は敵がどんなに美しい女だろうが、手加減はしない。
こういった機会に、普段抑圧している自分の激情を
”敵”というラベルを貼って、全てその相手に吐き出す。
それが俺のやり方だ。
無論、この緊急事態の世の中だけで通用するストレス発散法だが。
「世界平和を実現するためには、”オメラス計画”を完遂する必要がある。
そのために、私は戦う!」
彼女は青緑色のアーマーチップと、
ナックル大の”エンペラーシステム”を
SASドライバーへと挿入。
「変身!」
ドライバーのレバーを引いた。
《ロードコンプリーション。
アーマー・アンティポン。
イフェクト・エンペラーシステム!!》
彼女の身体の表面には甲殻類のような青緑色の装甲が構築され、
胸部にはY字型のアンテナのようなパーツが取り付けられ、
その上部は肩を通り越して頭部よりも高くまで伸びている。
顔面は台形が2枚連結して複眼をなすような黒い装甲に覆われた。
両腕の前腕には、肘あたりからサソリの尻尾のような突起が1mほど垂れており、
おそらく遠隔攻撃に使うのだろうと予想できる。
装甲の凹凸感はあるが、全体的にシンプルなデザインで、
彼女のスタイルの良さをそのまま表現したような恰好である。
「私は九州Qtain、
鎧方操帝キュービスティック・エントロピー。
”オメラス計画”の邪魔をするなら排除する!!」
彼女がそう言うと、
どこからともなく振動が俺の足に伝わってきた。
今回、俺は地震を引き起こしていないのだが・・・?
「まさか、貴様も見た目に似合わず
パワータイプの地震を操る能力持ちか?」
「いえ、違う。私は・・・」
次の瞬間、地面が張り裂け、
土の雨を降らしながら巨大なモンスターらしき影が俺の目の前に出現した。
・・・デカい!?
このリヴァイアサンは身長が2.5mあるが、
俺が遥か見上げるくらいのサイズ感。
単純な高さだけで10mはあるのではなかろうか?
「虹色のサソリ・・・だと?」
見た目は30㎝四方の虹色に発光する立方体を、
無数に合体させて出来上がったようなサソリだろうか。
体だけで、大きめの25mプールくらいある。
「これは私専用のウェポン、”キューブ・スコルピオ”。
私の意思で自由自在に変形し、私をサポートする。」
そう言いながら、彼女は右手を上方へと伸ばした。
すると、サソリ型メカは立方体に分離しながら
彼女の右手に収まった。
「それは・・・剣か?」
彼女の手に握られたのは、
刃渡りが軽く1kmもあるであろう、
それはそれは見たこともないほど巨大な虹色の剣だった。
立方体が集結して構築されていることもあり、
刃先は尖っていないが、あれで斬られた時に受ける衝撃は計り知れない。
「面白くなってきたぜ!始めようじゃないか!!」
そう叫び、先ほどのように両腕を振り上げた、
ちょうどその時だった。
・・・両腕に激しい痛みを感じ、
俺は思わずそのまま腕を下ろした。
「どうした・・・これもヤツの能力か?」
敵の方を見ると、
彼女はまだ剣を片手にしたまま動いていない。
「・・・さっきバンバン地面叩いて、ブルート達を殺してたのを見たけど、
自分の”拳の耐久”とか気にしていなかったの?」
彼女に言われ、
俺はハッとなった。
・・・リヴァイアサンの皮膚は耐刃性能には長けているが、
打撃には並の耐性しかないという、決定的な弱点がある。
しかし、私はこれまで雑魚の一掃をした経験がなく、
自分の拳による攻撃の反動で腕を痛めたことがなかった。
打撃の衝撃は、自分の腕にもダメージとして蓄積されている。
そんな単純なことが頭から抜けていたというのか・・・?
「・・・そんな痛いなら逃げても良いよ。
ただし、もうオメラス計画の邪魔をしないでね。」
「貴様・・・この俺が逃げる訳がない!!
敵に同情するなんて、随分と甘いな!!」
俺は痛む両腕を無理やり構え、
目の前のQtainに対してファイティングポーズを取る。
「続行するのね。まぁ、できるところまで頑張って。」
そう言うと、彼女の右腕がゆっくりと動き始めた。
#第38話 「5年前の決戦の地へ」 完結
お読みいただきありがとうございました!
今回は前作にも登場した中仙道の物語でした。
彼は自分の両親を殺した凶悪犯罪者を正しく裁けるような”法制度改正”を求めていましたが、
その実現間近にブルートの奇襲が起きました。
そのため、彼はこの約1年半の間、
大阪パーマネント・ガーディアンスに派遣されて
ブルート攻略のために活動してきました。
そんな彼の目の前に現れたのは児玉 妃花こと
九州Qtain、
鎧方操帝キュービスティック・エントロピー
です。
Qtainの中で唯一の女性で、力押しするような容姿のアーマーではありませんが、
専用ウェポン”キューブ・スコルピオ”を駆使して戦います。
今まさに戦いが始まる、というところで
リヴァイアサンが腕の痛みを覚え、不穏な流れになりました。
彼は鉄壁の守りを誇りますが、
何でも力任せにゴリ押しする癖がある上に、
衝撃耐性は一般的という弱点があります。
前作でも強力な格闘技を腹部に食らった結果、リタイアするシーンがあります。
各地で戦いが始まる中、
次回は遂に主人公の萩間 拓が”ラスボス”と出会います。




