JUDGE JUMP :A jump to the sky turns to a rider kick.
キ〇タク主演の某ゲームをプレイしていなければ意味不明なネタも含まれますが、ご了承ください。
歓楽街グレイフール。
この町で暮らしていると、刺激に飢える心配はない。
事に――喧嘩という名の刺激には。
その夜、部下たちを連れて飲み歩いていたこの俺に降りかかったのも、そんなよくある刺激の一つであった。
「待ちやがれ!
てめえ……ミラー・ニウだな?」
「だったら、どうする?」
通りを行く俺たちの前に、立ち塞がった男……。
それは、いかにも若く、イキッた格好をしているものの、どこか田舎臭さが抜けていない青年である。
おそらくは、都会に憧れ、地方からやってきた若造に違いない。
この国が、産業時代と呼ばれるようになって以来、そういった輩は非常に多くなった。
多くなったということは、それだけふるいにかけられるということ……。
何の才能もなく、技術もなく、学もない奴が上等な仕事にありつけるほど、王都は甘くないのだ。
すると、そういった連中は工場や煙突掃除夫などの、きつくて汚い仕事に従事するしかないわけであるが……。
そういった、時に命の危険すら伴う仕事に耐えきれず、辞めてしまう人間は後を絶たない。
辞めて、大人しく郷里に帰るならば、かわいいもんだし、将来、笑い話のネタにすることもできるんだろうが……。
中には、仕事もしねえのに、王都にへばりついちまう半端者もいる。
蛾が、ガス灯の光へ群がるように……。
王都の放つ光へ吸い寄せられ、離れることが出来なくなってしまうのだ。
なんつーかな? 確か、引力だっけ?
王都という世界有数の都市には、そういった目に見えぬ力が存在するのである。
で、目の前にいる半グレ君は、そういった力に引っ張られ、くすぶっているというわけだ。
「へっ……!
決まってんだろうが?
てめえをのして、名をあげてやるよ!」
「つまり、喧嘩ふっかけてるってわけか?」
色めき立った部下たちを手で制し、凶暴な笑みを浮かべてやる。
ミラー組という、それなりの規模がある組織を率いるようになった俺であるが、こういった挑戦は数多い。
まあ、舐められてるわけだな。
所詮は、新興の成り上がり者……。
まだこの町に、グレイフールという俗称がつく前から開発へ噛んでいたファミリーと比べれば、いかにも取っかかりやすく感じられるのだ。
それにまあ、自分で言うのも何だが、俺って優しいし。
喧嘩をふっかけてきて、返り討ちとなった奴に、それ以上のヤキを入れるような真似はしていない。
何だろうな……あの日、ザビーから手鏡を貰わず、グズグズと生きてたら俺もこんな風になっていたのかと、そう思えてならないんだよな。
というわけで、ミラー・ニウという男に喧嘩を売って、見事勝てれば、この町で名をあげられる。
負けたところで、ちょっばかり痛い目にあうだけで済む。
一発逆転の賭け金としては、ずいぶんとリーズナブルだろう。
……まあ、今のところ、賭けに勝った奴はいないんだけどな。
「上等だ……!」
「生意気こいてんじゃねえぞ、コラアッ!」
部下たちが、そう言いながら前に踏み出した。
そりゃそうだ。
俺は組のボスであり、わざわざ自分から戦ってやる理由など何もない。
故に、普段は俺の代わりにこいつらが喧嘩を引き受け、俺はといえばただ眺めているだけなのだが……。
「いや、いい。
下がれ……」
今日は興が乗ったので、部下たちを抑え、俺自らが前に出てやる。
我ながら、吐き出す息が酒臭かった。
「え、ボス?」
「ですが……?」
「何度も言わせんな。
お前らも聞いただろう? 昼間、ザビーの奴が例のヘンタイ相手に見せたっていう大立ち回り。
そういうのを聞かされると、血が騒いじまうんだよなあ」
そう……俺たちは先の店で、酌をしてくる女たちから、たっぷりとそれを聞かされていたのである。
この町で暮らす女にとって、ザビーは一種の英雄であるといってよい。
喧嘩には、滅法強く……。
俺みたいな男とも、対等に付き合える。
この町で生きる女っていうのは、ようするに男の食い物となっているか、あるいは、男に寄生するような人種だ。
確固たる立ち位置を築き、自分の力だけで生き抜いているザビーは、決して手が届かない……憧れの存在なのであろう。
で、上等な酒をしこたま飲んで、そんな英雄の武勇伝を聞かされていると、よし、一つ俺もとなるのは、分かりやすい人間心理だ。
それなりの組織を率いるようになった俺であるが、根っこのところはまだまだクソガキに過ぎないということである。
「分かりました……」
「ボスが、そこまでおっしゃるんなら……」
そう言いながら、部下たちが引き下がった。
「さあ、今夜はビッグチャンスだぞ?
せいぜい、頑張ってモノにしてみな」
手を広げながら、半グレ君にそう言ってやる。
それが、挑発として響いたのだろう……。
「クソがっ!
舐めるんじゃねえ!」
イキリ立った半グレ君が、右腕を振り上げながら突っ込んできた。
「へっ……!」
それを鼻で笑いながら、どう料理してやるか、瞬間的に考える。
思い出されるのは、女たちから聞いたザビーの武勇伝……。
そして、あいつが普段見せている戦い方だ。
「おしっ……」
俺は素早く決断を下し、手近な店に向かって駆け出す。
事ここに至って、逃走を試みたわけではない。
必要としているのは、その店の――壁だあっ!
「どおりゃあっ!」
壁面に向けて跳躍した俺は、そこを足がかりに再度の跳躍を果たす。
三角跳びからの――強襲!
振り上げた俺の拳は――誰もいない所に振り下ろされた!
「……え?」
俺の左側、実に五メートルくらいは離れた場所にいた半グレ君が、ポカンとした顔をする。
「……今のは、ウォーミングアップだ」
標的とは全然違う場所に向かって跳躍し、気合の乗った拳を空振りした俺は、そう言いながら不敵に笑ってみせた。
「いや、どこの世界にそんなウォーミングアップが――」
「――シャラップ!
俺がウォーミングアップと言ったら、ウォーミングアップなんだ!」
半グレ君に向け、そう言い放つ。
「ともかく、ここからが本番だ……」
つぶやいた俺は、またも壁に向かって駆け出した。
再度の、三角跳び……!
もう、容赦はしねえ! 今度は、飛びかかった勢いを利用してぶん投げてやる!
そう決断した俺は、タックルのような体勢で飛翔する。
――ズシャアアアアア!
……飛翔し、そのまま地面を滑った。
「な、何だこいつ……!
やべえ……!」
またも全然違う場所からそれを見ていた半グレ君が、恐れおののきながらそうつぶやく。
「な、何故だ……!
何故、狙った方向に飛ばない……!?」
一方の俺はといえば、もう半グレ君のことは半ばどうでも良くなっていた。
とにかく三角跳びだ!
三角跳びで、狙った方向に飛んでいきたいのだ!
「うおおおおおっ!」
――スカッ!
「おおりゃあああああっ!」
――ズシャア!
俺は性懲りもなく三角跳びを繰り返しては、何もない虚空を空振りしたり、地面を滑ったりしていく。
「ひ、ひいい……!」
そんな俺に恐れをなし、半グレ君は走り去って行った。
「ボス!
何だかよく分からないけど、さすがです! ボス!」
「ああ、何の儀式かは知らないけど、簡単に追っ払っちまった!」
「何なら、俺たちもビビッて逃げ出したいくらいでさあ!」
とうとう標的を失い、三角跳びをする意味もなくなった俺へ駆け寄って、部下たちが口々に讃えてくる。
「えー……。
うん……まあな!」
そんなこいつらに、俺は曖昧な笑みを浮かべながら返事したのであった。
Lスティックをニュートラルにすれば近くの敵へ飛んでくれると気づいたのは、三章の途中でした。
お読み頂き、ありがとうございます。
また、ブクマや評価、いいねなどありがとうございます。作者のゲージが溜まります。




