【鎧の怪物】
今回はアグニードに乗って移動ではなく
ギルドが用意した乗り物『爬虫馬車』で
一緒に移動する事になる。
4足歩行の馬に近い魔物『ストームリザード』
が牽引する乗り物だ。
馬車は全部で6台
その内1つにエルゼ一行が乗る。
操縦はギルドの人がやってくれていた。
移動中ーー
かなり速いな…
「砂漠でこんな速度出るのね…」
「ストームリザードは砂に沈みにくいんだ」
ギルドの男が足元を指差す。
「ほら、足裏の膜。砂漠用に改良されてる」
「へぇー 砂漠を移動するのには
最適なんですね」
「この調子なら数時間で着くな」
「到着後の動きを決めておこう」
アグニードが説明する。
「リヒータ王国はかなり広いので
固まって動くより散開した方がいいだろう」
アグニードが地図を指差す。
「ヘレナとテラは東側。
ワシとイリアは西へ回る」
「エルゼとリゼは正面からギルドへ向かえ
一番危険だが、お前達なら突破できるだろう」
「三方向から突入しよう」
5人は静かに頷いた。
緊張した空気が流れる。
「敵の正体が分からない以上
気をつけて行動するようにな」
「ラ・ジール王国を滅ぼした
『何か』なのかな?」
「ここまで大規模に動ける国なんて
帝国くらいしか思いつかないが…」
「後はノストコード王国くらいか…」
ーーそれから数時間後
遠くの空が赤く染まっていた。
風に混じって焦げ臭い匂いが流れてくる。
リヒータ王国が見えてくる…。
「あれは…」
そこには以前エルゼとテラが攫われ
捕まった『黒い船らしき物』。
「あの船…」
「知っているのか?」
「前に私達を攫った連中の
船に似てる気がするわ」
「他にあの船を見たことがある者はいるか?」
周囲の冒険者達は顔を見合わせるだけだった。
あの船を知っているのは、
エルゼ達だけらしい。
ーーーー
『リヒータ王国』手前に着くと一斉に
各方面に散らばる冒険者とエルゼ一行。
エルゼとリゼも正面の大門に向かう。
大門周辺は既に崩れていた。
騎士達が怒号を飛ばす。
血まみれの冒険者達が、
必死に魔物を押し返していた。
魔物を『鑑定眼』で調べてみると
各魔物がBランク相当の強さだ…。
魔物一体相手に複数人で
対応している冒険者達。
エルゼ達も大門に着くと
中へ入る。
そこに…上から魔物が降ってくる。
『鑑定眼』が捉えた情報をみると
ロイヤルデーモン Aランク
Lv60 悪魔系魔物。
リゼが真正面から突っ込む。
拳打が連続で『ロイヤルデーモン』へ叩き込まれた。
腹部へ拳がめり込む。
衝撃で巨体が浮いた。
そのまま追撃の拳を二発、三発と叩き込む
鈍い衝撃音を響かせながら、
巨体が大きく仰け反った。
(琴音 ギルドまでとばすぞ)
(うん!)
エルゼは迷わず全強化を重ねた。
相手はAランク。
出し惜しみしていい敵ではない。
ーー『転移』。
次の瞬間、エルゼはすでに『ロイヤルデーモン』の死角へと回り込んでいた。
残光すら遅れて見える速度で、一閃がその胴を深く斬り裂く。
魔物は地面に崩れ落ちる。
消えていく『ロイヤルデーモン』を背に、
エルゼ達は再びギルドを目指して走り出した。
その道中でも魔物の襲撃は途切れない。
路地裏や、
屋根の上から魔物が降ってくる。
エルゼはそれらを斬り捨てながら前へ進む。
そして辿り着いた先。
開けた巨大な広場だった。
広場の中央。
そこに、一人の『鎧の男』が立っていた。
前に黒い船で見た男だ…。
「あなたが魔物を操っているの?」
男は何も言わない…。
(琴音 気をつけろ、こいつやばいぞ)
(うん)
エルゼがリゼに近寄る。
「リゼちゃん、ここは私に任せて先に行って」
そっと頷くリゼ、
その後ギルドに向かって走り出す。
『鎧の男』の方をみると
リゼを狙って動く。
全ての強化を発動し
エルゼが割り込んで止める。
「行かせないわよ!」
咄嗟に剣を合わせた瞬間、
凄まじい衝撃が腕を貫いた。
エルゼは後方へ飛び退き、痺れる腕を握り直す。
一気に間合いを詰め、
男の目前で視界から外れる。
呼吸を置く暇もなく
すでに男の背後へ回っていた。
斬撃と同時に
『身影動作』を発動。
だが人間離れした反応で躱される。
(うそ?! あれを躱すの…)
さらに追撃。
魔力の斬撃を放つが、
『鎧の男』は片腕で叩き割った。
(ここまで圧倒出来ないのは久々だな)
(うん かなり強いね…)
剣と剣がぶつかる甲高い音が続く。
何度踏み込んでも届かない。
攻め込もうとするたび、
剣で押し返される。
無理に踏み込めば、
間合いへ入る前に潰される。
「エルゼ・リリーコーラル、
この程度なのか… いや」
「お前はあの女とは違うのか」
あの女… もう1人のエルゼの事なのか
今のエルゼには理解できない。
「あの人を知ってるの?」
「フッ 何も知らぬか」
『鎧の男』は静かに呟く。
『腕力強化』『身体強化』。
男の全身を黒い魔力が覆う。
(まだ上があるのかよ……!)
エルゼが剣を構え直した瞬間、
男の姿が消えた。
気づけば、男は目の前にいた。
腹部に拳がめり込む。
内臓が揺れるような衝撃。
「きゃっ……!?」
エルゼの体が後方へ弾き飛ばされ、地面を何度も跳ねるように転がった。
(琴音 大丈夫か?)
立ち上がろうとする琴音。
「あれ?!」
足に力が入らない。
膝が震え、うまく立ち上がれない。
(装甲強化もかかってるはずなのにそれか…)
(今の速さなら、剣でも斬れたはず……)
『鎧の男』は動こうとしていない
その場で立ち止まっていた。
エルゼの方に歩き出す『鎧の男』。




