73話 明との日常
琴音ちゃんに彼氏が出来た……らしい。
相手は同じ生徒会にいる会計担当の城島武君。
琴音ちゃんと同じ1年生だ。
あの琴音ちゃんが自分から生徒会の仲間にと推薦するほどの人物だから何かあるんだろうなとは思ってたけどまさか恋人になるとは思わず素直にびっくりだ。
彼女は恋愛とか興味無いと思ってたからね。
彼女はぶっちゃけ僕の事が好きなのではと勘ぐっていた頃が僕にはあったのでちょっとだけショックを受けているのは秘密だ。
だってあんな態度とられたら陰キャオタクは誰だって勘違いしてしまうだろ?
全国の陰キャオタクに怒られそうだが結局何が言いたいかと言えば盛大に空回りした自分のお馬鹿っぷりに悲しくなってくるという事だ。
まぁもとより多少マシになったとはいってもあのキツイ性格は健在で一緒にいればゴリゴリとメンタルを削られるので僕には荷が重かったのだろう。
それでも多少マシになったと思い込んでいたあの性格は前世と比べたらむしろ優しくなった、所謂ツンデレみたいな物だと思っていたのだがそれで痛い目を見たのだ。
あの頃の僕は琴音ちゃんの表の顔ばかり見て彼女の本質の事を何一つとして理解してなかったのだと痛感する。
前世であれ程馬鹿にされコケにされて来たというのにだ…
誰よりも琴音ちゃんを理解しているアキラ君の注意をまともに聞き入れずアキラ君が嫉妬している事に優越感を感じていたのだから始末に負えない。
結果的にはそのアキラ君に失望され見捨てられたと絶望のどん底に叩き落されたと思っていたから彼女が待っていてくれたのは僕にとって救いだったのだ。
あれから彼女の顔を見ると何故か緊張してまともに目を見る事が出来ない。
緊張と表現したがこれが緊張なのかその他の何かなのか僕にはわからないでいる。
何故かやたらと彼女の一挙手一投足に目をやってしまうのだ。
アキラ君…
前園明が眼を見張る美人なのは今更語る必要は無いだろう。
何から何まで完成された美貌を持つ彼女に見惚れるのはある意味当然の事だ。
だから今更彼女に見惚れていたとしてもそんなの普通なのだがだったら僕は何故こうもアキラ君と一緒にいてこんなにもドキドキしているのか…。
まるで幼馴染みを女として意識し始めた中坊ではないか…
まぁたいして違いはないのだが…。
兎にも角にもだ、ここまでアキラ君を意識した事は今まで無かったのにおかしいのだ。
見た目は完璧で究極のアイド…ではなく…美少女なのに中身は男子の魂をもつ心友だ。
当人は気にしないだろうが彼女を100%女として見る事に未だ後ろめたい気持ち、背徳感のような物を感じてるのもまた事実なのだ。
勿論これは性的な目で見ている事も含まれている。
だって仕方ないだろ?
人の部屋でやたらとデカイ胸をしてるクセに下着姿やタオル1枚巻いた姿でウロウロされてみろ?どうしたってそういう目で見てしまう。
まぁもう裸まで見ているし胸だって触った事もあるのだから今更な話だが…
今思い返すと凄いな…
前園明の裸みたり胸揉んだりなんて事を実現した男子はきっと僕が初めてなはずだ。
僕の預かり知らないところでそれ以上の体験をしている奴がいるとかNTRな展開が無ければだがの話だが…
テスト勉強の一ヶ月程は会ってない期間があるし無くはないかも知れないが…まぁ実際無いだろう。
彼女はそんな事があった場合僕と距離を取る筈だ
しかしいつも通りのアキラ君だ。
ポーカーフェイスを決められてたらわからんが彼女は昔から噓が下手だ、すぐに顔に出るし態度に出る。
琴音ちゃんに嫉妬してるときとか露骨に態度に出ていたのがその証拠だろう。
実際彼女は昔から裏切りとか騙しとかそういうのが大嫌いだ。
浮気なんて彼女の心が許容出来ないだろう。
だから今後も大きく何かが変わることなんて無い。
そうこの時の僕はのんきに思っていたのだ。
「康太さん、今日も家に寄っていっても良いかしら?」
「へ?」
放課後、皆が帰り支度を始め出した頃、アキラ君は陽キャ連中から1人抜け出しこちらに歩み寄って来るとそう言ったのだ。
「あら?どうしたの?鳩が豆鉄砲を食らった様な顔をして、かわいい康太さん♡」
「は?」
「ふふ、さっ、速く準備してくだい」
なんだ?なんなんだ?
なにかがおかしい。
まず僕が嫌がるから彼女は教室で家に寄るとか明らかにに炎上しそうな事やこういうあからさまな態度を取らないのだがこれは…流石にマズイ。
皆男も女も関係無く教室にいる生徒達はコッチを興味深げな目で見ている。
一部生徒の中には未だに血の涙を流しそうな顔で見てる奴もいる。
僕は周囲に聞こえないくらいの声量でアキラ君に声をかけた。
「えっと…流石にマズイよ?アキラ君」
「ふふ、マズイとは何がです?何時ものように康太さんの家に寄ると言ってるだけですが?あぁ、それと買い物に付き合って下さいね?今日は腕に縒りをかけて私が夕食を振る舞って上げますよ?そうだ、何か食べたい物とかありますか?旦那様…?なんちゃって…!」
「…………はっ?」
僕の声量に合わせる事無く普段通りの…いやなんならいつもりよやや大きめの声でそんな事をいうアキラ君。
まるで周囲に聞かせているかのようだ。
「ささ!はやくいきましょう!セールの時間に間に合いませんよ?」
「うわっ!ちょぉ!?」
そうしてアキラ君は僕の腕にしがみつきその豊満な胸を押し付けて来る。
結局学校から出るまでこのアキラ君の妙なムーブは続いた、いやなんなら学校から出たあとも続けていた。
帰りに食べ物を買い、それをあーんしてくる、僕がそれに戸惑っているとムスっとした顔で
「あらあら康太さんは恥ずかしくてあーんが出来ませんか?ふふ照れ屋さんですね、」
とか言って来る。
なんだと言うのだ…。
「どうしたのさ、なんか今日のアキラ君変だよ?」
「何がどう変なのですか?」
「いやもう外なのに清楚モードをとかないからどうしたのかなって…」
「ふえ?何を言ってるんですか?私は常に清楚ですよ?」
「いや清楚な人は自分を常に清楚とか言わないからね?」
「まったく康太さんは細かい事を気にし過ぎです!そういうのめっ!ですよ?」
右の人差し指を出してめっと言うアキラ君。
腰に左手を添えてキメポーズまでとっている、なんともわざとらしい事だ。
「それはそうと何が食べたいですか?ハンバーグですか?それともオムライスですか?…あっ!彼女が作るものの定番と言えば肉じゃがですかね!」
「じゃ…ハンバーグで…」
「ふふ、そう言うと思って下ごしらえは既に済ませてあるんですよ?ふふ出来る彼女でしょ?康太さん!」
「じゃもう買い物行かなくて済むね…」
「もう!康太さんのイケズ!買い物は二人で行くのが楽しいのでしょ?ふふ、まるでデートみたいですね?」
「え?デート……?」
「もう!そこは俺はずっとそのつもりだったよ?って返す所でしょ?ふふ」
その後普通にスーパーにいって食材の買い出しをしていたのだがアキラ君は終始ベタベタとくっついて来て無意味にデカイ胸を押し付けて来る。
腰をくねくねとさせて無駄に媚てくる
周囲の人達が訝しげな目で見てくるし一部の人からはバカップルがと野次を飛ばすレベルで睨まれる。
勘弁願いたい。
そしてこのアキラ君のムーブは僕の家に付いた後も続いた。
「さ!料理の時間ですよ!あっ!私がお料理をしている時に後ろから抱きついたりしたら駄目ですよ?あ?フリじゃありませんからね?ね?」
大きなお尻をフリフリとふって媚びた態度を取ってくる、
スカートが腰の動きに連動してゆらゆらと揺れる。
スカートの中の布がチラチラと見える
スカート丈短くし過ぎだろ?
ちなみに白だった。
「あ〜?康太さんたら鼻の下が伸びてますよ?えっちー」
「ねぇ…マジでどうしたの?ぶっちゃけキツイよ?アキラ君?」
「きっ…キツイ?」
「え…うっ…うん、キっつ!!って感じ」
「キっつ!!……だと…」
「うん、正直キモい…」
「きっ…キモい…ふふふ…うふふふふ……乙女にたいしてキモいとかきついとか何様だ…てめぇ!!」
「ふぉあ!?急に素に戻った!?」
「黙れ康太てめー!人がお前の理想たる清楚系美少女をやってやってるってのになんだその言い草は!!巫山戯んなよマジで!巫山戯んなマジでぇえ!!」
「ちょうわ!?」
いきなり突き飛ばされ馬乗りにされる。
頬を指で摘まれ引っ張られたり頭をぐりぐりされる。
もがこうとすると足でホールドされてしまう
どうでもいいが太ももとか柔らかい所が当たっていろいろ大変だ。
「アキラ君!?ストップ!ちょわっ!?ストップ!?」
「ははは!なんだテメェ!キモいとかキツイとか言ってる割に下半身は正直だな!え?私のお尻になんかかた〜いモンが当たってるんですけどぉ?」
「しっ、仕方無いだろ!?」
「ねぇ康太さ~ん?な~にが仕方無いんですかぁ?も〜康太さんの…ス.ケ.ベ!」
「ひゃうぅ…」
「ふふ、可愛らしい声がもれてますよ〜」
人の上で好き放題言ってくれるが男という生き物は生物学的に股間のある一点を刺激されると反応してしまうのだ、しかもその相手がグラドル並に体つきの良い清楚系美少女ともなれば反応不可避だ、仕方ないのだ。
どーでも良いが今の前園さんは清楚系というはよりもメスガキ系の方が近い。
「はん!どうだ、この私をコケにするからこーなるんだ!」
「いきなり媚媚の淫乱女みたいなムーブしたかと思えばメスガキキャラとか本当に今日のアキラ君はなんなの?」
「ああ!?媚媚の淫乱女ぁ!?マジホントに巫山戯んなよマジでさ!?清楚だろ?清楚に少しエッチなお姉さんな感じだったろ?」
「いや、清楚な人は胸押し付けて来たりお尻ふって誘惑アピールとかしてこないしさ…」
「ごあぁぁ、清楚って難し過ぎだろう…じゃどーせいっちゅーんじゃ〜」
「いやただ澄まして凛としてて穏やかに微笑んでいたら良いと思うんだけど…」
「そんなんつまんねーだろぉが!退屈だし飽きる」
「そもそもどうしてあんな変なキャラ作ってたの?」
「いや、別にお前には関係無ぇ…」
「いや、何故そこでそうなる!僕おもいっきり当事者だからね?聞く権利がある。」
一向に話そうとしないアキラ君を黙ってじ~と見つめる、改めて見ると本当に整った綺麗な顔だ。
頬はシミやそばかすなんかとは無縁の瑞々しさでまつ毛も長く目はキラキラとしている。
唇はぷるってしていて弾力がある。
顔だけでなんて顔面戦闘力なんだ。
スカ◯ターが爆発するぞ。
ただ見られて恥ずかしいのか頬は桃色から紅色に変わっている。
「あんまり見んなよ…だぁーわかったよ、話すよ話しますぅ〜。」
「おお、」
「お前が変な女に取られないようにお前自身と周りにアピールしていこうと思ったんだよ」
「へ?アピール……?」
「琴音の件であたしは心底肝が冷えた、今後どんな奴が出てくるかわからん…だから周りには康太が欲しけりゃ私を倒してけってアピールしてんだよ!後お前も私の彼氏だって自覚をもって貰わんといかんと再認識した、琴音なんかにヘラヘラしやがってアホがよ!」
「こ…琴音ちゃんの件はあの子の悪ふざけで僕なんかにもともと気はなかったみたいだしそもそも僕なんかがモテるワケ無いだろ?」
「悪ふざけとか関係無ぇーんだよ、お前がアイツのハニトラに引っかかってヘラヘラしてるのが私は許せないの!それに世の中にはいろんな女がいるんだよ!瑠衣ちゃんみたいな1級美少女に告白された経験があるくせにお前は何も分かってねーな!モテるモテないとか関係無いんだよ!」
「あっ…アキラ君……僕の事…好き過ぎ……」
「うっ…ちがぁ……あぁーもう!うるせーバァカ!」
照れ隠しか何か分からないけど彼女は僕の頬を摘んで好き放題抓ったり引っ張ったりするので痛くて仕方ないがこんな時間が今はとても心地好い気がする。
当たり前の日常がとても尊い物に思えたのだ。
「アキラ君……。」
「あ?何だよ?」
「その……ごめん…」
「何だよやぶからぼうに…」
「琴音ちゃんに絆されてアキラ君の言う事を無視してた、アキラ君が嫉妬してるのに優越感を感じてた…その事を謝りたかった…。君はいつだって僕の事を気にかけてくれてたのに…僕はそんなアキラ君の気持ちを無視して自分の欲望に従ってた…、だからごめん。」
「もういいよ、そんな事…あと嫉妬とかしてねーから!勝手に都合好く勘違いすんな!私はお前が彼氏のが都合良いから一緒にいてやってるだけだ!大体お前はこんな美人が彼女なのにもっと有難がれや!本来なら私がどっかの誰かに取られたりする心配とかして然るべきなんだぞ?」
「そうだね…アキラ君って割りとМだから力付くでねじ伏せられたら快楽墜ちしそうだし気をつけないとね」
「あぁん!誰がМの快楽墜ちメス奴隷だゴルァア!」
「メス奴隷までは言ってない!」
「ふふははは、」
「あははは」
「まっ、これからもよろしくな、康太」
「こちらこそ宜しくね…アキラ君」
「あぁ…末永く…な、」
「うん、」
もう自分に噓を付き続ける必要は無いだろう
僕はアキラ君が好きなのだ。
男とか女とかそんな事は関係無く好きなのだ。
好きならずっと一緒にいたいとおもうのは当然の事でアキラ君が末永くという言葉を使ってくれた事がコレ以上ない程に嬉しかったのだ。
もう迷わないし何処かに逃げる事もない。
もう決めたのだから。
自分に正直になろうと…そう思えた。
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