【偽りの剣聖】
翌朝。
ドワーフ達が見送りに集まっていた。
「お主たちならいつでも大歓迎だ、
またきてほしいぞい」
「途中で『ルナルロッカ』付近を通るから、
もしよかったら少し寄ってかない?」
ヘレナが尋ねる。
「ワシは、別に構わんぞ」
「久しぶりね、みんな元気かな?」
エルゼが懐かしそうに言った。
アグニードに乗り込み、
出発する。
ドワーフの村を飛び立ち三日後。
「もう少しで『ルナルロッカ』が、
見えてくるぞ」
「……あ、見えてきたわ」
「そろそろ降りるか」
ーー『ルナルロッカ』入り口ーー
外は夕刻…日も落ちかけていた。
「懐かしいわ…」
「二カ月ぶりくらい?」
「うん、それくらいだね」
話しながらギルドへ向かう。
ギルドの前に人集りが見える。
「何かあったのかな?」
人をよけてギルドの中へ入るエルゼ達。
そのまま受付へ向かう。
「あら、ヘレナじゃない!?」
「久しぶりだね…」
「それよりミラベルさん、この人集りはなに?」
「あぁ、あれはギルマスが、
Sランク魔物を討伐してきたのさ」
「アリアンネさんが? 戦えないんじゃ」
「そうだよ、すごい薬が見つかってね」
「今はもう冒険者の時に戻った感じさ」
奥から歩いてくる女性…。
「あなた達は…」
「エルゼちゃんよね! 覚えてるわ」
「この街を救ってくれた英雄だもの」
(すごい、元気そうだな…)
(たしか『剣聖』のアリアンネさんだったな)
「よかったら、今晩私の家に泊まらない?」
「いいんですか?」
「えぇ、あなた達とは
ゆっくり話をしてみたかったのよ」
と言われアリアンネの家に案内される。
案内されたのは……。
「何ここ!?」
『ルナルロッカ』で一番大きいらしい家。
「さあ入って」
そのまま食堂へ案内される。
エルゼ達以外にもミラベルやギルドの職員も、
何人か一緒だった。
豪華な夕食を振る舞われ、
会話が弾む。
「んー、このケーキ美味しい」
(琴音、いきなりケーキ食べるなよ)
(いいじゃない好きなんだから…)
「エルゼちゃんはケーキばっかり食べると、
太るわよ?」
とミラベルが呟く。
1時間後…。
「みんな寝たわね…」
ミラベルや職員たちも、
椅子にもたれたまま眠っている。
「こんな簡単にいくなんて、
思わなかったけど」
睡眠薬でみんな眠らされたようだ。
「悪いけど……あなたには、死んでもらうわ」
アリアンネの剣先が、
エルゼの胸元へ近づいていた。
その時、目を開きアリアンネの剣を弾くエルゼ。
「思ったとおりになったな…」
「何で、起きている!?」
「この薬で眠らないなんてありえない!」
「さあな、それをお前に
教える必要があるのか?」
(琴音が眠りきる前に代われてよかったな)
「それより、おかしいとは思ってたんだよ」
「私が怪しいと?」
「あなたは偽物だろう?」
「なに?」
「あの人の呪いは相当強力なものだった、
たった二ヶ月で完全に
消えるとは思えなくってな」
「薬次第ではあるかもしれないから、
一応用心はしてたってわけだけど…」
「さっさと正体を現したらどうだ?」
「正体? 確かに私は偽物ですが、
私も『アリアンネ・クロスウインド』ですのよ」
「……私も?」
「フフ、理解できないみたいですわね」
剣を構えるアリアンネ。
(まずいな、意味はよくわからないが、
一つだけはっきりしている事がある)
それは相手が『剣聖』だということだ。
(とりあえず、ここで戦うのはまずい)
エルゼが窓から外へ飛び出す。
アリアンネが高速でエルゼに、
襲いかかる。
剣で受け止め、腹部へ蹴りを叩き込む。
アリアンネの体が後ろへ弾かれた。
そのままさらに追撃する。
エルゼは跳び上がり、上から剣を振り下ろす。
アリアンネは紙一重で身をずらす。
すれ違いざまにエルゼの足首を掴んだ。
次の瞬間、視界が反転した。
地面に叩きつけられる寸前、
エルゼは受け身を取った。
「『剣聖』って言っても、
こんなものなのか…?」
「そろそろ時間切れですね…」
「時間切れ?」
アリアンネの体が消えていく…。
「消えた…、何だったんだ」
みんなが寝ている部屋へ戻り、
起こそうとするが…。
「全然起きないな…」
ミラベルも、ヘレナたちも、
眠ったまま起きる気配がない。
窓の外が少しずつ白み始めている。
もうじき夜明けか。




