71話 前園琴音のタブー
「前園さんは羨ましいんだよお姉さんが、自分には無いモノを持ってるお姉さんが。」
恐らくは前園琴音に対して触れてはいけないタブーとも言える内容。
それは彼女が姉に嫉妬しているという事。
前園琴音は天才だ。
それは揺るぎない事実だ。
中学が同じだったので彼女を見る機会は多かった。
特に3年生の1年間は彼女を近くで見てきた。
大抵の事はろくに説明を受けなくてもそつ無く出来てしまう彼女の適応力の高さは驚愕に値するものだった。
誰もが彼女を天才と持ち上げたがそれは彼女が友人に恵まれている事とイコールにはならない。
ボッチ。
彼女を的確に表すのにコレ以上に相応しい言葉は無いだろう。
表面的にはトップの学力や突出した美貌が高嶺の花としての彼女の印象を浮き彫りにしてる。
彼女のそんな印象が接点の無い者などには近寄り難さを感じて誰も彼女に近寄れないのだと勘違いするがそれは違う。
もともとのキツイ性格と自分を天才、完璧と称する行き過ぎた自尊心の高さが友人や知人を彼女から遠ざけ彼女を孤独にしていった。
アイドルやグラビアモデル顔負けの顔面偏差値と良質なスタイルを持ちながら彼女がボッチなのはその性格とそれ以上に他人をナチュラルに見下し批判するところだろうか…。
取っ付き難い、一緒にいてもムカつくだけ、偉そう、ナマイキ、チョーシに乗ってる。
彼女と接した者達はこぞってこういった感想を示し合わせた様に言うのだ。
そしてそれは僕も同意見だ。
やがて彼女に近づく者はいなくなった。
まぁ彼女の見た目に惹かれてやってくる下心見え見えの男は枚挙にいとまがなかったが。
そんな奴等は彼女自らに撃墜されていた。
結果彼女は孤独になっていた。
中学時点でこんな感じだったが彼女の性格は中学入学時点から既に固まっておりあの性格は小学生から形成されていた事がわかる。
そんな彼女が姉を太陽みたいな存在と憧憬を抱くのは仕方のない事なのかもしれない。
この学校で前園明の事を知らない者はいない。
高校入学からすぐにその名前を聞かされたくらいだ。
中には彼女がいるからこの高校に進学したなんて奴までいる始末だから凄い。
舞野瑠衣と並んでダブルマドンナなんて呼ばれてる彼女達は高校という狭い世界でアイドル並みの人気を集めていて毎日何人かから告白されている、しかも両方共に彼氏がいるのにだ。
兎にも角にもそんな前園明、つまり前園琴音の姉はそこにいるだけで皆の注目を集める人気者で皆にとってのアイドルなのだ。
同じ血を分けた姉妹で互いに拮抗する美貌を持つ二人。
しかし前園琴音にはカリスマも人気もない。
生徒会長という立場や入学式での一件、前園明の妹である事や優れた見た目から一時は彼女の周りに人は集まるが人波を常に引き連れる程にはならない。
妹と姉で明らかに異なる差
前園琴音には魅力が無かった。
人を常に引き寄せるだけの魅力が無いのだ。
だから彼女は太陽みたいな姉に憧れる。
皆から好かれる魅力溢れる姉に憧れる。
勉強が出来たって運動が出来たってそれで人気者にはなれない。
姉のようにはなれない。
「小難しい事を言って誤魔化してるけど結局前園さんはお姉さんに憧れてるだけなんでしょ?」
「わっ…私が姉様に憧れてる…?ふふ、面白い事を言うのね貴方…ふふ…本当…面白いわ…」
「はは…ウケ狙いで言ったつもりは無いんだけどね…」
「でしょうね…もし私が笑うと思って言ったなら貴方相当性格が悪いわよ?」
「キレられる覚悟で言った自覚はあるよ」
「へえぇ…そうなの…」
意外だ、前園さんが少し涙目になっている。
僕の言った言葉がよほど腹に据えかねたのだろうか
「どうしてなの?」
「?」
「どうして私が怒ると分かってそんな事を言ったの?」
また言いにくい事を聞いてくるな…
さてなんと答えようか…
まぁ…下手に取り繕っても今更遅いかも知れないから正直に言うか…。
「僕はね…前園さんに当初片思いしていた…でも君はスタイルも顔も良いし頭もいい、高嶺の花ってヤツだしそんな君に思いを寄せる男は沢山いる。競争率が凄い高いのに僕のような無個性じゃ勝ち目ないしそもそも君は僕なんか眼中に無いし早々に諦める事にしたんだ、見た目が凄い好みで一目惚れしたけど生きてる世界が違い過ぎるし割とあっさり諦められた。でもたまに見かけると目で追っちゃう程度には未練があったんだと思う。」
「へぇ…驚いた…そうなんじゃないかと思ってたけどいきなり告白されるとは思わなかったわ、改めて聞かされると正直気持ち悪いわね」
「ははは、正直な感想ありがとう、…とまぁこんな感じなんだけど3年になってから姉貴に生徒会に入るように命令されて入る事になった、正直前園さんが生徒会長してる生徒会に入るのには抵抗があった、中学のときは最初こそ一目惚れしたけど君の色々な武勇伝を聞いてる内に怖いしあんま関わり合いになりたく無い近づきたくないって思った…後下手に拒まれたりしたらそれなりに傷付きそうだしね。」
「でも結局は由佳さんの頼みを断りきれずに生徒会に入ったのよね、ふふ貴方お姉さんが大好きだものね?」
「そんなんじゃない、気持ち悪い事言うな!」
ちなみに由佳と言うのは僕の姉、城島由佳の事だ。
母性本能の塊みたいな奴で心を開いた相手には抱きついて抱擁する悪癖があり前園琴音にも臆さず抱きついていた変人である。
なんでもかなり抱きつき心地が良かったらしい。
羨ましいんかうぅん?
と煽りながら聞いて来た時は頭を叩いてやった。
「兎に角、3年間僕は生徒会に所属する事になった、最初こそ多少ドキドキもしたけど取り付く島もないままあっという間に卒業だ…こんなんならいっそ関わらない方がマシだと思ったけど前園さんはなんの冗談か高校でも僕にまた生徒会に所属する様に言ってくる始末だ。」
「女々しい男ね、私と離れたいなら断れば良かったじゃない。」
「昔好きだった子から直々に誘われてるんだ、断れないよ。」
「はぁ…面倒くさい男ね貴方…で?結局私に構って欲しくて私を挑発してるのかしら?」
「いや、嫌われたくて挑発してたが正解かな」
「恥ずかしげもなく好きだとか告白紛いの事しておいて嫌われたいとか貴方の考え……いえ気持ちは難解ね、下手な試験より難しいわ」
「恥ずかしいに決まってるだろ!ヤケクソになってるだけだ、告白する勇気があるなら最初からしてるよ。」
「私と恋人になりたくはないの?もしかしたらYESと答えたかもしれないわよ?」
「前園さんは僕みたいなぱっとしないヤツは眼中に無いだろうし無駄な事はしないつもりでいたんだ。ただ最近は僕もいろいろ考えてさ、最後にお節介でもしておこうと思ってね」
「それで私に喧嘩を売るような事をして来たと…はぁ…貴方も大概拗れてるわね」
「兎に角、僕が言いたいのは前園さんも大概面倒くさい性格してるよねってことだよ、お姉さんへの憧れ、憧憬を隠す為にあんな遠回しな…」
「貴方…何か勘違いしてるんじゃない?」
「え?」
「何度も言ってるけども私の姉様へのこの感情は憧憬だとか憧れなんかとは違うわ。」
「そうだね、どちらかと言えば嫉妬だね。」
「ホントに…あなたいい性格してるわ…。」
ふーと息を吐いた琴音は睨んでるのか微笑んでるのか泣いてるのかわからない、それこそ形容し難い表情をしながらいった。
「そうよ、私は姉に対して僻んだ感情を持ってるわ。
私より無能なのに皆から信頼されて頼られてそんな姉を羨ましく思ってるわ、でも私は私。姉にはなれない…何をしたって…どうやったって姉にはなれない。」
「見た目は良いんだからその性格を変えれば人気者になれるのに」
「はぁ…?馬鹿なの貴方?自分を変えてまで人気者になんてなっても意味が無いわ、私は私のまま姉を超えたいのよ。」
「そんな攻撃的な性格じゃ誰もついて来ないよ」
「それは貴方の…いえ、皆の考え方よ…私は私の考え方で姉を超えたいの…。貴方は小難しい屁理屈と思ってるかもしれないけど私は本当に姉を太陽みたいな存在だと思ってるわ…そこに噓はない…、私は私のまま、そんな姉を超えたいの…。」
(十分憧憬とか憧れだよなこれ…)
「だから姉の行動を模範すれば何か解るかもしれない、姉には異性の幼馴染みがいるわ…彼の存在が姉を太陽の様な存在たらしめてるのかも知れない。だから彼に近づいたわ。」
「只野先輩だよね。それ」
「ええ、只野先輩、康太兄様、私が幼い頃から良くしてくれた方よ、見窄らしいしお馬鹿で幼稚で拙い所も散見されるけども私は彼の事は好きよ、義兄としてね」
「うわぁ…只野先輩酷い言われよう…」
「明姉様がカリスマ足り得るのは康太兄様の存在が何かしら影響してるのは間違い無いわ、恋慕の感情かそれ以外かはわからないけどもね…兄様と一緒の時間を作ればそれが解ると思ったのだけれども琴音には康太兄様に対する感情は一貫して義兄としての物だけ、それ以上の発展はなかったわ。」
「……、」
「だから貴方にしたの…。」
「へ…?」
唐突な話の展開に頭が付いていかない
どうしてそこで僕が出てくる?
「城島武君…喜びなさい…貴方を私の恋人にしてあげるわ…。」
「は…?」
片思いの相手からちっとも嬉しくない告白をされた。
馬鹿な僕にでも解るぞ。
これは一切の恋愛感情がともなわない告白だ。




