010「スカウト(1)」
——真希名 綾瀬
「マジっ! マジで異世界に行った証拠あるの?!」
配信で琢磨が「異世界に行った証拠あるよ」と言ったことで彼女——『真希名 綾瀬』は興奮の坩堝にいた。
「これはもうイッチ君獲得に動くしかない!」
そういって、真希名はイッチのチャンネルの概要欄にある『ツイX』のDMにメッセージを送った。タイトルは『ライバー事務所スカウトの件』。
そう、彼女は以前オカルト板で琢磨の配信の告知をしていた時から追っていた人物で、その正体はライバー事務所『アンダーテイル』の社長。
ちなみにさっきの配信で「もし異世界に行った証拠とかあったら見してくんない?」とコメントしたのは彼女である。
(イッチは次の配信で異世界に行った証拠を見せると言ってた。本当かどうかはわからないけど、でも、もし本当に証拠があったらすごいことになる⋯⋯)
そこで彼女は考えた。
(次の配信までにイッチを契約させたい!)
そう決断した後の彼女の行動は早く、配信が終了した後すぐにDMを送ったわけである。
(お願いイッチ君! 返信して!!)
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——藤代 琢磨
「ふぅ〜終わった、終わった」
配信を終了した琢磨は、冷蔵庫からキンキンに冷えた缶ビールを出してきてパキッと軽快に開けるとゴッゴッゴッと勢いよく喉にビールを流し込む。
半分ほど一気に飲んだ後「ふぃ〜」と充足感に浸りながらチャンネル登録者数を確認。
「おお! チャンネル登録者数932人! すげぇ、あと少しで収益化条件を達成するじゃないか!?」
琢磨は一気にチャンネル登録者数が増えたことに興奮。
その後、自分の配信の感想を言い合うオカルト板のスレ『【感想戦】異世界帰還者イッチちゃんねる品評会(第2回配信)【感想戦】』を見に行った。
うおおお! めっちゃ書き込まれてるぅぅ!!!!
内容も大部分が肯定的に捉えているようでまず安堵。
そして配信終了間際の「異世界に行った証拠を見せてほしい」という質問に「証拠あるよ」と告げての配信終了は琢磨が狙ってのものだった。
結果は大成功し、スレでは「次回配信も神回」と期待をかける書き込みで溢れていた。
匂わせ発言の配信終了⋯⋯どうやらうまくいったみたいだな。
そうして一通り配信終了後の反響チェックを終えたあと、自身のSNS⋯⋯主に利用している『ツイX』にも何か書き込みがないか確認。すると、
「ん? DM?」
1件DMが届いていることに気づいた琢磨。
開いてみると件名が『ライバー事務所スカウトの件』と書いてある。
「ス、スカウト⋯⋯っ!?」
DMの件名に驚きつつも「詐欺DMとか?」などと疑い始める琢磨。
「まだ2回しか配信していない俺にライバー事務所がスカウトって⋯⋯そんなことある?」
しかもDMの中身を見ると、そこには「是非ライバー契約してほしい」「契約すれば一定期間、事務所が定めるチャンネル登録者数になるまでの生活は保証する」というかなり好条件な内容が書かれていた。
あまりに好条件過ぎる内容に「いよいよ詐欺DMにしか見えなくなった」と感じる琢磨。当然である。しかし、
でも、もしこのDMが本当だったら⋯⋯?
琢磨としては現在まだ2回しか配信していないにも関わらず、Yo!Tube収益化条件で一番ハードルが高いとされる『チャンネル登録者数1,000人』がすでに手に届く状況にある。
しかし、実際収益化条件をクリアしたとしてもそのお金が入るのは2ヶ月後。
さらにはどれだけ稼げるのかは全くの未知数。
これが現在琢磨が直面している状況であった。
(事務所が定めるチャンネル登録者数がどれくらいかは書いてないし、また生活を保証する期間も『一定期間』としか書いてないからそれもこれだけではわからない。でも本当にここまでライバーに対して手厚く保証するような事務所ならこっちとしても⋯⋯すごく助かる)
そこで琢磨はもう一度考えた。
(いずれにしても一度話を聞くのはありじゃないだろうか? もしその時に怪しければ帰ればいいし、仮に力づくで契約させられそうになっても今の俺なら別に怖くも何ともない。あれ? 問題無くね?)
ということで、琢磨は「直接会って話したい」と返信。
すると相手からすぐに「では時間と場所ですが⋯⋯」という返信が届いた。
「いや返信早っ!? ていうか、え? 明日っ?!」
DMには「明日ランチを兼ねて事務所近くにある駅前のファミレスで会えないか」と書かれており、さらには事務所のURLも貼ってあった。
(ライバー事務所『アンダーテイル』⋯⋯)
ちなみにその事務所の場所は琢磨が住むアパートから3駅ほど先の場所と割と近く、さらにはランチは向こうの奢りとも書いてあったので、琢磨は「わかりました。ではそのファミレスで」と返信。
こうして、琢磨はライバー事務所のスカウトと会う約束を取り付けた。
これが後にライバー業界で大躍進を遂げることとなるライバー事務所『アンダーテイル』、そしてそのアンダーテイルの社長『真希名 綾瀬』との初邂逅であった。




