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ジャッキング・フォース  作者: まるマル太
第5章 対立していた”2つの計画”
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#第26話 記憶の齟齬

#第26話 「記憶の齟齬」






「・・・分かりました。

 すぐに武装管理棟へと向かい、出撃準備に入ります。」



・・・この俺、萩間はぎま たく

DVを受けて精神が弱っている女性、藤崎ふじさき ねいと共に、

キャピタルタワーの屋上で待機を強要されていた。


が、たった今司令部より連絡があり、

明電めいでん 峰隆ほうりゅう司令官が

たった1人でヴァルゴの討伐へ向かったとの事だ。


司令官を名乗るだけの事はあり、

それなりの実力はありきだと予想できるが、

俺が実際に見てきたヴァルゴという怪物を

単独でどうにかできるとは到底思えない。




藤崎ふじさき、お前はどうする?

 第11小隊に所属するというのなら出撃の義務があるが?」

「もちろん、私も出撃します!」

藤崎ふじさきの表情は先ほどに比べたらだいぶマシなものだった。


Sランクブルートの討伐よりも

結婚相手の男性からのDVの方が精神的に答えるのだろう。


多少、俺が話を聞いてやったことで楽になったというのであれば、

俺も”何でも屋”として役立った自覚を持てるのだが。




・・・その時だった。




誰もいないはずの屋上に規則的な足音が響き始めた。

俺と藤崎ふじさきは階段の方を見据えると、

下の階から1人の男性が現れた。


黒いロングコートから覗く紺ワイシャツ、黒い無地のスラックスに黒い革靴。

髪は短髪で、その眼差しは異常なほどの鋭さを放っている。


元の時間軸で”何でも屋”として、

色々な”ヤバい人間”と関わってきた俺の感性が、

目の前の黒染め男に対して危険信号を必死に発し続けている。




「・・・久しぶりだな、萩間はぎま たく。」

男は一切の笑みを浮かべずに淡々とそう言った。

震えている藤崎ふじさきを咄嗟に俺の背後に回らせ、

俺も男をまっすぐに見据える。




・・・この男は、俺を知っている・・・?

いや、俺に心当たりがないのは

タイムリープによる記憶の上書きからして当然だ。




「悪いな。あいにくではあるが記憶喪失を起こしたもので、

 俺はお前が誰なのか、分からない。」

俺がそう言うと、

男は、ほう、とだけ漏らし視線を落とした。


「やはりそうか・・・。

 その報告は聞いている。

 我々の”オメラス計画”についても全て忘れてしまった、と?」

「おめらす・・・計画・・・?」




その名前に、俺は聞き覚えがある。

計画の方ではなく、短編のタイトルである。


タイトルは【オメラスから歩み去る人々】。






平和な国家”オメラス”は

豊かで、平和で、文化的で、楽しく、明るい。

飢餓も、戦争も、差別も、経済危機もなく、

この世で考え得る、最も恵まれた国。


・・・しかし、この国には一つだけ、ある欠落があった。


この国のある建物の地下に、一人の子供が、

汚れきって鎖につながれ放置されているというのだ。


そして、神との契約なのかどうかは分からないが、

実は、このオメラスの繁栄と人々の幸福は、

このかわいそうな子供を助けたりやさしくしたりせず、

このまま閉じ込めて放置しておく、

という絶対条件の下に成り立っているという。


この子を解放することはもちろん、

やさしくいたわってやったり、きれいにしてやったり、

あるいは抱きしめてやったりしただけで、この契約は破られるそうだ。

そしてオメラスには、地上で考えうるありとあらゆる災厄が降りかかり、

この国の何十万・何百万という人々はただちに、疫病や戦争、災害や経済危機など、

あらゆる不幸に苦しむことになるのだという。






「何かを思い出した、そのような顔をしているな?」

男は真顔のまま俺を凝視する。


「・・・まさか、ブルートが”理想郷オメラス”の構築に必要だと?」

「ほう、驚いたな。」

男は少し視線を落としたが、それからすぐに再度俺を見据えた。


「俺の名前は、岡本おかもと 龍星りゅうせい

 俺はオメラスから歩み去る人々をこう捉えた。

 オメラスが平和な理想国家である所以ゆえんは、

 神との契約によって神聖的に平和が維持されるから・・・ではない。」

岡本おかもとと名乗る男は俺に背を向けると、

展望台から見える夜景へと目を移した。

そのまま、口を開く。


「・・・人々は犠牲になっている子供1人の事実に気付いた時、

 自らが置かれた境遇の幸福さに気付く。

 ”あの子供ではなくて良かった”・・・と。」


俺と藤崎ふじさきはその場から一歩も動かず、

黙って岡本おかもとの話を聞く。

とても背後からの不意打ちで倒せるような相手ではない。




「人々の思い描く幸せは”今、自分がこうして生きている事”という

 極めて単純な、人間本来の願いに一元化され、

 それが人々の幸福の原因となる。

 つまり、生活レベルを極端に低下させることで、

 人は皆、”平和な世界”に生きる事ができるようになる。」

「そのために・・・ブルートを利用すると?」

俺は問う。


萩間はぎま たく、お前がどれだけの記憶が抜けている状態なのか分からないが、

 ZZZZZファイブゼッツ社は知っているな?」


アメリカの巨大企業、という情報はこの世界に来てから掴んでいる。




「あぁ。」

「今から約5年前、俺は

 ZZZZZファイブゼッツ社直属の武装勢力である

 ”ゴッド・レジスティング”の本拠地に出向き、制圧した。

 その際、ブルートについての情報が記載されたファイルを発見した。」

「・・・どういう事だ?

 ブルートは地球外生命体で、昨年度に襲来したモンスターであるはずだが?」

「ブルートはZZZZZファイブゼッツ社が12年前に開発した生物兵器だ。」

岡本おかもとは俺と藤崎ふじさきの方を見据える。




・・・何だと!?


そうなると、ブルートに関する全てがZZZZZファイブゼッツ社の作戦という事か?




「ただし、危険性があまりにも高過ぎるブルートを思い通りに制御する術はなく、

 ブルートの本格的な開発は中止となり、その場で計画は頓挫した。

 ・・・しかし、秘密裏に計画が進行していた。」

「どういう意味だ・・・?」

「ブルートを制御すべく、ZZZZZファイブゼッツ社のとあるグループは

 ”ブルートの制御コード”を、それ以前から開発していた”人間兵器”の受精卵へと組み込んだ。」

「つまり、そのコードがあればブルートを故意に操る事ができると?」




ZZZZZファイブゼッツ社がブルートの技術を考案。

その後、すぐに危険性が高過ぎて実現を断念。

しかし、一部のグループが極秘で制御コードを開発。

それを、よく分からないが他の発明品である”人間兵器”へと隠した。


・・・これぐらいの解釈で良いだろう。




「あぁ、その通りだ。

 だが、俺はそれを用いてブルートを消滅させる気はない。」

「・・・それが・・・例のオメラス計画か?」

「そうだ。ブルートを計画的に操り、余分な人類の処分を繰り返す事で、

 人は自分が生きている事実に満足し、快楽を得る。

 その過程で、人は真の幸せを享受する。

 ・・・萩間はぎま たく、お前はオメラス計画を受け入れたはずだ。

 お前の体内に埋め込まれた”タイタン”のチップがその証拠だろう?」






・・・俺が計画を受け入れた?


しかも、俺の体内にチップがある・・・?






「いや、俺は壁の中に戻った際に

 病院施設でレントゲン診断を受けている。

 チップが体内にあればその際に発覚するはずだ。」

「フッ・・・あの施設はSAS開発者である神崎かんざき 高麗こうらいの管轄下だ。

 よって診療結果などいくらでも偽装できる。」

「つまり、神崎かんざきとお前は繋がっていたと?」

「・・・ヤツは約5年前からの有力な協力者だったが、

 自分の感情を最優先するタイプだった。

 そのせいで命を落としたが、もう十分に貢献してくれた。

 お前を”ワイズブルート”に改造したのも神崎かんざきだ。」

「俺が・・・ワイズブルート・・・!?」





・・・嘘だ。



・・・なぜそんな事が起こる?






「ワイズブルートは人間の体内に、適合率の高いチップを挿入して生み出す。

 俺がブルートに対抗すべく開発した新たな戦闘システム、

 言わば、オメラス計画の理解者であり、”手駒”だ。」




・・・俺は吐き気を催し、その場に跪いた。

右斜め後ろで話を聞いていた藤崎ふじさき

咄嗟に声を掛けてくる。

しかし、俺はそれに構っている心の余裕がなかった。




「全部嘘だ!!デタラメだあああっ!!」

俺はその場から走り去った。




・・・激しい頭痛に襲われる中、

ひたすらに展望台を駆け降りた。


認めたくなかった。


だが、岡本おかもとと名乗る男は

とても嘘を言っているようには見えなかった。




この時代に生きていた俺は、

オメラス計画に納得して、協力を申し出たのか?


それが、真の平和の形だと判断したのだろうか?


もしそうだとしたら、俺は何を求めて了承したのだろう?


・・・少なくとも、今の俺の脳内では

あんな狂った”オメラス計画”が到底正しいとは思えない。




俺はいつしか外へと出て、苦しさのあまり口元のマスクを外していた。


気付けば、息が上がっている。


ちょうどその時だった。




「がああっ!!」

耳をつんざくような誰かの叫び声が鼓膜に刺さる。


・・・もう逃げたかった。


どうせなら、元の時代に戻って、

欲望ウイルスであるラパシティに感染して、

症状が発生してそのまま死にたい。


でも、俺にはタイムマシンなんてものはない。

片道切符で過去に送られた俺には果たすべき使命があった。











#第26話 「記憶の齟齬」 完結






ご覧いただきありがとうございます。


今回はキャラクター同士の繋がりが

かなり明らかになった回だと思います。


主人公である萩間はぎま たく

紛失したはずだった”タイタン”のチップは、

岡本おかもと 龍星りゅうせいの陰謀の下、

彼の体内へと仕組まれていた事が判明。


萩間はぎまは元々凄まじい才能で何事もこなせるため、

自分に底知れぬ自信を持っているタイプでした。

そのため、不明確な自分の過去に不快感を抱き、

思わず走り出しました。

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