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頭巾の娘は善良男を悪い狼にしたい  作者: 藤谷 要
番外編

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11/11

それから一年後

 それから一年もの月日が流れました。

 私たちが住む帝都では、平穏な日常が続いています。今日は友達のレイチェルとタリアの二人が我が家に遊びに来てくれて、私が用意したお茶で楽しい時間を過ごしていました。

 ちなみに今日のお菓子はクレープです。小麦粉を解かした生地をしっとりと薄く焼き、砂糖水や果物のジャムを添えていました。

 昼過ぎの穏やかな晴れの日。暖かな陽の光が開いた窓から差し込んでいました。


「ねぇ、知っている? 先日王女様の使者がお城にいらっしゃったんだけど、どうやら王女様がご懐妊されたらしいのよ!」

「本当? それはおめでたいわね~!」


 タリアの新しい王室情報に私たちは心底驚きました。なにしろ、三枚目のクレープを頬張りながら、レイチェルが思わず返答するくらいです。


「きっともうすぐ正式な発表があると思うんだけど、お城の中ではその話で持ちきりなのよ」


 お城勤めのタリアは、いつも私たちに新しい情報を教えてくれます。彼女から有名な貴族たちの話を聞くのは楽しく、この時だけ別世界を覗いている気分になるからです。

 また、タリアはハント様と私の関係を知らないとはいえ、その後の彼の様子を教えてくれるので、私としては助かっていました。


「ハント様にお子様が……」


 嬉しい知らせに私は安堵の声を思わず漏らしてしまいました。

 私たちの幸せを祈ってくれたハント様。あの方自身の境遇を私は密かに案じていました。

 彼は王の命令で王女様を娶りました。その後、辺境の統治を王女様と任されて、帝都から離れていたのです。


 この一年、色んなことがありました。私とウォルフが結婚してから、国境付近で色々と不穏な動きがあり、それを王女様のご活躍で無事に鎮圧することができたそうです。なにしろ、国境付近の警備を増員するために、ウォルフまで派遣されたくらい大規模な騒動でした。

 その困難をご夫婦で乗り越えられたおかげか、王女様とハント様の仲は急速に縮まり、以前王都を訪れた際のご様子は、とても仲睦まじかったそうです。

 だから、この喜ばしいご懐妊は、夫婦円満のご結果でしょう。


「マリーの子供と同い年になりそうね~」


 レイチェルが私のお腹を見つめながら、嬉しそうに呟きました。


「あら、偶然とはいえ、嬉しいわね!」


 タリアがそれに同調してくれたので、私は微笑みながら頷きました。

 そうなのです。新婚半年で夫のウォルフが長く不在となってしまいましたけど、やっと帰ってきてくれたので、先月私も子供が授かったのです。まだお腹は膨らんでいませんが、身体の変化を少しずつ感じていました。

 妊娠したと告げた時、ウォルフは泣いて喜んでくれました。


「でも、マリーに似てくれたら嬉しいなぁ」と、困ったように笑いながら、しみじみ呟いていましたけど。

「そうかしら? 私に似た女の子だったら、きっと頭巾が手放せなくなると思うんだけど」


 私がそう言うと、ウォルフは照れくさそうに言いました。


「虫よけのためにマリーへ毎年贈った頭巾を今度はその子にも贈るよ」と。


 私は頭巾を贈ってくれたウォルフの真意を知って、ますます彼が好きになりました。


――生まれた子供が、将来誰かと巡り合う時、彼のように善良な人と結ばれますように。


 そう願った時、玄関脇の開いていた窓から東風が静かに私たちの間を通り抜けていきました。

 ふと窓辺を見ると、その前に置かれている棚が目に入ります。その上には、レイチェルから貰った寝間着が包装されて置かれていました。


「そういえば、あのスケスケ寝間着を良かったらタリアにあげようと思っていたのよ」


 私の言葉にタリアは目を見開いて「ええ?」と驚愕の声を上げます。


「私が貰ってもねぇ。マリーの相手みたいに誠実な人ならお色気作戦もありだと思うけど……。ああ、無理! 絶対やり逃げされるわ」


 タリアは脳内で誰かを相手に想像をした後、その妄想を追い出すかのようにしかめっ面をして頭を振りました。


「という訳で、私には不要だと思うから、元の持ち主のレイチェルに返せばいいと思うわ」


 切り替えの早いタリアは、先程の慌てぶりは無かったかのように落ち着いた様子でレイチェルに話を振ります。

 実はレイチェルですが、彼女はすでに勤め先である食堂の店長の息子と将来を約束する仲になっていました。だからこそ、まだ相手のいないタリアへ贈ろうと私は考えたのです。

 妊婦の私がこのまま寝間着を持っていても、今後使い道がなくて勿体ないですし、体型が変わっていないレイチェルは恐らく着用できないはずです。


「え、でも……」


 私が困っていると、レイチェルがのほほんとした微笑みを浮かべて口を開きます。


「どうせ私は入らないから、タリアが貰えばいいじゃない~。私の母親とマリーを幸せに導いたご利益付きなんだから」

「そ、そう? レイチェルがそう言うなら一応貰っておくわ」


 レイチェルの柔らかい雰囲気に影響されてか、タリアは柔軟に対応してくれました。

 先程のタリアの様子から、彼女には密かに想う相手がいることが分かりました。彼女が素敵な恋の物語をこれから紡げるように願わずにはいられません。きっと、何か進展があったら、彼女から報告してくれることでしょう。それまでは、そっと見守っていたいと思います。

 あと、タリアはこの寝間着を今のところ使う気はなさそうですけど、もしも万が一、これを彼女が使う場合、私のようにうっかり他の男を誘惑しないように祈っております。


 まあ、しっかり者の彼女のことだから、きっと大丈夫でしょうけどね。


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