#第10話 ミッション開始
#第10話 「ミッション開始」
東京パーマント・ガーディアンス内に
ブルートが出現した日から既に5日が経過し、
日時は2030年の4月15日となっている。
翼竜を擬人化したような、日本語を話すブルート、
ドンナー・ケツァルコアトルスは
対策本部に今も身柄を拘束されているらしい。
・・・結局のところ、尋問は成果を得られていないらしいが、
日本語を話すブルートは仮称として『ワイズブルート』と名付けられた。
この俺、萩間は正式に
対ブルート用アーマー”SAS”の装着者となり、
第11小隊の隊員として実戦トレーニングに励む日々を送っている。
実戦の機会はまだないが、
自身の才能もあり、すぐにアーマーでの戦闘には慣れた。
SAS装着者は実質的に危険な任務を課せられるが、
日給が約5万円にもなる超高額な職種だ。
尚且つ、昇給制度も備えられており、
戦闘の実績に応じて給与が増えていく仕組みである。
・・・今、俺は第11小隊のメンバーと共に
武装管理棟、地下施設の駐車場にいる。
どこか教授のような雰囲気を醸し出す隊長の
西園寺 藍木。
最年少ながらも気怠い様子を隠さない隊員の
神楽 彩月。
そして新入り隊員の俺。
小隊は基本、1チーム4人で構成されるが、
5日前に隊員の1人である瀬尾がブルートに殺害されたため、
この第11小隊では欠員が出ている状態だ。
そこで今日、
その欠員を補填するために
新たなメンバーが加わるとの報告があった。
・・・しかし、集合時刻の11時30分を回っても
未だにその新メンバーが来ていない。
「・・・はぁ。
もう10分過ぎたか・・・。」
隊長の西園寺は
第11小隊用の装甲車へと寄り掛かり、腕時計を見やる。
「初日から遅刻とは度胸があるな。」
俺は西園寺に同調しながら
ため息をついた。
「もうさっさと行って任務完遂させましょうよ?」
神楽が提案する。
「それは無理だな。
本部に逆らう事はできない。
・・・遅刻する新入りもポンコツだが、
今のこのパーマント・ガーディアンスの制度も
どっこいどっこいなものだ。
ったく・・・。」
この数日で分かった事だが、
西園寺は本音を隠すという事をしない。
すると、駐車場へ続く自動ドアが左右に開いたかと思うと、
右手をヒラヒラと振りながら
ニコニコと楽し気な様子の青年が小走りで接近してきた。
「あーごめんなさーい!!
やっぱ待ったよね。」
「当たり前だ!
自分が何分遅刻したか分かっているのか?」
西園寺は声を荒らげる。
「13分・・・ってトコかな?
まぁまぁ、ドタキャンした訳じゃないんだから良いでしょ。」
・・・見た感じ20歳ちょっとほど。
髪は明るい茶髪で、口調や仕草から分かるが
明らかにチャラい。
個人的には苦手なタイプである。
「・・・自己紹介が遅れたな!
俺は中久喜 麗央。
今日から第11小隊に配属されましたー!
ヨロシクでーす!」
中久喜の声が地下駐車場に響き渡る。
・・・どう考えてもコイツは殺伐とした第11小隊に合わない。
もはや上の判断ミスだろう。
「さーてと、じゃあそっちのマスク君から
順番に自己紹介してもらおうかな。」
チャラ男が俺のことをビシッと指差す。
「構うな。さっさと行くぞ。」
隊長の西園寺は露骨に迷惑そうな表情を浮かべたかと思うと、
装甲車の運転席へと乗り込む。
それにつられるように、神楽も
後部座席のドアを引き上げる様に開け、中へと入る。
「うわ~、俺絶対アウェイじゃん・・・。
なあ?マスク君?」
執拗に俺に絡み続けるチャラ男を見ていると、
今すぐにでも顔面を蹴ってやりたい気分に陥る。
「俺は萩間 拓だ。
ちゃんとした名前で呼べ。」
「んーじゃあ呼びやすい方で勝手に呼ぶわ。」
そう言いながら俺の肩に乗せてきた手を、
俺は思わず振り払った。
・・・それから装甲車に揺られ、
20分ほどが経過した。
その間、俺と神楽と中久喜は
後部座席に向かい合うような配置で座っていたが、
中久喜が5分ほどで居眠りを始めたお陰で
比較的静かなドライブとなっている。
「萩間、今回が初戦だけど大丈夫か?」
暇そうにしている神楽が話題を飛ばしてきた。
年下だが、小隊内では立場が同等であるため、
タメ口もあまり気にならない。
「おそらく、問題はない。」
普通の人間だったら、これから化け物と戦うなんて言ったら
恐ろしくてたまらないような気もするが、
少なくとも俺はそんな状態ではなかった。
元の世界でも”何でも屋”として危険な仕事を引き受けてきた。
時には暴力団事務所に交渉に行き、
勢いで荒らすなんて事もあった。
ある程度の度胸は知らないうちに身に付いたようだ。
「そりゃあ凄いな・・・。
俺は最初、めちゃくちゃ怖かったのは今でも忘れない。」
神楽はそう言いながら細かく震えていた。
「・・・何かあったのか?」
思えば、神楽は18歳。
俺よりも7つも下の未成年だ。
「俺は・・・両親と妹が
ブルートに食べられるのを見たんだ。」
「そんなことが・・・。」
気の毒だが、この世界ではそんな事も茶飯事という訳だ。
「だから最初は怖かった。
自分が捕食されるんじゃないかってね。
でも、だんだん慣れていった。
今ではだいぶ恐れも消えたよ。
人間っていうのは、面白いもんだ。」
俺はそう言う神楽の顔を見据える。
・・・笑っていない。
目も、口も。
おそらく、神楽は恐怖を消した訳じゃない。
いつでもその恐怖と立ち向かえる”度胸”を手に入れたんだ。
これから戦おうとしている彼は、
駐車場にいる時の気怠そうな彼とは似ても似つかない。
別人だ。
なるほど。
常に死と隣り合わせの状況は、
こういった人間を創り出すという事か。
・・・この悲惨な現状がもし、
”誰か”が仕組んだ完璧な台本だと言われたら
俺はその人間を讃えたい。
ある意味の”思考統制”をその人間は果たしている。
ただし、そんな事はあるはずがないだろう。
こんな状況を意図的に引き出す者がいるとすれば、
それは人間である事を捨てた”神”のなす業だ。
・・・そもそも、なぜ今回、
俺たちに出動要請が出たのかというと、
東北パーマネント・ガーディアンスへと向かっていたはずの第19小隊と、
昨日、連絡が取れなくなったという事で、
救援、安否の確認、
もしくはアーマードライバーとチップの回収が命ぜられたためだ。
連絡が途絶えたおおまかな地点は把握できていたため、
俺たちは今、そこを目指しているという訳だ。
・・・それから更に20分後、
装甲車は静かに停車した。
隊長である西園寺が装甲車から降りると、
後部座席のドアが上部に持ち上がり、光が差し込んだ。
快晴だ。
俺と神楽は素早く車から降り立つと、
そこは旧高速道路の車線だった。
パーマネント・ガーディアンスの外には、
1年半前まで人間が生活していた風景そのものが
そのまま残されている。
ただし、そのどこにブルートが潜んでいるかは
まだ調査が行き届いていない事もあり、不明らしい。
「ふぁーよく寝たぁ・・・。」
中久喜が大あくびをしながら降りると、
西園寺は作戦説明を開始する。
「まずは分担して半径3km以内を探索。
四方に散開し、20分後にここでまた合流。
人員をローテーションしながらこれを3回繰り返す。」
そう言うと、西園寺は
アーマーを纏うためのチップとドライバーを取り出した。
「危険区域内ではアーマーの着用を義務付ける。
もしも各個人で対応し切れない
上級ブルートが出現した場合、
速やかに連絡を取って合流を図るように。」
皆がアーマーチップ、イフェクトチップを使用して
変身を開始する中、俺も自身のドライバーにチップをセットする。
開発担当の神崎から授かったAランクチップ
“オーバチャー”をバックルの右サイドに挿入。
続けて、上部にイフェクトチップ
”ブラスト”を3枚並べて挿入。
《コネクティング。》
暗いトーンの男声ガイダンス音が鳴った。
そのまま左サイドに取り付けられているレバーを右手で握り、
身体の正面を通して右側へとスライドさせる。
《ロードコンプリーション。
アーマー・オーバチャー。
イフェクト・ブラスト、ブラスト、ブラスト。》
俺の視界は頭部アーマーの画面へと切り替わり、
身体がズッシリと重くなる。
それでも、関節部分に搭載されたパワーソースによって
抜群のパワー変換効率は保障される。
どうやら、ブルートのコアは現時点では多大なエネルギーを秘めた
仮の”永久機関”として扱われているらしく、
神崎をはじめとする開発グループは
そのエネルギーをアーマーのシステム維持に利用しているとの事である。
オーバチャーを用いて変身したSASは、
全身が銀色をモチーフとした配色で、
黒いラインが腕、脚の側面に引かれている。
上半身は肩から胸部を覆うように黒い大型アーマーが搭載され、
防御性能の向上につながっている。
また、腰には全長2mほどの専用ランチャー、
“チャーリング”を備えている。
「これより、ミッションを開始する!」
西園寺の掛け声と共に、
4人のSAS装着者たちは4方向へと散った。
・・・まさかこれが、
第11小隊の最期の姿になるとも知らずに。
#第10話 「ミッション開始」 完結