一話
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魔王直属の配下、キングビル。
クロウドベリーより北へ続く街道を塞ぐその魔物を討伐するため、勇者アルベルト、僧侶セシル、そして魔戦士の俺、マッツンの三人は魔窟へ入った。
結果だけを言えば、惨敗だった。アルベルトが撤退を決断しなければ、誰か一人くらい死んでいたかもしれない。
「……マッツン。この先、お前を連れていくことはできない」
「は?」
だが、アルベルトがテーブルの上に置いた紙を見れば、言わんとしていることは分かった。そこには三人の現在の能力が書かれていた。
勇者アルベルト レベル38。
僧侶セシル レベル36。
魔戦士マッツン レベル21。
「キングビルだけの話じゃない。このところの戦闘じゃ、俺かセシルがお前を庇うことが増えてる。この先へ進めば、もっと強い魔物が出てくる」
◇
あとは追放系お決まりのパターンだった。
「そんな顔すんなって。俺が弱いのは事実だろ」
アルベルトとセシルは何か言いたそうにしていたが、別れ際に口から出たのは「元気でね」という、ありふれた言葉だけだった。
◇
勇者パーティーを追い出されたからといって冒険者を辞めるつもりはなかったし、なによりレベル二十一のままで終わることが腹立たしかった。
翌日から一人で魔物を狩り続けたものの、どれだけ倒してもレベルは上がらない。
(やっぱり俺には才能がないのか……)
そう思い始めた頃、一万体目の魔物を倒したところで《限界突破》なる固有スキルが解放された。
「とうとう来た! 雑魚敵倒しても一回でレベルが上がるチートスキル! 待ってたぜ!」
そこからは早かった。
三日後、一人ではまず討伐不可能とされていたキングビルの首が、俺の足元に転がっていた。
◇
キングビルが消えたことで北への街道は開かれ、商人も冒険者も再び先へ進めるようになった。その魔物を単独で倒した俺はクロウドベリーで英雄扱いされ、いくつものパーティーから仲間にならないかと声を掛けられた。
そんな時だった。
「マッツン!」
聞き覚えのある声に振り返る。
人混みの向こうから歩いてきたのは、アルベルトとセシルだった。
「聞いたぞ! キングビル、一人で倒したんだってな!」
「ああ」
「すごいじゃない! 本当にびっくりしたんだから」
「お前のおかげで、俺たちもようやく北へ進めるよ。本当にありがとう」
「……おう」
「それでさ、マッツン。良かったら――」
(来たーーーーー!!)
アルベルトがゴソゴソと腰の鞄に手を入れ差し出されたものは、一本のダガーだった。
「――これ、持っていってくれよ」
「……これは?」
「覚えてるだろ? お前が俺たちとパーティーを組んだ頃に使ってたマッツンの初期装備」
「この前、道具袋の整理してたら出てきたんだ。捨てるのもなんか違うなって思ってさ。それでキングビルを倒したって聞いたから、お祝いも兼ねて返そうと思ったんだ」
「……」
「ちゃんと鍛冶屋で磨いてもらったんだぜ。結構綺麗になっただろ?」
「じゃあ、私たちは行くね」
「キングビル、本当にありがとう。マッツンも元気でね」
「……」
『良かったら、また俺たちと一緒に来ないか』
アルベルト御一行は、俺にそう言ってくれなかった。
◇
それからしばらく、俺は誘われたパーティーに仮加入して冒険を続けた。
ところがある日、依頼を終えて街へ戻ると、勇者から仮加入は今日までにしたいと言われた。
「本当に助かったよ。お前がいたから俺たちじゃ無理な依頼もこなせた。でも、俺たちじゃもうお前の足手まといだろ?」
仲間たちからも礼を言われ、報酬まで多めに渡されて、俺はまたパーティーを外れた。
その夜、宿屋のベッドでアルベルトから返されたダガーを眺めた。
弱かったから追放された。だから強くなった。
なのにアルベルトたちは俺を誘わず、今度は強すぎるから外された。
「…………もしかして悪いの、俺なのか?」
初めてそんな疑問が浮かんだ。
◇
俺は独立ってわけではないが、個人傭兵にしばらくなることにした。
クエストをこなしたり、レベル上げに勤しんで、音を置き去りにする目標は一旦中断。
そして今は報酬が残っていないわけではないんだが、この世界冒険者は戦っていないと結構きついんだ。
武器や防具のメンテナンス、ただひたすらガチって連続して戦えばいいってものでもない。
身体が資本だから、一番メンテナンスがいるのが自分だ。
ある日、レベル上げが目標ってことでパーティに経験値を多く渡すって依頼があった。
一人で倒していた時の俺は百パーセント。
そしてパーティを組むと倒した奴が五十%、残りの五十%をいるメンバーで割った経験値が入る。
それがこの世界の常識である。
このパーティは重症を負った魔法使いが復帰したのだが、他のメンバーとレベルの差が生まれてしまったので、均一にある程度戻したいって依頼だった。
俺がギリギリまでドラゴンを痛めつけ、最後魔法使いの女性がとどめを刺さして、経験値を五十%入れる。結構イージーな依頼で、報酬も高かった。
そんな中、経験値の高いゴールドドラゴンと遭遇した。激しすぎる炎攻撃は、現在のパーティが食らったら一発でお陀仏だ。
当然俺は依頼者に飛び火しないよう、避けるのではなくあえてガードして近づいてゴールドドラゴンに攻撃……ってしまった!
思わずガードしながら攻撃したら倒しちゃった。
「ゴメン、ゴメン!わざとじゃないんだ」
俺はニコリと笑ってみんなへ謝ったが、意外にもそこにあったのは『ドンマイ』ではなくため息だった。
「じゃ、今日の報酬」
二五〇〇〇ゴールドももらった俺に充足感はなかった。……違う!充足感ではない、俺はこのため息をつくパーティから教えてもらえた。
その夜、酒場に行きアルベルトのことを思い出しながら酒を飲んでいた。
俺とアルベルト達のレベル差が少しずつ開いていた時、同じように俺にとどめを刺させてくれている時期があったと思う。いや、あれはアルベルトとセシルが上手く誘導してくれていた?
とどめを刺さしゃいいのに、ダメージを与えた敵を残し「あとは任せた!俺は向こうの敵が危険だからそっちを止めてくる」勇者アルベルトってそんな感じのセリフが多かった気がする。
僧侶は常に何故か俺の後ろにいた。
レベルが全然低くて、俺の攻撃が当たらなくても、後ろでずっと回復していてくれていたような気がする。そう気がするのだ。
あの時、俺はなにも見えていなかった。
『キングビルだけの話じゃない。このところの戦闘じゃ、俺かセシルがお前を庇うことが増えてる。この先へ進めば、もっと強い魔物が出てくる』
アルベルトが俺をパーティから外すときに言っていた言葉。この時、アルベルトは笑っていたか?
怒っていたか?それとも……
俺は道具袋から初期装備のダガーを取り出した。
俺達は魔王討伐で結成したのが九年前。
当時俺とアルベルトは十六歳。
セシルだけ一つ上で十七歳だった。
あの時俺達は、そんな気を使い合っていたか?
いや、みんな必死でモンスター倒して、次の街についたらみんなで大騒ぎして、俺は身体がデカいからみんなの前に立ち塞がって、アルベルトが毎回……毎回……ありがとうっていってくれ……セシルは……
俺は戦士で現在二十五歳の戦士だ。
なのに、止めようと思っても涙が溢れて溢れて止まらないのだ。
「アイツは、本当の勇者だ……」
出来ることは全部やってくれていた。
自分のことしか見なくなったのはいつの頃だっただろうか。




