56話 琴音は生徒会長です
生徒会には琴音が務める生徒会長の他に副生徒会長に書記、会計などがいる。
この他にも学校行事の速やかな進行のため様々な委員会がありそれらを総括するためにも琴音達生徒会は存在する意味を持つ。
各種部活動や伝統行事などの取り組みに使用する予算の計算も生徒会の仕事であり実質的には生徒会はこの学校という社会における生徒達のあり方を管理する立場にある。
つまるところ生徒会役員は模範となり生徒達の見本として振る舞わねばならない。
琴音は自分を優秀な人間だと自負している。
生徒会長として自分がもっとも相応しい人間であると心から思っている。
しかしそれは生徒会長は自分がやらねばなら無い責務であり、やり甲斐のある役職だと思っていることと等価という事にはならない。
琴音はこの生徒会長という仕事に煩わしさをかんじていた。
父と母がやれというから続けているが正直やり甲斐等感じていないし億劫だとすら思う。
投げ出してしまおうかとも思ったがそれが出来るのならこんな事で悩んでなどいない。
呪いたくなる。
自分の無駄に真面目な性分が。
「前園会長、今月の予算表の一覧です、」
「有難う御座います…。」
琴音は受け取ったプリントの束をパラパラと本当に読んでるのか疑わしいスピードでまくっていくがあるページでその手はとまった。
「ふむ………、野球部の予算だけ高いですがこれは?」
「え?あっはい、他校の野球部との練習試合があるらしく遠征の為の宿泊費等の申請がありまして…」
「そういった事は事前に報告するようにと言った筈ですが?限られた予算の中で捻出する必要があるんですよ、それを理解してるのですか?」
「はっはい、しかし野球部側も突然言ってきまして無下に断る事もできず……、」
「何故『私』に報告しなかったのかと聞いているのです。この予算表に記されているという事は貴方、私の意向を無視して勝手に判断した事になりますよね?そんなに独断行為がしたいなら今から生徒会長の座をお譲りしますよ?」
「い…いえ…その様な…も…申し訳ありません…」
「はぁ…それに私は貴方に前持った情報の精査をする必要があると再三いっていますよね?野球部だけ特別扱いでは他の部に示しがつかないのですよ?」
「も…っ申し訳ありません…し…しかしウチの野球部は大きな功績を残してますし、少し甘く見てあげても…」
「馬鹿ですか貴方は?他の部に示しがつかないと言ってるんです。それでは野球部にだけあからさまな贔屓が露見するでしょう?贔屓の末の結果等胸を張る価値もないモノなのですよ?皆と同じ土俵に立ち成果を出して初めて意味が生まれるのです。」
「は……はい…」
「もういいです…野球部には私が直接…」
「まぁ待ちたまえよ?前園生徒会長殿」
「なんですか?九龍院副会長殿?」
琴音に待ったをかけたのは生徒会長である琴音の部下の九龍院副生徒会長その人だった
書記の少女も九龍院が琴音を止めてくれた事でほっと安堵のため息を漏らしている。
「野球部が大きな功績を出しているのは事実ですよ?
その功績を真っ当に評価してあげるべきだ、他の大した功績をあげていない部に予算を捻出するよりは彼らに使うほうがいくらか合理的ですよ?」
「はあ…貴方は何をもって合理の基準とするのですか?たしかに野球部の功績は『私』も知っていますがその結果経費をイタズラに消費していい理由にはなら無いでしょう?お金は有限なのですよ?」
「会長は頭が硬いのですよ?人には遊びも必要です。」
九龍院副生徒会長はねっ?と書記の少女にウインクを返すと書記の少女は頬をぽーと赤らめるとはい!と元気良く返事をしていた。
なんだこの茶番は?
この男はいつもこうだ。
副生徒会長なんて肩書だがまるで先が見えていない。
その場の雰囲気だけで物事を決めて動く無能でしかない。
「はぁ…、まぁいいですよ、好きになさい。」
琴音はそう言い残して生徒会室を後にした。
九龍院副生徒会長。
彼は女の琴音に生徒会長の座を奪われた事に恨みに近い感情を持っている。
だからああして琴音の考えに異論をぶつけて来るのだ。
本当に器量が小さい。
あれで生徒会長を志すなど絶望的だ。
聞けば彼の兄は高校で3年連続生徒会長を努めているらしい。
その兄君の通う学校こそ琴音が敬愛する明姉様の学校であり琴音が来年から通う学校となる。
弟があの程度では兄の方も知れてるだろう。
明姉様は生徒会長の立場に興味が無い。
明姉様がその気になれば直ぐ様失脚させられるだろう事は想像に難しくないのだから…。
「それはそうと野球部には釘を刺しておかないとね」
このままいけば野球部は増長して予算を吸い取ろうとしてくる。
たしかに野球部は目ざましい成果をだしているがそれは増長を許す理由にはなり得ない。
生徒会は生徒の模範とならなければならない。
そしていかなる場合においても公平でなければならない。
次の日の放課後、生徒会室で仕事を片付けていたら例の副生徒会長、九龍院が話しかけてきた。
「やぁ精が出るね?前園会長?」
「まだ残っていたのですか?下校時刻はとっくに過ぎてますよ?」
「それは君も同じだろう?少しはご自愛したらどうだ?働き詰めは美容の大敵だよ?」
「お気になさらず…」
「琴音…。僕は君を心配しているんだ」
九龍院が気安く下の名前で呼び捨てし肩に手を置く。
不快感が一気に押し寄せて来る。
「触らないで下さい、気安いですよ。」
「おいおい、随分な対応だな、僕はこれでも君を心配してるんだ…いたいけな少女が目の前で辛い思いをしているのは我慢ならないんだよ、わかるだろ琴音?」
「呼び捨てはやめてください、不愉快です。」
九龍院ははぁ…とわざとらしくため息をつきヤレヤレと言いたげな表情をつくる。
仕草一つとっても腹立たしさしか感じない男だ。
きざったらしくて言動が一々大袈裟。
コイツは何故か女からすこぶるモテる。
顔が整ってる事と副生徒会長という肩書から女共が勘違いするのだろうがとんだ詐欺だ。
もっとも琴音はコイツがカッコイイと感じた事はただの一度もない。
これなら康太兄様のほうが数段マシだろう。
康太兄様は自身が無能であると理解している。
その上で他者を不快にさせない最善手を取ることに長けている。
あれも康太兄様にとっての処世術なのだろう。
身の程を弁えた謙虚な人間は好きだ。
逆に自身の器を履き違えた人間は嫌い。
そもそも琴音が放課後居残りしてこんなつまらないだけの仕事をやっているのはこいつ等の不手際が招いた尻拭いだ。
それを理解する事もなく女を口説く事しか頭にないのだから絶望的だ。
これからが楽しみだ。
この無能が狼狽えるその時が。
それから一ヶ月後の事だ。
生徒会にはサッカー部やバスケ部、その他にも囲碁部や書道部など本来なら一同に会する事などないであろう部員達が一同に会していた。
理由は明白。
野球部に予算を使いすぎた為に予算の貯蓄が尽き他の部活に割り振れなくなった。
全て使い切ったわけでは無いが部費を公平に分配出来ない時点で結果的には変わらないのだ。
「おい!前に申請した部費どうなってんだよ!いつになったらもらえるんだよ!」
「ウチの部が文系だからって贔屓してるんですか!!コンクールが近いんです!お願いですから!」
「スポーツドリンクすら買えないとかおかしいんじゃないですか!?ちゃんと管理してるんですか!」
「野球部ばかり贅沢させてこんなの変ですよ!!」
こんな感じでほとんど阿鼻叫喚の地獄絵図だ。
これがほぼ毎日くり広げられるのだから堪ったものではない。
野球部を贔屓しようと勝手な事をした書記の女子生徒は私は悪くない、副会長が良いと言ったんだよと九龍院になすりつけ九龍院もそれを突っぱねて生徒会に来なくなっていた。
私は生徒会の代表として矢面に立たされて各部の代表からヘイトの言葉を浴びせられていた。
「申し訳ありません、此度の問題は全て生徒会役員の舵取りが出来なかった私の責任です、部費にかんしては心当たりがあるので後日別途支給させてもらいます。」
この私の発言にえ?という顔をする書記の女生徒
それはそうだろう。
元来部費にあてるはずの経費はあらかた使い果たしている…と彼女は思っている。
そんなもの何処から持ってきたのかという話だが別に大した事はしていない。
手元にあった経費は会計担当の生徒に頼んで予め副会長と書記には半分の額しか提示していない。
つまり経費はまだ半分残っていてあの二人はその事を知らなかったと、それだけの話だ。
各部活の代表達にお引取り願った後生徒会室の中では一触即発の空気が出来上がっていた。
「どういう事ですか!前園生徒会長!まさか!経費を個人的に隠し持って私的専有を企んでい……?そんなの犯罪ですよ!!?」
「はぁ…本当に貴方は馬鹿ですね?」
「はぁ!?会長が予算を不当に隠し持ってたのは事実じゃないですか!」
「この事は教頭も知っていますから私の私的専有なんて不可能ですよ?それにですよ?予め予測出来る問題に対して手段をこうじておくのは当たり前の事でしょう?」
「へ?教頭?え?はぁ!?なっ何を……」
「今回の事で貴方が野球部を贔屓していたことは教師陣にも認知してもらいましたし、経費を職権乱用に近い形で使っている事も明るみになりましたね」
「わっ!私をハメたんですか!?」
「ハメるだなんて人聞きの悪い…私はこの学校の伝統である平等、公平を重んじて行動しているだけです、貴方の贔屓は目に余る、まぁ今回の騒動のヘイト役は私が買ってあげたので痛み分けと言った所ですかね?」
「うぅ〜っ!」
書記は唸り声を上げて部屋から出ていった
琴音が部に所属する一部の生徒からヘイトを集める事には確かになるかもしれない。
しかし今回の騒動は教師達も知る事となった。
書記と副生徒会長の行いが認知され彼等の評価は著しく下がる事になるだろう。
別に不正行為をしたわけではないので生徒会を追放とかにはならないが平等を謳うこの学校の校風から見ればあの二人の行動は評価に大きな穴を穿つ事になる。
特に九龍院は私への嫌がらせでこの件を見過ごしたのだから巻き添えで評価を下げられる結果となりもはや何がしたかったのか分からないくらいだ。
「痛み分けとは良く言ったものですね、ほとんど会長の1人勝ちじゃないですか」
私に唐突に声をかけてきたのは会計担当の城島君だ
彼の協力無くては手元の予算の捏造情報をあいつ等に認識させれなかったので本当の意味で功労者だ。
「運動系、文系に拘らず各部活の顔出しや助っ人参戦にも意欲的に参加、そのおかげで各部活に所属する部員から好意的に見られてるワケでその会長がこんなヘマするだなんて誰も思わないですよね?」
「生徒会長は信頼が大事ですからね…日々の積み重ねが信頼へと繋がる…。口八丁だけで務まるものではないんですよね」
「野球部はどうなさるので?」
「今回の分配で予算配分は終わりましたし生徒会としてはこれ以上学校のお金を勝手にどうこう出来ないでしょ?野球部の実力が確かならさしたる問題でも無いでしょ?」
「おおコワイコワイ…」
書記の女子生徒は野球部のマネージャーのような事もしており野球部の男子からお姫様の様な扱いを受けていた。実際は野球部に利用されているだけなのだがそうとは知らず予算をちょろまかして野球部に工面していたのだ。
チヤホヤされていい気になっていたところ私にバレて逃げ出した訳だ。
本当に不毛だ。
生徒会なんて言っても所詮はこの程度。
結局は子供のお遊びだ。
多額の金を子供に任せるこの学校のシステムも異常だがもっとおかしいのはそれを容認してる教師陣だ。
生徒の自主性を育むなんて言えば聞こえは良いが結局は丸投げ、管理が面倒くさい大人の怠惰が原因だろう。
完璧な人間は完璧であるがゆえに面白みに欠ける
私は常々自分がつまらない人間だと思って来た。
私は模範解答の擬人化だ。
与えられた答えをただ完璧に答えるだけの人形。
だから眩しい
お姉様が眩しいのだ。
明姉様は一見すれば完璧な人間だ。
美しい見た目
他を圧倒する存在感
誰にも追い縋る事を許さない圧倒的な学力
しかし運動はてんで駄目。
体力は無くセンスも絶望的。
そんな欠点がお姉様をより魅力的にしている。
お姉様が羨ましい。
琴音の中にはお姉様への憧れと尊敬と嫉妬の念で満たされていた。
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