32話 笹木純一その3
彼女の別れ話、裏切りの明確な意思表示を前に笹木純一は言葉もなく項垂れるしかない、
分かっていた、いつかこんな日が来るのは…
あの女は俺を好きになったから近づいたんじゃない、
陽キャにも陰キャにも別け隔てない距離感を維持していた俺はあの女にとっては話しかけ安かっただけ、
俺を練習台に本命のテニス部の先輩に行く為に利用されただけ、
それが分かっていたのに俺は彼女が出来た事に浮かれて舞い上がっていた…
そんな哀れな俺を救いに来たのか、あるいはあざ笑いに来たのか
この学校で高嶺の花と呼ばれる二人の美少女の片割れ
舞野瑠衣は不敵な笑顔で俺に話しかけて来た
「それで…俺に何の用なの、舞野さん」
「うん、たった今彼女にフラレた笹木君に是非聞きたいの、笹木君はあの子のこと好きだったの?」
「なんでそんな事舞野さんに話さなきゃならないんだよ?」
「ごめんね、でも知りたいのよ、誰かを本気で好きになった人の気持ちが」
「はぁ?」
「笹木君は私の事可愛いと思う?」
「は?何だよいきなり?」
「いいから答えて?」
「可愛いとおもうよ?つーか、そんなん誰に聞いても同じだろ?」
「だね、私の事可愛いくないって言う男子なんていないよね、」
「凄い自信だね…」
「ふふ、自信とかじゃないよ、当たり前の事を言ってるだけ、」
「そーすか、じゃ、俺もういくね、」
「待って、」
「なに、俺今だれかと……」
「笹木君の事好きなの、私と付き合って欲しい」
「………、巫山戯るなよ?」
「……………、」
笹木はそのまま舞野瑠衣に背を向け歩き去ろうとする
しかし後ろからそう出来ない異様な雰囲気が感じられる。
そう、異様としか形容できない圧のような何かに足を取られていた
「ふふふ、この私が2度も告白に失敗した、凄い…スゴいね!はは…ふふふ、ねぇ笹木君は私の事可愛いっていったよね?ならどうして私の告白を断るの?」
「頭大丈夫かお前…、そんなん断るに決まってるだろ」
「酷いな〜、頭の心配されたのなんて始めてだよ〜私これでも成績はそこまで悪くないのにさ?でさ、どうして断るの?ねぇねえ?」
「可愛いからって告白が絶対叶う訳無いだろ?それに今俺は誰かと付き合う気は無い」
「私に告白されてるのに恋人になってくれないの?」
「自意識過剰過ぎだろお前?お前なんかに興味ねーよ」
「ははっ!ふふっ!駄目だよ笹木君!私は恋が知りたいの!付き合ってもらうよ!私と恋人になってもらうよ!笹木君に興味が出ちゃったから!」
舞野瑠衣は小柄な体の美少女だ、白がかった薄茶色のゆるふわツインテールがその小さな体に良く合ってる
胸は大きく小さな体に不釣り合い、そのせいで余計に巨乳に見える、前園明と対を成す美少女
この二人が1位と2位に別れておらず双璧を成す、だとか対を成す、だとかそう言う表現がされているのはジャンル、もっと言えば系統が異なるからだ。
清楚で清らか、大人な雰囲気をもつ前園明
陽気で朗らか、子供らしい魅力をもつ舞野瑠衣
この二人は個々がそれぞれ異なる魅力を持っている
付き合いたいと思う男子は後を絶たない
ダメ元で告白する価値は十分にある、
故に男なら誰だってこの二人のどちらかと付き合いたいと思うモノだ、しかし
「興味無いっていってんだろ!俺じゃ無くても他にも山ほどいるだろお前と付き合いたい奴なんか!」
「私の事を好きとか可愛いって言ってくる男に興味は無いの、貴方みたいに拒絶されたいの…」
「はあ?本気で何なのお前?頭湧いてんのか?」
「酷いなぁーそこまで言ったの笹木君が始めてだよ、ふふふふ…」
「舞野さんがこんな変態だったなんて……」
「そう言えば只野君にも言われたなぁ〜変態って、私が好きになる人達はみーんな私の事を変態扱いするのなんだろね?」
「只野…?」
「そ、只野康太君、私この前只野君に告白したの、でもフラレちゃった、酷いと思わない?」
「当たり前だろ、康太には前園さんがいるんだぞ?」
「………、そうだね、でもね、只野君はアキちゃんがいてもいなくても私と付き合う気は無かったよ、私が只野君の事を好きなのは只野君が言うには私自身が私に酔ってるだけ、
私はホントの意味で只野君を好きじゃないんだって?」
「……、何となく康太の言いたい事わかるよ…舞野さんは恋愛がしたいだけだ、誰かを本気で好きになった事が無いんだ…」
「だったら笹木君、私を笹木君に惚れさせてよ…」
「……そんなの無理だろ……」
「無理じゃないよ、笹木君はあの子の事が好きだったんでしょ?なら私の事を好きになってよ…私も笹木君に惚れて貰える様に頑張るから……」
「そんな……」
無茶苦茶なと言う言葉は出て来なかった
誰かを好きになるとか嫌いになるとかは結局その人の気持ち、感情次第なのだから
付き合ってしまえばいい、相手が良いと言うのだ
相手は俺をふった女より何ランクも上の上玉だ、
迷う事は無いはずだ
「舞野さんはスゲー可愛いとは思うよ、でも俺は舞野さんを異性として好きになったわけじゃ無い、それでいいなら…付き合うよ、恋人として…」
「くすくす…、うん、それでいいよ、よろしくね?純一君」
「ああ、よろしく、瑠衣ちゃん」
結局の所、失恋したその日に俺は新しい彼女を作るという俺史上、中々お目にかかれ無い現状を手に入れた




