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悪役令嬢が如く  作者: 真黒三太
Chapter1 地獄の姉妹
16/16

JUDGE JUMP :A jump to the sky turns to a rider kick.

 キ〇タク主演の某ゲームをプレイしていなければ意味不明なネタも含まれますが、ご了承ください。

 歓楽街グレイフール。

 この町で暮らしていると、刺激に飢える心配はない。

 事に――喧嘩という名の刺激には。

 その夜、部下たちを連れて飲み歩いていたこの俺に降りかかったのも、そんなよくある刺激の一つであった。


「待ちやがれ!

 てめえ……ミラー・ニウだな?」


「だったら、どうする?」


 通りを行く俺たちの前に、立ち塞がった男……。

 それは、いかにも若く、イキッた格好をしているものの、どこか田舎臭さが抜けていない青年である。


 おそらくは、都会に憧れ、地方からやってきた若造に違いない。

 この国が、産業時代と呼ばれるようになって以来、そういった輩は非常に多くなった。

 多くなったということは、それだけふるいにかけられるということ……。


 何の才能もなく、技術もなく、学もない奴が上等な仕事にありつけるほど、王都は甘くないのだ。

 すると、そういった連中は工場や煙突掃除夫などの、きつくて汚い仕事に従事するしかないわけであるが……。

 そういった、時に命の危険すら伴う仕事に耐えきれず、辞めてしまう人間は後を絶たない。


 辞めて、大人しく郷里(くに)に帰るならば、かわいいもんだし、将来、笑い話のネタにすることもできるんだろうが……。

 中には、仕事もしねえのに、王都にへばりついちまう半端者もいる。

 蛾が、ガス灯の光へ群がるように……。

 王都の放つ光へ吸い寄せられ、離れることが出来なくなってしまうのだ。


 なんつーかな? 確か、引力だっけ?

 王都という世界有数の都市には、そういった目に見えぬ力が存在するのである。

 で、目の前にいる半グレ君は、そういった力に引っ張られ、くすぶっているというわけだ。


「へっ……!

 決まってんだろうが?

 てめえをのして、名をあげてやるよ!」


「つまり、喧嘩ふっかけてるってわけか?」


 色めき立った部下たちを手で制し、凶暴な笑みを浮かべてやる。

 ミラー組という、それなりの規模がある組織を率いるようになった俺であるが、こういった挑戦は数多い。


 まあ、舐められてるわけだな。

 所詮は、新興の成り上がり者……。

 まだこの町に、グレイフールという俗称がつく前から開発へ噛んでいたファミリーと比べれば、いかにも取っかかりやすく感じられるのだ。


 それにまあ、自分で言うのも何だが、俺って優しいし。

 喧嘩をふっかけてきて、返り討ちとなった奴に、それ以上のヤキを入れるような真似はしていない。

 何だろうな……あの日、ザビーから手鏡を貰わず、グズグズと生きてたら俺もこんな風になっていたのかと、そう思えてならないんだよな。


 というわけで、ミラー・ニウという男に喧嘩を売って、見事勝てれば、この町で名をあげられる。

 負けたところで、ちょっばかり痛い目にあうだけで済む。

 一発逆転の賭け金としては、ずいぶんとリーズナブルだろう。

 ……まあ、今のところ、賭けに勝った奴はいないんだけどな。


「上等だ……!」


「生意気こいてんじゃねえぞ、コラアッ!」


 部下たちが、そう言いながら前に踏み出した。

 そりゃそうだ。

 俺は組のボスであり、わざわざ自分から戦ってやる理由など何もない。

 故に、普段は俺の代わりにこいつらが喧嘩を引き受け、俺はといえばただ眺めているだけなのだが……。


「いや、いい。

 下がれ……」


 今日は興が乗ったので、部下たちを抑え、俺自らが前に出てやる。

 我ながら、吐き出す息が酒臭かった。


「え、ボス?」


「ですが……?」


「何度も言わせんな。

 お前らも聞いただろう? 昼間、ザビーの奴が例のヘンタイ相手に見せたっていう大立ち回り。

 そういうのを聞かされると、血が騒いじまうんだよなあ」


 そう……俺たちは先の店で、酌をしてくる女たちから、たっぷりとそれを聞かされていたのである。

 この町で暮らす女にとって、ザビーは一種の英雄であるといってよい。

 喧嘩には、滅法強く……。

 俺みたいな男とも、対等に付き合える。


 この町で生きる女っていうのは、ようするに男の食い物となっているか、あるいは、男に寄生するような人種だ。

 確固たる立ち位置を築き、自分の力だけで生き抜いているザビーは、決して手が届かない……憧れの存在なのであろう。


 で、上等な酒をしこたま飲んで、そんな英雄の武勇伝を聞かされていると、よし、一つ俺もとなるのは、分かりやすい人間心理だ。

 それなりの組織を率いるようになった俺であるが、根っこのところはまだまだクソガキに過ぎないということである。


「分かりました……」


「ボスが、そこまでおっしゃるんなら……」


 そう言いながら、部下たちが引き下がった。


「さあ、今夜はビッグチャンスだぞ?

 せいぜい、頑張ってモノにしてみな」


 手を広げながら、半グレ君にそう言ってやる。

 それが、挑発として響いたのだろう……。


「クソがっ!

 舐めるんじゃねえ!」


 イキリ立った半グレ君が、右腕を振り上げながら突っ込んできた。


「へっ……!」


 それを鼻で笑いながら、どう料理してやるか、瞬間的に考える。

 思い出されるのは、女たちから聞いたザビーの武勇伝……。

 そして、あいつが普段見せている戦い方だ。


「おしっ……」


 俺は素早く決断を下し、手近な店に向かって駆け出す。

 事ここに至って、逃走を試みたわけではない。

 必要としているのは、その店の――壁だあっ!


「どおりゃあっ!」


 壁面に向けて跳躍した俺は、そこを足がかりに再度の跳躍を果たす。

 三角跳びからの――強襲!

 振り上げた俺の拳は――誰もいない所に振り下ろされた!


「……え?」


 俺の左側、実に五メートルくらいは離れた場所にいた半グレ君が、ポカンとした顔をする。


「……今のは、ウォーミングアップだ」


 標的とは全然違う場所に向かって跳躍し、気合の乗った拳を空振りした俺は、そう言いながら不敵に笑ってみせた。


「いや、どこの世界にそんなウォーミングアップが――」


「――シャラップ!

 俺がウォーミングアップと言ったら、ウォーミングアップなんだ!」


 半グレ君に向け、そう言い放つ。


「ともかく、ここからが本番だ……」


 つぶやいた俺は、またも壁に向かって駆け出した。

 再度の、三角跳び……!

 もう、容赦はしねえ! 今度は、飛びかかった勢いを利用してぶん投げてやる!

 そう決断した俺は、タックルのような体勢で飛翔する。


 ――ズシャアアアアア!


 ……飛翔し、そのまま地面を滑った。


「な、何だこいつ……!

 やべえ……!」


 またも全然違う場所からそれを見ていた半グレ君が、恐れおののきながらそうつぶやく。


「な、何故だ……!

 何故、狙った方向に飛ばない……!?」


 一方の俺はといえば、もう半グレ君のことは半ばどうでも良くなっていた。

 とにかく三角跳びだ!

 三角跳びで、狙った方向に飛んでいきたいのだ!


「うおおおおおっ!」


 ――スカッ!


「おおりゃあああああっ!」


 ――ズシャア!


 俺は性懲りもなく三角跳びを繰り返しては、何もない虚空を空振りしたり、地面を滑ったりしていく。


「ひ、ひいい……!」


 そんな俺に恐れをなし、半グレ君は走り去って行った。


「ボス!

 何だかよく分からないけど、さすがです! ボス!」


「ああ、何の儀式かは知らないけど、簡単に追っ払っちまった!」


「何なら、俺たちもビビッて逃げ出したいくらいでさあ!」


 とうとう標的を失い、三角跳びをする意味もなくなった俺へ駆け寄って、部下たちが口々に讃えてくる。


「えー……。

 うん……まあな!」


 そんなこいつらに、俺は曖昧な笑みを浮かべながら返事したのであった。


 Lスティックをニュートラルにすれば近くの敵へ飛んでくれると気づいたのは、三章の途中でした。

 お読み頂き、ありがとうございます。


 また、ブクマや評価、いいねなどありがとうございます。作者のゲージが溜まります。



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