55話 前園琴音の独白
琴音の名前は前園琴音。
今年で中学三年生になる15歳の女子中学生だ。
琴音にはとても綺麗で誇らしい姉がいる。
前園明。
明姉様は容姿端麗にして成績も優秀。
小学生のころから現在に至るまで常に一位を取り続けている秀才だ。
唯一運動神経だけは低いようだがそんな不完全なところがより明姉様を素敵な女性として引き伸ばしていると琴音は思っている。
完璧な人間程つまらないモノはないから。
琴音は自分を完璧な人間だと定義づけている。
運動神経も女子の中では1番。
男子と比較しても遜色無い身体能力だし勉学においても姉と並ぶ程の学力で当然学年一位だ。
一度見聞きしたものはだいたい忘れないし頭の中で演算するのは得意だ。
お父様もお母様もそんな琴音を褒めてくれる。
琴音は天才だ!
琴音は選ばれた娘だと…。
琴音に言わせればソレの何がそこまで凄いのか?
当たり前の事を当たり前に熟す事など虫にでも出来る。
琴音にとっては当たり前の事をお父様もお母様も大袈裟に騒ぎ立てる。
運動神経が低い、ただその一点において明姉様は琴音に劣る、それは事実なのだろうが琴音にとっては明姉様の不完全さはソレ故に輝いて見える。
人というのは不完全だからこそ輝く存在なのだ。
しかし親達はそれを解さない。
明姉様の魅力を理解しないし明姉様を軽視する。
明姉様程魅力に溢れた人間などこの世にいないというのに……。
琴音に言わせればお父様とお母様の二人こそつまらない人間だ。
小さな会社の社長なんてつまらない肩書で満足して大言壮語を口にする哀れなお父様。
女性優先主義なんて時代錯誤な事をいって周囲に自身の異常性を喧伝する哀れなお母様。
皆みーんなつまらない人間だよ。
だからこそ明姉様はより輝いて見える。
明姉様がいなければ琴音の人生はきっとつまらない、色褪せたモノになっていた事だろう。
あの二人の教えを正義と信じて育っていれば視野の狭い、器量の狭いつまらない天才で琴音は終わっていた。
だから琴音は琴音の人生に彩りを与えてくれた明姉様が大好きなのだ。
でも明姉様はおそらく琴音のことが好きでは無いのだろう。
時折とても冷たい目線を向けられる。
その理由はわからない。
でも琴音は明姉様の事が大好きだから嫌われたくない。
だからあの人が羨ましいんだ
明姉様は自身の学力に興味がない。
自分に興味が無いのだろう。
それでも明姉様は努力を惜しまない。
自分に興味がないのに何故頑張れるのか?
明姉様の活力は一体何処からくるのか?
明姉様の努力、やる気はいつだってあの人にだけ向けられている。
只野康太。
明姉様と同い年の男性。
琴音にとってもお兄様と言って差し支えない存在だ。
しかし康太兄様は一見すれば凡庸な俗人だ。
見た目もぱっとしないし頭の出来など幼児と大して変わらないレベルだ。
しかし明姉様はあきらかに彼を好いている。
琴音に恋愛はわからない。
だから明姉様の感情がどういった方向に向いてるのかはわからない。
琴音や明姉様のような存在に釣り合えるとは思えないのだがそれでも琴音がずっと小さな時から康太兄様は明姉様と一緒にいた。
明姉様は康太兄様といる時だけ笑顔を見せる、琴音はおろか、お父様やお母様…あの人達の前では絶対に見せない笑顔を……。
そして康太兄様は琴音にも沢山の遊びを教えてくれた。
あの親達では絶対に教えてはくれないものの数々に琴音は夢中になった。
数式の羅列を当てはめる単純な計算だけでは決して辿り着けない未知の世界がそこにはあったのだ。
たしかに康太兄様は俗人だ。
明姉様や琴音達前園姉妹とは釣り合わない凡人だ。
しかし同時に明姉様が惹かれるのも理解できる。
そうだ…康太兄様に明姉様は勿体ない。
魅力溢れる明姉様にあの様な凡人は勿体ないのだ。
逆に康太兄様にはこの琴音が丁度良い。
康太兄様は学力も運動神経も作法も何もなってはいない。
琴音がそんな康太兄様の欠点を補えばいい。
完璧な人間程つまらないものはないのだ。
完璧な琴音と凡人の康太兄様。
この2つが合わさる事でようやく明姉様の魅力に並び立てるのだ!
流石琴音。
素晴らしい着眼点だわ!!
そうと決まれば琴音は今よりもっと明姉様と康太兄様の近くに行かなければならない!二人の元に行かなければならないのだ!
幸いそれは簡単だ!
明姉様が住む家に琴音も住めば良いのだ。
しかしこれが上手く行かない。
誰も琴音の考えを汲み取ってはくれないのだ。
勿論理解している。
凡人共が琴音の考えを理解しない事は。
お母様は中学生が自立など必要ない認められないと言うし普段はお母様の言う事に否定的な明姉様もこれにならった。
お父様はこういった場合お母様の言う事に従うので力にはなってくれない。
実家からお姉様の住む家に行くには中々の距離があり遠く普段も学校があるのでそう頻繁に行くことは出来ないのだ。
琴音は生徒会長もやっているのでプライベートに使える時間は少ない。
琴音1人がやれば早期に済む仕事もチームワークという縛りから遅々として進まないことはよくある。
生徒会なんて言えば聞こえは良いかもしれないがそこに属していた所で無能は無能、俗人は俗人なのだ。琴音は不完全なモノこそ魅力的に映ると考えるがあれ等はただ無能の役立たず、無価値であり価値など無い。
自分を無能と気付く事もない勘違いも甚だしい愚者。
お母様やお父様と同じ人種だ。
康太兄様には明姉様を輝かせるという唯一無二の価値がある。
そしてこの琴音にすら楽しい時間を共有してくれる。
康太兄様が無価値など有りえないのだ。
しかし康太兄様の価値に気づく事の出来ない俗物は一定数いる。
琴音の中でのその代表格がお父様とお母様の二人だ。
あの人達は康太兄様の外面、つもり学力や知力、身嗜みや作法、そういった分かり易い情報でのみ判断しているのだ。
本当に愚かだ。
康太兄様の魅力はそんな分かり易い指標では測れないのに…。
結局のところ琴音が明姉様の家に住むというのは現実的ではない。
本当はわかってた。学校がある限り無理だ。
転校なんて手段も結局は中学と高校という隔たりがある限り意味がない。
でも後1年、後1年で琴音は高校生だ。
待っていてね。
明姉様…そして康太兄様…。
琴音が魅力的な人間になる為に。
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