27 休憩茶屋ドラキュラ亭
勇者さんは以前と比べてゆっくりと進まれます。目的地はイスカダル砦で、ペースを落としても十分間に合うそうです。
「魔王の考えがわからんけど、仕方ねえ」
そうは言いつつも、勇者さんの表情は穏やかです。魔王さまのお城から逃げている時はずっとつらそうなお顔でしたので心配だったのですが……なにか心境の変化があったのでしょうか。
「おい姫さん。あんた神官長ってやつから色々教えてもらってんだろ。この近くには何があんだよ」
勇者さんがそう聞かれたので、わたしは休憩茶屋のドラキュラ亭のことを話しました。
そこはヴァンパイアの親子が営んでいるお店で、ルルヴド・ジャ・ランという観光雑誌にいつも取り上げられている有名なお店なのです。
疲れた人が休めるように外に置かれたベンチとテーブルがあって、飲みものや料理を注文することができます。
そして立ち寄った人がこぞって購入するのが、店主特性のキャンディ。大きくてモチモチしたかたまりを伸ばしてひっぱって、カラフルでかわいいキャンディを作ってしまうのです。
わたしもお話には聞いていたのですが、実際に見ると本当にかわいい。
勇者さんが立ち寄った時、ちょうど店主がキャンディを作っていました。勇者さんはベンチで休憩するからと、わたしとユニちゃんをクリスタルから出してくれたので、わたしは大喜びで店主の作業を見学していました。
「おや、ユニコーンですか。……ふむ」
店主はユニちゃんを見ると、しばらく考えこみ、練りたての白くモチモチしたかたまりをいくつかのブロックに分けました。それからちょいちょいと手を動かすと、白いモチモチにあっという間に色がついていきます。
「最近人間の国から仕入れた食紅でね。こんなふうに鮮やかに色がつくんだ」
それから店主はモチモチをくっ付けたり丸めたり、真剣に作業をされていました。
モチモチは再びひとかたまりとなり、店主はそれを細く長く伸ばしていきました。そして端から小さく切り落としていきます。そのひとつひとつがキャンディなのです。同じリズムで切り落とされていくキャンディ。どこを切っても同じ模様です。しかも、その模様がユニちゃんの横顔なのです!
驚いたことに、店主は様々な模様をキャンディにつけることができるそうで、職人技とはまさにこのことなのだと実感いたしました。
モデルになってくれたお礼にと、店主はキャンディふたつをくれました。わたしとユニちゃんの分です。幻想科の生きものは総じて甘いものが好きらしいので、ユニちゃんも大喜びでした。
あとで勇者さんはキャンディのはいったビンをふたつ購入していました。
ひとつは妹さんへのプレゼントにするそうです。そしてもうひとつはわたしとユニちゃんにくれました。
「こんど魔王と一緒に食えよ」だそうです。
わたしはそう言われた瞬間、なぜか顔が熱くなっていました。魔王さまのお顔を思い出したのもですし、また魔王さまと一緒におやつを頂きたいと願ってしまったのも原因かと思います。
魔王さまはキャンディはお好きですか?
わたしは大好きになりました。
……今、魔王さまが隣にいてくださったらどんなにいいでしょう。わたしを呼ぶ声、優しい眼差し、大きくあたたかな手。目を閉じれば、いつでも魔王さまを思い描けます。でも、ここにはいらっしゃらない。
当たり前のことなのに、とても寂しく思います。
どうしてこんなにも魔王さまのことを考えてしまうのか……自分でも不思議です。




